#65:原初の聖者
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【前話のあらすじ:エルメリア王国の王都、セント・エルメリア北ギルドに向かったゼノ。その近くで、孤児らしき少年と出会う。少年の「理想」に胸を打たれたゼノは、少年と共に、北ギルドへ向かう。受付嬢から、手がかりを渡されるも、その直後、受付嬢と共に、捕まってしまうのであった……】
エルメリア王国の王都、セント・エルメリアの中心には噴水の湧く広場がある。
遠くに峻険な山肌が姿を現し、王都の喧騒がほどよく聞こえる場所。
「ゼノさん、遅いですね……」ロブが心配そうに声を上げる。
既に約束の時間から、2時間が経過していた。
クロムは後悔していた。
ゼノを一人で行かせたのが間違いだった。
急いでいたとはいえ、数多の死線をくぐり抜けてきた自分たちとは違うのだ。
ロブたちが来る1時間程前、キールがやってきた。
キールは、エルメリア王国に逃れてから、自衛のために武術を会得した。
誰から教わるでもなく、気づけば、ゼファールと肩を並べるくらいにはなっていた。
もともと、才能があったのだろう。
「東はアンケノス・ライハン。「光りの聖者」だそうよ……」
「南は「聖者」と呼ばれるのは、ムルー・ギンクスだけだ。「影の聖者」というらしい……」
「西には冒険者としては、いなかった……パーティーは「夜明けの聖者」というパーティだけだ……」
「私は「エクリプシア」に戻るわ……」キールがそう言って、引き返していく。
「いいのか?」ゼファールの問いにクロムは頷いた。
キールは、所在を明らかにしておく必要があった。
勿論、自分たちとは関わりのない世界で。
「エクリプシア」。
有名な娼館兼奴隷商館でもあるあの店の主人。
その座に上り詰めるには、並々ならぬ努力と才能が必要なはずだった。
エルメリア王国に来てから3年。
キールは、エクリプシアの主人の座に上り詰めた。
今や、誰もが敬い、誰もが慕う、”キール”になったのだ。
それゆえに、知られるわけにはいかなかった。
自分たちとの関係も。
そして、この国の者ではないということも。
特に今は、レイ様の火種を大きくする要因は、なんとしても隠す必要があった。
ゼノを待つ二人の元に、ロブとガストンが駆け寄ってきた。
元々、「何か伝えたいことがあれば、噴水の近くに」と決めていたため、ロブたちがここに来ることには、なんら不思議はなかった。
ただ、だいぶ早く戻ってきたように思えた。
「どうした?」
「魔族とかかわりのあるのはグラスナー家です」確信を帯びた声だった。
「なぜ、そう思う?」
「実は……」
そう言って、ロブは事の顛末を話し出す。
ガストンを囮にハップス家に侵入したこと。
そこでハップス家の令嬢と会ったこと。
令嬢がグラスナー家が魔族と関わりがある可能性が高いこと。
魔族やベルー・ドンギヌスなる者のこと。
「王都には「聖者」と名のつくパーティーは5つあります」
「5つだと?それは本当か?しかも、パーティーだと?」ゼファールが、たちまち、怪訝そうな表情を浮かべる。
ロブは困惑しながらも頷く。
「おい、どういうことだ?」ゼファールの問いにクロムは黙り込む。
嘘を伝える理由がわからなかった。
王都にあまり来たことのないロブがわからないのも無理はなかった。
「聖者」という通り名は特別なのだ。
いわば、勇者や魔王などと同じ類で、教会が有望な青年やパーティーに与えるもの。
教会は、それぞれ管轄があり、この王都では、教会の管轄が4つに分かれているのだ。
教会が「聖者」の名を与えることができるのは、1回のみ。
これは、王都では、常識だ。
つまり、最大でも、この王都では「聖者」の通り名は4つしかないなのだ
ハップス家の令嬢が知らないはずがない。
「本当にハップス家だったのか?」ロブが首を二度程、縦に振る。
考えられる可能性はたった一つだった。
その令嬢は嘘をついていない。
ここは、エルメリア王国の王都。
人口が多く、物流の中心地でもあるこの場所は、教会にとっては、最も影響力を行使したい場所のはずだ。
とすれば、北にも一つあるだろう。
教会は、「聖者」と名を与えた者たちに、”汚れ仕事”はさせない。
民衆を慈しみ、分け隔てなく接する強者。
それが教会の求めている「聖者」だからだ。
勿論、互いの候補を潰そうと、その水面下では、激しい攻防が繰り広げられている。
「ゼファール、ここでロブ達と待っていてくれ。すぐに戻る……」
ゼファールの返事を待たずに、クロムは人混みの中へと押し入っていく。
