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風の歌声  作者: 沢凪イッキ
本編
15/23

第十五話 秋風の囁き

 帰りの馬車に揺られて、五人はそれぞれに思いを馳せていた。

 語る言葉はなく、静かな時間が流れている。


 帰路を半分程行ったところで、セティエスがふと訊ねた。

「そう言えばお嬢様」

「なあに?セティ。」

「側室にあげられた歌姫は、保護の為に召し上げられたと聞いたのですが・・・」

「えっ、そうなんですか?」

 思わずレイリアも訊ねると、イルアは苦笑した。

「ええ。エルフィア様が相談した後で、歌姫自身からも相談を受けたらしいの。それで、保護をする目的で、二年の間、側室として過ごす事を了承したみたい。」

「・・・そうでしたか・・・」

「二年経ったら、歌姫はどうなるんですか?」

 少し気になったので聞いてみた。

「問題があって側室から外されるわけではないから、以前と同じように生活出来る筈よ。・・・もしくは箔がついて求婚が殺到するかも知れないわね。」

「へぇ・・・そうなんですか・・・」

 またしばらく、馬車の中は静かになった。

「・・・一軍はどうなる?」

 ガイアスが、窓の外を眺めながらそう訊ねた。

「・・・まだ、決めかねているみたい。エルフィア様を将にするかしないかで、かなり揉めているみたいね。」

「・・・そうか。」

 そう言った切りのガイアスに、イルアは少しおどけたように言った。

「精鋭部隊も足りないから、ガイアスにも声がかかったりしてね。」

 途端、ガイアスは真っ直ぐにイルアを見据えた。

「ふざけてんのか?」

「・・・・・・」

 イルアが、驚いて目を丸くした。そして、泣きそうな顔で笑った。

「・・・うん。ごめんなさい・・・」

 ガイアスは静かに言う。

「俺に新たな剣を与えたのは、お前だろう、イルア。」

「・・・うん・・・そうね。」

 俯いたイルアは、きっと、泣いていたのだろう。

 四人は、静かに外を眺めていた。




——数日後。


 精鋭部隊の家族に遺品が届けられた。死因は、ザクラスの独断による、魔獣討伐だった。全員が命に代えてその魔獣討伐を成し遂げた、という事になっていた。ヴィトがつけた爪痕が、その証拠にされていた。

 その説明に、納得などしていないに違いない。けれど、遺品を届けたエルフィア達を見て、あまりの憔悴しょうすいぶりに追求を諦めたようだった。


 第一軍の編成と新たな将の選出は、今だ揉めに揉めているようだ。

 エルフィアを将に、と押す者がいれば、女など将に相応しくない、と声高に言う者がいた。エルフィア自身は沈黙を保っていた。


 あの砦は、取り壊されたようだ。まるで暗闇を抱くようだったあの場所が、嘘のように明るくなったと、付近の民は喜んでいたという。




 それから一ヶ月。

 バルクス家では、以前と同じような、穏やかな日々が送られていた。

「おはよう、ヴィト」

「ああ、おはよう。」

 二人で朝食の準備をしていると、ガイアスがぼーっとしながら席へ着く。

「はい、スープ。おはよう、ガイアス」

「・・・ああ、おはよう」

 寝ぼけ半分のガイアスにもなかなか慣れて、じーっと見られても以前のように固まる事はなくなったし、恥ずかしくて身動きも取れない・・・という事もなくなった。

「じゃあ私、二人を起こしてくるね。」

「うん、頼むよ。」

 いつも通りセティエスはもう起きていて、こちらへ来るだろうと思いながら足を進めるが、本人の部屋の前まで来ても出てくる気配がない。

(あれ・・・?珍しいな。セティエス様・・・寝坊?)

 そう思いながら扉を軽く叩く。

「セティエス様、おはようございます。レイリアです。」

 入って、と声がして、レイリアは恐る恐る扉を開けた。

「失礼します・・・」

 顔だけ覗かせてみると、セティエスはもうしっかり着替えていて、おいで、とレイリアを手招きした。

(・・・?ちゃんと起きていらっしゃるし・・・どこも不都合はなさそうだけど・・・)

「どうかされたんですか?」

 扉を閉めるように言われて、しっかり閉めてから近寄ると、セティエスは身を屈めてレイリアに耳打ちした。

「実は、三ヶ月後はお嬢様の誕生月なんだ。」

 言いながら、レイリアが驚いて大きな声をあげないように、すかさず口の前に指を立てて、しー、とやってみせる。

「・・・そ、そうなんですか!?」

 食い付いたレイリアに、にっこりと笑ってみせる。

「その日までに、お嬢様へ贈るものを、一緒に選んでもらえないか?」

「わ、私で宜しければ喜んで!」

 拳を握って喜ぶレイリアに、セティエスは柔らかく微笑んだ。

「私もお嬢様についていなくてはならないから・・・そうだな。次の休みに、買い出しついでに出かけようか。」

「はっ、はい!」

 満面の笑みで頷くレイリアを見つめて、セティエスは軽く頷いた。


(イルア様の誕生日・・・!何を差し上げたら喜んでいただけるかなぁ・・・)

 朝食を食べている間、レイリアはにこにこしながらそんな事を考えていたら、当のイルアに不思議がられてしまった。

「なあに、レリィ。何か嬉しい事でもあったの?」

「あっ、い、いえ!その、あったというか、あるというか・・・」

「なーに?気になるわねぇ。」

「ええと、内緒です。」

「・・・気になるわねぇ」

 にっこり笑って首を傾げるイルアに、えへへ、と笑ってレイリアはごまかす。そんな二人を見て、男三人は密かに笑ったのだった。


「で、何を隠してるの?」

 朝食の片付けをしていると、思った通り、ヴィトがそう訊いてきた。レイリアは嬉しそうに笑って答える。

「うん、あのね・・・」

「駄目だよ、レリィ。」

 言おうとしたところでセティエスに声をかけられた。

「あ・・・」

「セティエス様。・・・セティエス様と隠し事ですか?」

 ちょっと意外そうに目を丸くしたヴィトに、セティエスはくすりと笑った。

「ヴィトならすぐに分かるだろう。来月の事だ。」

「来月・・・?・・ああ、あの事ですね。」

 ヴィトはすぐに納得して頷いた。

「そういう事だ。今年も色々な方から贈りものが届くだろうから、対応を頼む。」

「ええ、心得ております。」

 ヴィトは苦笑しつつも頷いた。どうやら毎年何かあるようだ。

「・・・あんな事があったからな・・・今回は少しでもやすらいでもらいたいものだ。」

 セティエスの言葉に、レイリアとヴィトは顔を見合わせた。きっと、ガイアスも同じだろう。

「よし!私、頑張ります!」

「俺も、頑張ります。」

 三人で笑い合って、セティエスがほら、と二人を促した。

「さあ、まずは今日の仕事を頑張ってくれ。」

「「はい!」」

 元気よく返事をしてそれぞれの仕事に取りかかった。




 季節は秋。国のあちらこちらで、春を迎える祝福の準備がされようとしていた。



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