#56:覇王か……
「ブックマーク・リアクション増加、ありがとうございます!執筆の励みになります!—―引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです。」
【前話のあらすじ:学園で起きた事件がアーノットとは無関係であることを証明したレイ。その一ヶ月後、ヘンリクは謀反を起こした。王国を二分する戦が始まったのである……】
バルコス平原に立ち込める朝靄は、鉄の匂いと魔力の残滓を含んで重く停滞していた。
「……ベルナ大村軍に合図を送れ」
愛馬の背に揺られながら、レイはブルックに伝えた。
「レイ様、同じ合図で返ってきました」ブルックの言葉にレイは頷いた。
その瞳は、いつになく冷たく、透き通っていた。
レイは視線を前方に戻した。
ジュゼップ軍もドーバ軍もマダス軍も、それぞれ、軍全体を覆う巨大なドーム状の結界を展開している。
魔力を薄く、広く引き延ばしたそれは、一見すると脆弱だが、十万、七万、六万という膨大な魔力源に支えられ、堅牢で途切れることのない結界に様変わりしていた。
「全軍、突撃! 魔法兵は、全力で魔法を放てッ!」
レイの号令が戦場に響き渡る。
ベルナ大村軍とフィルス大村軍が、地響きを立てて突撃を開始した。
「—―天より降り注ぐ光の礫よ、我が敵を貫け—―光投弾!」
「—―唸れ大地、突き上げろ岩槍—―土岩槍!」
兵士たちの詠唱が重なり合い、色とりどりの魔法が三軍の結界に叩きつけられる。
見た目は派手だった。けれど、レイの命令で威力は最小限に抑えられていた。
光は弾け、爆音が轟き、結界の表面には幾重もの波紋が広がった。
「はっはっは! 見ろ、子供だましの攻撃を!顔を真っ赤に染めて、怒号を飛ばして、必死になって、ギャハハハ!馬鹿みたいだな!」
結界の内側で、ジュゼップたちが嘲笑の声を上げた。
彼の目には、必死に魔法を撃ち込み、必死に剣を振るうレイたちの姿が、無力な羽虫の足掻きにしか見えていなかった。
「あんな貧弱な魔法、我が軍の結界を傷つけることすらできんわ! やはり賢者などと持て囃されていても、所詮は子供。数と魔力の絶対的な差を理解しておらんようだな!」
傍らに控える副官たちも、口々に同調する。
「閣下、もはや反撃の必要すらありませんな。このまま進軍し、物理的な圧力だけで踏み潰せます」
「ふん、少しは骨があるかと思ったが、期待外れだ。……よし、殲滅にかかるぞ! 結界を維持したまま押し切れ! 一人も生かして帰すな!」
ジュゼップ軍の歩調が速まる。彼らは確信していた。
自分たちの防御は完璧であり、レイたちの猛攻を完全に凌駕していると。
三軍の動きの変化を、レイは見逃さなかった。
結界への過信。その過信を、敵の視野を狭め、判断を狂わせる毒としたのであった。
「全軍、反転!撤退するぞ! 山の入り口から逃げ込め!」
レイの叫びとともに、それまで猛攻を仕掛けていたフィルス大村軍・ベルナ大村軍が、蜘蛛の子を散らすように退却を始めた。
背後にあるのは、険しい岩肌が剥き出しになった連峰、バルコス山脈。
その入り口へと、レイたちは「必死の形相」で馬を走らせていく。
「逃がすか! 追い詰めろ! 山の中で袋叩きにしてくれるわ!」
ジュゼップは狂喜した。
敵が山という袋小路へ自ら飛び込んだのだ。
山の中へ消える直前、レイは密かに自軍とベルナ大村軍に対して、魔法を発動させていた。
「—―不可視の風よ、万象を覆い隠す帳となれ—―風陰界」
レイの放った風魔法の結界が、ベルナ大村軍と自身のフィルス大村軍を包み込んでいく。
光を屈折させ、存在そのものを風景に溶け込ませる高度な隠蔽魔法。そこに、風魔法を加えることで、フィルス大村軍・ベルナ大村軍の行軍速度を上げ、いかなる衝撃も吹き飛ばしていく、柔軟な結界。
レイたちは、あらかじめ調査しておいた山道の脇、うっそうと茂る獣道へと滑り込み、自軍の姿を隠蔽する。
(ジュゼップは焦るだろうな……想定外ではあったが、逆に好都合だ……)
ほどなくして、ジュゼップ率いる二十三万の大軍が、怒号を上げて山の入り口を通過していった。
「レイたちはどこだ! 蹄の跡を追え! まだ先に進んでいるはずだ!」
地面には、レイたちが、道中で、行軍中に細工しておいた「大量の馬の蹄跡」と「人の足跡」が、山頂へと続いていた。
ジュゼップの焦燥は頂点に達していた。
(まずい……このままレイたちが山を抜け、バンデリオン王国軍と合流してしまえば……!)
