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ライトノベル・ライト文芸

滅亡のジョージ〜国家滅亡ブランドで成り上がる〜

作者: 冬木香
掲載日:2026/04/28

「ほら、これがオイシ草だよ。どこでも育つしすぐに収穫出来る万能食料なんだ。食ってみろよ」



 目の前には真っ赤な実をつけたオイシ草がそこかしこに生えていた。

 その中から1つ実を取って隣のボブに渡す。


 ボブは実を口に放り込むとすぐに渋い顔になって実を地面に吐き出した。



「なんだよこれ! 酸っぱいし苦いし食えたもんじゃねえ! おい、ジョージふざけんなよ!」



「めっちゃ不味いだろ! 美味しそうだけど美味しくないからオイシ草なんだってよ」



 俺が笑っていると、ボブも諦めたように笑い出した。



「人に食わしたんだからジョージも食えよ!」



 ボブがオイシ草の実を押し付けてくる。



「いや、食ったことあるって。金がない時にこればっか食ってたよ。もう二度とと食いたくねー」



 口から出まかせだった。

 子供の頃に味見をしたことはあるが、不味過ぎてすぐに吐き出した。

 だけどこう言っておけば無理やり食べさせられることはないだろう。



 そうしてただ軽い気持ちでついた嘘だったわけなのだが……。

 まさかそのせいで国が滅びることになるなんて、その時は思ってもみなかった。




〜2年後〜


「この食糧危機にあたって、国策としてオイシ草の栽培を提案する」



 俺たちの国、ホロビックは過去最大の食糧危機に直面していた。

 そこでボブが、俺の昔の話を思い出してそんなことを提案したらしい。


 当然味が悪いせいで安全性が疑われた。

 けれど俺が金がない時に主食にしていたと言う話をボブが話したせいで、トントン拍子にオイシ草主食化計画が進んでしまったのだった。


 味が悪いとはいえ、人間というのは工夫を凝らすものだ。

 すぐに美味しく食べられる調理法が発明されて、街にはオイシ草料理の店が溢れかえった。

 それがかなり好評なようで、食堂はどこも活気に溢れていた。

 それでも子供の頃にトラウマになっていた俺は、空腹を我慢してでもオイシ草料理を食べることはなかった。


 

