#38:相手に恵まれた
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【前話のあらすじ:レイの描いた完璧な包囲を脱出したゼファール。レイはバンデリオン王国戦の功により、男爵位を拝命。これにより、王立「ラザリス学園」から招待状が届くのであった……】
北風が背中を押すように吹き抜ける街道を、一台の馬車が駆けていた。
車輪が石を弾くリズムを聞きながら、レイは窓の外に広がる景色を眺めていた。
一年という歳月は、彼の統治するフィルス大村を劇的に変えたが、王都セント・エルメリアへと続くこの街道の景色だけは、相変わらず、傲慢なまでの華やかさを保っていた。
「……レイ、そろそろ王都の第一正門が見えるわ」
対面に座るシアは少し緊張している。
シアは仕立ての良い軽装の旅服を纏っていた。
シアやゼノは没落したとはいえ、准男爵位だった。
「今回の目的はあくまで『入学』だ。目立ちすぎるな」
「『S1』クラスに入れる程度に実力を調整し、余計な注目を浴びないように……でしょ?」
「そうだ。あまりに異常な数値を叩き出せば、古い血筋を誇る連中が顔を真っ赤にして絡んでくる。そうなると勉強どころではなくなる」
レイは、手元の魔法理論書を閉じた。
レイがラザリス学園への入学を決めたのには、理由があった。
先のバンデリオン王国との戦。それがどうにも引っかかっていた。
ヘルヴァンやゼファール、ドゥラハムはバンデリオン王国の将軍の中でも、有能な将軍たちだ。
彼ら全員を戦場に送るなら、少なくとも、セルドス町を占領できたはずだった。
が、兵力はたった11万。様子見にしては、兵が多く、セルドス町を占領するには少なすぎた。
それとクロム。
疑うわけではないが、三日前に知らせたということは、バンデリオン王国で軍議が行われて、決議された直後にクロムに電報が届いたことになる。
なにより、クロムの直筆の文がセント・エルメリアからシレハ村に届くのに、一日はかかる。
理論的には可能だったが、クロムが何か、別の意図で動いているような気がしてならなかった。
勿論、使える貴族と使えない貴族の品定めも兼ねている。
ほどなくして、馬車は白亜の巨壁に囲まれた「王立ラザリス学園」の正門へと到着した。
そこには、王国中から集まった選りすぐりの貴族の子息や令嬢たちが、豪華な馬車と従者を連れて列をなしていた。
彼らの放つ魔力は、確かに一般の兵士とは一線を画すが、一年前に戦ったバンデリオンの鉄騎兵たちのような「死の匂い」は微塵も感じられなかった。
「ふん、あれが噂の『孤児の男爵』か。身なりだけは整えているようだが、化けの皮が剥がれるのも時間の問題だな」
「隣の娘も、どこかの没落貴族だろう。哀れなものね」
すれ違いざまに投げかけられる棘のある言葉。
シアの手が微かに震え、腰の短剣へ伸びようとする。
「放っておけ。血統を重んじ、群れることを好む連中だ。相手にするだけ面倒だ。目的だけ果たしたら帰るぞ」
シアは微かに頷いた。
試験は「学力」「魔法」「武術」の三段階で行われる。
第一試験、学力試験。
大講堂に並べられた解答用紙を前に、レイはペンを走らせた。
歴史問題は、彼自身が一年前に塗り替えたばかりの「現代史」も含め、あまりに簡単すぎた。
魔法理論に至っては、教科書の内容に明らかな非効率性が数箇所見受けられたが、目立つことは避けたかった。「S1」に入るのは、「S1」の生徒しか入ることのできない蔵書室が目当てだった。
レイは、現行の理論の範囲内で理想とされる解答を記述し、最後の1問だけ空白にする。
隣の席で必死に顔を歪める有象無象を余所に、レイは解答用紙を提出して、退出する。
ほどなくして、シアも退出したようだった。
「レイ、どうだった?」
「問題ない。九割くらいだ」
「私もそのくらいにしておいたわ。でも、学ぶことはあまりなさそうね。フィルス大村の学舎の方がレベルが高いわ」
シアがレイにそっと囁いた。
第二試験、魔法試験。
大講堂の中に設置された大きな魔力測定装置の前に、次々と受験生たちが並んでいく。
壁一面に魔法陣が描かれたこの装置は、まるで巨大な魔法の時計のようで、魔力の量を正確に計測できる精密な装置のようだった。
試験官たちは、鋭い視線で受験生を射貫きながら、測定結果を一つ一つ記録している。
レイは、シアの前の列に並んでいた。
周りの貴族たちが、侮蔑や嘲笑の目線を向け、時折、口に出す者もいたが、レイは全く、気にしていなかった。
「セドリック・グラヴェル!」
目の前に立つ金髪の青年が前に進む。
「ついに、僕が呼ばれましたか!僕という才能を長く待たせすぎですよ!まったく!」
セドリックは、典型的な貴族の子息のようで、身に着けている服は高級で、背筋が伸びたその姿勢からは自信と傲慢さが溢れていた。
「さて、行こうか」
セドリックは無駄に大きな声で呟きながら、魔力測定装置の前に立つ。
「セドリック・グラヴェル、魔力測定開始!」
試験官が声をかけると、セドリックは胸を張り、装置に手を触れる。
測定装置がジーッと低い音を立て、数字がスクリーンに現れる。
「魔力、2000。合格。」
試験官が告げると、周囲の何人かが小さな拍手を送った。
セドリックは満足げに微笑んだ。
「2000か、まあまあの結果だな。」
その言葉には、いかにも自分が普通の貴族の中では突出していると言わんばかりの、どこか見下した響きがあった。
