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夢の続き  作者: 中島 遼
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奪還4

 村山は時計を見た。時間は六時二十分である。

 ここから北山の展望台までは一時間もかからないので、安全運転で行くとしても彼らは八時までに出発すればいい。

(……日没は六時頃)

 完全に暗くなってから人質を家から出すと考えると、あと十分程度なら余裕がある。

 村山は車の方に歩き出した。

 もちろん、一人でこの家に踏み込むのは愚の骨頂だと思っている。

(彼らが北の山に人質を連れて向かう、そのときが狙い目だ)

 彼が犯人の立場なら、高津か萌のどちらかをこちらに残し、一人だけを北の山に連れて出る。

 その際には、力の弱そうな女の子を連れ回す方に選ぶ可能性が高い。

(……彼らが萌の力を知らなければ、という前提だが)

 車に乗り込み、彼は再びエンジンをかけた。

 そして例の家から今度は五十メートルほど離れた場所に停め直す。

(……ふう)

 シートを倒し、ネクタイを少し緩めた後、彼は両手を頭の後ろで組む。

(……奴は電話で萌と圭介、そして俺はフルネームで呼んだ。だが、暁と夕貴は名字を呼ばなかった)

 つまり彼らは暁たちの名字を知らないのだ。

(……ま、知っていれば、こんな回りくどい手は使わないだろうがな)

 それとも五人全員を捕まえるつもりなのか?

(……誰が、何のために)

 村山たちを殺すつもりか、生け捕るつもりかはわからない。ただ一つだけ確かなことは、

(そいつはリソカリトのことを知っている)

 いくつかの可能性が考えられた。

 去年の夏から秋、緑の異星人を倒すために五人で色々動いたが、その時に誰かが不審に思ったのか。

 それとも高津たちが道で話しているのを誰かが聞いて本気にした。

(……それとも)

 村山は眉をひそめる。

 今までにも一度考えてみたことはあったが、検証ができないので放っておいたケースがあった。

(しかし、それが可能性として一番高い)

 だから村山は今回の敵の人数を最高八人程度と思って行動しているのだ……

「!」

 ドアミラーに見覚えのある車が近づいてくるのが見え、村山は反射的に伏せた。

 瞬時の判断だったが、万が一それが彼らの仲間なら、人が乗っている車がこんなところに止まっているのを見過ごしはしないと考えたのだ。

(ばれたか?)

 彼らが村山を調べていれば、車種やナンバーは当然知っているものと思わねばならない。

(こんなところに俺がいると思ってなくて、普通に見過ごしてくれればいいんだが)

 三分ほどそのままの姿勢でじっとして、再び村山は起きあがった。

 見ると、彼の思った通り、そのダークグレーのワゴンは例の家の前で停まっている。運転手がこの車を調べに来ていないところを見ると、なんとかばれずに済んだらしい。

 辺りはすでに暗くなっていた。どこかで犬の鳴き声がする。

 近所でカレーを煮込む匂いが漂ってきた。

(……そろそろか)

 村山がシートを起こしてからどれほど経った頃だろうか、ようやく家の前で動きがあった。

(萌、一人か)

 両脇を抱えられるようにして、制服姿の女子が車に押し込まれるのが見えた。

 相手の数は三人。意外に少ない。

 時計は六時五十分を指している。

 少し早めに待ち合わせ場所に向かうつもりなのだろう。

(……よし)

 車が視野から消えるのを確認してから、村山はエンジンをかけてその空き家の前に停めた。

 念のために手袋をはめ、呼び鈴を押す。

 しばらくすると、中からぱたぱたという音がした。

「忘れ物ですか、赤尾さん?」

 彼らが警戒してドアを開けなかったときのことを考え、村山は色々と策を巡らしていたのだが、思いの外簡単に相手はドアを開けた。

「っ!」

 声を出されないように、まずみぞおちの辺りを殴る。そして崩れ落ちたその身体を引き起こし、保険のためにもう一発。

(……武器はこれだけか)

 男はポケットにカッターナイフを持っていた。村山はそれを取り上げ、そして三階までそっと足音を忍ばせて上がる。

「何だったんだ、はるお?」

 二階から三階への階段を上がる途中、突然上から声がした。

 こうなっては仕方ない。一足飛びに声のした右側の部屋に飛び込む。

「お、お前はっ!」

 咄嗟に対応が出来ずに茫然と彼を見つめる男の鼻の頭をまず殴る。

 ついでに膝で落ちてきたみぞおち辺りを痛打した。

「ぐえっ!」

 のびた男を横に放り、村山は床に転がっていた高津の縄を切る。

 口に貼られたガムテープを剥がすと、痛かったろうに文句も言わずに高津は村山の胸ぐらを掴む。

「村山さんっ! 萌が、萌がっ!」

「わかってる。だから急いでいるんだ」

 彼は高津が今まで縛られていたロープを二つに切って、その一つを彼に渡した。

「一階に伸びてる奴がいるから、これで縛ってくれ」

「わかった」

 村山は目の前の男をしっかりと縛り、ついでに部屋の隅にあったガムテープでそれを補強する。

「……口は可哀想だよな」

 一瞬悩んだが、彼はそのまま男を置いて下へと降りた。

 そして高津が縛っている男を同じようにガムテープでもう三重に巻く。

(……こいつらは一体どんな力を持っているんだろう)

 もし、発信型テレパスなら目覚めた時にやっかいだ。

(だが、こいつらが彼らに連絡を取ったとしても、彼らからしたら俺の不利であることには変わりない)

 萌を握っている以上、彼らはそこは疑わないはずだ。

 村山はこの二人に対してそれ以上のことをするのはやめにした。

「よし、行こう」

 玄関から出る際に、村山はさっと玄関の鍵を確認する。

(……壊れていない)

 ということは、ここの合い鍵を持つものがいる。

(まあいい、それは後で考えよう)

 村山は助手席に高津が乗るのを確認すると、すぐに発進した。

 時刻は七時十分を少し回っている。


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