エクリプシア。
「あの、キール様……」見れば、若い女が少年の手を引いていた。
薄汚れた肌。泥のついた髪。あちこちが擦り切れた服。痩せこけた体。
「奴隷なら、私に直接持ってくるのではなく、順序を踏んで」
「そ、その……「クロム」と叫んでおりまして……ここを離れようとせず、キール様がお戻りになられるまで、どうすればよいかわからず……」
ガタン。椅子が後方の壁にぶつかる。
「いっていいわ」思いの外、低い声が出た。
若い女は、頭を下げると、足早に去っていく。
バタン。扉が閉まる音。
すがるような目でじっと見つめてくる。
「ついてきて……」
クロムという名前を知っているのは、この「エクリプシア」においては、自分だけのはずだった。
「クロム」の名をここで叫ぶというのは、いわば、”自殺行為”のようなもの。
レイ様を護らなければならない。たとえ、この少年をここで殺してでも……
奥の部屋は、厳重に”隠蔽”が施された部屋で、音が漏れることは一切なかった。
レイ様が、先のクロムの魔石の一件の折に、つくってくださった部屋。
自分にとっては、一番大事な部屋だった。
「貴方は誰?」少年は、一定以上には近づいてこなかった。
「名前はありません」聞かれた以上のことは答えないようだ。
利発なのだとわかった。
「起きたことを全て話して」キールは微笑みかけた。
少なくとも、敵でないことは確かだった。
少年は、詰まることなく、話し始めた。
ゼノの事、北ギルドの事、そして自分が裏切っていたこと。
「あいつ……」キールは内心で舌打ちをした。
ゼノは弱い。一目見れば、すぐにわかる。
ゼノさえ捕まらなければ、どうとでもなった。
だいたい、クロムもクロムだ。
バレる危険があるから、来なくていいと言っているのに、適当な理由をつけて、足を運んでは、様子を見に来る。
地位が下のころは誰も気にも留めなかったが、上にいけばいくほど、周囲の目をかいくぐるのに苦労した。
大方、ゼノがクロムを尾行したことがあったのだろう。
興味本位だったとは思うが、それでも、「クロム」の名を、「エクリプシア」の門前で連呼するのは、”自殺行為”だった。
レイ様を護るためとはいえ、レイ様の秘密が明らかになるのは、きっとレイ様とて不本意なはずだった。
「「聖者の泉」ね……記憶の片隅にはあるわ」
“セント・エルメリア北教会が非公式に与えた”、いわば、原初の聖者。
“非公式”というのは、「聖者の泉」は名を与えられたわずか1時間後にその名をはく奪されているからだ。
なにがあったかはわからない。この話も噂程度のものだ。
とにかく、北教会が与えた、聖者を冠するパーティーの名前は、「聖者の泉」ではなかったように記憶している。
いや、そもそも、なかったかもしれない。記憶が少しあやふやになっている。
王都の4つの教会は、それぞれ五大公爵家が、その背についている。
そして、北教会は、グラスナー家。
北教会の思惑か、グラスナー家の思惑か、あるいはその両方か。
どちらにせよ、レイ様が陥れられたのは、間違いなく、その”思惑”のせいだろう。
「少年、ついてきなさい……」
キールは、クロムたちのもとへと向かった。
キールの覚悟は、既に決まっていた。
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【今話の極小情報:】今回は、五大公爵家の一つ、「セルド家(経済)」について
・セルド家の当主:ウィルグ・セルド
・セルド家の財源:商業ギルドなどのギルド長をはじめとする、この国の経済の全てを握っている。五大公爵家の中で、最も資金力に富む。
今まで、多くの不正を行ってきたが、すべて金とハップス家の力でもみ消してきた。
・レイを排除することを提案した張本人。ゼノ率いるアストラル商会は、多くの専売品を生みだし、その利権を民に還元した。さらに、民衆がアストラル商会の専売品に流れ、セルド家が後援する店の売り上げが軒並み低下。
これにより、アストラル商会やゼノ、レイを恨んでいる。
・ゼノが落ちぶれたのも、実は、セルド家の策。
【お読みいただきありがとうございました】
次話は、急展開の予感!?
ふっと二言:「キール、結構怒っていましたね。確かに、レイにとっては、危険な状況ですからね。という筆者に対する筆者の感想です。そろそろ、「天下取り」が始まります!ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
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