海 帰
<海>
海
空き缶や死んだ河豚のある砂浜
人の気配もなく
町から置き忘れられ
黄昏
雲に赤みがかかり
鳥が帰ってゆく
半壊した漁船が
傾いたまま岩の陰に隠れ
舳先だけ海につき出している
潮の音の夜
月が波に揺られ
消えかかった遠い記憶が
呼び覚ますものは
静寂
時の中で眠り続け
私は
世紀の眠りから目覚めたばかり
<帰>
“帰りたい”
部屋の中でこだまする西日
左の頬が照り返され
時計の音が呼応する
砂埃の舞う町は
足早に歩く人々でからっぽになる
ビルに西日が赤く映えるが
空に比べればそれは狭い
--冷やかに見える虚の中で
そうそう、嘘はつけるものではない---
“帰ろう”
自らの趣くままにそれは発せられた
記憶とその感情からくる
確かなる自分へ