#33:第二の策だ
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【前話のあらすじ:ドゥラハムの魔獣部隊の魔獣の驚異的な嗅覚を逆手にとって、混乱に陥れたレイ。レイの次なる手は……】
追撃の果てに、ドゥラハムたちの前に現れたのは、巨大な木造の砦だった。
「……ハッ」 ドゥラハムは鼻で笑った。
「これが奴らの最期の砦か?」
その砦はあまりにも無骨で、粗雑だった。
急ごしらえなのは一目瞭然で、木材の継ぎ目は甘く、壁も薄い。
投石機も弩弓も見当たらず、城壁の上に人影すらいなかった。
「ただの時間稼ぎのハリボテだ」 嘲りを含んだ声が森に響く。
「あんなもの、数で押し潰せば一瞬で塵になる。全軍、密集体系! そのまま砦を粉砕し、村へ雪崩れ込むぞ!」
勝利を確信した号令に応じ、二万の軍勢が雄叫びを上げた。
歩兵の列が砦へとなだれ込み、地響きが空気を震わせる。
足元には浅い水溜まりが無数に広がっていた。
連日の雨の名残にしては、少し雨量が多かった。
しかし、鉄に身を包み、興奮と殺意に支配された兵士たちは、その違和感に目を向けることはなかった。
水を踏みしめる音が、次第に重く、鈍くなっていく。
風が鳴いていた。
レイは眼下に広がる光景を見下ろしていた。
密集した兵の群れ、濁った水面、そして、もはや引き返せぬ位置まで踏み込んだドゥラハム軍。
そのすべてを、レイの瞳は映していた。
恐怖も、憐憫も、勝利の高揚すらもない。ただ事実を事実として見下ろす、冷え切った視線。
「ドゥラハム、お前の敗因は、力のみを信じ、この世界の『理』を学ばなかったことだ」
レイは、ゆっくりと右手を持ち上げる。
まるで指揮者が、演奏の始まりを告げるかのような、静かな所作だった。
「結界は張り終えた。ニーナ、いけるか?」
「いつでもいいわ」
レイは小さく頷く。
「行くぞ!!」
ドゥラハム軍の兵士たちが、次第に騒がしくなっていく。
「な、何だ……?」 「熱い……息が……!」
「—―水は満ち、熱は集う。静は限界に達し、理は臨界を越える。相を変え、世界を裂け—―焔核爆裂」
レイとニーナの手に魔力が集まっていく。そして、やがてそれは大きな火球となり、森に放たれた。
火球は、ただ真っ直ぐに落ちていく。
「ま、まさか……」「に、にげろぉぉぉ!」
狙いは兵士ではなかった。
火球は、森の土に含まれる、無数の「水分」に着弾する。
ドォォォォォォォン!
光が爆ぜ、視界が白く染まっていく。
レイが狙ったのは、「水蒸気爆発」であった。
森の土に染み込んでいたのは、魔法によって生成され、さらに圧縮された膨大な量の水。
そこへ、太陽の表面温度にも匹敵する高温の熱源が叩き込まれる。
水は、悲鳴を上げる暇すらなく、瞬時に化学変化を起こす。
液体から気体へ。体積は、およそ千七百倍。
大地を抉る衝撃波。鎧を内側から叩き潰す圧力。
肺を焼き、皮膚を剥がす、数百度に達する過熱水蒸気の壁。
「ぐ、あああああッ!!」 「助け――ッ!」
鉄が歪み、人が吹き飛び、隊列という概念が完全に消滅する。
森は今、巨大な墓標と化していた。
「な……が、は…………!?」
ドゥラハムの言葉は、衝撃波によって掻き消された。
最前列にいた兵士たちは、一瞬にして蒸発し、後方の兵士たちは「空気の槌」に叩き潰されていた。
三万の密集体系は、この物理法則の前では、何の意味もなさないどころか、格好の的となった。
轟音が谷を揺らし、白い霧が立ち込める。
先ほどまで威風堂々と進軍していたドゥラハム軍は、今や見る影もなかった。
ほとんどが今や地面に伏したまま、ピクリとも動かなくなっていた。
一瞬にして堅固な魔法障壁を展開できた、一千名程が辛うじて生き残っていた。
「……終わらせるぞ」
レイの声が、霧の中から響いた。
レイの声を合図に、ロブやニーナ、ガストンらの部隊が一斉に、襲い掛かる。
そして、レイは、 白い霧の向こうを目指して歩を進めた。
霧が晴れ始めた戦場の中央。
そこには、血を吐きながら膝をつくドゥラハムの姿があった。
漆黒の甲冑は今や泥にまみれ、威厳や貫禄などというものは、瞬く間に失われていた。
「おの……れ……。貴様、何をした……。どんな、呪いを使った……ッ!」
ドゥラハムが、震える手で剣を構え直す。
彼のプライドは、この惨状が「ただの水と火の組み合わせ」で起きたことなど、到底認められるはずがなかった。
「呪いではない。物理現象だ。そう言っても、お前には理解できないだろう。そして理解したくもないはずだ」
レイは冷淡に言い放つ。
「お前たちが蛮勇を誇っている間に、俺たちは勝利を得るための準備を進めていた。慢心した。それが、ドゥラハム、お前の敗因だ」
「黙れぇぇぇ!死ねぇぇぇ!!」
ドゥラハムが、跳躍した。
巨体に見合わぬ速さで、レイの頭上へと剣を振り下ろす。
ヒュン。 レイは瞬時に半歩下がる。ドゥラハムの剣は空を切った。
「馬鹿め!かかったな!」
ドゥラハムは、そのまま、右足をばねにして、レイの心臓めがけて、剣を突く。
「かかったのはお前だ……」
レイが体をそらす。ドゥラハムとレイがすれ違う。
バシュッ。
ドゥラハムの視界が、一瞬だけ上下に揺れた。
「……なぜだ?」
「無駄のない、いい動きだった。安らかに眠れ、ドゥラハム」
背後で、レイが剣を鞘に収める音がした。
ドゥラハムが何かを言いかけ、口を開く。
しかし、言葉は紡がれなかった。
ドゥラハムの巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
バンデリオン王国軍副将ドゥラハム戦死。
「……掃討を続けろ。一人も逃がすな」
レイは周囲の惨状に目を向けることなく、静かに命じた。
「黒岩の森」を埋め尽くした三万の軍勢。
それは、一人の少年の知略と、わずか二千の兵によって、たった1日のうちに壊滅したのであった