 食糧危機も回避されて、提案したボブは英雄のように祭り上げられていた。

 けれど、そんな活気が長く続くことはなかった。


 きっかけはボブの死だった。

 ある日ボブが朝起きてこないからと妻のミシェルが起こしに行くと、ボブはすでに死んでいて目を覚まさなかったのだという。

 その日を境に、朝眠ったまま目を覚まさないという事例が後を立たなくなった。


 異常に気がついた研究者たちがオイシ草が原因だと究明したけれど時すでに遅し、その1ヶ月後には研究者も含め、ホロビックの国民は俺を除いて誰も生きてはいなかった。



「はあ、これってどう考えても俺のせいなんだよなあ。全く悪気はないのに、なんでこうなっちゃったかなー」



 あれから俺はずっと旅を続けている。

 もう5年になるが、いくら考えてもホロビックを滅ぼしたのは俺である、という結論から逃れることはできなかった。



「ボブがあんな提案をしなければよかったんだけど、でも結局それも俺のせいなんだよなー」



 人のせいにしようとしても因果が全て俺に収束するのだ。

 旅の道中はいつも思考を巡らせているのだが、どれだけ考えても事実が揺らぐことはない。


 完全に詰んでいた。



「考えても仕方がないことなのに、考えないとか無理だよなー。だってまた同じことになったら怖いもんなー」



 それでも考え続けるのは、同じ過ちを二度と繰り返さないことが、俺の義務であり逃れられない宿命になったからだ。

 全ての因果を予測すれば、悲惨な結末だって防ぐことができるはず。


 そんなことを考えていると、目的の村が見えてきた。

 今度の村はどんな村だろうか。トラブルがないといいんだが。



 村に入るとすぐ老人に声をかけられた。



「ようこそ旅人さん。わしはジーイ。この仮村の村長じゃ。今日は祭りをやっているから存分に楽しんでいってください」



「俺はジョージ。祭りをやっているのか、タイミングがよかったな。ところで仮村ってどういうことだ?」



「わしらは廃村を渡り歩きながら旅をする民族なんじゃ。ちょうどこの村の昔の書物を見つけてな、たくさんのレシピが載っていたから祭りを開くことになったんじゃよ」



 確かにこの辺りは廃村が多い。廃村で蓄えをしながら旅をするというのは理にかなっているのかもしれない。

 ジーイに案内されて村の中心部に向かうと、広場に人が集まっていた。

 大体40人くらいだろうか。この人数で旅をするというのはかなり大変そうだ。



「ところで見つかったレシピってのはどんな料理なんだ? 最近肉を食っていないから肉が食いたいんだが」



「祭りは始まったばかりでまだ食べていないんじゃが、生で食べると不味いが調理次第でかなり美味しくなる食材みたいなんじゃ」



 ジーイがそういったところで、どこかで嗅いだことのある香りが漂ってきた。

 少し甘くて酸味を感じるこの香りは、ホロビックが滅びる前に国中に充満していた……。



「ぬぉおおおおおおおおおおおお!!!! ジーイ! 今すぐ祭りは中止だ! 料理を食べるのをやめさせろ!」



 紛れもないオイシ草料理の香りだった。



「ジョージさん、どういうことじゃ? 祭りを中止とはいったい——」



「この料理は毒だ! 死にたくなかったら食べるのをやめさせろ!」



 ジーイは毒という言葉を聞いて事態を察したらしい。

 青ざめた顔で広場の中央に走っていった。



「みんな! 料理を食べるのをやめるんじゃ! その料理は毒なんじゃ!」



 さすが村長と言ったところか。

 一言で皆が手を止めたようだ。

 祭りが始まったばかりで、食べ始めている人がまだ少ないのも幸いだった。


 それでも不満がないというわけではない。

 一人の青年が声を上げる。



「毒ってどういうことだよ村長。そもそも村長が見つけたレシピじゃんか!」



 ジーイが困ったようにこちらに視線を向ける。

 俺は仕方なく広場の中央に行くことにした。



「話を聞いてくれ、セイン。こちらはジョージさん。その料理が毒だと教えてくれたのはこの方じゃ」



 セインと呼ばれた青年は俺に疑いの眼差しを向けている。



「その料理は毒だ。食べないほうがいい」



「急に来てなんなんだよお前! そもそも見ただけで毒だなんてわかんのかよ!」



「ああ、見るまでもない。この香りは嫌になる程嗅いだからな。この料理に使われている実はオイシ草。遅効性の毒を持つ危険な雑草だ」



「オイシ草ってなんだよ、バカにしてんのか? というか結局あんた何者なんだよ!」



 誰もが思っていたことのようで、村中の視線が俺に集まる。



「俺はジョージ、ホロビックを滅ぼした男だ」



 俺がそういうと、村中に沈黙が流れた。



「ホロビックを滅ぼした……?」



 セインが思考を整理しているのか、そんな呟きを漏らした。



「ホロビックを滅ぼしたジョージって、あの?」



「ええ、ホロビックを滅ぼしたジョージっていえば確か、予言した因果は全て滅亡に繋がるって噂の——」



 セインに続くように村人たちが囁き声で話しだす。



「やべーぞ! みんな食うんじゃねえ! 食ったら村が滅びるぞ!」



 そこからは阿鼻叫喚といった感じだった。

 みんなが料理の皿を投げ捨て、食べてしまった者はなんとか吐き出そうと必死になっていた。



「滅亡のジョージの予言だああああ!!!! 俺たちは滅びるんだああああ!!!!」



 ただ危険を指摘しただけなのに、なぜかみんな絶望に泣き叫んでいた。

 料理を食べていないのに内容物を吐き出そうと必死になっているものまでいる始末だ。



「ちょっと落ち着いてくれ、吐き出せば大丈夫だ。そんなに絶望するようなことじゃない」



 俺がそういうと、今まで以上にみんなが吐き出そうと必死になった。


 これ、どう説明すればいいんだ?



「おい、ジーイ。みんなに言ってくれよ。落ち着けば大丈夫だって」



「おえぇええええぇええぇえぇぇ」



 なぜかジーイも吐こうとしていた



「いや、ジーイは何も食ってないだろ! しっかりしてくれ!」



「おお、そうじゃった。みんな! 落ち着いてくれ! 大丈夫じゃ!」



 涙目な上に掠れ声で叫んでいるジーイはあまり大丈夫そうではなかった。

 とはいえやはり村長への信頼は厚いらしい。

 次第にみんな落ち着きを取り戻していった。



「ありがとう、ジョージさん。あんたはこの村の命の恩人じゃ」



 今度は本当に感動の涙を目の端に溜めていた。



「滅亡のジョージ万歳! 滅亡のジョージは最強!」



 セインがそんなことを叫ぶと、村人たちがそれに続いた。



「できれば滅亡のジョージはやめてくれないか」



 こんなことを繰り返しながら俺は旅を続けている。

 滅亡ブランドで成り上がる。俺の旅はまだまだ続く。

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