「レイ」試験官が無造作に告げる。
測定装置の前に立つと、周囲の視線が一斉に集まる。
「『孤児の男爵』、か。」
小声で誰かが呟く。
レイは、特に気にすることもなく装置に手を伸ばす。
「レイ、魔力測定開始!」
試験官の合図で、レイは静かに手を置いた。
シュウウウウという音と共に、魔力測定装置が反応を始める。
数字が急速にスクリーンに現れ、次々と数字が変動する。
「……2500。」
試験官は少し間を空けてから口を開いた。
「2500……?」
「こんなに高い魔力……一体、何者なんだ?」
周囲から驚きの声が漏れる。
「……貴族でもない男が、俺を超える魔力を持っているだと?」
セドリックは愕然とした表情を隠せないでいた。
レイは微笑んだ。
「まあ、こんなものだ。」
そう言いながら、視線を装置から外す。
「次に進め。」
試験官はレイを促すが、その声には明らかな戸惑いが感じられた。
次は魔法対決だった。
会場の空気が張り詰め、受験生たちは緊張の面持ちでその時を待った。
「セドリック・グラヴェル!レイ!両者前へ!」
「さあ、どうしたものか。」
セドリックが挑発的に言う。
セドリックの顔には、先ほどの測定で得た魔力の数値が思った以上に高いことへの不満が滲み出ていた。
試験官が合図をすると、戦いが始まる。
セドリックが右手を前に突き出し、詠唱を始める。
「—―炎よ、赤き灼熱の光を纏い、……」
「—―世界よ凍てつけ、氷宙」
「ひぃぃぃ」セドリックの右手が凍っていく。
「なんなんだよぉぉぉ!」セドリックが悲鳴を上げる。
「詠唱、短くないか?」
「詠唱が短いと、威力が落ちるはずだ。なのに、あのセドリックを止める威力を持ってるぞ……」
「なんなんだ、あいつ……」
「俺は認めないぞ!」セドリックが左手を前に突き出す。
「—―炎よ、赤き灼熱の光を纏い、我が手に宿りて、……」
「—―雷轟よ、彼のもとへ—―飛雷」
「いやぁぁぁぁ」セドリックがのたうち回っている。
左手が発光し、ピクピク動く。
「なんなんだよぉぉぉ。俺がなにしたって言うんだよぉぉぉ!ちょっとくらい、撃たせてくれてもいいだろぉぉぉぉ!」
「いいぞ」
「へ!?」
「—―万物よ、彼の元に戻りたまえ—―反転」
「どうなってんだ!?」「セドリックの右手の氷はなくなったし、左手の発光も止まった……」
「へっ!てめぇ、情けをかけるとは良い度胸だ!」
「いや、お前が頼んだから、俺は……」
「ち、ちげぇ!」
セドリックが右手を突き出す。今度は受けてやろうと思う。
「—―炎よ、赤き灼熱の光を纏い、我が手に宿りて、時を裂け!空を焦がし、大地を焚べ、命を燃やしたまえ!—―焔炎刻時」
焔が瞬時にレイを覆いつくす。
「ぎゃははは!所詮は、この程度だなぁぁ!」
レイは軽く右手を払った。
「あへ!?」セドリックが立ち尽くしていた。
「どうなってやがる!?魔法が消えて……」
「—―吹き飛べ、送風」
「やめろぉぉぉぉぉ」セドリックが吹き飛んでいく。
「……終了とする……勝者、レイ……」
試験官の宣言により、レイの魔法試験の終了が告げられる。
「……次はもう少し、楽しませてくれよ」レイは、泡を吹くセドリックに囁くと会場を後にした。
「レイ!すごかったわね!」シアが駆け寄ってくる。
「いや、相手に恵まれた。シアはどうだった?」
「余裕よ」シアは微かにほほ笑んだ。
「あとは武術試験か……さっさと片すか……」
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【今話の極小情報:】今回は、クロムとゼノについて。
ゼノとクロム。彼らは幼馴染のように見えますが、実はそうではありません。
ゼノが暴漢に襲われていたところを、クロムが救ったのがきっかけです。
それは、ちょうど、レイが捨て子として、シレハ村に流れ着いたときの事。
少し関わってくるので、覚えておいていただけると……
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、試験終了と不穏な影!!
~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~
ふっと二言:「一応、明日から新しい作品を投稿できればな~と思っております。一応、成り上がり系です。ご一読くだされば、幸いです!一応、#10くらいまで投稿できればな……と思っております!—―引き続き、他作品も含め、応援のほど、よろしくお願いします!—―過去作のアルトについては、どこかで整理して投稿しようかなという感じです!」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』
「動かないだけの者に何がわかる。動けば変わる。今はそう信じろ。」
【戦×無双×成長】 →天下を争う軍記モノです!※後々、魔法や異世界系に変わっていきます!
※初期、1話あたりの字数1万字ちょっと、と長すぎるので、#1-52~からご一読いただけると、字数的にも、よりスムーズかなと……
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。
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