#40:やはり罠だな
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【前書き:ラザリス学園の武術試験を終えたレイとシアは、帰路で刺客に襲われる。刺客は自爆し、シレハ村に帰ると、ゼファールから手紙が……事態はさらに不穏になっていく……】
シレハ村。レイの執務室。
その一室には、重苦しい沈黙が満ちていた。
レイの目の前には、一通の羊皮紙が置かれている。
荒々しく、それでいて必死な筆致で書かれたその手紙は、かつて国境の戦場で刃を交えたバンデリオン王国の将、ゼファールからのものだった。
「……信じられません。あの猛将ゼファールが、これほどまでに脆い立場に追い込まれているなど……」
遊撃隊長のカイルが口を開く。
手紙の内容を端的にまとめると以下のような内容だった。
1.戦に敗れた責任を問われ、さらに現国王ムルゼフの手によって「軍資金横領」という身に覚えのない不正の証拠を捏造され、投獄された。
2.処刑は五日後。自分の家族を救ってほしい
3.自分を破ったレイならばそれが可能だと信じている、恥を承知で願う
「罠に決まっています! レイ様、これはバンデリオン王国が意図的に仕掛けたものです!」ロブが口火を切る。
「その通りだ、レイ。一介の将のために、大村長が自ら敵国に乗り込むなど、義理も道理もないぞ!」ガストンが呼応する。
「レイ、貴方が捕まる可能性の方が高いわよ」シアが冷静に言う。
「反対よ!危険すぎるわ!」ニーナも反対する
リーンやルード、バイス、ハワードやヴォルター、ダレイたちが口々に猛反対する。
彼らの言い分は極めて正論だった。
レイは、執務室から、皆を下がらせ、一人になった。
「なぜ、手紙を送れた……そこまで、警備が緩いというのか……」
「レイ様、入っても?」クロムだった。
「いいぞ」
クロムはレイに軽く頭を下げた。
「クロム、なぜここにいる?ゼノを手伝わなくてもいいのか?」
「いえ、私の配下にバンデリオン王国に寝返った者がおり、始末した際に見つけた文ですので、一応、待機しておりました」
「そうか……そなたはどう思う?」レイは淡々と聞く。
「……行くのも、一興かもしれない、そう思います」
低く、抑揚のない声が室内に響く。
「ゼファールは有能です。敵に回せば厄介ですが、味方に引き込めばこれ以上ない盾となります。そして、あの男は義に厚いと聞きます。命と家族を救われれば、生涯の忠誠を誓うはずです」
レイはクロムをじっと見つめた。
その眼差しに動揺はなく、ただ「合理性」だけを説いているように見えた。
「そうか……下がっていいぞ」
クロムが執務室を後にすると、レイは魔導通信機で、ゼノを呼び出した。
「フム……ニャム……誰ですかぁぁ?夜更けです。明日、おかけなおしくださぁい……むにゃむにゃ」
「ゼノ」
「あひっ!起きてます!」
「一つ聞きたい。お前とクロムの出会いについてだ」
「クロム、ですか?あ、えっと……もう十五年前になりますかね。私が商売の成功を妬まれて、ちょうど落ちぶれた時です。私とシアは、王都の路地裏で暴漢に囲まれていまして……死を覚悟したんですが、たった一人で救ってくれまして。無口で何を考えているか分かりませんが、私に対しては一度も嘘をついたことがない、義理堅い男ですよ!」
「そうか……」レイはゼノとの魔導通信を切ると、少しため息をついた。
翌朝。
レイは猛反対する仲間たちの前に立ち、宣言した。
「俺、一人で行く。これは俺の我儘だ。……八日経っても戻らなければ、その時は好きにしろ」
引き止める声が上がる前に、レイは風のように消えていた。
バンデリオン王国の王都。
鉄と石で築かれたその街には、活気はなく、兵士たちの冷ややかな視線が民衆を監視しているようだった。
「少しいいか?」レイは穏やかな笑みを浮かべて、壁によりかかる男に尋ねる。
男が右手を差し出す。
「これでいいか?」レイは銅貨五枚を渡す。
「あ、いや、そんなには受け取れねぇ……」
「いいんだ……」レイがそう言うと、男は軽く頭を掻いた。
「で、何を聞きたいんですかい?」
「ゼファールという将を知っているか?」
レイがそう尋ねると、男は慌てたように、レイを路地裏に引き込む。
「旦那、今、その名前は禁句ですぜ!ゼファール将軍は、旧派閥の最後の砦だったが、ヘルヴァン様もドゥラハム将軍も亡くなっちまって、敗戦の咎で牢獄行きですぜ!ゼファール将軍のことを知りたいんですかい?」
「……ああ、そうだ。軍資金の横領もしたと聞いたが?」
「旦那、それはでっちあげってやつですぜ!ゼファール将軍は、専らの噂じゃあ、王都の地下牢に囚われてるって話ですぜ。家族は王宮の離宮で軟禁生活。ムルゼフ王ってのは俺は、どうもいけ好かないねぇ……」
「そうか。助かった」
「旦那!もし、ゼファール将軍を助け出すっていうんなら、ムルゼフの執務室が怪しいですぜ!あっしは、王宮で働いてたことがあるんですが、あそこだけは立ち入りが禁止されてやしたから!」
「感謝する」レイはそう言い残すと、表に出る。
夜が更けるまで、まだ少し時があった。
「亭主、いるか?」
「へい!何日、お泊りになられますか?」
「一泊で頼む。釣りはいらない」そう言ってレイは銅貨10枚を置いて、部屋に向かう。
部屋は簡素だったが、寝床としては十分だった。
ドサッ。
レイはベッドに無造作に寝転んだ。
