#34:そろそろ出るぞ
[火急の用があり、投稿がだいぶ遅くなってしまいました。明日は他作品も含めて、多めに投稿します!申し訳ないです……全作品、一応、明日の6:00~投稿予定です。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします]
【前話のあらすじ:ドゥラハムの追撃を狙って、水蒸気爆発により、ドゥラハム軍を壊滅させたレイたち。次の標的は……】
国境北塞を包む冬の夜気は、本来であれば鋭く、肺を切り裂くような冷たさを帯びているはずだった。
焦げた鉄の匂い。乾ききらない血の生臭さ。
それらが混じり合い、冷気を押し流すように、ぬるく重たい風となって城壁の上を漂っている。
白い吐息はとっくに出なくなり、代わりに、吐息が漏れるたびに、喉の奥にざらついた熱が残った。
城壁の頂。
積み重ねられた石の縁に沿うようにして、十基の巨大な装置が据え付けられていた。
太い鉄の筒。
無数の魔導紋が刻まれ、内部を流れる魔力が脈動するたび、鈍い光が外殻を走る。
新設された魔導砲だった。
シアはその傍らに立ち、最後の調整を終えたところだった。
指先で操作盤をなぞり、魔力の流れを確かめる。
「ポール、ダン、ブライス、調整は終わったかしら?」
「「「おう!」」」
「シアちゃん、こっちも終わったぜ!」パーシーが威勢よく言う。
ウェストとブルックも調整を終えていた。
「魔導回路、接続確認」
シアの淡々とした声が、風に溶ける。
「充填率……百二十パーセント」
敵は八万。それゆえに、今夜に限って、その判断は許されていた。
「……目標、王国軍中央。魔導重装歩兵大隊」
眼下には、闇の中でもはっきりと分かる密集した陣形があった。
重厚な盾、分厚い魔導甲冑。
歩を進めるたび、金属同士が擦れ合う重い音が、地鳴りのように伝わってくる。
バンデリオン王国が誇る、正面突破の象徴でもあり、堅守の象徴とも言うべき部隊だった。
「放てっ!」 号令が下った瞬間、大気が鳴動する。
魔導砲の砲身が低く唸り、次の瞬間、眩い光が解き放たれる。
それは炎というよりも、一直線に伸びる“熱そのもの”だった。
夜を切り裂き、視界を白く染め上げながら、迷いなく目標へと突き進んでいく。
衝撃音は、遅れてやってきた。
耳が理解するより先に、身体が震える。
先頭の盾が、形を保てずに崩れていく。
続いて鎧が歪み、耐久を誇った魔導甲冑が、熱に抗いきれず光の中に飲み込まれていく。
それは一瞬のことで、脳が理解できるのは、隊列の一角が、まとめて視界から消えたということだけだった。
光の筋が通り過ぎた後、そこに残っていたのは、黒く焼け焦げ、地表が抉られた帯状の痕跡だった。
人の姿はなかった。叫び声も、倒れ伏す影も見当たらなかった。
最初から、そこに何もなかったかのように、ただ、ぽっかりと空いた空白だけが、戦場に刻み込まれていた。
「……な、なんだ、今のは……?」
城壁の下方で、ヘルヴァン軍の将校が、かすれた声を漏らす。
誰も答えられなかった。何が起きたのかすら、分からなかった。
王国軍の魔導重装歩兵。
その装備は、あらゆる魔法攻撃を想定し、幾重もの防護を施されたものだ。
正面から崩せる存在ではない。それが、これまでの常識であり、その堅守故に、バンデリオン王国の魔獣部隊と並ぶ、軍の誇りだった。
今や、その常識が、音を立てて、崩れ落ちていく。
隊列の中程にあったはずの部隊だけが、まるで最初から配置されていなかったかのように失われていた。
地形だけが変わり、兵の姿はどこにも見当たらない。
そして、状況を飲み込むより先に、背筋を伝う冷たい感覚だけが広がっていく。
しかし、戦場で、立ち止まることは許されなかった。
「第二砲、用意」
シアの声が、再び響く。
魔導砲の内部で、魔力が集束していく。
敵陣の奥から、ようやく混乱した声が上がり始める。
隊列が揺れ、命令が錯綜する。後退を叫ぶ声、前進を促す怒号。
だが、どれもが遅かった。
城壁の上で、シアは静かに照準の修正を完了させていた。
戦争そのものの在り方が、音もなく塗り替えられていく瞬間だった。
「—―そろそろ出るぞ」
城壁から落ちたその声には、昂りも、躊躇もなかった。
感情を排した淡々とした声。
次の瞬間、城壁の縁から無数の影が躍り出る。
クロムを先頭にした五百名の部隊が、城壁から音もなく飛び降り、夜気を切り裂いて地へと降り立った。
着地の衝撃は最小限に抑えられ、土を踏む音すら、戦場の喧騒に紛れて消えていた。
彼らは着地と同時に走り出していた。
戦場を横切る黒い奔流。
それが何であるかを理解する前に、ヘルヴァン・ゼファール両軍の指揮系統は、内側から切り裂かれ始めた。
「敵だ、警戒――」
声が上がり切る前に、死角から伸びた刃が不気味な光りを放つ。
喉元、脇、関節。
甲冑の厚みを避け、急所だけを狙った一撃が、次々と指揮官たちを沈黙させていく。
命令が届かない。指示が途切れる。バンデリオン王国軍の隊列が、目に見えない亀裂によって崩れていく。
その先頭にクロムがいた。
振り返ることも、周囲を見渡すこともなく、ただ前へ進み続ける。
彼の短剣が左右に振るわれるたび、一人、また一人と戦線から脱落していく。
無表情のまま、正確に、無駄のない動きで仕留めていく。
まるで、最初から決められた順番をなぞるかのような動きで敵陣を切り裂いていく。
さながら、処刑人のようであった。
「あ奴を止めるのだ!」
