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夢の続き  作者: 中島 遼
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襲撃4

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 村山は一緒に添えられたチョコレートを早速つまんだ。

「さっきの先生のお話ですけど、警察に通報するのはやっぱりどうかと……」

 言葉を濁す彼女に、村山は目を向けた。

「法で裁けば、少なくとも敵は目前から消えます」

「でも、相手がこの子達を狙っている理由が公になったら……」

「彼らは言いませんよ。この二人を欲しがっているのであれば尚更」

 公にすれば、この二人は手の届かぬ存在になる。そんなリスクを冒すとは思えない。

「でも警察には言えません。相手も超能力者なら、一般の私たちがどれだけ頑張ったって歯が立たない訳ですし」

 村山は眉をひそめる。

「……相手が超能力者だとどうして思うのです?」

「私はこの子達があまり世間と接することがないようにしてきました。それに夕貴は人見知りが強く、自分から進んで知らない人と関わることなど考えられません」

 腹をくくったのか、彼女は高津も仲間と見なしたようだ。

「それなのにその力を知るということは、相手もまたそれを知る力を持つということではないでしょうか」

 率直すぎる言葉に高津の方が逆に仰天しているようだった。

 目で訴える彼に頷き、村山は瀬尾に対する。

「わかりました。それではとりあえずご主人にご連絡をお願いします。それで警察のことも相談なされば……」

「先週からシンガポールに出張に行っているので」

「え、でも……」

 言いかけたが、どうしてか高津に肘をつつかれたので彼は黙る。

(……確かに少しおかしい)

 何故かはわからないが、瀬尾は夫に連絡するのを嫌がっているように思える。普通なら北極が富士山でも、夫に一報を入れるのが普通ではないか?

「……いいでしょう。でもそうなったら我々だけである程度敵の襲来を撃破しなければならなくなります」

「はい」

「ご主人が帰国されるまで、どこかお知り合いの家に泊まられるのがいいかもしれません。ここは今日みたいに昼間ですら襲われるほど人通りがない」

 瀬尾がうつむいたので、さすがの村山も気づく。

 彼女は夕貴が生まれてから、多分世間と没交渉なのだと。

「あるいは人の多いホテル……」

 言いながら突然解決策を思いつく。

「それともうちに来ますか? 古い家だけど、部屋だけは一杯あるんです」

 彼の家は一応セキュリティシステム完備であり、毎日ではないがハウスキーパーも来る。

「いえ、そこまでご迷惑をおかけすることはできません」

 きっぱりとした言葉に意志が見える。

「それだったら……」

 村山は瀬尾を見つめた。

「夕貴の耳の話はどこまで進んでます?」

「ご紹介いただいた病院で、検査をいたしました」

 その大学病院はここからはそこそこ遠い。

「結論としては人工内耳の適応だけど、年齢的にはかなりぎりぎりなので急いだ方がいいと」

「治療をそちらで進めるというのは如何でしょう? 手術になればどうせ一ヶ月近くは入院になりますし、病院のセキュリティはここよりはずっと信用できます」

「……考えておきます」

「暁の小学校がご心配なのだとは思いますが、とりあえずはご主人と早急にご相談ください」

 もう一度言うと、瀬尾はやや暗い表情で頷いた。

「次に、さしあたって今日、明日のことですが、警察に言わないのなら、ここにいては危ない。やはり数日でもどこかに避難しないと」

 それには彼女はしっかりと頷く。

「駅前のホテルに泊まります」

 北の町には電車は通っておらず、駅と言えば村山が住む町の南にある駅のことを指す。

「ご親戚は近くにはいらっしゃらないのですか?」

「はい」

「……できればこの界隈から出た方がいいですね。できるだけ人の多い都会に」

 あまり深く立ち入るのが嫌だったので、彼はその辺りで質問をやめる。

「取り急ぎはガラスの修繕ですが、近くの工務店に来てもらいましょう。それとホテルに泊まるなら用意も必要でしょうから、俺と圭介が二人を見てるので瀬尾さんは準備してください」

「ありがとうございます」

「工務店はどこかご存じのところがありますか?」

「いいえ」

「じゃ、こっちで探しますね」

 高津がスマホで出張修理の店を探す。

 幸い、北の山を下りたところに工務店が一軒あり、二十分後には来てくれたので懸案は一つは解決した。

「ねえ、村山さん」

 一区切りついたので、とりあえず暁にハイパーヨーヨーの技を教えていた高津がふと彼に問うた。

「警備保障みたいなとこと契約するのは?」

「今回はあまり意味はないと思う。どっちかというと、警備保障会社が入っているから空き巣が狙わない、って抑止力の方が大きいからな」

「でも、ホテルとかって高いよね」

「そこなんだよな」

 粘土をこねながら村山は頷く。

 夕貴が果物ばかり作るので、村山はさっきからずっとカゴを作っている。

 彼がそろそろ皿でも作ろうかと考えた頃、ようやく瀬尾が二階に上がってきた。

「お待たせしました」

 夕貴が粘土を潰すのを嫌がったので、それはそのまま部屋に飾り、五人は外に出る。

「ちょっと狭いですが、一応五人は乗れるので」

 三人を車でホテルまで送り届け、村山は一つ息をつく。

 そうして次の段取りについて思いをはせながら、再び北に車を向ける。。

「……なんか大変なことになったね」

「……うん」

「細川について、これから調べるの?」

「……うん」

「早くしないとまずいよね。やっぱり興信所?」

「……うん」

「暁達のお母さん、何か感じが変わったね」

「……うん」

「前は村山さんのこと、敵みたいな目で見てたのに、今日は全然違った。どんな魔法かけたの?」

「……うん」

 言ってから村山はもう一度、高津の設問を心の中で繰り返す。

「……え?」

「全く聞いてない訳じゃなさそうだけど、真剣に聞いてもいないよね」

「ごめん」

 村山は詫びた。

「俺もテレパスだって言ったら、瀬尾さんの態度が軟化した」

「……なるほどね」

 高津は微かに溜息をついた。

「ああ、それから気づいてないみたいだから一応説明しておくよ。多分瀬尾さんとこ、夫婦仲はあまりよろしくないと思う」

「えっ!」

「あと、それに関連して村山さんならではの失言があったから一応教えとく。……夕貴、お父さんに懐いてないから」

「何だって!」

 村山はわずかに車の速度を落とした。

「……なんで?」

「なんでかは夕貴に聞かないとわかんないけど、はからずも村山さんが言っちゃった通りってこともあるよ」

 高津はこちらに顔を向けた。

「夕貴が許可していない人間なのかも」

「そんな馬鹿な」

 思わず首を振る。

「だって親子だし……」

「親だからって、必ず子供に愛情を注ぐって限らないだろ? 特に男親って腹を痛めてないからさ」

 村山は我知らずハンドルを強く握った。

「……まあな」

「夫婦仲については理由はわかんない。無茶苦茶ワーカーホリックで家庭を顧みないから瀬尾さんが怒っちゃってるのかもしれないし」

「……暁は気づいているのか?」

「ニュースソースはあいつなんだよ、哀しいことに」

 高津は深い溜息をついた。

「まるで村山さんの方が夕貴の本当のお父さんみたいだって言ってた」

「そんな……」

 目の前の世界がどんどん複雑化していく。

 シンプルでわかりやすかった去年の今頃を思い出し、村山はそっと息をついた。

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