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風の歌声  作者: 沢凪イッキ
本編
13/23

第十三話 新月の注意事項



 いつの間にか居間のソファで眠っていたレイリアは、ゆるゆると眠りから目覚めた。

「ん・・・」

 頭を振って眠気を追い払うと、リュミエルが側にいるのを見つけてほっとした。手を伸ばすと、そのふわふわの頬を擦り寄せてくれた。温かいリュミエルに触れると、急に心細さが膨れあがって、その首に縋り付いた。


(まだ帰って来ない・・・)


 じわりと目尻に涙が滲んだ。

(皆大丈夫かな・・・)

 リュミエルの首筋に顔を擦り寄せると、小さく鳴きながら甘えてさせてくれた。

「イルア様・・・セティエス様・・・」

 誰もいない空間に声が空しく消えて、余計に怖くなった。

「ガイアス・・・ヴィト・・・」

 怖い。

 早く帰って来て。

 皆帰って来て。

 無事で。

 お願い、無事で。

 縋り付くレイリアに、心配そうにリュミエルが尾を振った、その時——。


——くしゅん!


 屋敷の外から、緊張とは無縁の音が聞こえた。


「・・・?」

 びっくりして縋り付いた姿勢のまま、レイリアは耳を澄ませた。


「・・・・・・」



——コンコン。



 びくっ、と震え、レイリアはそろりと顔を玄関へ向けた。


「ただいまーっ!」

「!」

 飛び上がったレイリアを慌てて避け、リュミエルは道を開けてあげた。

 レイリアは夢中で玄関に走り寄ると、一気に扉を開け放った。



 開け放ったそこには、何故かびしょ濡れの三人がいた。

「ただいま!」

 笑うイルアを、レイリアはしばらく見つめる事しか出来なかった。

「・・・イルア様?」

「うん、そうよ!ただいま!」

「・・・何度言えば気が済む?」

 にっこり笑うイルアの横で、ガイアスが呆れて溜息を吐いた。

「レリィ!ただいま!」

 めげずにただいまを連呼するイルアに、呆れるガイアス。そして、それを笑うセティエス。

「・・・・・・っ」

 たまらず、レイリアはイルアに飛びついた。

「お帰りなさい!」

「きゃっ!」

 レイリアが飛びついた勢いで倒れそうになったイルアを、咄嗟にセティエスとガイアスが支えた。

「お帰りなさい!イルア様!」

「レリィ・・・」

「お帰りなさい!」

 びしょ濡れの服などおかまいなし・・・もしくは目に入っていない様子で、レイリアはイルアを抱きしめた。

「良かった・・・ご無事で!」

「・・・言ったでしょう?貴女がここで待っていてくれるなら、必ず無事に帰ってくるって。」

「・・・はい!」

 イルアはちょっと恥ずかしそうに、レイリアに抱きしめられたままでいた。しばらくして、イルアが名残惜しそうにレイリアを離して囁いた。

「セティとガイアスも歓迎してあげて?」

「はいっ!」

 笑顔で頷いて、レイリアは勢い良くセティエスに抱きついた。

「お帰りなさい!」

「!・・・ただいま、レリィ。」

 驚いて、そっと抱きしめ返すと、小さな身体が温かくて、ちょっと力が入りそうになってしまった。しかしその腕を離すと、今度は元気よくガイアスに抱きついた。

「お帰り、ガイアス!」

「!」

 呆れたようにイルアとセティエスを見ていたガイアスは、まさか本当にレイリアに抱きつかれるとは思っていなかったのでかなり動揺した。しかし、素直に帰還を喜ぶ姿を見ていると、抱きしめられるままになっているのが、なんだかいたたまれなくなってくる。

