第四話 バルクス家の人々
その日の夜遅く。レイリアは、イルアとセティエスの帰りを待っていた。遅くなるだろうが、帰りを待ってイルアから騎獣の世話係を賜るように、とヴィトに言われていたのだ。
昼間、ヴィトに一通り屋敷を案内してもらい、仕事を教えて貰った。夕方には風呂にも入れてもらい、(男女別であったため、必然的にイルアと同じ風呂場を使う事になり、かなり緊張して疲れもあまり取れなかった気がする。)夕食はヴィト、レイリア、ガイアスの三人で摂った。ヴィトはぽつぽつと話しかけてくれたが、ガイアスは終始無言で食を進め、食べ終わると香り良い紅茶を一杯飲み、すぐに食事部屋を出て行ってしまった。そんなガイアスを見やり、ヴィトが苦笑いしていた。
夕食を終えると、ヴィトは居間へ誘ってくれて、一緒に紅茶を飲みながらイルアとセティエスの帰りを待つ。かなり待っていたがまだ帰ってこず、レイリアは必死に睡魔と戦っていた。
「・・・大丈夫ですか?」
心配そうなヴィトの声が聞こえ、レイリアは睡魔と戦いながらも懸命に首を振って口を動かし、声を出す。
「・・・・・・はい。」
そんな必死さが伝わったのか、ヴィトは柔らかく笑って気遣ってくれる。
「もう真夜中近いですね・・・。寝てしまってもいいですよ。」
「・・・いいえ。私・・・待っています。」
降りてくる瞼と闘う姿に、ヴィトはくすりと微笑んだ。そして、音を拾う。
「レイリア様。お帰りになりましたよ。」
「はい・・・・・・あ、イルア様?」
「そうです。」
馬車の音が聞こえた。近づいたそれは止まり、馬車の扉が開く音、こちらへ向かう音が聞こえて、ヴィトが玄関の扉を開けて主を迎え入れた。
「お帰りなさいませ、イルア様。」
「ご苦労だったな、ヴィト。」
「ただいま!遅くなって悪かったわね。」
開けられた扉から先に現れたのはセティエスで、当然のようにイルアの手を引いていた。そしてイルアは、ヴィトへ言葉をかけるとすぐにレイリアに気付いた。そして、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「レイリア!来てくれたのね!」
「はい、イルア様!あの・・・」
小走りで寄って行ったレイリアを、イルアは即座に抱きしめた。
「良かった!嬉しいわ!なんて素敵な事なんでしょう!」
「あ、あの・・・」
困惑するレイリアの目に、くすりと微笑んだセティエスが映る。それを見ただけで頬が熱くなった気がした。
「お嬢様。レイリアが困っていますよ。せめて挨拶くらいさせてやるべきでは?」
「あっ、ごめんなさい。それもそうね。」
ぱっと身体を離すと、イルアはにこりと微笑んだ。
「ようこそ、バルクス家へ!」
「はい、あの・・・ありがとうございます!これからどうぞよろしくお願い致します!」
ぺこりと頭を下げる。するとその肩に、イルアの指先が触れた。不思議な感覚に身動きが取れなくなる。
「レイリア。貴方はこれよりバルクス家の者となります。騎獣の世話及び屋敷の管理を行うよう、イルアが命じます。」
そう言われ、レイリアはヴィトに教わった言葉を返した。
「はい、お受け致します。」
触れていた指先が取られ、レイリアは顔を上げた。
「それじゃあこれからはレリィと呼んでもいいかしら?」
楽しそうに言うイルアに、レイリアもにこりと微笑んだ。
「はい!イルア様にそう呼んでもらえるなんて、嬉しいです!」
満面の笑みを返すレイリアに、イルアはもう一度抱きついた。
「イ、イルア様・・・」
困惑するレイリアと、それを気にもかけないイルア。二人を見守るセティエスとヴィトもつられて笑っていた。
翌朝、レイリアは目覚めるとさっそく働き出した。きちんと主に迎え入れられた事で、気持ちが晴れやかだ。洗濯をして裏庭に干して。朝食の用意をしようと台所へ行くと、すでに人がいてびっくりした。
