#58:笑止千万!
【前話のあらすじ:ジュゼップらを退け、バンデリオン王国軍が侵攻するフィルス大村へと引き返したレイ。けれど、それは、"火種"が生まれた瞬間でもあった……】
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王都セント・エルメリア。
普段は賑やかなこの場所が、今や、喧騒に包まれ、殺伐とした空気を漂わせていた。
「どうなっているのだ!」アーノットは玉座に腰かけ、自身の派閥の貴族たちに向かって声を荒げていた。
「陛下、どうか落ち着いてください」貴族の一人が口を開く。
「落ち着いてなどいられるか!一体、余が何をしたというのだ!何の罪があって、貴族の過半数が奴に寝返るのだ!」
「伝令!」兵士の一人が駆けてくる。
「何事だ!」アーノットの怒声に、兵士は少し身をすくめた。
「も、申し上げます!フィルス大村に攻め込んだバンデリオン王国軍は、レイ男爵が撃退いたしました。お祝い申し上げます!」
アーノットが鼻を鳴らす。
「祝うだと!?この馬鹿者が!あやつは、恩を仇で返したのだ!国王よりただの小さな村を優先するなど……」
「兄上!言葉を慎んでください!レイ殿は……」
「そなたが慎め、カリスティア!余は国王だぞ!立場を弁えよ!」
その頃、ヘンリクは勝利の笑みを浮かべていた。
「兄上は短気すぎるのだ」
「その通りですな。あやつなど長男という立場に胡坐をかいただけの愚か者ですからな」
ヘンリクの本陣が嘲笑に包まれる。
「伝令!ベルナ大村軍が、ジュゼップらを退けて、こちらへ向かっているとのこと!今日の夕暮れには到着するかと!」
「そうか。下がれ」
ヘンリクは、アーノットと違い、冷静だった。そして、その感情の差が、戦場にも顕れていた。
「バルムが来る前に、左翼を退かせて、右翼から攻勢をかけろ。ここを抜ければ、王都の門だ。さっさと落とすぞ」
「伝令!バンデリオン王国軍は撤退いたしました!レイ率いるフィルス大村軍の到着は明日の夕暮れだと思われます!」
「さすがレイだな……」
ヘンリクの読みでは、レイが引き返してくるのは、あと二日ほど遅いはずだった。
「にしても、ムルゼフは使えないなぁ……数の差でもう少し足止めできただろうに……」
「バルムの軍の足止めをするぞ。二万を後ろの要塞に配せ!」
「はっ!」
ヘンリクが焦ることは決してなかった。
すでに、王都の門の前の要塞、ダグライス要塞も落ちかかっていた。
レイは明日の夕暮れまでは来ない。バルムも早くても今日の夕暮れ。
すでに、この戦の最中にも、続々とアーノット派閥の貴族が寝返ってきている。
焦る要素など微塵もなかった。完璧なはずだった。
しかし、奇しくも、ヘンリクの分析は、自身の首を絞めることになったのである。
分析をすればするほど、慎重になればなるほど、冷静であればあるほど、それは微かな”慢心”となって、ヘンリクの知らぬ間に、積み上がっていった。
ヘンリクだけではなく、それは、ヘンリク軍にとっても同じことだった。
少しずつ攻撃は緩慢になり、防御は疎かになっていった。
大局としての優勢は変わらない。そんな思いが膨らんでいき、隊列が少しずつ乱れていった。
「少し隊列を整えろ!特に、あの最前線の二万ほどの部隊を下がらせろ!それと右翼の突き出している三万も下げろ。一気に総攻撃を仕掛ける!」
しかし、中央と右翼において、最前線で突き出ている部隊は、ヘンリクの命を無視するかのように、一気に要塞の城壁を登っていく。
「まさか!?いや、そんなはずは……」ヘンリクの瞳は城壁を登る一人の兵士の顔を捉えていた。
「レイ……」
レイが、自身の想定より早く戻ってくる可能性を考えていないわけではなかった。
王都には詳しいものの、王都を出れば、自分の知らない道がある。
それを想定したうえで、バルム軍を止めるために、後方に部隊を配した。
「そうか……そのためだったのか……」
バルム軍を止める。そのために、後方に配した部隊。
それにより、背後の敵軍が迫れば、すぐに報せが来ると錯覚した。