「・・・ただいま。お前も無事だったな。」

 気付けばそんな台詞が出ていて、自然とその頭を撫でていた。

「リュミーがずっと側にいたもの。」

 誇らしげに笑う顔を見ていると、どっと疲れを感じた。ようやく緊張が解けたのだ。


「あっ、お湯を沸かしてありますよ!」

 ガイアスから離れてレイリアがそういうと、イルアは両手を挙げて喜んだ。

「本当?嬉しいわ!水浴びしたから寒かったのよね!」

「本当ですね。風邪をひいてしまいます。」

「だから戻ってからでいいと言っただろう。」

 おしゃべりし合う三人を見て、レイリアは首を傾げた。

「あの、ところでヴィトは?」


「「「・・・・・・」」」


 三人は気まずそうに視線を泳がせた。こほん、とセティエスが咳払いする。

「・・・今夜・・・もう夜が明けるが、日が昇るまではヴィトの部屋には近寄らない事。いいね?」

「・・・・・・はい。あの・・・無事なんですよね?」

「多少の怪我はあるが、無事だよ。手当ても必要ないくらいだからね。」

 そう言ってにこりと微笑まれてしまうと、それ以上何もいいようがない。

「あの・・・はい。」

 取りあえず、日が昇るまでヴィトの部屋には近づかない事を約束して、レイリアは待ちに待った屋敷の住人を迎え入れたのだった。




 イルア達が水浴びをしてから帰ってきた理由はすぐに分かった。“怖くても迎える”と言ったレイリアに、それでもなるべく怖い思いをさせないようにと、気を配ってくれたのだ。

(イルア様、皆・・・ありがとうございます・・・)

 湯浴みして、早々に部屋へ戻って眠ってしまった三人に、レイリアは思いが届くようにと祈った。

(無事に帰ってきてくれて、ありがとうございます・・・)

 自室のベッドに腰掛けて、しばらく考えてから閉じていた瞼を開けた。

(・・・やっぱり気になる!)

 そろりとベッドを抜け出して、薄手の上着を羽織って、なるべく音を立てないように窓から外へ滑り出た。


 ——寒い。

 もうすぐ冬を迎えるこの季節は、陽の光が消えるとすぐに空気が冷たくなる。その冷たい空気に身を震わせ、レイリアは冷たい芝生を素足で歩いてヴィトの部屋へ向かう。


 月の無い夜は、ただただ暗い。壁に手を当てて感覚で進む。

(近づいちゃ駄目って言われたけど・・・顔を見るくらいだから・・・)

 水浴びをしたからと言って、イルア達が洗い流したものの匂いが綺麗に消えているわけではなかった。それに、まだちゃんと姿を見ていないのが不安だ。手当ては必要ないと言っていたけれど、本当は怖がらせない為なのかも知れない。

(セティエス様の言う事を、疑っているわけじゃないけど・・・)

 けれど・・・理由もなく不安だった。

(ちょっと覗いて、すぐに帰るだけだから・・・)

 そう、強く言い聞かせて、レイリアはついに、ヴィトの部屋の窓まで辿り着いた。窓にはカーテンが引かれていたが、僅かな隙間がある。

(・・・やっぱり、駄目だよね・・・?)

 そこまで来て、レイリアの足がすくんだ。上着を掴んでいた手に、力がこもる。

(・・・どうしよう。やっぱり、戻った方がいいよね・・・?)

 でも、ちょっとだけ。と背中を押そうとする自分がいる。

(けど、前にヴィト本人にも言われたし・・・)

 でも、自分の目で無事を確かめないと心配だから。と強い言い訳をする自分もいる。

 どうしよう、どうしよう、と迷っていると、ヴィトの部屋のカーテンがわずかに揺れた。

(ヴィト?)

 はっとして目を凝らすと、一瞬、ヴィトがこちらを見ていたような気がした。

「・・・・・・」

(やっぱり、確かめたい!)

