#35:貴様は生きろ
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遅くなってしまいましたが、本日の投稿は、この#35からスタートです!
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【前話のあらすじ:国境北塞では、シアらの魔導砲とクロムの部隊の攪乱に、ヘルヴァン・ゼファール両軍は苦しめられていた。そんな中、背後にレイの部隊が現れる……戦は終戦へと差し掛かっていた……】
レイたちの部隊が戦場に姿を現した瞬間、その真の意味の重さを最初に理解したのは、前線の兵士たちではなかった。
ヘルヴァン、そしてゼファール。
この戦場を俯瞰し、全体の構造を把握できる立場にある者たちだった。
兵数だけを見れば、まだ形は保っていた。
敵は一万。
バンデリオン王国軍は、士気が大きく削がれているとはいえ、なお二万を超える兵を抱えている。
すなわち、兵数だけ見れば、逆転の余地はあるどころか、バンデリオン王国軍が依然として優勢だった。
しかし、戦は、足し算や引き算だけで決まるものではない。
それは、幾多もの死線を潜り、数多の劣勢を覆してきたゼファール、そして、ヘルヴァン自身がよくわかっていた。
前方。
国境北塞の城壁から放たれる魔導砲が、戦場を「面」で押さえつけている。
進めば削られ、止まれば砕かれる。どちらにせよ、魔導砲によって、隊列が「面」ごと削られていた。
国境北塞を突破するという選択肢は、すでに奪われていた。
背後。
レイが率いる二千の部隊が、「点」となって迫っていた。
それも、ただ正面からぶつかってくるわけではなかった。
さざ波のように押し寄せ、指揮官、補給線、隊列の要といった、軍の骨格を的確に捉えてくる。
そして内側。
クロムの隊が、影のように入り込み、兵士たちを更なる混乱に陥れていた。いつどこから狙われるかわからない。
その恐怖が今や、ヘルヴァン・ゼファール両軍を覆っていた。
それは「包囲」というより「分解」に近かった。
今や、二万の軍は、密集しているといえど、隊列を保っているとは言い難く、各自が「孤立」しているようであった。
なにより、レイたちの部隊が後方に迫っていた。
ドゥラハム軍、三万。あの大軍を、何らかの方法で、壊滅させた。
その事実は、混乱する二万の軍にとって、最も重い意味を持っていた。
ヘルヴァンとゼファールは、その結論に至った瞬間、背中を冷たいものが伝うのを感じていた。
死の匂いが、戦場のあらゆる場所に漂っていた。
焦げた土、湿った鉄、乾ききらない血。
それらが混ざり合い、重く、逃げ場のない空気を作り出している。
ヘルヴァンは、ふと天を仰いだ。
星は見えなかった。夜空は曇っていて、どこかどんよりとしていた。
「……私は、一体どこで道を踏み外したのだろうか」
誰に聞かせるでもない声だった。
思い出すのは、まだ若かった頃の自分だった。
剣を握り、初めて戦場に立った日。
恐怖よりも先に、胸を満たしたのは高揚だった。
守るべきものがあり、信じるべき旗があった。
家族の顔が脳裏をよぎる。
戦地へ向かうたび、黙って背中を押してくれた妻。
まだ小さな手で、甲冑の裾を掴んで離さなかった子どもたち。
(……必ず帰ると、あれほど)
約束は、いつから重さを失ったのだろう。
勝利を重ね、名が広まり、部下が増えるにつれ、自分は「守る者」ではなく、「勝つ者」になっていった。
犠牲は数字になり、撤退は敗北と同義になった。
栄光の日々。凱旋の行進。称賛の声と掲げられた剣。
いつからか、力こそが正義であり、力さえあれば、なんでも押し通せると思うように変わってしまった。
言い訳はしない。変わったのは、自分だったから。
その結果がこれだった。
手も足も出ずに、次々と同胞が無残に地に伏していく。
(私は……このまま、生き残るわけにはいかないな)
ヘルヴァンの胸に、静かな決意が沈んでいく。
逃げることもできる。責任を押し付けることもできる。
しかし、それは自分がすべきことではないと思った。
「最後くらいは……将軍らしく、か」
小さな呟き。 剣を握る手に、力が戻っていた。
恐怖は消えなかった。けれど、迷いは消えた。
この戦場で、自分にできること。
それは、若き者たちが、未来へ進むための“時間”を作ること。
死の匂いに満ちた戦場で、ヘルヴァンは、静かに最期の覚悟を固めていた。