「おはよう、レイリア。」
そう言葉をかけてきたのは紛れもなくヴィトで、言葉遣いが変わっていることにさらに驚いた。
「あ、あの、おはようございます。」
ヴィト様、と言った方がいいのだろうか。迷いはしたがあえて名前を呼ばないでおいた。するとヴィトはくすりと見透かしたように笑う。
「俺の事はヴィトでいい。様は要らない。レイリアは身分的には俺より下だけど、あまり大差ないから口調は気にしなくていい。」
一気にそこまで言って、ヴィトはにこりと笑った。
「レイリアももう、バルクス家の一員だよ。」
「・・・・・・!」
その言葉に涙が滲んできた。嬉しくて。胸が熱い。
「・・・俺、また何か言った?」
途端に困惑するヴィトに思わず笑う。
「違います。嬉しくて・・・」
ほっとした様子のヴィトに、レイリアは眦を拭って言った。
「ヴィト・・・にもレリィって呼んで欲しいです。」
「え?」
目を丸くするヴィト。なんだか可愛くて、レイリアは微笑んだ。
「駄目ですか?」
親しい人には、近しい人にはそう呼んで欲しい。そう思って言うと、ヴィトはなにやら視線を彷徨わせた後、ぎこちなく頷いた。
「いや、うん・・・レリィ。」
「ありがとうございます!」
満面の笑みでぺこりと頭を下げると、ヴィトが恐る恐る、といった感じで聞いてきた。
「セティエス様やガイアスにもそう呼んで欲しいって事?」
「はい!」
大きく頷くと、何故かヴィトは苦笑いをした。
「じゃあ伝えておくよ。取りあえず朝食の準備をしようか。」
ちょっと不思議に思ったものの、レイリアは頷いて手伝いを開始した。
鍋からスープの良い匂いがする。美味しそうにぐつぐつする鍋を覗き込んでいると、ヴィトが苦笑して肩を叩いた。
「そんなに覗き込むと火傷するよ。」
「あっ、すみません。」
慌てて顔を離し、何かする事はないかとヴィトを伺い見る。ぱち、と目が合って、ヴィトが視線を彷徨わせた。
「・・・じゃあ食器を並べてくれる?」
「はい!」
嬉々として食器を取りに行く。鼻歌でも歌いそうな気分の良さが溢れていた。その姿に笑みを漏らして、ヴィトは準備に戻る。
機嫌良く食器を並べていると、食堂へ誰かが入ってきた。機嫌良く顔をあげて挨拶しようとして、レイリアは固まった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
赤銅色の髪は乱れ、同じ色の目はぼんやりとこちらを眺めている。ガイアスだ。だがこの気怠げな雰囲気はなんだろう。声をかけるのも無視するのもはばかられて、レイリアは結果、固まった。相手も動かないから、レイリアは冷や汗ものだ。
ガイアスが、瞬いた。それをどうしようもなく見つめる。すると、ガイアスが欠伸をした。大きな野良猫のようなそれに、思わず笑いが漏れた。それをガイアスがまた見つめ、レイリアはまた固まる。そして。
「・・・・・・おはよう。」
意外な台詞が聞こえて、レイリアは慌てて返事をした。
「お、おはようございます!」
ちょっと声が大きくなってしまった。慌てて口を抑えるが、後の祭りだ。しかしガイアスは、ん。と言っただけで席についた。ぼーっと座るガイアスにヴィトがスープを差し出すと、黙ってそれを飲みだす。呆然と見ていたレイリアに、ヴィトが笑って言った。
「ガイアスは寝起きが悪いんだ。あれを飲み終わる頃にはちゃんと起きるから、放っておけばいいよ。」
「あ・・・そうなんですか・・・」
唖然と頷くレイリアに笑いかけ、セティエス様とイルア様を起こしてきて、とヴィトは背中を押した。
廊下を進んでセティエスの部屋へさしかかると、本人が部屋から出てきた。
「おはよう、レイリア。」
にこりと微笑まれて赤面する。
「おはようございます!セティエス様!」
