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フレンズ・ア・キャンディ

作者: 猫電話
掲載日:2026/10/26

「……ということで、よろしくお願いします」


 そんなことを言いながら、お隣の奥さんは頭を下げて俺に一枚のシールを渡してきた。

 そのシールはハロウィンらしく、カボチャを繰り抜いたあのお化けがデザインされている。


「ええ了解しました、任せておいてください」


 明るく笑って返事を返すとお隣の奥さんは、少しだけ申し訳無さそうに苦笑を浮かべて俺を見る。


「お子さんがおられる訳でもないのに、いつも子供会にご協力いただいてありがとうございます」


 そう言って先程の軽い感じじゃなく、頭をふかぶかと下げてきたので、俺は慌てて頭を上げるように促した。


「地域に住んでる者として当然ですから……。 それに俺も子供の頃はこの町の人達にお世話になってましたし」


 俺はこの町で生まれ育ち、成人してから暫く都会に出ていたが、両親が病気で相次いで亡くなってしまい、今こうして実家の広い家に戻って一人で住んでいる。


「うふふ、そうですね。 家(うち)の人とも仲良しですから」


 そう、この奥さんの旦那は幼馴染だ……お隣だからな。

 それはそうと、しばらく遊びに誘うのは控えておいた方が良さそうだと、その奥さんの鋭い視線を見て思った。


「それでは他の家もまわりますので、これで」

「はい、ご苦労様です」


 そう言って帰って行く奥さんに手を振って見送った。

 渡されたシールの方は、玄関に貼っておくことで数日後のハロウィンの時。子供達に【この家はお菓子をねだってもいい】という印(しる)しになる。

 そういう子供会のイベントだ。


「さて……お菓子でも買いに行くか」


 俺は一人そう呟くと、財布を手に家を出た。

 

 玄関の外に出て鍵をかけて振り返ると、子供が一人こちらを見ながら笑っていた。


「ん? どうした坊主、何か用か?」


 だが、俺が声をかけると子供は一言も喋らずに振り返って逃げるように走り去っていく。


「なんだ、あの子……人見知りか?」


 その時俺は、あまり気にする事もなくただ、その子供の背中を見送るだけだった。


◇


 ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!


 ハロウィン当日、俺が目を覚ますよりも朝早くに、何度も鳴らされるチャイムで叩き起こされて、眠い目を擦りながらもお菓子を片手に玄関を開けた。


「とりっくおあとーと!」

「とっくあーと!」


 そこには、まだ小学校にも上がって無さそうな二人の女の子が、安そうな魔女の服を普通の服の上に着て必死に手を伸ばしている。

 ふと、家の門の方に視線をやると、若い女性が心配そうにこちらを見ていたので軽く頭を下げた。

 そんな俺に気が付いて、相手も慌てて頭を下げる。

 多分この子達の母親なんだろう。


「そうだな、いたずらは困るからお菓子をあげよう」


 俺はそう言って腰を落とすと、自分の視線を子供達の目線の高さにあわせる。

 二人は差し出された菓子を詰めた袋を受け取ると、嬉しそうに顔をほころばせた。


「おじちゃん、ありがとう!」

「お、おじひゃん、あがと!」


 子供達はそう言ってお礼を言うと、戦果を報告するように母親の元へ走って行く。

 再びその母親と目があってお互いにお辞儀をすると、その親子は次の家に向かって離れていた。


 その後も何組かの子供達を迎え入れては、用意していたお菓子袋を渡して行ったら、ふと気が付いたら残り三個になっていた。

 とは言っても、もうすぐ十七時になる。

 もう来ないだろうと安心しつつ、肩を回して背伸びした。


ピンポーン!


 だが、そう思ったのも束の間、玄関のチャイムが鳴ったので、苦笑いを浮かべつつ玄関のノブを回した。

 開いた玄関の先には、四(・)人(・)の子供達がニコニコと笑顔を向けていた。


「フレンズ・ア(・)・キャンディ!」


 そんな四人の子供達の中で、中央に立っていた男の子が代表のように、聞き慣れない掛け声と共に手を伸ばしてくる。

 そんな男の子と違って、他の三人の子は何も言わずにただ笑ってる。


 なんとも言えない違和感を感じながら、俺は玄関横に置いていたお菓子袋を見る。


 数が足りない。


 そう思ったが、まぁ四人で分け合ってくれればいいかと、その三つのお菓子袋を差し出す。


「はい、数は足らないけど袋を開けて四人で分けてね」


 俺はそう言ったが、代表の男の子は三つの袋を後ろの子達に渡すと、再びこちらを見上げる。

 その顔をよく見たら、数日前にこの辺で俺の姿を見て逃げてった子じゃないかと、俺はふと思いながら見ていると、男の子は満面の笑顔を浮かべて再び口を開いた。


「フレンズ・ア・キャンディ」


 その笑顔に少し不気味な物を感じながら、空になったかごを見せながら俺は謝る。


「ごめんね、それで終わりなんだ」

「フレンズ・ア・キャンディ」


 俺が謝ってもその子は再びその言葉を繰り返す。


 友達かお菓子か……か。


 俺は少しだけ考えて立ち上がると手を伸ばす。


「じゃぁ友(・)達(・)になろう。 少しなら一緒に遊んであげるよ?」


 男の子は笑顔になって、俺の伸ばした手に自分の手を重ねてきた。


◇


「フレンズ・ア・キャンディ」


 空の色が赤く染まりつつあるにも関わらず、五(・)人(・)の子供がハロウィンのシールが貼られた家のチャイムを鳴らしていた。

 その家はまだ用意していたお菓子が残っていたようで、五人とも菓子を手に持って楽しそうに道路に出て来る。

 その姿を近所の主婦らしき二人が立ち話をしながら見ていた。


「こんな時間まで……そろそろ誰か止めないと」

「ほんと、あの子達の親は何やってるのかしら?」


 注意した方がいいと思うなら、彼女達がそうすればいいと思うが、他人の子を叱るのは最近の状況を考えると憚(はば)れるのだろう。

 二人の主婦はただ見ているだけだ。


 そんな二人は、揃って首を傾げる。


「でも……あんな子達、この辺に住んでたかしら?」


 五人の子供達は、シールが貼られている家を探すように、家々の玄関を除き込みながら、何処かへ走り去っていった。

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