「……ゼファールを呼べ」
前線にいる若き将の名を、呟いた。
ゼファールはまだ若い。けれど、優秀な将だった。
そして、この局面を理解していた。力でねじ伏せられる局面ではないと。
血に汚れた自身の愛剣を杖代わりに立ち、周囲を見渡した。
「……幕か」
その呟きは、絶望ではなく、ある種の覚悟を帯びていた。
敵の練度、士気、そして指揮能力。
すべてが自軍を凌駕していた。
このままでは、王国の未来を担うべき若き才能までがここで枯れることになる。
それだけは、愛する家族の待つ祖国のために阻止しなければならなかった。
戦場の喧騒が、ひとときだけ遠のいたように感じられた。
爆音と悲鳴が交錯する中で、ヘルヴァンは駆け寄ってきたゼファールを真正面から見据えた。
「ゼファール、よく聞け」
低く、しかしはっきりとした声。
それだけで、ゼファールは理解した。これは、命令であり、遺言に等しい言葉だと。
「私が全軍を率いて、正門へ突撃する。城壁の魔導砲、迎撃部隊、そして背後から迫るレイたちの部隊――そのすべての注意を、私が引き受ける。それだけの武働きはこの老将でもまだできる」
「その隙に、貴様は残りの一万をまとめ、戦線を離脱しろ。来た道を引き返すのだ。必ず、生き残れ」
「……閣下!」
思わず、声が裏返る。 ゼファールは一歩、前に出た。
「何を仰るのですか! 私も、私も共に最後までお供します! 閣下お一人に、そのような—―」
「ならぬ!」
雷のような怒声が、ゼファールの言葉を断ち切った。
それは叱責だったが、そこに宿っていたのは怒りではなかった。
必死に感情を押し殺した、切実な叫びだった。
「感情で戦況を見るな!そなたもわかっているはずだ!」
ヘルヴァンは言葉を継ぐ。その声の荒さは次第に静まっていく。
「この国境北塞を、仮に突破できたとしても、その先にはベルナ大村があり、そこには、北方国境守備軍が駐屯している。我らは、そこで殲滅されるだろう。でなくとも、既に、援軍がここに向かってきているかもしれぬ……今の我々に、悠長に血を流し続ける余裕はない。そうであろう?」
ヘルヴァンはさらに一歩近づき、ゼファールの肩に手を置いた。
分厚く、傷だらけの手だった。数えきれないほどの戦をくぐり抜けてきた証。
その重みが、ゼファールの肩を通して胸にまで伝わってくる。
「貴様は生きろ」
その一言は、命令ではなかった。 願いだった。
「この敗北を、この地獄を……その目に焼き付けて持ち帰れ。そして、二度と同じ過ちを繰り返すな。それが……生き残る者の務めだ」
ゼファールの喉が、ひくりと鳴った。
視界が滲む。
涙は流さなかった。流してしまえば、もう立っていられなくなる気がした。
(なぜ……なぜ、この人は……)
ゼファールは、ヘルヴァンと出会った頃を思い出していた。
若く、未熟だった自分を、何度も叱り、何度も救ってくれた存在。
将としての在り方を、人としての在り方を、その背中で教えてくれた存在。
唇を噛み締める。血の味がした。
「……承知、いたしました」
震える声を、必死に抑え込む。
「……必ず、生き延びます。この敗北を、無駄にはしません」
深く、深く頭を下げる。
「……御武運を。ヘルヴァン将軍」ゼファールは片膝をつき、武人の礼をとった。
ヘルヴァンは一瞬だけ目を閉じた。
そして、小さく、本当に小さく、微笑んだ。
「行け」 それが、最後の言葉だった。
「撤退せよ!」
ゼファールは振り返らなかった。
振り返ってしまえば、足が止まる。声を上げてしまう。だから、前だけを見て走った。
背後で、角笛が鳴り響く。 ヘルヴァンが全軍に突撃を命じた合図だ。
老将は、迫り来る光と刃の嵐の中へ、ただ一人、背筋を伸ばして歩み出ていく。
その背中は、どこまでも大きく、そして――あまりにも、孤独だった。
ゼファールの頬を、ついに一筋の涙が伝った。
それは、戦場に捧げる祈りであり、未来へ託された誓いだった。
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cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300
【今話の極小情報:】今回も、読者の皆様が忘れていらっしゃると思い、お節介を少し。
