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夢の続き  作者: 中島 遼
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天体観測1

「な、な、な……」

 朝一番、高津から村山が身を挺して細川を捕まえるつもりだと聞いた萌は身体を震わせた。

「焦ってるんだと思う、もうすぐ暁達も帰ってくるし」

 夕貴は元々、手術やリハビリでも一ヶ月ぐらいの予定だったし、暁の学校のことも考えると今でも戻りは遅いぐらいである。

「それで、何? 首をかっ斬られないようにあたしたちは祈るしかないの?」

「村山さんの希望なんだ。俺たちが関与しないってのはね」

 高津から事情を聞いたが、萌はどうしても釈然としない。

「……もし、何かあったらどうするの?」

「どうしようもないな」

 萌は高津につかみかからんばかりに詰め寄る。

「それで、圭ちゃんはいいの?」

「良い訳ないだろ? だから萌に相談しにきたんじゃないか」

 言われて萌は恥ずかしくなった。

「……そうだよね、ごめん」

「いや」

 高津は自転車を押しながら溜息をつく。

 普段は百合子たちと一緒に登校する萌だったが、今日は高津から早めに学校に行こうと誘われたのでこうして二人で歩いている。

 それがこんな大変な事情の説明だったとは……

「でも、村山さんの意志を尊重するならば、俺たちは現場にいてはいけないことになる」

「……う、うん」

 不承不承萌は頷く。

「だったらできることは、細川がちゃんと捕まるように裏から手を回すことや、村山さんが万が一怪我をしたときに、すぐに助けられるような体制を作っておくことだ」

「……って?」

 高津は険しい顔をした。

「具体的には、より細川を逮捕しやすいように、彼が潜む場所を見張ったり、写真を撮っておいたりすること。村山さんが怪我したらすぐに救急車を呼ぶこと、だ」

「怪我って」

 萌は身体を震わせる。

「……さっきの話だと、村山さん、細川の刃物で刺されるつもりなんでしょ?」

「本人は避けるつもりでいるようだけど」

「できるの?」

「俺が知ってる限りでは、あの人は見えてるものは百パーセント避けれる」

「夜に、暗いところから猛スピードで飛んでくる小さい刃物なんて見えないって!」

「あと、触れる直前に身体の位置を微妙に動かそうみたいなことを本人は言ってたけど……」

「それって、時速百キロだか二百キロだかで飛んできた物が触れた瞬間、首に入り込む前に避けるってこと?」

 恐ろしさに唇が震えた。

「絶対無理よ!」

「うん、速度を計算すると普通じゃ無理だね」

 高津は頷く。

「でも、村山さんなら何とかするかも……」

「どうやって?」

「計算しつくしてて、相手がこちらに投げる位置まで全部わかってて、予定通りに避けるとか」

「甘いわよ」

 萌は首を振る。

「そもそも相手の能力も良くわかってないのよ。狙ったところに正確に当てる能力かもしれないって村山さんも言ってた。だったら絶対に避けられない」

「自信がなきゃ、そんなこと言い出さないよ。もう少し信じてあげてもいいんじゃないかな」

「知ってるでしょ? 村山さんは撃たれるとわかってても夕貴を庇っちゃうような人よ。それで細川が捕まればって思ってたら……」

「落ち着けって」

 高津は自転車を止めてこちらを見る。

「あのときと今じゃ状況が全然違う。村山さんにしたって、命を捨てる理由なんかないんだよ」

「そりゃそうだけど」

「俺たちは自分たちにできることが何かを考えよう。望むラストに持っていくために何をしたらいいのかを考える。今はそれしかないんだから」

 萌は目を丸くした。

「何か圭ちゃん、言い方が村山さんみたい」

「え……」

 一瞬嬉しそうな顔をしたが、彼はすぐに眉をしかめた。

「とにかく、色々考えたんだけど、萌の協力が必要なんだ」

「あたしにできることがあるんなら、何だってやるよ」

「それなんだけど、実は藤田の家って、普川橋の側のマンションなんだ」

「あのオレンジの?」

「そう、景観がどうのって、一時有名になった奴」

 江戸通り近くは古くからの町並みを保存しているので、その近くにわざわざマンションを造るというのはどうかという論争が町で起こったことがある。

 結局、建てたもの勝ちということで、マンションはそのままそこに存在しているのだが、

「藤田って、天体オタクなんだ」

「へえ、そうなの」

「あいつ、萌にそういうこと、一言も喋らなかった?」

「全然」

 高津はわずかに考え込み、そして頷く。

「……って訳で、天体観測するんだよ、今日」

「え?」

「良い天気だしさ、一緒に藤田んちに行こう」

 慌てて萌は首を振る。

「無理、絶対無理。知らない男子の家に行きたいなんて、とても恥ずかしくて頼めない」

「それは大丈夫。もう俺から言ってあるから」

「え?」

「昨日電話してさ、萌たち誘うって言ったら二つ返事でOK」

 萌たち、ということは、他の女子も誘えということか。

「誰に声をかけたらいいの?」

「誰でも」

「百合子とか?」

「うん、その辺り。いつものメンバーでいいんじゃない?」

 高津は再び歩き出した。

 そうしてたたき台だと断りながら、彼の考えを萌に話す。

 特に何も思いつかなかったので、萌はそのプランに乗った。

 取り急ぎ、由美と百合子に話をすると、思いの外彼女らは喜んだので少し胸をなで下ろす。

 高津ももう一人男子を誘い、総勢六人。

 最もハードルが高いと思われた母は、最初は難色を示したが、百合子が一緒だと聞いて渋々了承してくれた。

 夜の七時半に藤田の家に集合し、持ち寄ったおにぎりや藤田の母が作った唐揚げなどを食べた後、全員で屋上に上がる。

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