いや、錯覚させられた。
後方の要塞は、左翼にある。
左翼方面からバルムが来たのは、自軍の左翼が薄いと判断したから。
そう思わせられ、左翼方面の後方の要塞に、部隊を配した。
その間に右翼・中央方面から、無傷で上がってきたレイたちは、ジュゼップたちの鎧を使って、偽装したうえで、まんまと要塞の増援に成功した。
「数の差は変わらん!一気に潰せ!指揮系統が乱れているところを突くのだ!」
ヘンリクの号令で、二十万の軍は波のように動き出した。
「ちっ……左翼が遅いか……」
「ヘンリク様、どうされますか?」
「左翼は捨てるぞ!中央と右翼で押し込む!」
ドガァァアアン。
「なんだ!?何があった?」
五万いたはずの左翼が瞬く間に崩れていく。
「馬鹿な!?あれが、あれが、バルムだというのか……」
ヘンリクは、バルムの強さを見誤っていた。
ベルナ大村は、あまたの獣人がいたが、全員がバルムに忠誠を誓っている。
それは、バルムの人柄の良さもあったが、そもそも、数多いる獣人たちを、”武”をもって、制した最初の人こそ、バルムであった。
「ガハハハッ!生ぬるいぞ!これしきで、俺を止められると思ったとは!笑止千万!レイの言う通り、俺は見くびられていたようだな!」
ベルナ大村軍は強かった。
獣人の身体能力は高い。ゆえに、獣人のみの部隊は、脅威だった。
しかし、その一方で、獣人のみの部隊を編成した者は、この国ではバルム以外にいなかった。
個の強い獣人たちをまとめあげるには、獣人たちの頂点に立つ圧倒的な”武”が必要だった。
それをバルムは持っていた。
ヘンリクが驚くのも無理はなかった。
獣人だけで構成された部隊の破壊力は、ヘンリクの策を根本から崩していった。
バルムが到着するまでに、要塞を落としていれば、戦況は変わった。
しかし、レイたちが要塞に上がったことで、どこも易々(やすやす)とは、城壁を登りきることができなくなっていた。
ヘンリクの描いた夢が、音を立てて崩れていく。
「ヘ、ヘンリク様!バルムが来ます!どうすれば!」
兵力は十五万。バルムやレイが加わったとしても、敵は十二万。
数の上では挽回することは可能であったが、それが叶わないことは、ヘンリクが最もよくわかっていた。
バルムの五万の猛攻。レイたちによる、堅牢な守備。
なにより、先ほどまで、”勝利”という甘い二文字に酔いしれていたヘンリク軍にとって、つい先ほどまで落とせるはずだったものが、落とせなくなる。
その恐怖と混乱が、いまや、疫病の様に伝播していた。
「ふっ。反乱を起こせば、反逆者になる。反逆者がロクな運命を辿らないというのは、本当のようだな……」
「兄上。貴方は優秀な配下をお持ちのようだ。ですが、兄上の性格では、きっと、袂を分かつことになるでしょう。王は孤独に耐える必要があります。そして信じないことが肝要です。兄上は、どちらもできないでしょう。信じるものが同じとは限らないのですから」
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【今話の極小情報:】今回は「バルム」について
・ベルナ大村には、多くの獣人がいる。獅子族、虎族や鰐族、狼族など、”武”を尊ぶ種族が多い中、バルムは、彼らを武で一人一人、打ち負かし、そのうえで”道理”を伝え、従わせたのである。
・バルムの口癖:「王は孤独。王は誰も信用しない。けれど、王は誰よりもデカい夢を見る。仲間と笑い合えるデカい夢を」
【お読みいただきありがとうございました】
次話は、決断です!
ふっと二言:「「王というのは、孤独なのだ」。そんな風に執筆しながら、考えていましたが、筆者には、読者の皆様がおりました!ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』
「演じるのは少し疲れるけど、楽だった。でも、そっちがその気なら、「本気」で屠りに行くよ、だいぶ疲れるけどね」
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