#8:ありえないわ……
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【前話のあらすじ:レイは、王都で学んだ知識と前世の知識を組み合わせて、ついにシレハ村の土壌を豊穣の地に変えることに成功する。レイが次に着手したのは、"特産品"を創ることだった....】
土壌を蘇らせた俺が次に着手したのは、単なる農作物の域を超えた、村の経済を根底から覆す「戦略物資」の創造だった。
俺は、シレハの村をただの「自給自足ができる村」で終わらせるつもりはない。
俺が目指すのは、王都の貴族や商人が地を這ってでも分け前を請うような、圧倒的な経済的優位性だ。
そのための「牙」を、俺はこの村の負の遺産から生み出すことにした。
俺はシレハの西端、常に冷たい霧が不気味な蛇のように立ち込め、村人たちが「幽霊の通り道」と呼んで一歩も近づかない断崖の湿地帯に立っていた。
そこは日光が届かず、常に湿った冷気に支配された場所だ。
足元の腐葉土は、踏むたびにグチャリと重い音を立て、有毒な魔力を含んだ胞子が空気中を漂っている。
だが、その絶望的な静寂の中で、不気味に銀色の光を放つ雑草—―銀鈴草が、まるで墓標のように群生していた。
銀鈴草。
その名の通り、小さな銀色の鈴のような花をつけるが、風が吹いても音はしない。
代わりに、半径数メートルにわたって精神を掻き乱す微弱な魔力のノイズを放つ。
鑑定(S)を発動する。
俺の網膜に、青い幾何学的なグリッドが展開される。
銀鈴草の根系、茎の導管、葉の裏にある微細な棘。
それら全てが透過され、化学組成と魔導的特性が数値となって流れ込んでくる。
一般的に、銀鈴草は「呪われた草」とされている。
家畜が一口食べれば、胃腸が魔力的に焼けただれて激しい下痢を起こし、人間がうっかり触れれば、数日間は指先の感覚が失われるほどの麻痺に襲われる。
村人たちにとって、銀鈴草は避けるべき忌まわしき毒草でしかなかった。
しかし、レイの視界に映るデータは、その評価が浅薄な迷信に過ぎないことを冷徹に証明していた。
(やはりな....シラハの土地に、なぜ魔力が凝り固まっていたのかが謎だったが、それは銀鈴草の根に含まれる特殊なアルカロイドが含む豊富な魔力が地中に流れ込んでいたからだ....特に、銀鈴草のアルカロイドは地中に魔力を留めるほどの安定性を持っている。つまり、これを逆に、適切な魔導触媒と組み合わせ、特定の熱処理を施すことで、神経系の信号伝達を正常化させるだけでなく、人体の魔力回路に蓄積された老廃物を分解し、摩擦抵抗を極限まで低減させる『超潤滑剤』に変貌することができる.....)
つまり、これは「毒」ではなく、「純粋なエネルギー源」なのだ。
水も、一気に大量に飲めば毒になる。
それと同じで、銀鈴草の魔力があまりにも強大であったために、この世界の人間たちが扱いきれなかっただけのことだ。
俺は銀鈴草の根を傷つけないよう慎重に採取した。
採取した銀鈴草を抱え、村に戻った俺は、すぐに自室に籠った。
村人たちには「村長としての瞑想に入る」と伝えてあるが、実際に行うのは瞑想などという静かなものではない。科学と魔導が火花を散らす、未知の錬金作業だ。
俺は静かに瞑想する。息を整えて、銀鈴草から抽出する過程や熱によって変色する過程を丁寧にそして具体的にイメージしていく。
俺の元に、システム音と共に、ブルーウィンドウが表示される。
【錬金A級を新たに取得しました】
(やっぱり.....成長がSかつ「∞」だったし、固有スキルも相まって、ワンチャンとは思ってたけど、ラッキー!!)
