#67:一つの結論
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:キールが連れてきた少年から話を聞いた一行。クロムは、レイに会う必要があると感じ、「明朝に集合」と決めたうえで、王宮に向かう。その道中、ゼノの消息に関する情報を得たクロム。そして……】
「余はもう休む。皆も、もう、下がれ」
そう言って、アーノットは、臣下たちを下がらせる。
レイを投獄してから、一睡もしていない。
連日のように、レイを糾弾する奏上が届く。
自分の派閥の者たちでさえ、レイを悪く言う。
何も知らないくせに。
自分たちも恩恵を受けているくせに。
五大公爵家。
それはあまりにも巨大だった。
こちらの情報は筒抜けなのに、むこうの情報は全くと言っていいほど、入ってこなかった。
思えば、不審な点は多くあった。
レイが、リアンの死んだ直後に牢に赴いていること。
自分の派閥にも、レイを良く思わない者は多くいた。
かつては、自分もレイを疎んじていた。
孤児から成り上がった下賤な輩。
そんな矮小な考えは、フィルス大村を視察に行って、即座に消え失せた。
フィルス大村は、この王都なんかより、豊かで、効率的で、整っていた。
そして、なにより、村人たちの幸せそうな顔。
王都の貴族たちの笑いとは違う、自然で素直な笑み。
いつか自分の派閥の者たちをフィルス大村に連れていきたい。
そう思っていた。
父が死に、母も失い、弟も死んだ。
ヘンリクの反乱。
今、思えば、あの時から、始まっていた。
そう思えて仕方なかった。
学園での”仮死状態”の事件。
あの一件で、自分の名声は、地に落ちた。
結果、臣下も含めて、ヘンリクを担ぎ上げた。
内乱が収まったとはいえ、民は多くの苦しみを抱えることになった。
その矢先に、懇意にしている者の罪を隠蔽したとなれば、その苦しみは溢れ出し、民の蜂起となって、自分に向かってくる。
「捕らえろ!」自分はそう言った。
あの選択は、あの時は、正しかった。
けれど、今は……
レイを失えば、自分は確実に、五大公爵家の操り人形と化す。
だからこそ、ゼノの報告を待っていた。
ゼノは来なかった。
思ったよりも、難航しているのかもしれない。
相手は、五大公爵家なのだ。
慎重に慎重を期して、損はない。
ギィ。ピュゥゥ~。
寝所の扉を開けると、夜風が入ってくる。
夜が更けていく。
かつては、この時間がひどく嫌いだった。
寝所で一人になる。
昼の事を思い出し、孤独と重責に苛まれる。
孤独というものが、どういう時に感じる感情なのかはわからなかった。
けれど、王は、誰も信用してはいけない。
その意味が、段々とわかってきた。
レイのことを悪く言う臣下もいれば、沈黙を貫く臣下もいる。
そして、信念に基づいて述べる臣下もいれば、利権に媚びて唱える臣下もいる。
腹の内では、何を考えているかはわからない。
それでも、判断しなければならない。
どの意見を呑み、どの意見を退けるのか。
あるいは、どの意見とどの意見を組み合わせるのか。
少なくとも、新たに自分が意見を創出することだけはしてはならなかった。
死ぬのが怖いわけではない。
いや、少しこわい。
けれど、最も恐れているのは、後悔することだった。
父が亡くなり、母も失い、あまつさえ、弟も殺めた。
「もっと話しておけば……」「もっと手伝っておけば……」
「もっと、自分がしっかりしていれば……」
後悔だけが残り、大切な人たちはいなくなっていった。
死んだ後に、「あの時、あれをやっていれば……」。
そう思いたくはなかった。
後悔しない王になる。
ヘンリクを殺めた時にそう思った。
果たして、今の自分が出来得る選択の中で、レイにとって、最善なのはどの選択なのだろうか?
