#24:これが、これが、俺の描いた「天下」なんだな
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明日は、新作も投稿しようと思っております!!どうぞ、そちらもご一読くださいませ!
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【前話のあらすじ:レイはローヌ村を改革し終えた。次なる先は....】
レイたちは、峻険な岩山の合間に隠れたガラム村へと足を運んでいた。
ガラム村。
前村長、バドスが追放され、新しく後任に指名されたのが、ドワーフ族のダレイだった。
ダレイが新村長になって、ガラム村は大きく変わった。
切り立った崖。無骨に削り出された岩肌。
そこには、古来よりドワーフたちが岩を穿ち、槌を振るい、武具を鍛え続けてきた歴史が息づいている。
それが、いまや、村全体にまで広がっていた。
村の中央広場。巨大な溶鉱炉の熱気が渦巻く中、一人のドワーフが腕を組んで立っていた。
ガラム村の長老、ダレイ。
岩盤のような深い皺を刻んだ顔に、拒絶の意志を湛えた瞳がレイをじっと見つめていた。
「レイ殿。ハワードから話は聞いた。だが、俺らにいらねぇ。岩を掘り、槌を振るう。それだけで生きていける。変化なんてのは、己の足元を見失った弱者が縋る甘い蜜だ。ガラム村に、あんたの『改革』とやらは必要ねぇ」
ダレイの言葉は、単なる頑迷さではなかった。
それは、変化によって自分たちが守ってきた職人の「証」が失われることへの、切実な防衛本能だった。
レイは静かに、ダレイを見つめ返した。
「ダレイさん。皆さんがこの岩山に刻んできた歴史を、僕は否定しません。ですが、一つだけ聞かせてください。……皆さんは、変化することが怖いのですか?」
その問いに、広場が凍りついた。ダレイの眉がピクリと跳ねる。
「……何だと?」
「変化を恐れていては、何も始まりません。時代は進むのです。それは時間が進むのと同じことです。過去は変えられませんが、未来は僕たちの手の中にあります。何が起きるかわからない未来をただ待つのは、確かに怖いでしょう。けれど、一つだけ、僕らが未来に対してできることがあります。それは、未来を『創る』という作業です」
レイは一歩、ダレイに歩み寄った。
「未来を見据えて、希望を分かち合って、力を合わせて、未来を創ること。それは恐れるべき『変化』ではなく、僕らの意志による『進化』です。ガラム村の技術とシレハ村の知識、そして村人たちの魔法があれば、この岩山は世界で最も強固な希望の砦になれる。僕はそう思っています」
ダレイは長い沈黙の後、天を仰いで深く息を吐き出すと、不敵に笑った。
その瞳から険しさが消え、職人としての「情熱」が再び灯っているようだった。
「……へっ、坊主に説教されるとはな。だが、悪くねぇ。『未来を創る作業』か……。 野郎ども、槌を持て! 作業開始だ!」
ダレイの豪快な号令が、地鳴りのような歓声となって岩山を揺らした。
レイはすぐさま、村の再建計画――「垂直都市計画」を提示した。
限られた岩山の敷地を有効活用するため、横に広がるのではなく、空へと高く積み上げていく発想であった。
最初のプロジェクトは、老朽化した居住区を解体し、最新の「高機能住宅」を建設することだった。
「ガストン、基礎が肝心だ。まずは『鉄骨ラーメン構造』をベースにする。これは柱と梁を強力に接合して一体化させることで、壁を減らしても高い耐震性を維持できる、建設の基本理論なんだ。枠組み(ラーメン)自体が強度を持つから、間取りの自由度も高いのが特徴だ」
「理屈はわからねぇが、この骨組みを見れば、岩が喜んでるのがわかるぜ!」
ガストンは、威勢よく言うと、ガラム村の熊族のボリスたちと共に、岩盤の整地に入った。
「――大地に伏した骨よ、理に従い、一点に凝縮せよ! ――精密地硬術!」
ガストンが魔法で土を圧縮し、岩盤並みの強度を持つコンクリート状の土台を作り上げる。
そこへ、ボリスたちが鍛え上げた巨大なH鋼が次々と垂直に打ち込まれていった。
「ボリス、そこを支えるんじゃ! 誤差は許さん、ミリ単位で合わせるんじゃぞ!」
ドワーフのグランツの大声が飛ぶ。
ボリスたちと、グランツの精緻な鍛冶技術が、ガストンの土台の上で、次々と合わさっていく。
「この『接合部』の溶接が重要だ。ただくっつけるのではなく、金属同士を分子レベルで同化させるイメージで叩くんだ!」