「やはり罠だな……ゼファールが囚われているのは本当だろうが、クロムの手下の件は十中八九、嘘だろう。手下を始末するのもクロムらしくない。より情報を引き出したはずだ。それから、あの男。知り過ぎている。そもそもムルゼフならば、王宮に仕える者が身を退く時は、殺すだろう。でなければ、ムルゼフの悪い噂が聞こえてこないことと釣り合いがとれないからな……」
夜が更けると、レイは闇に乗じて、王宮へと潜入した。
王宮の警備は厳重に見えて、特定の場所だけが不自然なほど手薄だった。
まるで、目に見えない誰かがレイのために「道」を用意しているかのようだった。
レイは迷うことなく、国王ムルゼフの執務室の隠し棚を見つけ出し、ゼファールの不正を裏付ける「原本」を確保した。
そこには、無理やり筆跡を真似た偽の署名と、巧妙に改竄された帳簿が収められていた。
(……浅いな)
レイは冷笑した。
素人であるレイから見ても、この程度の捏造を見破るのは容易いことだった。
「ゼファールを殺し、自身の懐に入った賄賂の記録をもゼファールになすりつける算段か……」
それにしても、あまりにも簡単に証拠が手に入り過ぎるような気がした。
「クロム。お前の芝居に付き合えば、なにかわかるのか……」
レイはその原本を魔法で即座に数百枚複製し、闇に乗じて、各戸に届け、道端に落としていく。
「なんだ、この紙は!?」 「ゼファール将軍の無実……!?」 「ムルゼフ王が嘘を……!?」
夜明け前の王都に、真実を記した紙が雪のように降り注いでいた。
ムルゼフの寝所。
「大王!!」
「なんじゃ!?騒がしい!殺されたいのか?」
「一大事にございます!証拠が……捏造した証拠が、王都中にバラまかれております!」
ザシュッ。
ムルゼフの抜き放った剣が、報告した侍従を斬った。
「この馬鹿者が!捏造などという言葉を使うでない!クロムめ……雇ったというのに、裏切りおって!!」
「大……大王、どうすれば……」
「とにかく、その紙とやらをとっとと回収せい!それが済んだら、即刻、ゼファールを処刑する!すぐに向かえ!」
「「「は、はい……!!」」」
王の直属である近衛軍や禁軍も含め、全ての兵士が血相を変えて紙の回収に走り、王都は大混乱に陥っていた。
レイはその隙をつくように、離宮に軟禁されていたゼファールの妻子を確保し、続いて地下牢へと向かう。
「な!?貴様、何者だ!」
ドゴッ。バコッ。
レイは地下牢の門番や巡回兵、二十人を気絶させると、その最奥へと向かった。
そこには、かつての威厳を失い、鎖に繋がれたゼファールがいた。
「……本当に来たのですか……」
「ああ。お前を引き入れるためというのが表向きの理由だが、もう一つある……」
レイはゼファールを鎖を斬り、妻子を連れて、馬車で、素早くバンデリオン王国の王都を出る。
「レイ様、もう一つは何でしょうか?」
「クロムのことだ。今回のことは出来すぎている。そもそも、地下牢の警備も薄い。それと王都での検問もなく、馬車は素通りできた。この手際の良さ、クロムが絡んでいるはずだ。それとレイ様はやめろ。レイでいい」
ゼファールはしばらく沈黙した後、重い口を開いた。
「……私は貴方様をレイ様と呼ばなければなりません……」
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【今話の極小情報:】今回は、魔導通信機について。
魔導通信機:ミラとマルコが創り上げた代物。対象の声音を魔力に変換し、相手の元に届けるという画期的なもの。スマホのように万能ではなく、会話にしか使用することができないが、その通信精度や通信速度は相当なモノである。ちなみに、衛星を打ち上げたり、電波塔をつくったわけではなく、亜空間内で繋げているため、通常の大気とは別次元の場所に回路があることが強みである。
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、レイの秘密が明かされます!
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ふっと二言:「さて、学園編が始まるかと思いきや、不穏な影が押し寄せる日々。次話は18時、ちょっと過ぎに投稿予定です!」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
『夢のストーリーを現実で再現しようとしたら、天下を獲る必要性が出てきた件』
「俺の夢ってこんなんだっけ?セリフとかパターンとかそんなんで満足する、ちんまいやつだったか?いいや、違う!もっと壮大で、ロマンティックで、圧倒的な、そう、天下統一だったはずだ!前世で、内は制覇した。今世は外を獲りに行かなければ……!!」
【戦×成り上がり×勘違い×自主的追放×無双×領地経営】—―内(家)に逃げた男が外(世界)に飛び出す英雄譚!
・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』
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※初期、1話あたりの字数1万字ちょっと、と長すぎるので、#1-52~からご一読いただけると、字数的にも、よりスムーズかなと……
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