 そう決意して窓へ歩み寄った。


 カーテンの隙間には、もうヴィトの姿は見えなかった。

 そっと窓に手をかけ、部屋の中を覗き込む。すると、ベッドに腰掛けている後ろ姿が目に入った。じっと座っているだけで、特に辛そうな様子も見受けられない。

 ほっと、小さく息を吐いた。

(良かった・・・。やっぱりセティエス様の仰った通り、無事みたい・・・)

 安心して、そっと窓を離れようとした。しかし、ヴィトがこちらを振り返った。

(あっ・・・)

 目が合って、息が詰まる。ヴィトはしばらくこちらを見た後、何か悩む様子でこちらへ歩いてくる。

(どうしよう・・・でも、今逃げるのも変だよね・・・)

 かたん、と小さな音がして、窓が開かれてしまった。ヴィトは困ったような顔でこちらを見ていた。

「あ、あの・・・」

 すぐには言葉が出て来ない。ヴィトは静かにレイリアが何か言うのを待っていた。

「・・・お帰りなさい。」

 まだ言ってなかったから、とレイリアは微笑んだ。これが言いたかったのだ。

 ヴィトは驚いた後、俯いて溜息を吐いた。

「あの、ごめんなさい・・・身体、大丈夫?」

 そう言って窓枠に置かれた手に、自分の手を重ねると、ヴィトが苦笑してレイリアを見下ろした。

「・・・新月の夜は近づいちゃ駄目だって・・・俺、前に言ったよね?」

「・・・うん、ごめんなさい。・・・セティエス様にも言われたの。」

 俯いて、言葉を絞り出す。

「だけど・・・皆が帰ってくるまで、すごく怖かったから・・・ヴィトの無事な姿、自分の目で見ないと不安で・・・」

 言っていて、やっぱり朝まで待てば良かった、と後悔した。

「ごめん。・・・あの、おやすみなさい。部屋に戻るね。」

 言いおいて離れようとした手を掴まれて、レイリアは驚いた。

「・・・ヴィト?」

「駄目だ。今逃げたら追いかけたくなるから。」

 ヴィトは先程からずっと困った様な顔をしている。

「え・・・?」

 しかし、その目は静かで、動揺はしていないようだった。だから、どうしたのだろう、と不思議に思う気持ちが強くなる。

「あの・・・どうかしたの?」

「・・・うん、ちょっと。」

 ヴィトは苦笑した。そして、そっと手を引かれた。

「今離れられると困るんだけど・・・そこじゃ寒いよね。」

 離れると困る、という言葉に首を傾げる。

「え?う、うん・・・寒い・・・」

「おいで、レリィ。」

 窓を開け放たれて、レイリアは戸惑った。いくら仲が良いと言っても、こんな時間に異性の部屋に入るのは非常識だ。

「あの、今・・・?」

「寒いからどうぞ、って言ってるのに?」

 くすくす笑われて、レイリアはちょっとほっとした。その笑顔はいつものヴィトだ。

「そうだね・・・じゃあ、ええと、窓からだけど、失礼します。」

「どうぞ・・・」

 ちょっと話して、すぐに帰ろう。もしくは扉から出て行こう。と密かに決めて、レイリアはヴィトに引き上げてもらった。


 ヴィトの部屋の窓は少し高い位置あるので、昇り降りはちょっと骨が折れる。窓枠から降りようとしたら、ヴィトに引っ張られて抱きつく形になってしまった。

「あ、ごめん」

 慌てたレイリアとは対照的に、ヴィトはそのまま抱きしめる。寄りかかられて、かたん、と窓が鳴った。

「ヴィト・・・?あの、もう大丈夫だよ?」

 話しかけると、腰と背中に回された腕に力が入った。ヴィトの呼吸が首筋をくすぐって、身をよじりそうになるのを我慢する。

「ヴィト・・・?」

 問いかけながら、レイリアはぼんやりと考えていた。

(そう言えば、どうして新月の夜は近づいちゃ駄目なんだろう?今だって、ヴィトは普通だよね・・・?ちょっと、いつもより大胆だけど・・・)

「辛いの?身体・・・」

 そう問いかければ、

「うん・・・ちょっとだけ。」

と返ってくる。励ますようにヴィトの肩を軽く叩いた。

「怪我、は・・・?」

 くすり、と笑う気配がした。僅かに吐き出された息と、ヴィトの髪がくすぐったくて、レイリアは目を閉じて堪えた。

「平気だよ。それは大した事じゃないんだ。」

「”それは”?」

 思わず聞き返す。と同時に首を傾げると、空いた隙間を埋めるように、ヴィトが頬を合わせて来た。腰に回っていた手が、レイリアの頭を支える。指が髪へ梳き込まれて、なんだか変な気分だ。

「あの、ヴィト?」

 さすがに慌てて声をかけると、ヴィトが呟く。

「レリィ・・・良い匂い。」

「え?」

 ヴィトはなんとも思っていないのか、と安心して、レイリアは応えた。

「イルア様と同じ洗髪剤だけど・・・」

「・・・イルア様とは違う。」

(それってた、体臭!?)

