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#37:ご安心ください

本日もよろしくお願いいたします!

本日の投稿は、この#37からスタートです!どうぞよろしくお願いいたします!


~ブックマーク・評価・リアクション・感想等いただければ、執筆の励みになります~


【前話のあらすじ:クロムにより、ゴランとベントが戦死。ヘルヴァン軍は、壊滅に追い込まれていた……】


城壁の上。

吹き荒れる夜風が、血と煤の匂いを運んでいた。

ヘルヴァンは、剣を地に突き立て、荒い息を整えていた。

その背後には、わずかに残った配下たちがいる。

皆、満身創痍だった。

鎧は砕け、武器は欠け、それでもなお、ヘルヴァンのそばから離れようとはしなかった。


「……皆、すまんな」

ヘルヴァンの声は、驚くほど穏やかだった。

「最後まで、付き合わせてしまった」

「何を仰いますか、将軍」

誰かが笑った。 歯は血に染まり、声は掠れている。

「ここまで御供できただけで……十分、過ぎるほどです」

周囲には、既に多くの同胞が倒れていた。

「あの男の後ろにいる小さな少女の弓とのっぽの弓が面倒ですな」

クロムが戦闘を始めてから、シアとゼノは矢を放っていた。

レイとニーナの部隊が城壁下の敵兵の士気の高さに手を焼いているようだった。

レイやニーナは、すでに満身創痍の上、一睡もせず、黒岩の森を抜け、奇襲をかけたため、疲労もあった。


それは一瞬だった。

クロムが踏み込む。 短剣が閃き、ヘルヴァンの肩を裂く。

ヘルヴァンは、剣を振るい、力で押し返す。


技量は、明らかにクロムが上だった。

動きは速く、無駄がなく、殺すためだけに最適化されていた。

「――将軍ッ!」

背後から、配下の一人が飛び出した。

クロムの死角を突く。

その刹那、シアの放った矢が額を貫く。


「行くな……!」 ヘルヴァンの叫びはかすれ声となり、夜風にかき消されていく。  

一人、また一人。

配下たちは、シアやゼノへと向かっていっては、瞬く間に地に崩れていった。

最後に残ったのは、二人だけだった。

息が上がり、視界が揺れる。



ドスッ。

クロムの短剣が、深く腹部を貫いた。

「……グッ」

ヘルヴァンは崩れ落ちながらも、笑った。

「……それでよい」

老将の体が、静かに横たわる。


城壁の上から、歓声があがる。

レイは、剣を下ろし、深く息を吐いた。

「……残敵を制圧する。慎重に狩るぞ」

その声に、迷いはなかった。

ニーナの風魔法やロブの水魔法、ガストンの土魔法が残党を次々と殲滅していく。



ヘルヴァンを失った軍は、剣を振るう者も、地に伏していく者も、皆、どこか安堵した顔をしていた。

夜明けは、もう近かった。


北の烈風が吹き荒れる「ヘルヘイムの森」。  

そこはかつて、バンデリオン王国軍十一万が誇らしげに行軍してきた侵略の入り口であった。


「……何だと?」

ゼファールが森の出口に差し掛かった瞬間、彼の視界を埋め尽くしたのは、整然と並ぶ鉄の壁であった。  

ベルナ大村の村長であるバルム。そして国境守備軍長エルガン。

彼らが率いる合計二万の本軍が、無傷のままそこに待ち構えていたのだ。

「レイの読み通りだな。貴様らは必ずここを通るとな」

バルムが重厚な大剣を地面に突き立てる。  

レイは、ドゥラハム軍との決戦の最中、密かにバルムとエルガンに伝令を飛ばしていた。 「ドゥラハムを混乱させている間に、黒岩の森の脇道を通ってヘルヘイムの森へ先回りせよ」と。  

ヘルヴァンの猛攻を食い止めるため、レイ自身は合流できなかったが、彼の仕掛けた「牙」は完璧に機能していた。


「後方からロブとガストンの追撃隊が迫っております!」

部下の悲鳴のような報告に、ゼファール軍の兵士たちは戦意を喪失し、膝をついた。

前後を完全に塞がれた。

これこそが、レイが描き出した「殲滅の絵図」の最終局面だった。


「……ふざけるな。私は、私はヘルヴァン様に託されたのだ!ここで死ぬわけにはいかぬ!」

「このゼファールがいる限り、バンデリオンの旗は折れん! 全軍、私の背を見ろ! この一点、最も層が薄い右翼端を食い破る! 死にたくなければ、私に食らいついてこいッ!!」

