#64:伊達ではない!!
「引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!」
【前話のあらすじ:ハップス家に潜入したロブとガストン。ガストンを囮にロブが裏口から侵入するが、そこには、ハップス家の令嬢がいた。彼女は、「グラスナー家」が関わっている可能性があると告げ、さらに、レイを知っているようで……】
王都セント・エルメリアの北。
そこは、いわば、貧民街である。
あばら家が立ち並び、腐臭がそこかしこから這い出てくる。
「食べ物をくださいませんか?……」見れば、まだ小さな子供である。
乾いた唇。薄汚れた髪。瘦せこけた体。
警戒されないように、無防備だと身振り手振りで示してくる。
けれど、一定以上に近づいては来ない。
利発な子供。それが第一印象だった。
貧困にあえぐ子供は大勢いる。
特に、このエルメリア王国は貧富の差が激しい。
上の者は、賄賂を得て、日に日に富を増やしていく。
その賄賂の多くは、不正に徴収した金でもあり、貧しい者たちが汗をかき、屈辱に耐え、生きるために、懸命に稼ぎ出したお金でもあった。
「はぁ……」ため息が漏れる。
助けてはならない。
それは、この子供と同じく。病に苦しみ、飢えにあえぐ者たちの羨望と恨みを買う。
キリがない。自分が動いたからと言って、余計な火種を持ち込むのは避けたかった。
特に、レイ様がいないこの状況では。
何より、この子供の素性も性格も何一つわからなかった。
「名前は?」名前を知ったから、どうすると決めているわけでもなかった。
「ないです……」
少し懐を探る。銀貨でも与えよう。そう思っていた、その時だった。
「あの……」掠れた声がカラカラと響く。
「なんだ?」
「そ、その働き口をいただけませんか?」
懐を探る手を止める。
それを許すことはできなかった。
けれど、その無垢な少年に興味を持つには、十分な理由だった。
「お恵み」を求めながら、それは金ではなく、職である。
そうしなければ、生きていけないということを幼心に、この子は理解している。
「なぜ、私がそこまでしなければならない?」少し高圧的に聞く。
少年が怯えることはなかった。
恐怖というより、緊張しているようだった。
ここで売り込みをかけようものなら、立ち去るつもりだった。
今は、時間がない。じっくりと査定している暇はないのだ。
「僕は、「天下」を取りたいのです!」
それが少年の第一声だった。
「僕は、誰もが幸せに暮らせる世を創りたいのです!幸せに暮らすには、まず自分が幸せを知らなければなりません」
「要は、まずは、自分が”幸せ”になりたいということか?」
少年は首を横に振った。
「享受したいのではありません。見たいのです。そうすれば、少なくとも幸せがどんなものか想像がつきます」
享受。幼子ながら難しい言葉を知っている……
「その後は?」
「想像できれば、創造に繋げることができます。ここでは、想像することはできません」
ゼノは黙っていた。
少年もそれ以上、何も言わなかった。
売り込みではない。理想をぶつけた上で判断を仰いでいる。
ゼノは少年をじっと見つめた。
「私には主がいる。誇るべき主だ。私がお会いしたのは、そう、5歳か6歳の時。まだ君と同じで年端も行かない子供だった」
「主は言った。「飢えに苦しむことなく、争いあうことのない場所。そこが天下である」と。私は半信半疑だった。勿論、そんな楽園があればいいと思った。けれど、果たしてそれを創造できる人がいるだろうか?」
少年は少し、キョトンとした表情を浮かべていた。
ゼノは笑った。
「主に会う前なら、私は君を嘲笑しただろうし、君の理想を一蹴しただろう。少年、天下は広いぞ。主についてこれるか?」
少年は笑った。
それは認められたことへの安堵というより、緊張が解れたような笑みだった。
「主の名はレイ様だ。アストラル商会会頭及び、自称レイ様の懐刀のゼノの名において、君を迎え入れよう。歓迎するよ、少年」
ゼノは少年の手を引いた。
少年は、驚いたような表情でゼノを見つめた。
「名前はレイ様から頂いてくれ。ついてこい」
「天下」を夢見る少年。
それほどまでに、この世界が荒んでいるのか。
それとも、神が、そういう少年を必要としたのか。
年甲斐もなく、馬鹿げた想像をした。
セント・エルメリア北ギルド。
貧民街の近くだからだろうか、ガラの悪い連中がたくさんいた。
こんなことなら、クロムについてきてもらえば、よかった……
「申し訳ない。尋ねたいことがあるんだが?」受付嬢がゼノをじろっと睨む。
迷惑だとでも言わんばかりの表情だ。
せっかくの美人が台無しである。
「「聖者」がつく冒険者やパーティーはこの北ギルドにいたりしないか?異名や別名、通り名でも構わない」
ゼノは身分証を見せる。
受付嬢はすぐに、奥に姿を消した。