俺は亜空間魔法(A)のストレージから、王都の「賢者の書館」に通っていた際に、密かに店を巡って買い集めた魔導部品を取り出した。
それらは一見すればただの鉄屑だが、俺の前世の知識により、「異形の蒸留器」へと組み上げられていく。
銅製のパイプを複雑に螺旋状に曲げ、魔力の流動を整えるための「整流板」を各所に配置する。
さらに、蒸留器の底部には魔力結晶の粉末を流し込み、微細な熱量を一定に保つための回路を刻んだ。
王都では、ほぼ食事をせず、この部品を揃えるために、国から支給された、王都での交通費や生活費のほとんどをつぎ込んだ。
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作業は深夜にまで及んだ。
「さて……ここからは、俺一人では限界があるな。精密な『外部動力』が必要だ」
俺は、ニーナを部屋に呼び入れた。
「ニーナ、入ってくれ。……準備はいいか?」
「もう、レイ。こんな夜中に呼び出して、一体何を……って、なにこれ!? この不気味な機械は!」
部屋に足を踏み入れたニーナが、仰天したように声を上げた。
中央で、見たこともない形状の金属製の装置が鈍い光を放っていた。
「ニーナにしか頼めない仕事だ。……ニーナ、この蒸留器の底部にある、この小さな魔力核を視てくれ」
「……うん。すごく小さくて、繊細な熱を感じるわ....」 ニーナは少し嬉しそうに言った。
「今日から三日間、君にはここで火魔法(E)を使い続けてもらう。ただし、出力は『蝋燭の炎』の半分……いや、その三割程度の微弱な火力を、一分一秒たりとも絶やさずにだ。一瞬でも火力が強まれば中身が爆発し、弱まれば発酵が止まってただの腐った汁になる」
ニーナの顔が引きつった。
「……はぁ!? 三日間、ずっと起きてろってこと!? それに、そんな微弱な火力を維持し続けるなんて、かえって全力で魔法を放つより百倍難しいわよ!だいたい、私が火魔法使えること、何で知ってるの?って、私が前に自慢したのか.....」
「ニーナの魔力制御は、今のシレハ村で最も精緻だ。ニーナならできるはずだ。……」
「……もう.....レイにそう言われると、断れないじゃない。……わかったわよ、やってやるわ! その代わり、変なものができたら承知しないからね!」
ニーナは覚悟を決め、蒸留器の前に座り込んだ。
彼女の指先から、糸のように細く、だが透き通るような純度の高い炎が放たれ、蒸留器の底を温め始める。
「いいぞ。ニーナ、もっと緩やかに……温度計の目盛りに意識を集中しろ。……そうだ、そのままだ。少しでも温度が上がったら、風魔法で冷気を混ぜて相殺しろ」
「言われなくてもやってるわよ……っ!」
一時間、二時間……。
部屋の中には、銀鈴草の根が煮詰められて、独特の香りが漂い始めた。
それは最初、古びた書庫のような、埃っぽく苦い匂いだった。
だが、発酵が進むにつれて、匂いは劇的な変化を遂げていく。
一日が経過した頃、匂いは完熟した果実のような甘さを帯び始め、二日を過ぎる頃には、まるで見知らぬ高貴な花々が咲き乱れる楽園のような、嗅ぐだけで意識が遠のくほどの芳香へと昇華されていった。
ニーナは、すでに限界に近い集中力を発揮していた。
彼女の額からは玉のような汗が流れ落ち、その瞳は微かに充血していた。
だが、俺は情けをかけなかった。ここで妥協すれば、最高の特産品は生まれないからだ。
「あと三十分だ、ニーナ! この段階で魔力の揺らぎが一度でもズレれば、発酵は成功しない。腐敗して無駄になるぞ。ニーナの指先に、村の全財産がかかっていると思え!」
「……っ! うるさい……! 黙ってて、レイ! 私を誰だと思ってるのよ……!」
ニーナの意地が、魔力の奔流を御していく。
蒸留器の内部で、琥珀色の液体がポタリ、ポタリと滴り落ちる重厚な音が響き始めた。
一滴、また一滴。 その一滴が落ちるたびに、部屋全体の魔力濃度が物理的に上昇し、空気がキラキラと輝き始めたようだった。
そして、ついに。
「……終わった。ニーナ、火を止めろ」
俺の合図と共に、ニーナは崩れ落ちるように床に倒れ込んだ。
「……はぁ、はぁ……。もう、指一本動かせないわよ……。それで、どうなったの……?」
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俺は慎重に、蒸留器の受け皿から、完成した液体をクリスタルの小瓶へと移し替えた。