ジュゼップの脳裏を掠めていたのは、第二王子ヘンリクと、バンデリオン王国 現国王ムルゼフとの間の密約だった。
『ヘンリクが王位に就いた際、セルドス町を譲渡する代わりに、十年間エルメリアへ侵攻しない』という密約。
もしレイがムルゼフたちのもとへ向かい、一戦を交えれば、さらに、自分たちの追撃が、レイたちの加勢だと捉えられれば、ムルゼフは「譲渡の意思がない」と判断し、協定を破棄して攻め込んでくるかもしれない。
「急げ! 何としても山の中で仕留めるのだ! 奴らをムルゼフに会わせてはならん!」
ジュゼップの命令により、二十三万の軍勢が、まるで細い瓶の首に吸い込まれる液体のように、次々と山道へ入り込んでいく。
長蛇の列となった軍勢の最後尾が山の入り口を通り過ぎたのを、獣道に潜伏していたレイは見届けていた。
「……戻るぞ」
隠蔽を解いたレイたちは、音もなく山道を引き返し、山の入り口へと舞い戻った。
「殲滅を始める。ここでどれだけ屠れるか、それがこの後の運命を決めることになる」
レイの言葉に、兵士たちが魔力を解放し、魔法のための詠唱を始める。
「山の麓。地盤が最も剥き出しになっているあの岩盤を狙え。あそこに、火力を集中させろ。……今度は『本気』で」
レイは右手を高く掲げた。
その指先に、細く緻密な魔力の線が幾重にも重なりながら、集まっていく。
「—―万象の王たる雷よ、我が指先に集いて神罰の雷槌となれ。天空を裂き、大地を穿ち、傲慢なる者を土に還せ—―」
レイの詠唱に合わせて、五万の兵士たちの詠唱が和音となって響き渡る。 大気が震え、空間そのものが軋み声を上げる。
「—―雷帝の裁き(サンダーボルト・ジャッジメント)!!」
「食らえッ! —―火噴炎!!」 「—―氷凍槍!!」 「—―飛風刃!!」
次々と魔法が放たれ、次第に山の麓は極彩色に染まり、山が不気味な音を立てて、蠢いていく。
ドォォォォォォォォォンッ!!
あまりの衝撃に、空気そのものが押し潰されて、風圧となって押し寄せる。
直後、鼓膜を突き破るほどの轟音が遅れて轟く。
魔法の直撃を受けた山の麓は、飴細工のように軋んだ音を立てて、崩れ落ちていく。
支えを失った巨大な岩壁が、重力に従って傾き始める。
「な、なんだ!?さっきから、なんなんだ!? 何が起きた!?」
山道を進んでいたジュゼップは、落雷のような衝撃に身を震わせた。
見上げた視線の先。
そびえ立っていたはずの山頂が、ゆっくりと、確実に、自分たちに向かって倒れ込んできていた。
「ば、馬鹿な……山が……山が崩れてくるのか……!?」
地響きは、もはや悲鳴に近かった。
足元の地面が裂け、頭上からは数トンもの巨石が雨のように降り注ぐ。
「うわぁぁぁぁ! 助けてくれ!」 「出口へ戻れ! 戻るんだ!」 「押すな! 潰れる!」
山道は一瞬にして地獄絵図へと変わった。
逃げ場はなかった。
二十三万もの大軍が、狭い山道に密集していたことが仇となった。
前方の兵は後ろから押され、後方の兵は崩落に飲み込まれていく。
そこへ、さらなる追い打ちが掛かる。
「—―吹き荒れる烈風よ、炎を抱いて死の渦となれ—―獄炎の風!」
レイに続き、魔法が次々と放たれ、崩落する斜面にさらなるエネルギーを与えた。
土砂崩れに炎が混じり、氷の礫が兵士たちを貫き、雷撃が逃げ惑う者たちを容赦なく焼き払い、風が兵士たちを巻き上げていく。
山の中から聞こえてくるのは、もはや軍勢の喊声ではない。 それは、死にゆく者たちの絶望の絶叫。 かつてこれほどの規模の「死」が、これほど一方的に、これほど短時間にもたらされたことがあっただろうか。
「レイ……。おめぇ、やっぱ、すげぇな……」
バルムの声は、震えていた。
五万の味方ですら、その光景に戦慄を禁じ得なかった。
山そのものを武器に変え、二十三万を蹂躙するその姿が、味方で良かったと心の底から思っていた。
バルコス山脈の一角は、地図からその形を消していた。
ジュゼップたちが誇った二十三万の軍勢。
今や、そのほとんどが、わずか数刻のうちに、冷たい土の下へと消えたのである。
沈黙が支配する戦場に、レイの静かな声が響いた。
「……掃討戦に移ります。生き残っている者がいれば、一人残らず拘束してください。逃がす必要はありません」
その背中に、もはや、かつての「幼子」の影を見る者は一人もいなかった。
上に立つ者。引っ張っていける者。
「覇王か……」バルムはため息とともに笑みをこぼした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【今話の極小情報:】今回は「レイの本気」について
・元々、レイはジュゼップの後方にそびえる山を崩すつもりでいた。というのも、フィルス大村やベルナ大村にとって、このバルコス山脈は、敵を足止めする山脈でもあったためだった。
・レイの放った魔法には、複合魔法が含まれる。複合魔法は、同時に二つの現象を、頭に思い描き、それぞれを合わせた現象をその直後に、正確に思い浮かべる必要がある
【お読みいただきありがとうございました】
次話は、ゼノが……
ふっと二言:「ゼノとエルガンだけで、バンデリオン王国を相手にするなんて大丈夫??と思われている読者の皆様、ご安心を。ゼノには、アストラル商会がついております。さて、筆者もレイと同じく、諸々の作品を"本気"スピードで執筆します!ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』
「演じるのは少し疲れるけど、楽だった。でも、そっちがその気なら、「本気」で屠りに行くよ、だいぶ疲れるけどね」
理不尽な運命を、圧倒的な力で覆す!
【無双×成り上がり×転生×最強×ゲーム】—―「普通」を辞めた俺の叛逆の狼煙が高々と上がる
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした~11歳で村長になった追放貴族、現代知識と圧倒的な力で、最弱国家の最弱領地の底辺村から最強国家に魔改造する~』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。
⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




