表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/76

#56:覇王か……

「ブックマーク・リアクション増加、ありがとうございます!執筆の励みになります!—―引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです。」


【前話のあらすじ:学園で起きた事件がアーノットとは無関係であることを証明したレイ。その一ヶ月後、ヘンリクは謀反を起こした。王国を二分する戦が始まったのである……】


バルコス平原に立ち込める朝靄は、鉄の匂いと魔力の残滓を含んで重く停滞していた。  

「……ベルナ大村軍に合図を送れ」

愛馬の背に揺られながら、レイはブルックに伝えた。

「レイ様、同じ合図で返ってきました」ブルックの言葉にレイは頷いた。

その瞳は、いつになく冷たく、透き通っていた。

レイは視線を前方に戻した。

ジュゼップ軍もドーバ軍もマダス軍も、それぞれ、軍全体を覆う巨大なドーム状の結界を展開している。

魔力を薄く、広く引き延ばしたそれは、一見すると脆弱だが、十万、七万、六万という膨大な魔力源に支えられ、堅牢で途切れることのない結界に様変わりしていた。


「全軍、突撃! 魔法兵は、全力で魔法を放てッ!」

レイの号令が戦場に響き渡る。  

ベルナ大村軍とフィルス大村軍が、地響きを立てて突撃を開始した。

「—―天より降り注ぐ光の礫よ、我が敵を貫け—―光投弾(シャイニング・バレット)!」

「—―唸れ大地、突き上げろ岩槍—―土岩槍(グランド・ランス)!」

兵士たちの詠唱が重なり合い、色とりどりの魔法が三軍の結界に叩きつけられる。

見た目は派手だった。けれど、レイの命令で威力は最小限に抑えられていた。

光は弾け、爆音が轟き、結界の表面には幾重もの波紋が広がった。  


「はっはっは! 見ろ、子供だましの攻撃を!顔を真っ赤に染めて、怒号を飛ばして、必死になって、ギャハハハ!馬鹿みたいだな!」

結界の内側で、ジュゼップたちが嘲笑の声を上げた。  

彼の目には、必死に魔法を撃ち込み、必死に剣を振るうレイたちの姿が、無力な羽虫の足掻きにしか見えていなかった。

「あんな貧弱な魔法、我が軍の結界を傷つけることすらできんわ! やはり賢者などと持て囃されていても、所詮は子供。数と魔力の絶対的な差を理解しておらんようだな!」


傍らに控える副官たちも、口々に同調する。

「閣下、もはや反撃の必要すらありませんな。このまま進軍し、物理的な圧力だけで踏み潰せます」

「ふん、少しは骨があるかと思ったが、期待外れだ。……よし、殲滅にかかるぞ! 結界を維持したまま押し切れ! 一人も生かして帰すな!」

ジュゼップ軍の歩調が速まる。彼らは確信していた。

自分たちの防御は完璧であり、レイたちの猛攻を完全に凌駕していると。


三軍の動きの変化を、レイは見逃さなかった。  

結界への過信。その過信を、敵の視野を狭め、判断を狂わせる毒としたのであった。

「全軍、反転!撤退するぞ! 山の入り口から逃げ込め!」

レイの叫びとともに、それまで猛攻を仕掛けていたフィルス大村軍・ベルナ大村軍が、蜘蛛の子を散らすように退却を始めた。  

背後にあるのは、険しい岩肌が剥き出しになった連峰、バルコス山脈。

その入り口へと、レイたちは「必死の形相」で馬を走らせていく。

「逃がすか! 追い詰めろ! 山の中で袋叩きにしてくれるわ!」

ジュゼップは狂喜した。

敵が山という袋小路へ自ら飛び込んだのだ。  


山の中へ消える直前、レイは密かに自軍とベルナ大村軍に対して、魔法を発動させていた。

「—―不可視の風よ、万象を覆い隠す帳となれ—―風陰界(ウィンド・ベール・ハイド)