ほどなくして、何も持たずに引き返してくる。
「お帰りください。冒険者様の情報は、個人情報ですので」
怖い。とっても怖い。きっと、少年が傍にいなければ、とっくに逃げ出している。
「わ、わかった……」さっきからガラの悪い奴らの視線が殺気を帯びているように見える。
自分は武闘派ではない。勿論、頭は常人より遥かにいいと自負しているが、それでも、怖いものは怖い。
「あ、身分証、お返しします」そう言って、渡された身分証には一枚の紙切れが入っていた。
ゼノは北ギルドを後にする。
少年は怯えていない。この環境に慣れているからなのか、にこやかに笑っている。
「聖者の泉」。
それが、紙切れに書かれた文字だった。
「悪い奴ら」少年が呟いた。
「どういうことだ?何を知っている?」
「こいつらはね、僕の妹を攫ったんだ。魔力が多かったから。善人なんかじゃない。権力と暴力に溺れた悪魔だよ!」
少年は怯えていた。涙をこぼし、肩を小刻みにふるわせていた。
魔力量が多い者を攫う。魔族と関係があるのではないか。
「大丈夫だ。とりあえず、仲間の元に戻ろう」ゼノが足を早めた時だった。
「よぉ、兄ちゃん!どこ行くんだい?」男たちに囲まれる。
後ろには、先の受付嬢が縛られていた。
「そういうことか……」
北ギルドの冒険者全員が共犯。
「少年、走れるか?」少年が目で頷く。
「よし、偉いぞ。私は捕まるだろう。だが、君はここの地形に詳しい。君なら逃げ切れる。今まで起きたことを全て、私の仲間に伝えるんだ。「エクリプシア」を知っているか?」
少年が微かに頷く。
「そこに行け。クロムの名を出せ」
クロムが時折、あの娼館に足を運んでいることは知っていた。
クロムの秘密が隠されているのだろうが、興味はなかった。
安全で、有名で、仲間が知っている場所。
「エクリプシア」が最初に出てきた。
「大丈夫。冒険者の人たちもたまに行くから」
「そうか……」
「少年。君が裏切っていることは知っている」
少年の目が大きく見開かれる。
「本当のことを言わなければ、私の心は響かないからな」ゼノは微笑みかける。
「妹のことも、「聖者の泉」のことも、君の「理想」も本当だ。私が保証する。そして、妹の無事も私が保証する。君ならわかっているはずだ。この後、どうなるかなど……」
あのレイ様が陥れられた。陛下も、シリス殿下も、レイ様を護れなかった。
それほどの相手なのだ。
まして、レイ様に会いに行った自分に尾行がついていないわけがなかった。
「信じる」少年は小さく呟いた。
自分が捕まれば、当然、少年を生かしておく道理もない。
そして、妹を返す道理も。
「よし、では頼んだぞ。武運を祈る」ゼノは星屑の雫を3本飲む。
「ふぅ。俺は5本まで飲めるぞ!!」
「はへ!?」ゼノは無茶苦茶に腕を振り回す。
視界の端で少年が駆けていくのが見える。
「アストラル商会会頭 ゼノの名は伊達ではない!!」
ドゴッ。
ゼノが言い終わると同時に、背後から鈍器が振り下ろされる。
「ったく、弱すぎるぞ、こいつ。さっさと運べ。後で拷問にかけろ……」
男の冷たい声と共にゼノの意識は途絶えた。
そして、この事件が、レイの運命を大きく変えることになるのであった。
―――――――――――――――――
【今話の極小情報:】今回は、五大公爵家の一つ、「ベイ家(水運)」について
・ベイ家当主:リチャード・ベイ
・ベイ家の財源:エルメリア王国は、国の東側が海に接している。そのため、国の東側での海産物や農業、運送業などは、ベイ家の直接的な財源である。
・ベイ家は五大公爵家の中では、最も立場が弱いものの、水運関連を独占しているため、他の五大公爵家が、その利権に手を出すのが、最も難しい家門でもある。
【お読みいただきありがとうございました】
次話は"激オコ"です!!
ふっと二言:「ゼノが手を引いた少年。この後、レイの仲間になる予感がしますよね……が、少年の妹もお忘れなく!ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』
「演じるのは少し疲れるけど、楽だった。でも、そっちがその気なら、「本気」で屠りに行くよ、だいぶ疲れるけどね」
理不尽な運命を、圧倒的な力で覆す!
【無双×成り上がり×転生×最強×ゲーム】—―「普通」を辞めた俺の叛逆の狼煙が高々と上がる
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした~11歳で村長になった追放貴族、現代知識と圧倒的な力で、最弱国家の最弱領地の底辺村から最強国家に魔改造する~』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。
⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




