#55:本気
「昨日は投稿できず、申し訳ないです。」
「引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです。」
その日は、朝から風が止んでいた。
エルメリア王国の命運を分かつ朝が訪れていた。
ローヌ村の広場を埋めつくしていたのは、農具を剣に、鍬を槍に持ち替えた五万の兵たちだった。
彼らの鎧が朝日を浴びて鈍く光り、村は、押し殺したような緊張に包まれていた。
広場の中央、一段高い壇上にレイが姿を現すと、数万の視線が一斉に彼に注がれる。
二十三万。かつてないほどの大軍に、皆、緊張しているようだった。
「レイ、顔色が固いわよ。わ、私が護るから、だ、大丈夫よ」
隣に立つニーナが、少し頬を染める。
「……少し、考え事をしていただけだ」
「はぁ……あっそ……」
「なあに、レイ。俺たちがついてるんだ。シレハ村の連中だって、お前の背中を追いかけてここまで来たんだぜ。負ける気なんてさらさらないさ」
ガストンが、太い腕で自分の胸を叩きながら快活に笑う。
レイは一歩前へ出た。
「今、この国は崩壊しようとしている!」
レイの声は、魔法によって増幅され、村の隅々にまで響き渡った。
「王都では欲に駆られた王族が血を流し、このフィルス大村にも、平穏を愛する我々の土地を、力で奪おうとする者たちが迫っている。敵は二十三万。我らの二倍以上の数だ。彼らは我々を『弱小な村の集まり』だと侮り、蹂躙し、略奪し尽くすつもりでいる!」
「だが、私は知っている。諸君らの後ろには、守るべき家族がいる。耕し続けてきた豊かな大地がある。我らがここで退けば、全てが灰になるだろう。……生き残って、この故郷を共に守り抜くために、その力を私に貸してほしい。全軍、進発!」
「「「おおおおおおおっ!!!」」」
地響きのような咆哮が上がった。
レイたちは、鬱蒼とした山道を抜ける。
ジュゼップらコング大村の主力は、必ず「バルコス平原」に布陣する。
レイはそう読んでいた。
そこは山と山に挟まれた回廊のような地形である。
相対する両軍、それぞれの後方にそびえる山は峻険で、獣道ばかり。
安全な抜け道は二つのみであり、そこをふさがれれば、山を伝って、相手の後方から奇襲をかけることは不可能だった。
数で勝るジュゼップ達にとって、バルコス平原のように、両翼の軍を常に把握でき、地形を利用できないため、兵力差が直接的に響いてくる、この平原ほど「戦いやすい」場所はなかった。
進軍の途上、斥候を務めていたルードの部隊から、副長のバイスが馬を飛ばしてきた。
「報告! レイ様、読み通りです! ジュゼップ軍十万、およびメガツ、バクスの連合軍十三万、計二十三万。バルコス平原の後方に布陣を完了しました!」
「……バルム殿の軍は?」
「ベルナ大村軍の五万は、既に布陣を完了したようです」
「そうか……急ぐぞ!」
バルコス平原。
目の前に広がるのは、水平線の向こうまで埋め尽くすような、敵軍の旗印。
人、馬、槍。その波が、不気味なほどの静寂を保って、睨んでいる。
レイは即座に布陣を命じた。
平原の右側、山際の入り口を背にするのはフィルス大村軍。
左側には、バルム率いるベルナ大村軍。
フィルス大村軍。
左翼にルードとバイス、リーンとカイル、ヴォルターとケヴィンの各五千の計一万五千。 右翼にニーナとポール、ロブとダン、ガストンとブライスの各五千の計一万五千。
中央前衛にはゼファールとパーシー、クロムとウェストの各五千の計一万。
そして後衛の本陣に、レイ、シア、ブルックの一万。
前方には、ドーバ率いるメガツ大村軍七万と、マダス率いるバクス大村軍六万の計十三万。
一方、ベルナ軍五万の正面には、ジュゼップ本隊十万が居座っている。
ジュゼップ軍の本陣から、空を裂くような巨大な角笛の音が響いた。
地平線が揺れ、敵軍が一斉に叫び声を上げる。
「「「殺せええええええ!!!」」」
同時刻、王都セント・エルメリア。
王宮近くの主要要塞では、反乱軍ヘンリクと国王アーノットの軍が正面から激突していた。 「裏切り者ヘンリクを討て!」 「暗愚なアーノットを排せよ!」
各所での小競り合いは、すでに本格的な内乱へと発展し、王国はその四肢を自ら引き千切るような自壊を始めていた。
戦況は熾烈を極めていた。
レイは本陣で絶え間なく情報を処理し、指示を飛ばす。
「ロブ、右に回り込みすぎだ! ガストンの部隊との間に隙間ができる。少し引け! ルード、バイス、左翼のリーンが圧されている、側面から突け!」
レイの的確な采配により、数倍の敵を相手に戦線は辛うじて維持されていた。
だが、その最中。
本陣に控えていた魔導通信機が、異常な高音で鳴り響いた。
フィルス大村に残してきたゼノからの緊急報告だった。
『レイ様……ッ! 至急、至急お聞きください!』
ゼノの声は、これまでのどのような危機でも聞いたことがないほど、絶望に掠れていた。
『西の国境より……バンデリオン王国軍十万が侵入! さらにその後方より、バンデリオン皇族直属の増援十五万がこちらへ向かっています!』
バンデリオン王国。レイが忌むべき、なにより断ち切れぬ血脈を持つ、西の大帝国。
なぜ、このタイミングで……
『北方国境守備軍長のエルガン様らが、残存兵八万をかき集めて必死の防衛を試みていますが……相手は計二十五万。精鋭中の精鋭です。持ち堪えられても、あと数日……いえ、数時間かもしれません……!』
レイの脳裏を、これまでの全ての不審な点が繋いでいく。
「ヘンリク……貴様……!」
目の前には、二十三万の敵。 背後に二十五万の敵。
「シア、ブルック。全軍に伝達。……戦い方を変える」
「当初の策はすべて捨てる。殲滅するぞ」
それは、レイが初めて本気を出す瞬間だった。
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【今話の極小情報:】今回は「ヘンリクの目論見」について
ヘンリクは、王座に就くため、ムルゼフと手を組んで、内と外から反乱を成功させるつもりだった。学園に起こる事件も含めて、どこまでが、ヘンリクの仕業なのか……それについて、レイがわかるのは、少し先の事だった。
【お読みいただきありがとうございました】
次話は、レイの本気。
ふっと二言:「昨日は投稿できず、申し訳ないですー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」
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「演じるのは少し疲れるけど、楽だった。でも、そっちがその気なら、「本気」で屠りに行くよ、だいぶ疲れるけどね」
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