#68:全員、死刑だ
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:連日の激務を終えて、寝所に戻ったアーノットは、クロムからゼノが捕まったことを聞かされる。そして、クロムに、レイのいる地下牢への鍵を手渡す……】
地下牢は薄暗い。
湿度も高く、とても、眠ることなどできない。
牢番や看守たちの運んでくる食事も、まずいどころか、たいてい毒入り。
地下牢に入った者は、生きて出られない。
助けを求めることも不可能。
なにより、地下牢に入ったことを知っているのは、ごく一部の者だけだ。
それゆえに、死んだとしても、行方不明扱いになるのが通例だった。
「はぁ……」ため息が漏れる。
朝日が微かに差し込むことで、辛うじて、体内時計は保たれていた。
明日には、沙汰が下る。
脱獄するなら、今日しかなかった。
「ギャッ!」短い叫び声が聞こえる。
金属音が近づいてくる。
「いざとなったら、殺すしかないな……」
ガチャッ。ガキン。
扉が重厚な音を立てて開く。
「クロムか……」
レイは、自分で拘束を解いた。
拘束自体はいつでも解けた。
脱獄も可能だった。
けれど、その選択は、始めたら、もう後戻りはできなかった。
「クロム、そこまでしなければならないのか?」
レイは聞いた。
この国が好きだったわけではない。
それでも、アーノットやカリスティア、シリス、そしてフィルス大村の人々……
彼らを敵に回すことになる。
その選択を後悔するのではないか。
そう思った。
今更、反旗を翻すには、共に時間を過ごしすぎた。
「ゼノが捕まりました」
淡々と告げたクロムの肩が揺れているのがわかる。
決めなければならない時が来たようだ。
国を取るのか、自分を取るのか。
意外にも心は落ち着いていた。
ゼファールから自身の出自を聞かされた時から、心のどこかで、こうなる予感はしていた。
その時、自分はどちらを取るべきなのか?
それは、自分で決めなければならなかった。
後回しにして生きてきた。
それがいよいよ、後がなくなったに過ぎない。
国を取れば、自分はこのまま朽ちていくことになるかもしれない。
そして、仮にこの状況を打破できたとしても、五大公爵家を敵に回し、アーノットやシリス、カリスティアたちを難しい局面に追い込むことになる。
その一方で、己を取れば、フィルス大村を捨てることになる。
フィルス大村から、反旗を翻すことも考えた。
けれど、それには大義名分がない。
義のない戦に、フィルス大村の村人たちを巻き込むのは、軽蔑してきたバドスやドビス、ジュゼップ、そして五大公爵家の面々と大差ない。
黙り込むレイにクロムが冷静に言った。
「レイ様、私の考えを述べてもよろしいでしょうか?」
レイは黙って頷いた。
「まず、今回の一件ですが、レイ様のそばに内通者がいます」
「だろうな……」
考えたくはなかった。
けれど、今回の一件で、はっきりした。
固有スキルがあるかどうか。
それをリアンは知っていた。
リアン自身の鑑定スキルのランクは高いが、レイの隠蔽を見破れるほどではない。
実際、クロムと「エクリプシア」で会話した時も、クロムは爆殺しなかった。
なにより、そもそもバドスの一件の前に、既にリアンは、レイの固有スキルのことを知っていた。
勿論、自身の隠蔽ランクよりも、高い鑑定ランクを持っている人物がいる可能性もあった。
しかし、クロムがゼノと交友関係を持ったのは、レイがシレハ村で育てられ始めた頃。
そして、クロムが、リアンにレイに魔石を埋め込むように指示したのは、レイがゼノに会いに来たすぐ後。
その時は、シレハ村の村長を継いだばかり。
目を付けられるほどの功績も名声もなかった。
とすれば、考えられる可能性はただ一つ。
レイが固有スキルを持っていることを誰かが漏らした。
その可能性が最も高かった。
リアンがクロムに指示する前の時点で、レイが固有スキルを持っていることを知っているのは、ニーナ、ロブ、ガストン、ゼノ、シアの五人。
疑いたくはない。疑う余地もなかった。
自身の実力を凌駕する持ち主がいる。
そう思う方が、よほど心が軽くなる。
「クロム、まずはゼノを助け出す。脱獄するぞ」
「はっ」
地下牢を出ると、すでに牢番や看守たちは、クロムによって、気絶させられていた。
何人かは殺されている。
毒入りの食事を運んだ者たちだった。
不思議と心は痛まなかった。
この国を捨てることを決めたからかもしれない。
「ゼファールとキールは、既に国境で待たせてあります」
「わかった」
沙汰は明日下る。
それまでに、五大公爵家から何かを得るのは不可能だった。
あまりに時が短すぎる。
加えて、五大公爵家は、そもそも自分を脱獄させたいのだ。
でなければ、地下牢で魔法が使えるはずがなかった。
自分たちの手を汚さずに、レイ自身が脱獄すれば、それは反逆罪になる。
そのために、ゼノを攫い、脱獄させるための理由をつくった。
クロムから、ロブたちの話やキールが連れてきた少年の話を聞いた。