レイの指示に、ドワーフたちが真っ赤に熱した槌を叩きつける。
衝撃波が走るたびに、鉄骨は一本の巨大な鋼の巨木のように一体化し、地震や暴風をしなやかに受け流す強靭な骨組みが積み上がっていった。
ラーメン構造により、建物は地震や強風を受け流すしなやかな強さを手に入れた。
続いて、村の生命線である鍛冶工房の近代化が始まった。
「バルドさん、職人が素材を持って歩き回る時間は『ロス』――つまり無駄です。ここに『ライン生産方式』を取り入れましょう。作業工程を一列に並べ、製品が職人の前を通り過ぎていく仕組みです。これで一人一人が専門の工程に集中でき、全体の速度が飛躍的に上がります」
ロブは、ドワーフの鍛冶頭バルドと共に、工房の床を魔法で滑らかに舗装し、ベルトコンベアの役割を果たす魔導駆動の運搬路を設置した。
「ロブさんよぉ、ここでの冷却は『水冷式』だな? 鋼の温度を一定に保つための」
「ええ、バルドさん。ただ冷やすのではなく、一定温度の水を循環させる『セントラル・クーリング』――集中冷却システムを構築します。一つの大きな冷却源から建物全体に冷水を配る仕組みです」
ロブは水魔法を発動させた。
「――巡る水よ、熱を奪い、循環の輪に戻れ。――冷却水循環!」
魔法によって、温度制御された清冽な水が、網の目のように張り巡らされた銅管を駆け巡り、灼熱の地獄だった工房を一転して最適な作業環境へと変えていく。
「おお!こりゃあ、すげぇなぁ!!」
ドワーフたちから、感嘆の声が漏れる。
「皆さん、聞いてください!!この『熱交換器』があるので、鋼を冷やして温まった水は、捨てずに冬場の暖房や風呂に再利用できます。レイ様の仰ってた、エネルギーの『排熱利用』というやつです!」
ロブが自慢げに胸を張る。
これにより、過酷な熱帯環境だった工房は常に最適な作業温度に保たれ、職人たちの集中力は劇的に向上した。
生産ラインの仕上げは、小人族のチコが担当した。
彼は、流れてくる武具に次々と精密な魔法刻印を施していった。
一人の職人が最初から最後まで作るのではなく、各工程のスペシャリストが連携する。
レイはガラム村に「分業」を浸透させたのであった。
次に、着手したのは高層住宅の問題点だった。
高層化した住宅の問題は、空気の淀みと上階への移動だった。
「っと、高い建物は風の通り道を計算しないとダメなんだよね? 『ベンチュリ効果』ってやつを使うんでしょ。えっと、流体(空気や水)が狭い通路を通る際、速度が増して圧力が下がる現象だっけ。これを利用すれば、魔法を最小限にしても自然に風を呼び込めるらしい、レイによると……」
レイは建物の中心に巨大な空洞、いわゆる「ボイド(吹き抜け)」を設計し、屋上には風を捉える「ウィンド・スクープ(採風窓)」を設置した。
「――風よ、巡れ。淀みを払い、清新を運べ。――大気循環制御!」
ニーナの魔法が、吹き抜けを通じて建物全体に気圧差を作り出し、外気を取り込んで淀んだ空気を上空へと吸い出していく。
「自然換気システム」の魔法強化版の完成である。
さらに、レイとニーナは風の浮力を利用した「エア・リフト(風圧式昇降機)」の製作に着手した。
「気密性を高めた筒の中で、下から風圧をかけるんだ。上昇する時は圧力を上げ、下降する時はゆっくり空気を逃がす『パラシュート効果』で安全に降りられるようにしろ」
レイが声を張り上げる。
「わかってるわよ。ったく……」ニーナがぼやく。
これによって、重い荷物や足の悪い老ドワーフも、このリフトを使えば一瞬で15階のテラスまでたどり着けるのだ。
こうして、垂直方向の移動が容易になったことで、ガラム村の生活圏は一気に空へと広がったのである。
その頃、シアは、生活の質を支える「インフラ」の整備に、心血を注いでいた。
「病の多くは不衛生から来るわ。全ての住宅に『セパレート・サニタリー(水洗式トイレ)』を導入しましょう。排泄物を水で即座に流し去ることで、ハエや悪臭を防げるわ!」
かくして、岩山の傾斜を巧みに利用した下水網を設計される。
シアの聖魔法で浄化された水が重力に従って流れ、汚物を一箇所に集めていく。
シアの聖魔法によって殺菌された水は、各戸の蛇口から溢れ出した。
さらに、集められた排泄物は小人族が管理する「バイオ・コンポスト(魔導堆肥化施設)」へと送られた。
「これは『好気性発酵』を利用した肥料化施設だ。酸素を好む魔法微生物に分解させることで、臭いを出さずに高品質な肥料に変える。廃棄物を資源に変える『リサイクル』の循環とも言えるだろう」
