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#54:更なる嵐

「ブックマークの増加、リアクションの増加、ありがとうございます!今後ともよろしくお願いいたします!」

「引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです。」


【前話のあらすじ:魔族ゼノスとの戦闘を終えて、ゼノスがもともとは人間だったのではないかと思ったレイ。さらに、レイは、寮内と寮外で仮死状態になった時の状況が異なることに気づく。そして、シリスに王族・貴族を集めるよう頼んだレイは……】


王都セント・エルメリア。

王宮前の大広場は、かつてないほどの熱気と、刺すような緊張感に包まれていた。  

広場を埋め尽くす民衆、そして王宮から見守る、貴族や王族たち。

レイの背後には、アストラル商会が商品の一つ、魔導装置『映像投影機ミラー・スクリーン』が配置されている。

レイが、ゼノに命じて設置させたそれは、今や王都のみならず、エルメリア王国内のすべてのアストラル商会の映像投影機ミラー・スクリーンへも、この場の光景を同時に送り届けていた。


レイは一歩前へ出た。

レイのそばには、学園の保安室から運び出された二つのベッドがある。  

一つには寮内で倒れた令息が、もう一つには食事中に倒れた令嬢が、それぞれ横たわっていた。  

レイは魔力を込めた声を、響かせた。

「—―皆様、これより、学園を揺るがした『連続仮死状態事件』がアーノット陛下の仕業でないことを証明します」


その声は、広場のざわめきを一瞬で静めた。

「まず、この状況をおかしいとは思わないでしょうか。皆様、御存知の通り、被害者七名のうち、最初の五名は寮内の一階に部屋を持つヘンリク殿下の派閥の令息や令嬢たちでした。その後の二名は、食堂での食事中と庭園の散歩中に「仮死状態」になりました。すなわち寮外で「仮死状態」になったのです」

レイは令息のベッドに近づき、懐から無機質な機械を取り出した。

冒険者の間で使われる、魔石のランクを鑑定する魔導具だった。

「寮内で倒れた五名。彼らの共通点は『不自然な魔力量の増大』です。彼らは呼吸もしており、意識もあります。しかし、目覚めることができない。その理由は、外部から注入された膨大な魔力による『魔力酔い』の極大化……極限状態の意識混濁にあります」

レイは鑑定機を、令息の胸部へと押し当てた。  

――ピピッ。  

次の瞬間、投影機に映し出された数値に、群衆から悲鳴が上がった。

『Rank D:魔石反応あり』


「……な、なんだと!? 人間に魔石だと!?」  王宮の貴族たちが身を乗り出す。

「これは、魔力を内包した『魔石』を体内に埋め込むという禁忌の手法。これにより、彼は自分の器を超えた魔力を内包させられ、精神が耐えきれず仮死状態に追い込まれたということです」

 レイが右手を掲げると、令息の周囲に半透明の揺らぎが生じた。

「—―万象を隔てる不可侵の理よ、位相の彼方にて境を定めよ。内と外を断ち、因果を拒み、干渉を否定せよ。—―境界隔絶(アブソリュート・バリア)

「彼の魔力を慎重に放出させます。急激な減少は精神を崩壊させますので、少しずつ彼の魔力の『器』を空にします」

レイの指先が繊細に動き、目霧のように令息の体から溢れ出していく。


「この魔力量まで下がれば、魔石が壊れても、耐えられるだろう……」

レイの風魔法の振動が令息の胸を震わせる。

魔石が割れる音と共に、令息が大きく息を吐き出した。

「……う、あ……ここは……?」  

目を見開いた令息が、ゆっくりと上体を起こす。  

「目覚めた! 本当に目覚めたぞ!」 「あんな芸当、宮廷魔法師でも不可能だ……!」


レイは、次に令嬢のベッドへと歩み寄った。

「次に、寮外で倒れた令嬢。彼女たちは魔石を埋め込まれてはいません。代わりに、この緑色の指輪を見てください」

レイは令嬢の右指から、鈍い光を放つ宝石のついた指輪を抜き取った。

「この指輪には、微弱な風魔法を送り込み、装着者の魔力回路を逆流させる仕掛けが施されています。右腕に流れるべき魔力が逆流し、脳を圧迫したことで彼女は倒れたのです……」

