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#30:策だ

【ブクマ・リアクション増加感謝です!!】

~引き続き、ブックマーク・評価・リアクション・感想等いただければ、執筆の励みになります~


【前話のあらすじ:ルーヴィン王と語り合い、シリスと親交を深めたレイ。しかし、そのフィルス大村にバンデリオン王国軍が侵攻しようとしていた……】

シレハ村の執務室には、重苦しい沈黙が張りついていた。

暖炉の火は穏やかに燃えているはずなのに、室内の空気はひどく冷たく感じられる。

レイは執務室を何かを待つように歩き回っていた。


ガン、と音を立てて扉が開かれる。

飛び込んできたのは、ビサ村の村長リーンだった。

呼吸はわずかに荒く、唇は乾いていた。

「レイ!」 リーンの声は焦燥を含んでいた。

「バンデリオン王国軍が出発したわ! 国境を越えて、こっちへ向かっているみたい!」


執務机から少し離れ、窓辺に立っていたレイは、すぐには振り返らなかった。

外では、いつもと変わらない村の風景が広がっている。

畑を耕す者、行き交う商人、子どもたちの笑い声。

三日後に十一万の軍勢が押し寄せるとは、とても思えないほど、平穏そのものだった。


やがて、ゆっくりとレイは振り返る。

驚きも、動揺も、怒りもない。まるで事前に知っていたかのようだった。

「……到着はいつだ」 低く、淡々とした声。

リーンは一瞬、その態度に言葉を詰まらせる。

「三日後よ。軍容は……そうね、正直に言うわ。絶望的と言わざるを得ないわ」

彼女は懐から分厚い報告書を取り出し、机の上に広げた。

羊皮紙にびっしりと書き込まれた数字と部隊編成。

それらを、レイはまるで商談の帳簿でも確認するかのような冷徹な眼差しで追っていく。

「やはり、十一万か……」

リーンが、少し訝しみながら、室内に重い声を響かせる。

「軍容の詳細を伝えておくわ。総大将はヘルヴァン。五万の『魔導重装歩兵』を率いているわ」

「全身に魔導防御を施した装甲を纏い、物理も魔法も通りにくい。特に魔法戦では、正直隙が無いわ」

レイは黙って頷き、視線を次へ移す。

「副将、ゼファール。三万の『重装騎兵』を率いている」

鋼鉄の鎧に身を包んだ騎兵。突撃一度で戦線を粉砕する、人と馬が一体となった破壊兵器。

「弓も、槍も、盾も……正面からじゃ止められないわ。それに膂力だけじゃなくて、ある程度、耐久力があるわ。それと、ゼファールはバンデリオン王国の名将よ……」

リーンが少し息を吐く。

「もう一人の副将はドゥラハム。三万の『魔獣部隊』を引き連れているわ」

リーンは一瞬、言葉を区切った。

「凶暴な魔獣を従え、歩兵の隊列を正面から踏み潰す……バンデリオン王国の象徴的戦力よ。小規模の都市国家を一つ、半日で壊滅させた前例があるわ」

リーンが報告を終えると、室内を再び沈黙が覆っていく。


対するフィルス大村は、戦える者をかき集めてもせいぜい一万がいいところだった。

「一対十一……か」 レイは小さく呟いた。

レイの声には、なんの感情も含まれていなかった。

「ダレイを呼べ」

ほどなくして、ガラム村の村長、ダレイが入ってくる。

「レイ、どうした?なんかあったのか?」

「ダレイ、戦だ。ルーヴィンス王に急報を。バンデリオン王国侵攻の報せと、こちらの防衛体制を伝えてくれ」

「それから、ローヌ村にいるゼノを呼べ。……そうだな、クロムとやらも来ているはずだ。クロムも呼べ」

「任せとけ!それと、レイ、後ろには俺らがいる!あまり気張るなよ!」

ダレイはそう言うと、執務室を後にした。

なんだか、肩の力が抜けていくのがわかった。


数刻後。

執務室に現れたのは、アストラル商会の会頭ゼノと黒衣の衣に身を包んだ男だった。

フードを深く被ったその男こそがクロムである。

