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夢の続き  作者: 中島 遼
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天体観測2

(……あー、緊張する)

 もちろん村山のことだ。

 彼が首をかけて挑む相手は普通の神経の持ち主ではない。

「神尾さんも星、好きだったんだ」

「うん。でも藤田くんみたいに深くじゃなくて、ただ眺めてるだけだから素人もいいとこ」

 緊張がやや緩和されるせいか、いつもより多く藤田に話しかけられても平気だった。

「あのカメラもすごいんでしょ?」

 メカについて振ると、藤田はひたすら赤道儀やカメラ、望遠鏡の仕様について語り続ける。

 すごいね、とか適当に相づちを打つだけでいいので、今日はとても扱いが楽だ。

「……あれ」

 と、高津が望遠鏡を見ながら、怪訝な声を出した。

「どうした?」

 もう一人の男子である庄司が高津の側による。

「っていうか、お前、空見ないで何で下見てるんだよ」

「覗いて見ろよ」

 高津は庄司に場所を譲る。

「……変だと思わないか?」

 萌はちらりと携帯の時計を見た。時刻は八時四十五分だ。

「ほんとだ。変だよな。あれ」

 百合子と由美がその側に行く。

「何? 何を二人で盛り上がってるのよ」

「いや、明らか不審者」

「え?」

 庄司が今度は百合子に場所を変わる。

「何かさ、川のこっち側に変な男がしゃがんで、じっと橋の方見てんだよ」

「あの木の側?」

「ああ」

 藤田が嫌な顔をして四人を見た。

「おい、おい、星見に来てんのに、どうしてストーカーみたいに下界を見るかな」

「でも、明らかおかしいんだもの」

 百合子が言うと、再び覗いた庄司も頷く。

「あいつ、何か投げてるぜ」

「俺が見たときは、どっちかというと投げる練習に見えたけどな」

 藤田が明らかに不機嫌な顔をしたので、慌てて萌は袖を引く。

 あと十五分は時間を稼がねばならない。

「もし、その変な人が何か事件を起こしたらどうしよう?」

「大丈夫さ。」

「どっかに行くまで、見ておかない?」

「え、でも……」

「二十分ぐらいして、何もなければあたしも安心して空を見られるんだけど」

「でも、君、十時には帰るんだし」

「それを理由に十時半までいれば、遅くなったことをお母さんに言い訳できるかな、なんて」

 すると藤田は頷いた。

「まあ、俺ももう少し遅い時間の方が色々見せられるかなって思ってたし、ちょうどいいか」

 難関一つクリアだ。

「じゃ、ビデオ撮っておかないか?」

 庄司が言いながら既に下に向けてセットをしている。

「こんな暗闇では無理だよ」

「こっちのハイビジョンに付け替えればいいじゃん」

 ハイビジョンの録画機は、星用ではなく、全員を撮るためにと庄司が持ってきたものだ。

 今日になって萌も知ったことだが庄司は親子ともども鳥撮影オタクで、県のレッドデータ指定の梟などを撮るために夜に山に入ったりしているという。

 そのため、父親が金を出したかなり性能の良い機材を持っている。

 高津から女子に自慢できるチャンスだなどと言われ、喜んで持ってきたらしい。

「あそこ、意外に周りからの光があるから、上からだったら結構くっきり写るぜ」

「おいおい」

 再び藤田が何かを言いかけたが、それは百合子の声にかき消された。

「やっぱり男子って機械に詳しいのね」

「いやあ、そうでもないけどさ」

「あたしたち、ボタンを押す以外のことってわからないから、機械に詳しい人って尊敬しちゃう」

 萌が言うはずの台詞を百合子は言ってくれた。

 彼女もまた、星より変質者に興味があるに違いない。

(……あとは、証拠写真を撮るだけ)

 そして村山に危険を教えるだけだ。

 マンションは、ちょうど細川が潜んでいる場所に小道を挟んで建っていた。

 村山が来るはずの橋は右手にあり、そして橋の向こうから彼はこちらに向かってやってくる。

 屋上にいる高津は細川を監視し、彼が凶器を投げた瞬間にあらかじめ点灯していたペンライトから指を離す。

「光は刃物よりも先に村山さんに届くから」

 そう高津は言った。

 当初、村山は刃先が飛んでくる音で判断するつもりだと言っていたが、音より光の方が速い。

「順番に適当に見るより、時間を決めて見ておかない?」

 萌が言うと、高津が頷いた。

「じゃあ、五分ごとに交代する?」

「あ、私、見たいな!」

 由美が言うと、高津は再度頷いた。

「じゃ、俺、その次」

 萌は携帯を見る。現在時刻は八時五十二分。

「あたし、その次がいいな」

 萌も立候補し、男女交互に持ち時間が決まる。

「何か変な人、携帯で何か話してるよ」

 由美の実況中継を聞きながら、萌も村山にメールをした。

 ……圭ちゃんは九時前後数分だったらちょうどいいから、その時間に連絡ちょうだい……

 本当は決して来て欲しくはなかったが、こうやって高津と萌の関与を不承不承でも容認してくれている今日に全て済ませたいという気持も働く。

 そうでなければ二人が知らないところで村山は細川と対決するかもしれない。

 それは絶対に避けたかった。

(お願い、神さま)

 萌が今日百回目くらいのお祈りをした時、携帯が震える。

 ……ごめん、今日は用事があってちょっと無理。九時か、遅くても一分後には圭介にメールをしておくよ……

 村山からのアリバイ作りを兼ねた遠回しな状況報告のメールを受け、萌は何か話しかけてきていた藤田の会話の間を利用して立ち上がった。

「あ、そろそろあたしの交代の時間かな?」

 言いながら高津の側による。

「まだ俺の持ち時間だよ」

 望遠鏡を覗きながら高津が言った。

 彼はさりげなくマンションのダイキャスト柵の上に手を乗せている。

 人差し指でガラス面を塞いだペンライトがその手に握られているのを横目で見ながら、萌は側に寄って囁く。

「九時から九時一分ぐらいの間に来るって」

「九時の三十秒前ぐらいに教えてくれるか?」

「OK」

 そして高津から少し離れて橋を見る。

 心臓がどきどきと音を起てるのは、緑のお化け退治以来のことだ。

(大丈夫、圭ちゃんなら大丈夫)

 高津はただ、細川が刃を投げる瞬間を捉えるだけではない。

 その殺意がピークになるのも色でわかる。

 RPGの中で戦ったとき、彼が萌に注意喚起をすることによって何度となく助けられた。

 今度もまた、その力で村山を救うつもりなのだ。

 周りで百合子が庄司からカメラの説明を聞いているのが聞こえた。

 しかしそれらは森の葉擦れのように意味を成さない音でしかなく……

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