実話だよ
その袋小路入り口の道は左右に分かれてとても細い。ひと一人が通れるくらいの道幅で向かい側に家の裏やら側面の壁が三軒分並ぶ程度だ。そのせいか外灯などというものはなく、夜は当然暗い。袋小路入り口側の家にも玄関灯を点けている家はなく、一軒は無人である。どうしようもなく真っ暗だ。救いは道が長くはないことだろうが。袋小路を背に細道を右に向かって抜けなければ駐車場にはいけない。
そんな道を歩いていた。日常的に使う道である。慣れがないわけではないが、夜ともなれば当然、怖い。忘れ物を買うためでなければ愛犬を引きずって出るのだが、手間だった。時刻は夜の九時過ぎ。田舎で年配の割合が高い場所ともなれば静まり返っている。子どもは袋小路にある我が家の姉弟だけだ。愛犬どもの吠え声も聞こえてこない。目の前は闇。そんな道を歩くわたしの耳に、さきほどから聞こえているものがあった。
「はぁはぁ」とか「ううう」とか、「け」とか「て」とか。
闇の中目を凝らしてみても、誰もいない。というか、見えない。気配もない。
心臓がいやなくらいに鼓動を刻む。
この寒い季節にじわりと脂汗がにじみ出してくる。
ちょうど無人の家と姉のかつての同級生の実家の境目くらいだろうか。
我慢ができなくなった。
怖いのだ。
「だれなっ!」
どすを効かせて叫んでいた。
Hやぁ。
か細い声だった。
「Hのおっちゃん? どしたんな。どこにおるんな」
闇のなか見渡しながら問いかけた。別の怖さに心臓が踊った。Hというのは。姉の同級生の父親の名前だった。老人の一人暮らしで、日中でも滅多に見かけないと言うのに、こんな夜に? たまに挨拶するときには、ふらふらしている姿に不安になったものだが。
「玄関の前や。転けて立てれんのや」
玄関灯も点いていない玄関の脇に、Hのおっちゃんは倒れていた。
大柄なひとなので私では抱えあげることはできない。
「ちょっと待っといてな」
言い抜け様、手近の家の玄関を叩いた。
年配には遅い時間と言うこともあって不機嫌そうに出てきた家主にHさんが倒れていることを説明すれば、すぐに行くと。
その背中を見送りながら、スマホで救急車を呼んだのだった。
と、まぁ、こんなことがあったらしい。
あ。妹の実話ですね。あそこの道は夜通るの怖いので、是非とも遠慮したいわぁと思った出来事です。