がばりと頭を下げる。と、くすくすと上から抑えた笑いが降ってきた。
「・・・・・・」
「気合いが入ってるね。その調子だとすぐに疲れてしまうよ?」
指摘されて、さらに顔が熱くなる。
「う・・・はい、そうですね・・・気をつけます。」
縮こまってそう言うと、すれ違い様にセティエスにぽんと肩を叩かれた。
「もう少し力を抜くといい。」
「!・・・は、はい!」
そのままセティエスは居間へ向かって行った。ふわーっと体中が軽くなるような気がした。慌てて気を引き締める。けれど、すぐに緩みそうになってしまって、浮き沈みを慌ただしく繰り返しながらイルアの元へ向かった。
こんこん、と軽くノックをして扉の向こうへ声をかける。
「イルア様、おはようございます。レイリアです。もうすぐ朝食のご用意が出来ますよ!」
声をかけて少し待つ。と、入って、と声がかかった。
「失礼します。」
そっと扉を開けると、イルアが鏡の前で着替えの仕上げをしていた。
「あ、お手伝い出来る事、ありますか?」
慌てて側へ行くと、イルアはふわりと微笑んだ。
「大丈夫よ。私はそこらの令嬢とは違うから。」
イルアは貴族だ。一般的には、貴族は身の回りの世話は大抵、侍従もしくは侍女にさせる。しかし、ヴィトから聞いた限りではこの屋敷にはヴィト、ガイアス、セティエスしかいなかったようだから、イルアは自然と身の回りの事は出来るようになったのだろう。思いを巡らせているとどう感じたのか、イルアはレイリアを手招いた。
「私が選んだ服はあまり趣味が合わなかった?」
「え?」
イルアが選んでくれたものなら拒む必要はない・・・と思ってすぐ、クローゼットに並んでいた服を思い出した。茶色、肌色、桃色を基調とした色合いの、少しかっちりとした形の、それでいて繊細なレースがやわらかい雰囲気の服だった。ところどころ黒いリボンがあしらわれていて、ふんわりとした雰囲気を引き締めていた。そんな服を思い出して、レイリアははっとした。
「趣味が合わないだなんて、そんな事はないです!とても素敵でした!」
あら、と目を丸くするイルアに、レイリアはもじもじと言葉を絞り出す。
「ですが、その・・・どれも素敵で・・・ええっと・・・」
はっきりとしない物言いにも、イルアはじっと耳を傾けてくれた。
「その、あんな素敵な服は、私には勿体ないと思って・・・」
「・・・・・・」
ちらりとイルアを見ると、ぽかんと口を開けていた。そして。
「あははっ、レリィったら・・・」
お腹に手を当てて笑い出した。
「イルア様・・・?」
「あのね、レリィ。貴方はもうバルクス家の人間なのよ。あの服はそれに相応しいものを選んだつもりよ。」
イルアの笑顔が、柔らかいものから不敵なものへと変わった。それを見て、レイリアはどきりと胸が鳴った。
「だから遠慮しないで。ね?」
そっと髪を撫でられて、レイリアはこくりと頷いた。
「さ、じゃあ服を着替えましょう!」
「え?」
イルアは言うなり、レイリアの手を引いて自室を出て行く。半分引きずられるようにしてレイリアは後をついて行った。
「・・・お嬢様とレイリアは遅いな。」
食卓では、男三人が座って主と侍女を待っていた。ガイアスもさすがに目が覚めたようだ。
「あ、セティエス様、ガイアス。レリィと呼んで欲しいと言っていましたよ。」
「は?」
怪訝そうにガイアスが眉を顰めるが、セティエスは小さく笑った。
「私たちにも愛称で呼んで欲しいなんて、本当に可愛らしい人だな。」
ぴきっ、とガイアスとヴィトは固まった。セティエスはいわば天然誑しだ。そういう台詞だけはするりと口から出るから、恐ろしい。
「・・・レリィは正真正銘の女の子ですからね。貴重ですね。」
ヴィトが苦笑しながらそう言うと、ガイアスがさらに眉を寄せた。
「あれは本当に役に立つのか?」