レイが満足そうに呟く。
そして、この肥料が、フィルス大村の一大生産拠点である、シレハ村に送られていくのである。
防衛面では、ビサ村からの応援が大きな力となった。
「副団長バイス、報告を! 門の周辺の『セキュリティ・プロトコル』はどうなっている!」
「はっ! 『プロトコル』……えっと、そう、防衛の標準手順書に従い、配置を完了しました! まず第一層は『境界防御』。熊族の重戦士をゲートに配置。第二層は『空間防御』。鳥族の狙撃手を各塔の頂上に。第三層は『情報防御』。レン殿が上空から全域を監視しています!」
かつてのガラム村は、ただ物理的な壁で敵を阻むだけだった。
しかし今は、情報の共有と連携による「多層防衛」が敷かれていた。
村の入り口には、観光客や冒険者のための武具メンテナンス店「ガラム・アーモリー」が建設され、そこではドワーフたちが最新の機材で次々と装備を修理していた。
「ここでは『ジャスト・イン・タイム』を意識しろ。必要な時に、必要な分だけ修理し、滞留在庫を作らない。これが軍事ロジスティクスの基本だ」
レイの声が飛ぶ。
建設開始から数週間。
魔法と現代知識、そして全種族の情熱が結集し、ガラム村は、大きな変貌を遂げていた。
レイたちは、夜、完成したばかりの「垂直都市」を見上げた。
「……信じられん。これが、俺らの創った未来か」
ダレイが、窓から漏れる無数の明かりを見つめて呟いた。
そこには、かつての暗い岩肌はなく、人々の生活の鼓動が垂直に積み重なる、光の塔が立っていた。
「レイ。おまえさんは建物を建てたんじゃねぇ。俺たちの心の中に、新しい槌をくれたんだな。『未来は自分たちで打てる』っていう槌をよ」
ダレイが目を輝かせて、笑いながら感謝を口にする。
「そんな大層なものじゃないですよ……」
レイは照れくさそうに笑った。
胸になんとも言えぬ、温かさが広がってくる。
「レイ、あんたって何言ってるかわかんないわ。あんた、はっきり言って、「変人」よ」
ニーナがレイの肩に頭を預ける。
その隣では、シアが可笑しそうに笑っている。
ロブとガストンは、ドワーフたちと肩を組み、新設された酒場で「明日の生産目標」について楽しそうに議論を交わしている。
「これが、これが、俺の描いた「天下」なんだな」
レイは、心の中で静かに笑った。
その視線の先には、闇の中で銀色の月のように輝く、垂直都市の光があった。
それは、恐怖を越えて変化を選んだ者たちが掴み取った、確かな夜明けの光だった。
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【今話の極小情報】:
1. 垂直都市「ガラム・タワー」の構造美: 崖に直接H鋼を魔法溶接で固定し、岩山の一部として構築された高層建築。壁面には耐火・断熱に優れた特殊粘土と強化ガラスが使われている。夜になると、各階の魔導灯が岩肌を螺旋状に彩り、遠くから見ると「巨大な宝石の塔」が闇に浮かんでいるように見える。
2. エア・リフト(風圧式昇降機):小人族が鍛えた透明な魔導強化ガラス製の円筒カプセル。底部に刻まれた「重力軽減」の魔方陣と、ニーナの繊細な風魔法の組み合わせにより、10秒で45メートルの高さを無振動で昇降する。カプセルからは、眼下に広がる渓谷と村の全景を360度見渡すことができる。
3. セパレート・サニタリー(水洗トイレ)の仕組み: ドワーフの体格に合わせた重厚な石造りの便器。レバーを引くと、聖魔法で浄化された水が勢いよく渦を巻いて排出物を運び去り、同時に消臭効果のある魔導香が焚かれる。この「流れる」感覚はドワーフたちにとって最大の驚愕であり、村の自慢の一つとなっている。
4. セントラル・クーリングと排熱リサイクル: 工房の溶鉱炉付近を走る銅管から熱を回収し、住宅区の床暖房と「ガラム大浴場」の給湯に利用している。このシステムにより、冬場は極寒だった岩山の生活が劇的に快適になった。職人たちは仕事終わりの「排熱利用の熱い風呂」を至上の喜びとしている。
5. 魔法微生物によるバイオ・コンポスト: 村の最下層にある、複数の攪拌翼を備えた巨大タンク。小人族が培養した「好気性微生物」が、排泄物を数日間で無臭の土へと分解する。タンクの外装には分解の進行度を示す魔導インジケーターがあり、完成した肥料は専用リフトでシレハ村への輸出ルートに直接送られる。
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