クロムは、商会の副頭にして、大陸全土に張り巡らされた密偵網の責任者でもあった。

フードの隙間から覗く双眸は、剃刀のように鋭く、レイを値踏みするように観察していた。

「クロム、感謝する」

レイの声に、クロムはわずかに眉を動かす。

「お前の潜伏させていた密偵の情報がなければ、この三日の猶予は得られなかっただろう」

「……礼には及びません」

クロムは淡々と答える。

「ゼノの命令でやったまでです。メロディル経由の速報が間に合ったのなら……ゼノに礼を」


レイはゼノを一瞥する。 当の本人は、いつもの調子でニヤニヤと笑っていた。

「ゼノ」「はい! ここにおります!」

「お前も今回、戦場に出ろ」

「……へ?」

ゼノの笑顔が、見事なまでに凍りつく。

「え、えっと、その……レイ様。実は私、腹を下しておりまして……」


「クロム」 

クロムが即座に剣を抜いた。

「ちょっ、待っ――」

ビュン。乾いた音。

バシュッ。床に落ちる、小さな物体。

「あ、ギャアアアッ!!」 ゼノの悲鳴が執務室に響く。

クロムは床に転がるそれを拾い上げ、冷静に観察した。


「傍受型の魔導アイテムですね」 淡々とした声だった。そこには何の感情も乗っていないように思われた。

「魔力に暗号を刻み、大気中へ拡散する。周囲の魔力を媒介に、遠距離で傍受可能にする代物のようです」

クロムの言葉に、ゼノの顔は、すっかり青ざめていた。

「ゼノ、気にするな」 レイは、淡々と言った。

「それより……これは奴らの仕業か?」

ゼノは一瞬、逡巡し、それから首を横に振った。

「……いえ。少なくとも、バンデリオン王国ではありません」

「これは、精巧すぎます。レイ様の隠蔽を潜り抜ける代物など……奴らには作れるはずがありませんから」

執務室の空気が、さらに重く沈んだ。 戦争は、すでに始まっている。

しかも、盤上にいるのは、バンデリオン王国だけではない、そんな不吉な予感が、彼らの頭をよぎる。


レイは一瞬だけ視線を床に落とし、静かに息を吐いた。

「……移動するぞ」

短い言葉とともに、場の空気が切り替わる。

向かった先は、ビサ村の地下深奥。

幾重にも張り巡らされた遮音魔法と、魔力探査を完全に遮断する隠蔽工作の施された空間、「密議の間」だった。


円卓の周囲に集ったのは、この戦において、中核を担う者たちだった。

ビサ村の村長のリーン、ビサ村警備隊隊長のルード、ビサ村警備隊副長のバイス、ビサ村遊撃隊隊長のカイル、そしてニーナ、シア、ロブ、ガストン。

加えて、アストラル商会のゼノとクロム。

誰もが無言のまま席に着き、自然と視線は円卓の中央へ集まった。

リーンが地図を広げ、木製の駒を二つ、重く置く。

「敵は二手に分かれています」 

「ゼファールと総大将ヘルヴァンの本隊、八万。こちらは最短ルートである『国境北塞ノース・フォート』へ向け、街道を直進しているようです」

彼女は駒を北塞へ滑らせる。

「そして、ドゥラハム率いる三万。北の『黒岩の森』を抜け、我々の背後を突く構えのようです」


誰もが地図を見つめたまま、言葉を失っている。兵力差は一目瞭然だった。

村を捨てれば、勝機はあった。

というのも、この戦では、ただでさえ、少なく、そして貴重な兵力を、黒岩の森と国境北塞(ノース・フォート)の双方に割く必要があるからである。


トン。 レイの指先が、地図上の一点を叩いた。

「先に、ドゥラハムを食う」

誰も理解が追いつかなかった。

「――なっ!?」 声を上げたのは、遊撃隊長のカイルだった。

椅子をきしませ、身を乗り出す。

「レイ様! ドゥラハム軍は三万の魔導重装歩兵ですよ! 森の中とはいえ、正面からぶつかれば……」

「正面からは戦わない」 レイは即座に切り捨てる。

「ニーナ、ガストン、ロブを含めて、計二千を俺が率いる。黒岩の森で奇襲をかけ、一気に殲滅する」