 若干恥ずかしくなって、レイリアはごまかすように笑った。

「そ、そうかな・・・」

「うん。違う。」

(・・・首が辛いかも。)

 何せ曲がったままで固定されているのだから。恥ずかしさはそうそうに放棄して、レイリアはそっとヴィトの腕を解こうとした。

「ヴィト、私、そろそろ戻らないと・・・」

 そう言った途端、ヴィトが僅かに顔をこちらに向けて、少しだけ唇が頬に触れる。

「!?」

「レリィ・・・今そういう事を言われると、すごく困る。」

(何!?何が!?私も困る・・・!)

 急に心臓が跳ね上がる。体中の神経が、鋭くなったのか鈍くなったのか分からない感覚が襲う。慌てるレイリアに、ヴィトは追い打ちをかけた。

「襲いたくなるから。」

「・・・!」

(新月の夜は近づいちゃ駄目って・・・)

 レイリアは固まった。

(こ、こういう事!?)



 暁が辺りを照らし始める頃—。

 イルアは不安になって一階へ降りて来た。すると、廊下へ出て来たガイアスと出くわした。

「どうした?イルア。」

「・・・なんだか、レリィが心配で。」

 ちらりとレイリアの部屋を見る。するとガイアスも同じように部屋を見た。

「・・・実はさっき、起きた様な気がしてな。」

「レリィが?」

 こくり、とガイアスが頷く。

「・・・そこはかとなく不安よね。」

 イルアはよし、と決断した。

「セティを起こして、様子を見にいきましょう。」

「よし。」

 二人はすぐにセティエスの部屋の扉を叩き、三人でヴィトの部屋の前に立った。

「「「・・・・・・」」」

 三人で聞き耳を立てる。と、すぐに中で会話しているのが聞こえた。

「セティ!ガイアス!」

 イルアの叫びに応じて、二人は即座に鍵を壊す目的で、扉を蹴り破った。



「襲いたくなるから。」

 そう言われてレイリアはかなり焦った。

(に、逃げなきゃ・・・!あ、でもヴィトが自分で逃げたら追いかけたくなるって言ってた!・・・じゃあ逃げない方が・・・安全・・・?)

 ちらり、とレイリアがヴィトの様子を伺うのと同時に、今度は確実にヴィトの唇がレイリアの頬に当てられていた。

(・・・無理!安全じゃない!)

 咄嗟に身を捩って逃げようとしてしまって、追いすがったヴィトによって部屋の隅へ追いつめられた。

「・・・!」

 壁に横と背中を挟まれ、正面にはヴィト。

(ま、まずい・・・!)

 吐息がかかる程の距離にヴィトの顔がある。

(だ、誰か・・・!)


——ドカッ!