焦ったように、ヘルヴァン側から号令が飛ぶ。
呼応するように、ゼファール軍の重装騎兵が前に出た。
厚い鎧に覆われた騎士と軍馬。
質量と速度を兼ね備えた突撃は、通常ならば戦場を制圧する切り札のはずだった。
堅い甲冑と馬の機動力で破壊と堅守を高い次元で両立させたのが重装騎兵だった。
「重装騎兵か」 淡々とした声。
「足が止まれば、ただの案山子だ」
クロムの手元から投擲ナイフが放たれる。
風を裂く鋭い軌道。
狙いは鎧ではなかった。馬の関節、可動部、装甲の継ぎ目。
考え抜かれた角度で放たれた刃が、正確にそこを穿った。
悲鳴と共に、突進していた騎兵が崩れ落ちる。
倒れた巨体は進路を塞ぎ、後続の騎兵と歩兵を巻き込み、混乱を拡大させていく。
速さは、もはや武器ではなかった。
重さも、守りも、ここでは意味を失っていた。
クロムの隊が戦場の奥へ、さらに深く食い込んでいく。
この苛烈極まる迎撃とシアらの魔導砲により、戦況は一気に傾いていた。
ヘルヴァン軍は五万の兵力を誇っていたが、その数は急激に減じ、今や二万にまでその兵力を落としていた。
ゼファール軍もまた三万から二万へと戦力を削られ、両軍合わせて、四万に及ぶ兵が戦場から失われていた。
城壁の上。
その光景を見下ろしながら、ゼノは舌を巻いていた。
「……凄まじいな」
率直な感嘆が零れ落ちる。
「ヘルヴァン軍は完全に混乱している。指揮系統が崩れ、動きが鈍くなっている」
「だが、ゼファール軍は違う」
二万にまで減じたゼファール軍の将兵は、同胞の倒れた場所を踏み越えながらも、隊列を立て直していた。
盾を構え、間隔を揃え、呼吸を合わせる。一糸乱れぬ動きで瞬く間に隊列が整っていく。
「あれほどの被害を受けながら、なお秩序を保っている……」
ゼノの目が細まる。
「ゼファール……」
その時だった。
王国軍の背後から地響きのような怒号が響き渡った。
「—―総員、突撃! バンデリオン王国軍の背を喰らうのだ!」
風魔法によって、黒岩の森を最短距離で抜けたレイら二千の精鋭だった。
「馬鹿な!?」「なぜ背後にいる!?」「速すぎる……」「ドゥラハム将軍は討たれたのか!?」
戦は確実に終わりの鐘を鳴らしていた。
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cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300
【今話の極小情報:】今回も、読者の皆様が忘れていらっしゃると思い、説明を少し。
今回、ご紹介するのは、マルタ(モントス村)とサリナ(モントス村)のステータス。一応、二人の初登場は#22の「モントス村の女性のまとめ役のマルタ」、そして「マルタの娘のサリナ」として登場しております。現在、お二人には、モントス村の食事処を担当していただいております!
マルタ:【名:マルタ 年齢:34】【MP:100】【ステータス】武力:20.F(50.E) 知力:80.D(110.C) 統率:160.B(170.B) 政治:30.E(60.D)【サブステータス】兵法:10.F(60.D) 馬術:10.F(30.E) 陸戦:20.F(20.F) 海戦:30.E(40.E) 工作:140.C(160.B) 諜報:20.F(50.E) 農耕:60.D(70.D) 商業:160.B(180.B) 建築:10.F(50.E) 成長:120.C(120.C) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 調理(A)
サリナ:【名:サリナ 年齢:17】【MP:150】【ステータス】武力:100.C(100.C) 知力:120.C(130.C) 統率:60.D(150.C) 政治:10.F(120.C)【サブステータス】兵法:100.C(100.C) 馬術:100.C(150.C) 陸戦:100.C(150.C) 海戦:140.C(160.B) 工作:120.C(170.B) 諜報:60.D(120.C) 農耕:50.E(70.D) 商業:150.C(190.B) 建築:30.E(60.D) 成長:190.B(210.B) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 投擲術(C) 調理(B)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、終戦!!
~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~
ふっと二言:「「まえがき」にも書きましたが、申し訳ないです……明日は、全作品、複数話投稿予定ですので、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。本日は、筆者の私事の都合で、申し訳ないです……」
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圧倒的な「猫の可愛さ」×「人類の勘違い」×「チート無双」! 僕を人間に戻せる(評価をくれる)のは、読者の貴方だけです。
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
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