指輪が外された数秒後、令嬢がまどろみから覚めるように瞬きをした。

「お父様……? 私、どうして……」  

王宮から見守っていた彼女の父親が、周囲の目も憚らずに駆け下りていく。

熱狂が頂点に達する中、レイは冷徹な視線で王宮のテラスを見上げた。

「皆様。ここで一つ、考えていただきたいのです。ヘンリク殿下派閥の貴族の御令嬢が身に着ける高価な宝飾品を、アーノット陛下の派閥の者から受け取るでしょうか?」

テラスの一部で、数人の貴族が顔面を蒼白にした。

「なにより、仮死状態にする意味がありません。もしアーノット陛下が政敵を害したいと願うなら、このような手は取らないでしょう?そして、魔石を体内に埋め込むという技術、少なくとも、そんな技術を持ち合わせた人間を私は知りません。最後に一つ。”実演”という形ではありましたが、この推測は、あくまで私の推測。アーノット陛下やヘンリク殿下や皆様方を貶めるつもりは毛頭ありません。皆様も、ただの戯言だと思い、寛大なお心で水に流してくださるかと……」

レイの言葉は、民衆や貴族、王族らを動かし始めていた。

「……確かにそうだ」 「陛下がわざわざこんな面倒なことをする理由がない」 「俺たちは、何者かに躍らされていたのか……?」


この日の出来事は、瞬く間に王国全土を駆け巡った。  

アーノットの評判は爆発的に回復した。

彼を疑っていた貴族たちは、自身を恥じるように次々と出仕を再開し、王宮は以前の活気を取り戻したかのように見えた。  

アーノット自身も、レイの手柄を自らの正当性の証明として利用し、上機嫌で政務に励むようになった。


実演から一ヶ月後。  

エルメリア王国の平和は、あまりにも唐突に、そして暴力的に幕を閉じた。

「報告! 領地視察中であったヘンリク殿下が、突如として国王陛下の廃位を叫び、挙兵いたしました!」  

王宮に駆け込んできた伝令の絶叫が、平穏を粉々に打ち砕いた。


ヘンリクは、実演によって、王位に就くことができなくなったため、謀反を起こしたのであった。  

彼は事前に買収していた貴族たち、そしてアーノットの新体制に不満を持つ勢力を糾合し、王国全土の六割に及ぶ軍勢をもって、王都へと進軍を開始した。  

エルメリア王国は、新国王アーノット派と、反乱軍ヘンリク派に、文字通り二分された。


そして、動乱は王都だけに留まらなかった。  

地方領主たちもまた、自らの利権を懸けて牙を剥き始めた。

「レイ様! 一大事です!」  フィルス大村の村役場。

ロブが血相を変えて飛び込んでくる。

「セルドス町の町長、ジュゼップがヘンリク殿下への支持を表明! それによって、ジュゼップのコング大村、ドーバのメガツ大村、マダスのバクス大村の私兵部隊がフィルス大村とバルム大村長のベルナ大村への侵攻を開始しました!」


ジュゼップは、この機に乗じてレイの持つ豊かな村々を略奪し、自らの勢力圏に組み込もうとしていた。  

敵の数は、私兵と傭兵を合わせて二十三万。対するフィルス大村の兵数は、五万。ベルナ大村の兵数も五万であった。

「ジュゼップ……あの卑屈な笑みの裏で、これほどの準備をしていたか」

「バルム殿に連絡を。村の防衛線を第一段階へ移行させる。……それから、ゼノらアストラル商会の全員をすぐにフィルス大村に集めさせろ。商品は亜空間を通じて、こちらに転送するように伝えろ」

「は、はい!」

窓の外では、不吉な赤色に染まった夕陽が、広大な農地を照らしていた。  

そして、エルメリア王国に、更なる嵐が訪れようとしていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【今話の極小情報:】今回は、「映像投影機ミラー・スクリーン」の仕組みについて。

・アストラル商会が開発した最新の魔導具。 魔力の送受信を行う「中継石」を各拠点に配置することで、半径数百キロメートル圏内の映像と音声を転送することが可能。 ただし、維持には莫大な魔力石を消費するため、一時間の稼働で一般的な貴族の年収が飛ぶと言われるほどの超高額設備である。レイはこの日の実演のために、ゼノと自身の自腹を切っていた。

【お読みいただきありがとうございました】

次話は、不穏な動きが……

【次話は、18:00~20:00の間に投稿予定です!】

ふっと二言:「昨日投稿しようと思っていた新作が少し難航中です……今日の18:00~20:00までに投稿予定です。ご一読くだされば、幸いです。ー引き続き、応援・お付き合い頂ければ、幸いです」

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