レイの放った風魔法の結界が、ベルナ大村軍と自身のフィルス大村軍を包み込んでいく。

光を屈折させ、存在そのものを風景に溶け込ませる高度な隠蔽魔法。そこに、風魔法を加えることで、フィルス大村軍・ベルナ大村軍の行軍速度を上げ、いかなる衝撃も吹き飛ばしていく、柔軟な結界。  


レイたちは、あらかじめ調査しておいた山道の脇、うっそうと茂る獣道へと滑り込み、自軍の姿を隠蔽する。

(ジュゼップは焦るだろうな……想定外ではあったが、逆に好都合だ……)


ほどなくして、ジュゼップ率いる二十三万の大軍が、怒号を上げて山の入り口を通過していった。

「レイたちはどこだ! 蹄の跡を追え! まだ先に進んでいるはずだ!」

地面には、レイたちが、道中で、行軍中に細工しておいた「大量の馬の蹄跡」と「人の足跡」が、山頂へと続いていた。  


ジュゼップの焦燥は頂点に達していた。

(まずい……このままレイたちが山を抜け、バンデリオン王国軍と合流してしまえば……!)

ジュゼップの脳裏を掠めていたのは、第二王子ヘンリクと、バンデリオン王国 現国王ムルゼフとの間の密約だった。  

『ヘンリクが王位に就いた際、セルドス町を譲渡する代わりに、十年間エルメリアへ侵攻しない』という密約。  

もしレイがムルゼフたちのもとへ向かい、一戦を交えれば、さらに、自分たちの追撃が、レイたちの加勢だと捉えられれば、ムルゼフは「譲渡の意思がない」と判断し、協定を破棄して攻め込んでくるかもしれない。


「急げ! 何としても山の中で仕留めるのだ! 奴らをムルゼフに会わせてはならん!」

ジュゼップの命令により、二十三万の軍勢が、まるで細い瓶の首に吸い込まれる液体のように、次々と山道へ入り込んでいく。  

長蛇の列となった軍勢の最後尾が山の入り口を通り過ぎたのを、獣道に潜伏していたレイは見届けていた。


「……戻るぞ」

隠蔽を解いたレイたちは、音もなく山道を引き返し、山の入り口へと舞い戻った。  


「殲滅を始める。ここでどれだけ屠れるか、それがこの後の運命を決めることになる」

レイの言葉に、兵士たちが魔力を解放し、魔法のための詠唱を始める。  

「山の麓。地盤が最も剥き出しになっているあの岩盤を狙え。あそこに、火力を集中させろ。……今度は『本気』で」

レイは右手を高く掲げた。  

その指先に、細く緻密な魔力の線が幾重にも重なりながら、集まっていく。

「—―万象の王たる雷よ、我が指先に集いて神罰の雷槌となれ。天空を裂き、大地を穿ち、傲慢なる者を土に還せ—―」

レイの詠唱に合わせて、五万の兵士たちの詠唱が和音ハーモニーとなって響き渡る。 大気が震え、空間そのものが軋み声を上げる。

「—―雷帝の裁き(サンダーボルト・ジャッジメント)!!」

「食らえッ! —―火噴炎(フレア・バースト)!!」 「—―氷凍槍(ブリザード・ランス)!!」 「—―飛風刃(サイクロン・カッター)!!」

次々と魔法が放たれ、次第に山の麓は極彩色に染まり、山が不気味な音を立てて、蠢いていく。  


ドォォォォォォォォォンッ!!