空気が凍りついた。

二千で三万。しかも、視界も悪く、隊列も組みにくい森の中である。

常識で測れば、狂気の沙汰だった。


しかし、レイの声には一切の迷いがなかった。

「国境北塞の守備には、ゼノ、クロム、シア。計六千を配す」

指示は淡々と続く。

「残る二千は予備。ルードとバイスの千はシレハ村側の砦へ。リーンとカイルの千はビサ村側の砦へ入ってくれ。黒岩の森から流れてきた敵の掃討を頼む」

「観光客や民衆は、混乱を避けるため自然な形で避難させる。ハワードとダレイ、ヴォルターに急ぐようには伝えたが、少なくとも時間がかかるだろう。それまで――何が何でも持ちこたえる必要がある」


「レイ様」 警備団長ルードが、重々しく口を開いた。

「先ほど、ベルナ大村のバルム大村長から了承を得ました。国境守備軍は、予定通り一歩後方、ベルナ大村まで後退しています」

「……エルガン軍長率いる北方国境守備軍も、総員後退済みです」

「なんですと!」 ゼノが、思わず円卓を叩いた。

「国境守備軍を下げたのですか!? それでは北塞は、もぬけの殻です!」

焦りと怒りが剥き出しになる。

「十一万の軍勢に、“どうぞ入ってください”と言っているようなものではないですか!」

「策だ」 レイは、氷のように冷たい声で言い放った。

その一言に、反論は封じられた。

今や、レイの中には、十一万を一万で沈めるための策が構築されていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

cf.)F:1~20 E:21~50 D:51~90 C:91~150 B:151~220 A:221~260 S:261~300

【今話の極小情報:】ヘルヴァンとドゥラハムのステータス。

ヘルヴァン:【名:ヘルヴァン 年齢:52】【MP:1000】【ステータス】武力:170.B(210.B) 知力:210.B(210.B) 統率:230.A(230.A) 政治:100.C(100.C)【サブステータス】兵法:160.B(160.B) 馬術:170.B(170.B) 陸戦:150.C(160.B) 海戦:120.C(150.C) 工作:100.C(100.C) 諜報:100.C(110.C) 農耕:70.D(70.D) 商業:80.D(80.D) 建築:110.C(110.C) 成長:140.C(140.C) 忠誠:--【固有スキル】--【スキル] 剣術(B) 体術(C) 投擲術(D) 雷魔法(D) 氷魔法(C)


ドゥラハム:【名:ドゥラハム 年齢:35】【MP:300】【ステータス】武力:180.B(220.B) 知力:120.C(120.C) 統率:150.C(180.B) 政治:50.E(50.E)【サブステータス】兵法:70.D(90.D) 馬術:230.A(240.A) 陸戦:200.B(200.B) 海戦:160.B(170.B) 工作:60.D(70.D) 諜報:150.C(160.B) 農耕:30.E(30.E) 商業:40.E(40.E) 建築:60.D(60.D) 成長:110.C(110.C) 忠誠:--【固有スキル】--【スキル] 剣術(D) 弓術(E) 体術(C) 投擲術(E) 探索(C) 闇魔法(D)

【お読みいただきありがとうございます!】

次話は、ついにレイの策が!!


~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~ 


ふっと二言:「レイの策を少し考えるのに時間がかかった記憶がありますが……ご期待くださいませ!引き続き、応援のほど、よろしくお願いいたします!評価やブクマ、感想・リアクション等いただけると、とても筆者は喜びます(笑)!」

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