だからこそ、ラザリス学園での”仮死状態”の事件から、既に五大公爵家の策謀は始まっていた。
そう確信した。
魔族と手を結び、事件を起こすことで、アーノットの評判を下げ、王位を狙っていたヘンリクを焚きつけた。
ヘンリクの反乱を鎮めたアーノットは、これ以上の不評を買うことを避けるため、レイを見逃すことを躊躇する。
そんな中、ゼノを攫い、レイを脱獄に追い込む。
そして、当然、ゼノのもとへ向かったところを一網打尽。
そんなとこだろう。
王宮の地下道を進む。
脱獄したとしても、数分はバレることはない。
「ゼノには伝えたか?」
「伝えました」
ゼノは頭がいい。
商人としてだけでなく、参謀としても、傍に置きたいほどの傑物であり、友だった。
ひょうきんで、短絡的なところはあるが、それでも、友人としても、臣下としても、最も信頼していた。
「帰順しろ」クロムの言葉の意味を、ゼノは理解したはずだった。
レイが捕まり、ゼノが面会に来た後、クロムとも面会した。
クロムには、ゼノが王都に戻ってくる前に、伝えるように言った。
脱獄する理由をつくるために、自身の仲間が狙われる可能性があったからだ。
クロムが狙われると思っていたが、結果として、標的はゼノになった。
「国を出る準備をしろ」。「帰順しろ」。
ゼノならば、うまくやるはずだった。
地下道から裏路地に出る。
「場所は?」
「王都の北の教会の中です」
「ハップス家の所在は掴めたか?」
レイの問いに、クロムは首を横に振った。
「どこにあるかすらわかりません。まるで、名うての暗殺組織のようです」
ロブとガストンが潜入したのはハップス家でないことはわかっていた。
ロブが会ったハップス家の令嬢。
あれは、ベルー・ドンギヌスなのだから。
ベルーは強い。
それは戦って分かった。
学園試験の折に、ベルーも手を抜いていた。
そして、ゼノス。
あれは、魔石を埋め込まれ、そこに魔族の魔力を流し込まれた者の成れの果て。
理性を失い、ただ命令されるがままに動く。
ただ、リアンに指示していたのは、ベルーではない。
ベルーなど比にならないほどの魔族。
少なくとも、ベルーが本気を出したとしても、自分に勝つことは永遠にない。
それをわかったからこそ、学園試験では、手を抜き、魔族の象徴である、”強さ”を捨て、あえて、弱く見せたのだ。
シアに絡んだ理由はまだはっきりしないが、少なくとも、ベルーは演じるのがうまい。
学園試験の時は全く気付かなかった。
ただ、ゼノスの魔力に、ベルーの魔力の残滓が微かに残っていた。
そのおかげで、ベルーが魔族であり、ゼノスを凌ぐ実力を持っていると判断できた。
ベルーは、自身が魔族だと感づかれたと思い、学園に来なくなった。
そして、悪手を打った。
自身が弱いことを印象付けるため、ハップス家の令嬢を装い、ハップス家の建物までつくり、ロブたちに近づいた。
ハップス家が人前に、それも見知らぬ者の前に、姿を現すことはない。
もし、そんなことをすれば、とっくに誰もがハップス家の所在や顔ぶれを把握しているはずだ。
「ここです」クロムがそう言って、立ち止まる。
人通りの少ない路地に、”それ”はあった。
その先には、孤児が多く集まり、腐臭が微かに漂ってくる。
それに反して、北の教会は、”普通”の教会だった。
華やかなわけでも、厳かなわけでもない。
少し古びた教会。
「どうなさいますか?」
人通りは少なかった。
ただ、それ以上の視線を感じる。
どこかに、大人数で潜んでいることはわかっていた。
「乗り込むぞ。そもそも、これしきの数で止められると思っているのが間違いだ」
レイは少し息を整えた。
この国での、最後の仕事だ。
「俺の友を攫った罪は重い。全員、死刑だ」
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【今話の極小情報:】今回は、「孤児」について
・孤児が生きるには、誰かから、恵みをもらう。あるいは、依頼を受ける。
その二択である。
依頼と言っても、冒険者などが受ける正規の依頼ではなく、非公式の依頼。
すなわち表に出せないような依頼である。
過酷な依頼のため、依頼を達成できずに、命を落とすことも珍しくない。
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、「ゼノ」です!
ふっと二言:「修文は明日までには、終わりそうです!明日の朝、投稿する際に、活動報告も併せて、出しつつ、投稿したエピソードでもお知らせできればと思っております」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~
—―—―—―—―【他作品もよろしければ!】
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―――
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