戦場に立ち込めていた水蒸気が、冷たい夜風に吹かれて消えていく。
月明かりに照らされたレイの横顔は、勝利の喜びに浸るわけでもなく、ただ次の盤面を見据えていた。
リーンたちは、森の入り口で待機していた。
「……レイ。本当に、三万を?」
「ああ。ドゥラハムも討ち取った。ガストンとロブが残敵を処理している。ニーナも無事だ」
「貴方が味方で本当によかったわ」リーンが微かにほほ笑む。
「リーンさん、カイル、ここの護りを頼みます。ルード、バイスの部隊は俺と来い!「黒岩の森」を抜けるぞ!」
「森を抜けるのですか?国境北塞へは?」
「第二の策だ」レイは淡々と言い放った。
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cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300
【今話の極小情報:】今回も、読者の皆様が忘れていらっしゃると思い、お節介を少し。
今回、ご紹介するのは、ミラ(ビサ村)とマルコ(モントス村)のステータス。一応、二人の初登場は#22の「ビサ村で一番の魔法工作士のミラ」、そして「表モントスと裏モントスを分ける関門の施工を行った熟練石工のマルコ」として登場しております。現在は、お二人とも、フィルス大村ライフを満喫しております(笑)
ミラ:【名:ミラ 年齢:200】【MP:1500】【ステータス】武力:70.D(80.D) 知力:180.B(210.B) 統率:60.D(70.D) 政治:70.D(80.D)【サブステータス】兵法:100.C(100.C) 馬術:50.E(60.D) 陸戦:50.E(70.D) 海戦:50.E(60.D) 工作:240.A(260.A) 諜報:120.C(150.C) 農耕:100.C(160.B) 商業:160.B(180.B) 建築:210.B(250.A) 成長:160.B(180.B) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 精霊魔法(C) 鍛冶(D) 錬金(C) 鑑定(E)探索(A)
マルコ:【名:マルコ 年齢:32】【MP:200】【ステータス】武力:110.C(130.C) 知力:140.C(150.C) 統率:100.C(120.C) 政治:90.D(120.C)【サブステータス】兵法:100.C(100.C) 馬術:130.C(150.C) 陸戦:130.C(150.C) 海戦:170.B(180.B) 工作:240.A(260.A) 諜報:220.B(220.B) 農耕:150.C(170.B) 商業:150.C(150.C) 建築:230.A(260.A) 成長:170.B(180.B) 忠誠:100【固有スキル】--【スキル] 投擲術(C) 探索(B) 鍛冶(C) 隠蔽(C)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、ゼファール登場!!
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ふっと二言:「三万を二千で殲滅……。レイがどんどん人間を辞めていきますが、安心してください、別作品の『ロード・オブ・ザ・キャット』では猫(元人間)が神獣になってます。人間を辞めるのも楽じゃありませんね(笑)。筆者も、別作品の「睡眠時間20時間のあいつ」のように夢の中で執筆パターンを組めたらいいのですが、現実は非情です。起きて書きます!これからも、応援のほど、よろしくお願いします!他作品については、明日更新する予定です……」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『生涯、20時間睡眠だった俺、夢で組んだ必勝パターンで異世界を攻略する ~無能と蔑まれた公爵家三男の、理想再演・無双譚~』
「夢を追う。non。夢を負うんだ。夢が現実だったらいいのに。non。現実を夢にするんだ。TOPを狙う。non.non.non。そんなの後からついてくる。狙うべきはTOPだろ??」
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圧倒的な「勘違い(相互)」×「成り上がり」×「無双&夢想」×「最強」!!
・『【武の極致】と【フェンリル】の力を以て、三つの世界で覇者となった俺』
「動かないだけの者に何がわかる。動けば変わる。今はそう信じろ。」
【戦×無双×成長】 →天下を争う軍記モノです!※後々、魔法や異世界系に変わっていきます!
※初期、1話あたりの字数1万字ちょっと、と長すぎるので、#1-52~からご一読いただけると、字数的にも、よりスムーズかなと……
・ロード・オブ・ザ・キャット ~「人生」取り戻したいだけの猫(元人間)が、無自覚に神獣へ進化した結果、人類最強が首輪を持って泣きついてくる件。これって営業妨害ですか?
「可愛いからって舐めないで。僕の敏捷、150はあるから。」
圧倒的な「猫の可愛さ」×「人類の勘違い」×「チート無双」! 僕を人間に戻せる(評価をくれる)のは、読者の貴方だけです。
・『生涯、病室だった俺、異世界で自由な体を手に入れたので、天下を獲ることにした』
「窓の外を眺めるだけの日々は終わった。今度は俺が、世界に眺められる番だ。」
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【戦×無双×成り上がり×領地経営】 ――病室を抜け出した俺の、天下取りが今始まる。
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