あまりの衝撃に、空気そのものが押し潰されて、風圧となって押し寄せる。  

直後、鼓膜を突き破るほどの轟音が遅れて轟く。

魔法の直撃を受けた山の麓は、飴細工のように軋んだ音を立てて、崩れ落ちていく。  

支えを失った巨大な岩壁が、重力に従って傾き始める。

「な、なんだ!?さっきから、なんなんだ!? 何が起きた!?」

山道を進んでいたジュゼップは、落雷のような衝撃に身を震わせた。  

見上げた視線の先。  

そびえ立っていたはずの山頂が、ゆっくりと、確実に、自分たちに向かって倒れ込んできていた。

「ば、馬鹿な……山が……山が崩れてくるのか……!?」


地響きは、もはや悲鳴に近かった。  

足元の地面が裂け、頭上からは数トンもの巨石が雨のように降り注ぐ。

「うわぁぁぁぁ! 助けてくれ!」 「出口へ戻れ! 戻るんだ!」 「押すな! 潰れる!」

山道は一瞬にして地獄絵図へと変わった。  

逃げ場はなかった。

二十三万もの大軍が、狭い山道に密集していたことが仇となった。  

前方の兵は後ろから押され、後方の兵は崩落に飲み込まれていく。


そこへ、さらなる追い打ちが掛かる。

「—―吹き荒れる烈風よ、炎を抱いて死の渦となれ—―獄炎の(インフェルノ・ストーム)!」

レイに続き、魔法が次々と放たれ、崩落する斜面にさらなるエネルギーを与えた。  

土砂崩れに炎が混じり、氷の礫が兵士たちを貫き、雷撃が逃げ惑う者たちを容赦なく焼き払い、風が兵士たちを巻き上げていく。

山の中から聞こえてくるのは、もはや軍勢の喊声ではない。  それは、死にゆく者たちの絶望の絶叫。  かつてこれほどの規模の「死」が、これほど一方的に、これほど短時間にもたらされたことがあっただろうか。

「レイ……。おめぇ、やっぱ、すげぇな……」

バルムの声は、震えていた。  

五万の味方ですら、その光景に戦慄を禁じ得なかった。  

山そのものを武器に変え、二十三万を蹂躙するその姿が、味方で良かったと心の底から思っていた。

バルコス山脈の一角は、地図からその形を消していた。

ジュゼップたちが誇った二十三万の軍勢。  

今や、そのほとんどが、わずか数刻のうちに、冷たい土の下へと消えたのである。


沈黙が支配する戦場に、レイの静かな声が響いた。

「……掃討戦に移ります。生き残っている者がいれば、一人残らず拘束してください。逃がす必要はありません」

その背中に、もはや、かつての「幼子(おさなご)」の影を見る者は一人もいなかった。  

上に立つ者。引っ張っていける者。

「覇王か……」バルムはため息とともに笑みをこぼした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【今話の極小情報:】今回は「レイの本気」について


・元々、レイはジュゼップの後方にそびえる山を崩すつもりでいた。というのも、フィルス大村やベルナ大村にとって、このバルコス山脈は、敵を足止めする山脈でもあったためだった。


・レイの放った魔法には、複合魔法が含まれる。複合魔法は、同時に二つの現象を、頭に思い描き、それぞれを合わせた現象をその直後に、正確に思い浮かべる必要がある

【お読みいただきありがとうございました】

次話は、ゼノが……


ふっと二言:「ゼノとエルガンだけで、バンデリオン王国を相手にするなんて大丈夫??と思われている読者の皆様、ご安心を。ゼノには、アストラル商会がついております。さて、筆者もレイと同じく、諸々の作品を"本気"スピードで執筆します!ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」


――――――――【他作品も全力執筆中!】

更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!


・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』

「演じるのは少し疲れるけど、楽だった。でも、そっちがその気なら、「本気」で屠りに行くよ、だいぶ疲れるけどね」

理不尽な運命を、圧倒的な力で覆す!

【無双×成り上がり×転生×最強×ゲーム】—―「普通」を辞めた俺の叛逆の狼煙が高々と上がる


・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした~11歳で村長になった追放貴族、現代知識と圧倒的な力で、最弱国家の最弱領地の底辺村から最強国家に魔改造する~』

「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」

不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!

【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。

⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