その咆哮は、地響きとなって森を震わせた。  

ゼファールは愛馬の腹を蹴り、自ら先頭に立って突撃を開始した。  

バルムが「放て!」と命じた矢の雨を、ゼファールはただ一振りの剣で叩き落とし、防陣の隙間へと滑り込む。

「ぬかせえッ!」

エルガンが槍を突き出すが、ゼファールはその槍の柄を足場にして跳躍し、エルガンの兜の飾りを斬り飛ばした。

人知を超えた武勇。それは、個の武人として到達しうる領域を超えていた。

「通せと言っているのだ、凡俗どもがァ!!」

ゼファールの一撃が爆発的な衝撃波を生み、バルム・エルガン軍の包囲網に「穴」を開ける。

そこへ、彼の気迫にあてられた重装騎兵たちが雪崩れ込んだ。  

バルムやロブ、ガストンらが必死に食い下がろうとしたが、死を覚悟し、ただ一点の突破に全てを賭けたゼファールの突進を止めることはできなかった。

数刻後。  

血の海と化したヘルヘイムの森に残されたのは、脱出を許してしまったという呆然とした沈黙であった。

「……驚いたな」

戦場に到着したレイは、バルムからの報告を受け、遠く国境の先を見つめた。

「あの包囲を、力ずくで突破したというのか。ゼファール……やはり、ただの男ではないな」  

十一万の侵略軍は、こうして瓦解した。


数日後。王都セント・エルメリア。  

かつてない戦勝に、街は歓喜の渦に包まれていた。  

王城の謁見の間には、国の重鎮たちが居並び、その中央をレイ、バルム、エルガンが進む。

玉座に鎮座するのは、エルメリア国王ルーヴィンスだった。  

彼は立ち上がり、朗々たる声で宣言した。

「此度の戦い、其方らの功績は空前絶後のものである。バルム、エルガン、そしてフィルス大村、ベルナ大村の民らには、金銀と三年間の免税を認める!」

だが、王の言葉はそれだけでは終わらなかった。

「レイよ。前に出よ」

レイが跪く。王は側近から一本の華麗な儀礼剣を受け取った。

「貴公は、弱冠十四じゅうしにして十一万の軍を退け、我が国の存亡を救った。その知略、その勇気、まさにエルメリア国の至宝である。よって、余は貴公に『男爵』の爵位を授け、正式に貴族の列に加えるものとする!」

広間は凍りついたような静寂に包まれた。  

そして、すぐに堰を切ったような反対の声が上がる。

「陛下! なりませぬ! 叙爵には血筋が必要不可欠! どこの馬の骨とも知れぬ孤児の(やから)に男爵位など、前代未聞にございます!」

「左様! 孤児への褒賞は金銭で十分。貴族の格式を汚すような真似は断じて……!」

保守的な大臣や門閥貴族たちが、顔を真っ赤にして詰め寄る。

彼らにとって、血筋こそが全てであり、レイのような「成り上がり」は生理的な嫌悪の対象でしかなかった。


「黙れッ!!」

ルーヴィンス王の声が、物理的な衝撃を伴って広間に響き渡った。  

王は玉座の前で、反対する家臣たちを鋭い眼光で射抜いた。

「血筋だと? 格式だと? 其方らがその安穏とした暮らしを維持できているのは、誰のおかげだ! バンデリオンの鉄騎兵が王都に迫った時、其方らのうち誰一人として剣を取って戦おうとしなかったではないか!?震えて隠れていただけの者たちが、国を救った英雄を侮辱するなど、恥を知れ!」


ルーヴィンス王の一喝は重く、誰も顔を上げようとはしなかった。

ルーヴィンス王は一歩踏み出し、レイの肩に剣を置いた。

「十一万を退けた英雄に報いずして、誰に報いるというのか! レイ、そなたは、今日この時よりエルメリア王国の男爵である。これに異を唱える者は、余の意志に背く者と見なす!」