「ガイアス・・・レリィだよ。“あれ”じゃない。」
「役に立てば名前くらい覚えてやるよ。」
そんなガイアスの言葉にヴィトは溜息を吐く。それを見てセティエスは笑った。いつもの事だ。
「さて、女性達は一体どうしたのだろうな?」
セティエスの問いに、主人の明るい声が応えた。
「着替えよ、セティ。さあ見てちょうだい!」
「イ、イルア様・・・!」
男三人が廊下を見やると、女主人に連れられた若い女性がいた。いや、レイリアだというのは分かるのだが、服を着替えただけで纏う雰囲気が変わっていた。
「「「・・・・・・・・・」」」
思わず黙り込む三人を見て、イルアは満足そうに微笑む。
「どう?私の見立て。レリィの可愛さが引き立つでしょう?」
じっくりと三人に眺められ、レイリアはたまらず俯いてつま先を見つめた。どうしようもなく恥ずかしい。すると、さらりと褒め言葉が聞こえてきた。
「これは可愛らしい。さすがですね、お嬢様。」
ぶわ、と嫌な汗が噴き出す。
「いつの間にご友人を連れて来られかのかと思いました・・・。レリィも十分、令嬢になれますね。」
うぅ、と奥歯を噛み締める。そろりとイルアの後ろへ動く。
「・・・・・・イルア。」
はた、とレイリアは顔を上げた。ガイアスが感想ではなくてイルアを呼んだのも驚いたし、主人であるイルアを呼び捨てにしたのにも驚いた。思わずぽかんとしていると、ガイアスがイルアを僅かに睨んで言った。
「こいつには騎獣の世話をさせるんじゃないのか?」
「そうよ?その通り。」
誰も主人を呼び捨てにしたガイアスを責めないし、イルアも気にする様子はない。不思議に思い、首を傾げる。と、ガイアスがこちらをちらりと流し見た。目が合ったのは一瞬だったけれど心臓が縮み上がった。
「こんな恰好で寄越してみろ。ガディスの餌にしてやるからな。」
「!」
ガディスというのが何かは分からないが、“餌にしてやる”という台詞に思わず後ずさった。しかしイルアは傲然と言い放った。仁王立ちして。
「こら、ガイアス!口が悪いのは知ってるけど、無闇に脅すようなら王城へ送り込むわよ!」
その脅しに、ガイアスは過剰に反応した。ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がり、イルアを思い切り睨む。
「てめぇ!王城と言えば俺が下るとでも思ってやがるのか!」
その台詞に反応したのはセティエスだ。彼は座ったまま、レイリアには見えないがガイアスを睨んでいるようだった。
「口を慎め。ガイアス。」
「・・・っ!」
少し身を引いたガイアスと、静かなままのセティエスの間で無言の戦いが行われている。それをしばし見やり、驚きと困惑で動けないレイリアにヴィトが微笑みかけた。
「・・・取りあえず、ガイアスの言う通り、その侍女服は騎獣の世話には適さないな。」
「あ・・・はい、そうですね・・・」
ぎこちなく頷くレイリアから視線をイルアへ移し、ヴィトは提案した。
「という事でイルア様。レリィを着替えさせてもよろしいですか?」
イルアはしばらくレイリアの姿をじっくり眺め、残念そうに頷いた。
「・・・仕方がないわね・・・。レリィ、クローゼットに騎獣番の服が入っているから、それに着替えてちょうだい。」
「は、はい!」
ぺこりと頭を下げ、レイリアは早足に自室へと去って行った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で睨み合うこと数分。一歩も引かない両者に溜息と共にイルアは言った。
「・・・それくらいにしてちょうだい。レリィの可愛さに目が眩んだ私が悪かったわ。」
「その台詞はどうなんでしょう?」
隣でヴィトが突っ込むがイルアは無視した。
「そんなに気に入ったなら、どうしてここへ招いた?」
