Merry X'mas 〜赤の薔薇を添えて〜
花の香りが充満する店内で、俺は悩んでいた。
「赤にするか…白もいいよなあ……」
そうしてるうちに、ポケットで携帯が震えた。
「もしもし、」
「あ、雅也?元気?」
……南美だ。
「うん、元気元気」
なるべく普段通りの俺を装う。
南美は勘が鋭いから、バレたら台無しだ。
「そっか、何時ぐらいにこっち着きそう?
大阪も雪みたいやから、気ぃつけてなぁ」
大丈夫、南美は気付いていない。
「南美、」
「ん?どうしたん?」
「俺、今日行けなくなった」
「…………………うえ?」
「実験のレポート、終わんなくてさ」
あくまで自然に。
「そう、なん」
「うん、ほんとごめん」
自然に。
「そんっっっなん知らんわアホンダラ!!」
…ほわい、怒鳴り声!?
「え、あの、南美、」
「あーはい、そうですか!
レポートくらい終わらせろやボケ!!
いつもいつも雅也は勝手ばーーーーっかり!!!
…もうええわ、来られへんなら男友達でも誘うわアホ!!!
あんたなんかもう知らん!!!」
「あ、ちょっ…!
………切られた」
南美にサプライズは効果なし、なのか…?
幻滅された?嫌われた?
他の男とクリスマスを過ごすのか、南美?
溜め息、どうしてこうなった?
俺はただ、
「ただ、南美に喜んでほしくて__________」
「神崎様、お待たせいたしました」
声をかけづらそうだった店員さんが近づいてくる。
「ご注文いただきました花束、出来上がりました。
……こんな感じでいかがでしょうか?」
99本の、赤い薔薇。
「え、でもまだ色は…」
「はい、伺っておりませんでしたが、
お客様には情熱の赤い薔薇がよろしいかと。
…急いだ方がよろししいのでは?
代金は後日で構いませんので」
「…!
ありがとうございます!!」
綺麗な、花束を手に駅まで走る。
新幹線の予約は、既に取ってある。
大阪まで、約2時間。
誰を呼んでたっていい、俺は南美に会いに行く。
こんなにもかっこつかない俺だとしても、
笑って受け止めてくれるのは
南美だけだ。
雪の降る中を全速力で走る。
南美、ごめん。
でも待っててほしいんだ。
今行くから。