その液体は、瓶の中でまるで生きた宇宙を閉じ込めたかのように、青白い星屑のような光の粒子が、琥珀色の海の中で渦を巻いて踊っていた。
俺はそれを小さなグラスに注ぎ、荒い息をついているニーナの唇に運んだ。
「飲んでみろ。君の三日間の『成果』だ」
「……毒だったら一生恨むからね」
ニーナがおずおずと一口、その神秘的な液体を唇に含んだ。
その瞬間、部屋の空気が一変した。
「……っ!?」
ニーナの瞳が、限界まで見開かれた。
彼女の肌が、仄かな桜色に染まり、全身から柔らかな魔力の光が溢れ出す。
「あつ……いや、冷たい……? なにかが、身体の芯から……背骨を通って、脳みそまで突き抜けていく……!」
彼女の表情から、一瞬にして疲労の色が消えたようだった。
「疲れが……一瞬で消えたわ。それだけじゃない。魔力の泉が、さっきよりずっと深くなって、回路が……今まで泥が詰まってたみたいに感じてた部分が、透き通った水路になったみたい……! レイ、これ、魔法薬なんてレベルじゃないわよ! 聖女様が奇跡を起こした後の雫みたい!」
レイは満足げに頷き、自分でも一口、その液体を味わった。
舌の上で弾けるような魔力の刺激。
そして喉を通る瞬間に、魂が震えるような充足感が広がる。
視界が澄み渡り、世界の解像度が一段階上がったような錯覚すら覚える。
『星屑の雫』。
俺の前世の知識である『低温減圧蒸留』と、この世界の『魔力発酵理論』を融合させた、究極の戦略物資。
俺は、琥珀色の液体を透かして見た。
「これはただの酒でも、ただの薬でもない。飲んだ者の魔力伝導効率を一時的に五割底上げし、かつ蓄積した精神疲労を完全にリセットする。戦場に出る魔導士にとって、これは『二つ目の命』と同義だろうな....」
ニーナは、自分の手のひらを見つめながら、その力に怯えるような声を上げた。
「レイ……これ、王都の貴族が聞いたら、戦争を仕掛けてでも奪いに来るわよ。こんなのを辺境の小さな村が持ってるなんて、ありえないわ……」
「ああ、だからこそだ。これを『売る』のではない。これを『餌』にして、この村に手出しできないほどの巨大な利権網を築く。王都の連中の喉元に、この雫という名の鋭い刃を突きつけてやるのさ」
俺は、残りの「星屑の雫」を丁寧に瓶に詰めながら、不敵に微笑んだ。
窓の外では、冬の夜明けが白々と明け始めていた。
シレハの村を包む冷気は、もはや恐怖の対象ではなくなっていた。
この極寒の不毛な大地こそが、世界で唯一、この至高の雫を生み出す母体なのだ。
世界は、ますますmeに微笑んでいるようだった。
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今話の極小情報:『星屑の雫』。これは、簡単に言えば、とても優秀な疲労回復役兼一時的な魔法強化薬。無論、戦争で使えば、効果は絶大だが、レイ以外に真似することはほぼ不可能。仮に、銀鈴草を手にしたとしても、そこから、抽出するための複雑な金属精器を組み立てることが不可能である。そしてそもそも、銀鈴草を採取するには、ある特定の場所のみに触れて、採取しなければ、その効力は永遠に失われ、”負”の効果のみが残ってしまうのだ......
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【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、レイの協力者が登場!さらに、村が強くなりますっ!
~高評価やブックマーク、感想等いただけるとありがたいです!~
「ふっと二言:設定を作りこみすぎて、色々な種族を登場させる予定も、いまのところ、人族以外は鼠族のロブだけ.....こんなはずじゃ..... ニーナの三徹に筆者も感謝です。ストック貯めのために、筆者も今日は徹夜の予定です...多分(笑)」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
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【無双×悪役令嬢×暗躍×チート×恋愛】 → 悪役令嬢の護衛でありながら、別の「推し令嬢」を救うために裏で無双する暗躍劇です!
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