今回、ご紹介するのは、ケヴィン(ビサ村)とトビアス(ローヌ村)のステータス。一応、二人の初登場は#22の「ビサ村警備隊の狙撃犯のケヴィン」、そして#23の「ローヌ村の石工長で熟練石工のトビアス」として登場しております。現在、ケヴィンは、カイル率いる遊撃隊の副長として、トビアスはフィルス大村の村人として、活躍?しております(笑)
ケヴィン:【名:ケヴィン 年齢:200】【MP:2500】【ステータス】武力:170.B(180.B) 知力:180.B(210.B) 統率:160.B(190.B) 政治:70.D(70.D)【サブステータス】兵法:160.B(190.B) 馬術:150.C(160.B) 陸戦:180.B(190.B) 海戦:150.C(160.B) 工作:140.C(160.B) 諜報:170.B(190.B) 農耕:100.C(120.C) 商業:100.C(120.C) 建築:110.C(160.B) 成長:180.B(210.B) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 槍術(D) 弓術(B) 精霊魔法(C) 探索(A)
トビアス:【名:トビアス 年齢:38】【MP:50】【ステータス】武力:100.C(150.C) 知力:140.C(160.B) 統率:150.C(180.B) 政治:90.D(100.C)【サブステータス】兵法:100.C(100.C) 馬術:130.C(160.B) 陸戦:100.C(150.C) 海戦:130.C(160.B) 工作:250.A(260.A) 諜報:120.C(120.C) 農耕:150.C(180.B) 商業:150.C(180.B) 建築:230.A(260.A) 成長:150.C(150.C) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 投擲術(D) 探索(D) 鍛冶(B)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、ヘルヴァンが……
~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~
ふっと二言:「まずは、投稿が遅れてしまい申し訳ないです……。ここでは、ヘルヴァンについて少し。個人的には、戦記のつもりはないので、ヘルヴァンの扱いをどうしようかと迷ったのですが、レイの側だけでなく、敵の視点も織り交ぜたいなと思い、ヘルヴァンを少し丁寧に執筆しようと思いました。人によっては蛇足なのかもしれませんが、お付き合いくだされば、幸いです」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『生涯、20時間睡眠だった俺、夢で組んだ必勝パターンで異世界を攻略する ~無能と蔑まれた公爵家三男の、理想再演・無双譚~』
「夢を追う。non。夢を負うんだ。夢が現実だったらいいのに。non。現実を夢にするんだ。TOPを狙う。non.non.non。そんなの後からついてくる。狙うべきはTOPだろ??」
夢と共に最強に!
圧倒的な「勘違い(相互)」×「成り上がり」×「無双&夢想」×「最強」!!
・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』
「動かないだけの者に何がわかる。動けば変わる。今はそう信じろ。」
【戦×無双×成長】 →天下を争う軍記モノです!※後々、魔法や異世界系に変わっていきます!
※初期、1話あたりの字数1万字ちょっと、と長すぎるので、#1-52~からご一読いただけると、字数的にも、よりスムーズかなと……
・ロード・オブ・ザ・キャット ~「人生」取り戻したいだけの猫(元人間)が、無自覚に神獣へ進化した結果、人類最強が首輪を持って泣きついてくる件。これって営業妨害ですか?
「可愛いからって舐めないで。僕の敏捷、150はあるから。」
圧倒的な「猫の可愛さ」×「人類の勘違い」×「チート無双」! 僕を人間に戻せる(評価をくれる)のは、読者の貴方だけです。
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
不自由を極めた過去を、最強の自由で塗り潰す!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。
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