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高校時代に書いた短編集

犯人探しは顔を伏せよう

作者: 井花海月

こんなヤツひとりはいるやろなーってのを主人公にしました。

「この教室では様々な問題が起きている」


強面の教師、白柳先生は僕ら生徒を睨みつける。

小学5年生に上がってからまだ2ヶ月程度だというのに、このクラスは随分と問題が発生しHRがいつも他のクラスより遅くなる。


「今日も高村の国語の教科書が盗まれた。みんな顔を伏せて犯人は手を挙げるんだ」


高村さんは、クラスでよくいじめられてる少女の名前だ。気が弱そうなので、こういうのはよくターゲットになるのだろう。

今も高村さんは怖いのかぶるぶる震えている。可哀想に。


「では、顔を伏せて」


僕を含め、みんなは机に顔を伏せる。


「怒らないから、犯人は正直に手を上げろ。高村の国語の教科書を盗んだのは?」


……気になる。

いつもこの犯人探しは、誰なのか先生は明かしてはくれない。


もうこうなったら、見てしまおう。


そろーっと顔を傾け、すぐれた視力を活かして挙手している人を探す。

手を挙げていたのは、悪ガキの荒木だった。やっぱりこいつだったのか。


「はい、顔を上げて~」

「おい、誰なんだよ?」「高村さんの教科書取るなんてひどいねー」


クラスのみんなは心配そうにざわざわしている。

この中で僕だけが犯人を知っている。なんだか探偵になった気分で楽しい。


「続いて、高村さんの体操着が盗まれた」


また高村さんか。体育の後に盗まれたのだという。

まったく、変態もいるもんだね。


「では、顔を伏せて犯人は手を挙げてください」


さぁ、誰だ?高村さんの汗がついた体操着を盗むスケベは!?

顔を傾け目をきょろきょろさせるが、誰も手を挙げていない。

まさか、黙秘しているのか?

……ん?

そーっと顔を、教卓の方に傾ける。


白柳先生は、そっと小さく手を挙げていた。


お前かぁああああああああっ!!

なんてことするんだ、この変態教師め!


「高村さんには、新品の体操着を発注しておく」


しかもパクる気かこの野郎!


「そして更に、根川の……」


ん?根川は僕だぞ?


「リコーダーが盗難された」


なん……だと?

ランドセルを探ると、僕のリコーダーがなくなっていた。

ほんとに盗まれてるじゃん。これはなんとしても犯人を見つけなければならない。

顔を伏せ、犯人探しスタート!

さぁ、誰だ?

だいたいリコーダーなんか盗んでどうするんだ?舐めるのか?ぺろぺろするのか?

つまり犯人は僕のことが……ゴクリ。


そんなドキドキは、微塵も残らず消し飛んでしまった。


「レロレロレロレロレロ……」


手を挙げたのは、僕の物と思われるリコーダーをレロレロ舐める篠原(男)だった。

篠原は僕と仲のいいクラスメイトで、お菓子を奢ってくれたを遊んだりすることが多い。

そんな……篠原ってまさか。


「うん、犯人も反省していたようだし、後で返却するように」


どこが反省してたんだよ!おもっくそリコーダーべろべろしてたじゃないか!そもそもやだよ篠原が舐めた後のリコーダーなんて!


「では次に、高村の椅子が盗難された」


また高村さんかよ。不便な子だなぁ。


「このままでは、高村はこれから椅子なしで授業を受けなければならない」


高村さんの席をよく見ると、空気椅子だった。ぶるぶる震えていたのは怖かったからじゃなく椅子がないからかよ!


「では犯人は手を挙げて~」


おいおい、もはや机に伏せずに犯人探しだしたよこの教師。


「……(スッ)」


椅子を2段に積んでぐらぐらしながら座っているアホが手を上げる。犯人探しをするまでもなく丸わかりじゃねぇか!


「誰なんだよ犯人は!」


節穴かテメェは!


「犯人の生徒はあとで椅子を返してあげてください」


今返せよ!高村さん今にも崩れ落ちそうだよ!


「犯人は名乗り出ろよ!(ぐらぐら)」


お前だろ!


「そして学校の女子トイレで、タバコの吸殻が見つかった」


うわ、小学生で喫煙かよ。あんなの何がいいんだか。


「では顔を伏せて~」


どこのヤンキーだまったく。やはり荒木かな?


「……(スッ)」


高村さん!?ここにきて犯人高村さんなの!?


「まだ顔は挙げないで。続いてこのHR中に飲酒をしている者もいる。手を挙げて」

「……(スッ)」


また高村さん!?


「学校までバイクで登校している者がいる」


またまた手を上げる高村さん。大人しそうな見た目でなんてことしてるんだ!


「そしてこれで最後だ」


まだあるのかよ。また高村さんか?


「この犯人探しで、顔を上げて犯人を見つけている者がいる」


……あ、僕だ。



ようやくHRが終わると、篠原がリコーダーを持って僕の前までやってくる。


「悪い、ちょっと借りてた」

「僕に近寄るな」


僕の友達にホモはいらない。固まる篠原を置いて教室を出る。


「ごめん、実は借りたまま返すの忘れていたんだ」


廊下で、荒木は教科書を高村さんに返していた。高村さんは何も言わずランドセルに教科書をしまう。

グランドまで出ると、今度は椅子を持ったアホが高村さんの前に現れる。


「すまない、ちょっと借りたまま返すの忘れたんだ」


嘘つけ!ていうかグランドまでもってこずに高村さんの席に戻しておけよ!


「……むむむ」


少し重そうに椅子を担いで歩く高村さん。


「……くびっぐびっ」


突然、酒を飲み出す彼女。飲みやがったよこいつ!しかも学校で堂々と。


「……すー、ふー」


しかもタバコ吸い出したよ!

更には担いだ椅子を持ったまま、ヘルメットを装着。まさか……!


ブルルルンブルルルン


高村さんは手前のバイクに跨り、颯爽と学校を飛び出していった。


……。


僕は何も見ていない……帰ろう。


その後、僕は犯人探し中でもきちんと顔を伏せることにした。


この世には見ずに伏せた方がいいことが、沢山あるんだね。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 茜奏さんの作品をいろいろ読んですっかりファンになってしまいました。本当にどれも笑わせてもらいました。お笑いのセンス抜群ですね。この作品はオチが決まっていて爽快でした。
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