「レイ男爵」。

その名は、瞬く間に王国全土、そして隣国バンデリオンにまで響き渡ることとなった。


月日は流れ、季節は四度巡った。

激動の戦争から一年。  

フィルス大村は、もはや「村」と呼ぶには相応しくないほどの発展を遂げていた。  

レイが男爵となったことで、村は正式に彼の「領地」となり、その特産品—―高純度の魔石加工品や、レイが開発した効率的な農耕具—―は王国中の商人を惹きつけた。  

移住者は後を絶たず、周囲には立派な石造りの家々が並び、かつての荒地は黄金色の小麦畑へと変貌していた。

そして、レイ・フィルスは十五歳じゅうごさいの誕生日を迎えていた。

「レイ様、王都より書状が届いております」

ロブが、丁寧な所作で一通の手紙を差し出した。  

金糸で縁取られた、見るからに豪華な封筒。

封蝋ふうろうには、王立の紋章が刻まれている。


「これは……」

レイが中身を改める。  

そこには、エルメリア王国の最高峰の学園、「王立ラザリス学園」への入学案内が記されていた。

ラザリス学園。  

それは、エルメリア王国のみならず、近隣諸国の貴族子弟が集う最高峰の教育機関である。

武術、魔法、政治、歴史、経済。

そこで学べる知識は、領地経営を行う者にとって不可欠なものであった。

同時に、そこは将来の国政を担う者たちが「コネクション」を築くための社交場でもある。

有力貴族の子息であれば通うのが義務に近く、学園での成績はそのまま将来の出世や、有力な働き口への推薦状となる。


「……学園、か」

孤児から男爵へ。

その成り上がりを快く思わない貴族は、王都に山ほどいるだろう。  

学園という場は、彼にとって知識を得る場所であると同時に、彼の失脚を虎視眈々と狙う敵陣のど真ん中でもあった。


「入学試験は明日、か。少々急ぎすぎる気もするが、退屈している暇はなさそうだな」

レイは机の上に置かれた、ゼノが置いていった山のような参考書と、自らが設計した最新の魔法理論書を既に読み終えていた。  

この一年の間、彼は片時も研鑽を怠ってはいなかった。  

戦争が終わっても、人生という名の戦場は続いていた。

「ロブ、この村を頼む。ニーナやガストン、リーンら村長との交渉も任せる。何か問題が起きたら、すぐに知らせろ」

「ご安心ください」


翌朝。  

朝日を背に、レイはシアと共に村を出た。  

目指すは王都、そして未知なる学び舎。  

一介の孤児であった少年の背中は、かつてよりもずっと大きく、頼もしく見えた。  

その胸には、新たなる野望と、まだ見ぬ世界への期待が秘められていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【今話の極小情報:】今回は、貴族について。

~エルメリア王国・爵位制度~ ※降順

王族・皇族(国王とその血族)→公爵(国の柱石。広大な領土を持つ)→准公爵(功績顕著な閣僚など)→侯爵(国境を預かる有力貴族)→伯爵(地方の有力領主)→副伯爵(伯爵の補佐官や功労者)→子爵(中規模の領主)→准子爵(特定の専門職貴族)→男爵(小規模領主、もしくは武勲による叙爵の入り口)→准男爵(一代限りの貴族、騎士爵)

※ここまでが「貴族」として扱われ、減税や裁判権などの特権を有する。

【お読みいただきありがとうございます!】

次話から「学園編」です!!


~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~ 


ふっと二言:「ついに学園編です。皆さまの応援のおかげで、ここまで来れました。感謝です~。シアが共についてきているのは、シアやゼノは一応、貴族です……没落してはいますが。ということで、学園編は基本、シアの登場が多いですが、タイトルにもある通り、そろそろ天下が動きます!」

――――――――【他作品も全力執筆中!】

更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!


・『生涯、20時間睡眠だった俺、夢で組んだ必勝パターンで異世界を攻略する ~無能と蔑まれた公爵家三男の、理想再演・無双譚~』

「夢を追う。non。夢を負うんだ。夢が現実だったらいいのに。non。現実を夢にするんだ。TOPを狙う。non.non.non。そんなの後からついてくる。狙うべきはTOP(テクニカル・オキザリ・プレイ)だろ??」

夢と共に最強に!圧倒的な「勘違い(相互)」×「成り上がり」×「無双&夢想」×「最強」!!


・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』

「動かないだけの者に何がわかる。動けば変わる。今はそう信じろ。」

【戦×無双×成長】 →天下を争う軍記モノです!※後々、魔法や異世界系に変わっていきます!

※初期、1話あたりの字数1万字ちょっと、と長すぎるので、#1-52~からご一読いただけると、字数的にも、よりスムーズかなと……


・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』

「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」

不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!

【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる

⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします! 

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