追放。
その二文字が浮かぶ。
リアンの件を公表することはできなかった。
王都の十大執政官が、人体に魔石を埋め込んでいた。
「そんな発表をすれば、王家の権威は失墜する!」
臣下たちは、口々に騒ぎ立てるが、王家の権威など、端から無い。
五大公爵家の傀儡に成り下がる王家のどこに、”権威”があるというのだろう?
生まれが王族だったというだけで、王位継承権を持つ者のどこに、”権威”があるのだ?
不正。横領。賄賂。
既に、失墜している者たちが、ちゃんと失墜する国。
それこそが、自分の目指すべき国なのではないか。
アーノットは、寝所のベッドに腰かけた。
最近はいつもこうだ。
最後には、いつも自分が惨めに思えて笑えてくる。
何が王族だ。何が陛下だ。何が、一体何が……
王族でも陛下でもない自分は、好きに生きられたのだろうか?
そんな夢のような御伽話を思い浮かべてしまう。
“好きに生きる”というのが、なにを指しているのかはわからなかった。
けれど、少なくとも、あのフィルス大村の村人たちのように、笑ってみたかった。
「アーノット陛下……」
その声は、冷たい響きを持っていた。
一度だけ聞いたことのある声。
先のリアンの事件の時、自分たちと部屋を入れ替わった男。
確か名は……
「クロム……か?」
影が頷いたように思えた。
「ゼノはどうした?」緊張を隠すように淡々と尋ねる。
「捕まりました」
予想していた答えだった。
五大公爵家が何も手をうたないはずがない。
「そうか……」低く唸るような声を漏らす。
いつ入ってきたかはわからないが、寝所の窓が開いていたのを見るに、そこから入ってきたのだろう。
扉の外では、きっと護衛や侍女たちが聞き耳を立てている。
「手短に」クロムはそう言うと、用件を伝え始めた。
「用件は一つ。レイ様に会わせていただきたい。それも秘密裏に」
会わせること自体は、難しいことではなかった。
ただ、五大公爵家の目をすり抜けられるか。
そこが難点だった。
「鍵をください。地下牢の鍵が開けられれば、それで構いません」
クロムがじっとアーノットを見つめる。
王は誰の言葉も信じてはいけない。
そう教わってきた。
フィルス大村で、レイは父に言った。
「“天下”を獲る」と。
飢えに苦しむこともなく、病に苦しむこともなく、差別されず、嘲笑されず、豊かで、誰もが手を取り合って、幸せに生きていける”天下”を。
父から聞いた時、レイならできるのではないか。
そう思った。
信じるというより、期待したと言う方が正しいだろう。
不可能だと諦めたはずの、自分の理想が再び甦った気がした。
「クロム、期待している」
鍵を受け取ると、クロムは、そのまま、窓から闇夜に消えていった。
その頃、レイは一つの結論に辿り着いていた。
「脱獄するしかない」
きっと、これがエルメリア王国での最後の仕事になる。
そんな予感がした。
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【今話の極小情報:】今回は、「アーノットの臣下たち」について
・アーノットの臣下たちは、アーノットの派閥ではあるが、それと同時に五大公爵家の派閥にも属している者が多い。
・ヘンリクの派閥が消えてから、アーノット一強となった王宮において、その水面下では、更なる謀反が画策されている……
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、ついに「脱獄」です!
ふっと二言:「修文が終わらない……と言いつつ、新しいエピソードも投稿しようと思い、並行して進めております。修文が終わったら、他の作品や別の作品も投稿しよう!という構想です。修文が終わりましたら、再度お知らせできればと思います。活動報告でも、お知らせできればと思っています!」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~
—―—―—―—―【他作品もよろしければ!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
—――・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』
「そろそろ、終わらせようか?神々の遊戯。会いたい人がいるんでね」
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―――
・「一生を病室で終えた俺、呪いが解けて、天下獲る~貧村に捨てられたけど、"最強"に魔改造します~ 」
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【戦×無双×成り上がり×領地経営】 —―自由を得た俺の天下取りの果てには!?
⇧※本作です。これからも、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