「「!?」」

 扉が木っ端微塵こっぱみじんになったんじゃないかという勢いで開いた。・・・というか半分は壊れている。

「「レリィ!」」

 叫んだのはイルアとセティエスで、ヴィトが身構える前にガイアスが押さえ込み、セティエスが手刀をくらわせて気絶させた。

「・・・・・・」

 あっという間の出来事に、レイリアは呆然と倒れたヴィトを見ていた。ぼかんとしていると、イルアが駆け込んできて抱きしめられた。

「レリィ、無事なの!?」

「・・・イルア様・・・」

 何がどうなったんだろう。レイリアが唖然としていると、イルアは心配そうに覗き込む。

「何もされてない?」

 さっと全身を眺められた。

「・・・どこも乱れてないわね。大丈夫みたい・・・?」

「!」

 そう言われてはっと我に返った。

「イ、イルア様!ヴィトが・・・!」

「おい」

 言いかけたレイリアを制して、ガイアスが全員を部屋を出るように促した。

「取りあえず居間に。」

「ああ、そうだな。」

 ガイアスの提案にセティエスが頷いて、四人は居間へ場所を移った。



「あの、イルア様。ヴィトは一体どうしたんですか?」

「その前に。」

 問いかけたイルアからではなく、声がかかったのはセティエスからだった。はっと身を強ばらせるレイリアを、鋭い目で射抜く。

「日が昇るまではヴィトの部屋へ近寄らない、という約束だったね?」

「・・・はい・・・」

「・・・・・・」

 しゅぅん、としょげかえるレイリアを見下ろして、セティエスは息を抜いた。そして、そっとその頬を両手で包んで顔を上げさせた。

「・・・こういう事になるから、駄目だと言ったんだ。」

「・・・はい」

 殊勝しゅしょうに頷いたレイリアに怒りを収めて、セティエスは手を離してイルアを振り返った。

「お嬢様」

「え?あ、はいはい。」

 呼びかけられて何故か慌てるイルア。三人から不思議そうに見られるが、そんなものはお構いなしにレイリアへ歩み寄った。

「じゃあちょっとこっちへ来て?」

「はい」

 イルアに手を引かれ、レイリアは居間のソファへ腰を下ろした。


「ヴィトなんだけど・・・実はね」

 ガイアスは廊下に通じる扉の側で、壁にもたれており、セティエスはその反対側に立って二人の様子を見ていた。

「彼は、古代獣族の末裔なの。」

「古代・・・獣族・・・」

 言われた言葉を反芻してから、レイリアは息を呑んだ。

「それって・・・三年前に滅んだってわれている・・・?」

 イルアは静かに頷いた。

「三年前ね、古代獣族の殲滅せんめつ命令が下ったの。殲滅には第二軍が行ったのだけど、殿下の護衛も兼ねて私たちも一緒に行ったのよ。」

「・・・第二軍に、殿下がいらしたんですか?」

 そう聞くと、イルアは小さく笑った。

「ええ。第二軍の将は殿下なのよ。」

(知らなかった・・・殿下も戦場に出るっていう噂は聞いてたけど・・・)

「そこで、最後に一人だけ、なかなか手が出せない獣族がいたの。」

 イルアは目を伏せた。その時の光景が目に映っているのだろうか。


「近くに現れるまで、どこに潜んでいるのか誰にも分からない。接近されて近づこうと思っても、一太刀浴びせる前に姿が消えてしまう。何時間かしら・・・いつまで経っても決着がつかなくて・・・。

一瞬、目が合ったの。

・・・その目を見て、殿下にお願いしたのよ。私にくださいって。」

「・・・・・・」

 その光景は、想像だけでも怖いものだとレイリアは思った。けれどイルアは、話し終えてふわりと笑った。それは、とても穏やかな、柔らかい、笑み。


「ヴィトったら最初は怖かったのよー?」

 くすくすと笑いながらイルアは言った。レイリアも思わず微笑む。

「私も新月の話を知らなくて、初めてここで新月を迎えた時はね、どこかに狩りに行こうとして、セティエスとガイアス二人掛かりで止めて。大人しくなったと思って様子見に行ったら襲われるし。」

「イ、イルア様、大丈夫だったんですか!?」

 慌ててそう訊ねると、イルアは不敵に微笑んだ。

「大丈夫よ。私って、結構強いの。」

 にっこりと微笑むイルアを見て、レイリアは僅かに首を傾げた。




『獣族』

・・・この世界に古くからいた種族。その聴力・嗅覚・気配を察知する能力は獣並み。身体能力は人間を軽く上回る。

 性格は野生の獣に近いものがあり、警戒心が強く、凶暴。

 攻撃態勢の時は感覚が獣よりになり、爪は大型の獣のそれに類似する。牙も形を変える。



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