ガイアスの鋭い問いに、イルアはぎくりと身を強ばらせ、すぅっと視線を泳がせた。あからさまだ。
「・・・いやほら、だって。」
ごまかそうとするイルアに対し、ガイアスはしかと視線を合わせて続きを促す。
「・・・可愛くて、安心するんだもの。」
「・・・は?」
本気で怪訝そうにされて、イルアはむっとしながら言い募る。
「何よ、可愛いじゃない。ほわ〜っしていて、おどおどしていて、リュミーを見ると蕩けそうな笑顔になるの。」
「・・・・・・」
「見ていると・・・側にいると、落ち着くの。」
ふわりとイルアが笑った。その顔を見て三人は悟る。イルアの背負うものは暗く、重い。その心を慰める唯一無二のものが、あの、レイリアなのだと。本当に慰めになるかどうかは別として、今のイルアにはレイリアが必要なのだろう。
「・・・それでこんなにはしゃいでいらっしゃるのですね。」
くすりとセティエスが笑うと、うー、と呻いてイルアは顔を両手で覆った。ガイアスが溜息を零す。
「・・・それなら侍女でも良かっただろう。何故騎獣など扱わせる。」
至極迷惑だと言わんばかりの渋面に、イルアは可笑しそうに笑った。
「だって、レリィとリュミーはかなり相性がいいじゃない?セットにするべきだと思ったのよ!」
「阿呆か!」
イルアの発言にガイアスがすかさず突っ込んだ。
「あれにシレイ以外の何を任せるっていうんだ?あんなひょろひょろじゃあ騎獣の食料育てるくらいしか出来な」
「あ、それいいわね!ついでにお花とか育ててもらおうかしら?私じゃあ枯らすだけなんだもの。」
にこにことのたまったイルアを睨み、ガイアスの目つきがさらに悪くなった。それを見てセティエスが可笑しそうに笑う。すると、ヴィトが気付いて声をかけた。
「レリィ。こっちへおいで。」
「!」
驚いたのは何故かレイリア本人だけで、四人はそれぞれの表情でレイリアを迎えた。今のレイリアの服装はズボンだ。緩く身体を纏う服は動きやすく、かつ、上品に作られたものだった。さすがに貴族の使用人ともなると違うな、とレイリアは感心していた。そして同時に、汚すのがいたたまれない。
「あの、これで合っていますか?イルア様・・・」
騎獣番の服、と言われてもよく分からなかったレイリアは、クローゼットにあったそれらしいものを選んで着てきた。つまり、一番動き易そうなものを。
「・・・・・・レリィ、それもよく似合ってるわ!」
え、と顔を上げたレイリアにイルアは思い切り抱きつく。
「この服装だとまた違った魅力がむぐっ」
「お嬢様・・・」
苦笑しながらセティエスがイルアの口を塞いだ。そのままずりずりとイルアを少し遠ざけた。
「あ、あの・・・?」
戸惑うレイリアの前にヴィトがさりげなく移動した。
「さあ、じゃあ気を取り直して朝食を食べようか。」
「え?あの・・・」
「おらさっさと座れ。」
「わっ」
ガイアスに乱暴に腕を掴まれて、強引に椅子へ座らされた。するとすぐにヴィトがガイアスを注意する。
「ガイアス!そんな風に扱ったら痛いだろ?」
言われてガイアスはぱっと腕を離した。
「・・・・・・」
そのまま自分の席へ腰を降ろす。はあーっとヴィトは溜息を吐いて、引き離されたイルアとセティエスへ声をかける。
「お二人も、そろそろ朝食にしませんか?」
「ええ、そうしましょう。」
セティエスが応えて、イルアを解放した。
「もー・・・なんなの?セティ。」
するとセティエスは何事かを耳打ちした。それを聞いたイルアがぴくりと肩を揺らす。
「・・・・・・・・・」
黙ってしまったイルアに、セティエスがふわりと笑いかけた。
「お気をつけ下さいね、お嬢様。」
「・・・分かったわ。」
何故か殊勝に頷くイルア。首を傾げるレイリアを全員が軽く無視する。
「・・・・・・?」
なんとなく不自然な空気の中、バルクス家の朝食がようやく始まったのだった。