#17:情けないな...俺は...
【前話のあらすじ:レイの属するシレハ村が見捨てられたことを悟ったレイ。迫りくる二万の敵。その時、レイは....】
ああは、言ったものの、レイは内心、わかっていた。
軍対村人。二万対千。盗賊とは、訳が違うのだ。
レイは村人たちを集めていた。 言わなければならなかった。
「……正直に言う。俺一人じゃ、この村は守りきれない」
国境北塞。
石造りの冷たい広場に、レイの静かな、よく通る声が響いた。
フィルス大村に属する、戦える者およそ一千人。
彼らは、自分たちを「捨て石」として扱った王都軍への怒りと、二万という圧倒的な敵軍への恐怖で、今にも壊れそうなほど張り詰めていた。
「レイ……。それ、はどういう……」
最前列にいたガストンが、困惑したように声を漏らす。
レイは、これまでの「完璧な支配者」としての不敵な笑みを、今は見せていなかった。
十三歳の少年としての素顔が、そこにはあった。
「俺は、お前たちが思っているような無敵の怪物じゃない。ただ、みんなより少しだけ、物事の仕組みを知っているだけだ。だから……みんなの力を貸してほしい」
レイが深く、頭を下げた。
広場に、どよめきが走る。
村人たちにとって、レイは圧倒的な力を持つ神のような存在だった。
その彼が、自分たちに「助けてくれ」と言っている。
その事実は、「恐怖」を消し去り、彼らの胸に「使命感」という名の火を灯した。
「レイ様、顔を上げてください! 俺たちは、あんたに命を預けるって決めたんだ!」
「そうだ! 薪割りしか能がねえが、力ならいくらでも貸すぜ!」
レイは鑑定(S)を起動した。
「ロブ、お前と作った『氷鈴の粉』を全員に配れ。……ポール、ダン、ブライス、お前たちの『石投げ』の腕を信じている。パーシー、ウェスト、ブルックさん、貴方たちは農夫の中でも力がある。魔導砲の装填を頼みたい。……シア。お前は後ろで、傷ついた奴らを一人も死なせないように聖魔法をかけてくれ。ニーナ、ガストン。前線は、お前たちに頼みたい...」
レイが一人ひとりの目を見て、その「才能」を告げていく。
ただの村人たちが、レイの言葉によって、自分たちが最強の軍隊の歯車であることを自覚した。
一千人の鼓動が、一つに重なっていく。
「……よし。収穫の準備は整ったな」
夕闇が深まり、吹雪が咆哮を上げる中、ついにバンデリオン軍の先遣隊三千が、平原の中央へと踏み込んできた。
どうやら、氷の罠を突破したようだった。
「来るぞ……! ニーナ、始めろ!」
「ええ、任せなさい! ――《吹き荒べ、氷の翼。我が命に従い、冷酷なる息吹を平原に満たせ》—―圧壊疾風!」
ニーナが風魔法の詠唱を終える。
要塞の城壁から、大量の白い粉末――『氷鈴の粉』が撒かれた。
本来、シレハ村で夏場の「空調管理」に使われていたその粉は、銀鈴草の雄しべを加工した、極めて高い冷気伝導体だった。
粉が吹雪と混ざり合い、敵陣の頭上を覆う。
「な、なんだ、この粉は!? ゲホッ……冷てえ、いや、熱いのか!?」
バンデリオンの兵士たちが叫ぶ。
『氷鈴の粉』が周囲の全ての熱を吸収し、絶対零度の凍気を拡散させ始めたのだ。
彼らが掲げていた松明が次々と消え、鎧の継ぎ目から体温が奪われていく。
だが、敵も無能ではない。
「うろたえるな! 魔法騎士団、前に出ろ! 火炎の盾を張れ!」
金色の甲冑を纏った重装魔法騎士たちが、火魔法の結界を張り、凍気を弾きながら要塞へと突進してきた。
その数、およそ五百。
「レイ! あいつら、止まらないわ!」 ニーナの焦る声が響く。
レイが自ら弓を手に取ろうとした、その時だった。
「レイ様、ここは俺に任せてください!」
ガストンが叫んだ。
「――《土の精霊よ、我が呼び声に応えよ。揺るがぬ礎、崩れぬ牙を以て道を閉ざせ》――アース・ウォール!」
ガストンが地面に拳を叩きつける。
凄まじい轟音と共に、要塞の前面から巨大な土の壁が、槍のように斜めに突き出した。 突進していた魔法騎士たちが、その壁に激突し、陣形が崩れていく。
「今だ! 石を投げろ!」
レイの指示を待たず、村の若者たちが一斉に動いた。
彼らが手にしたのは、ただの石ではない。『氷鈴の粉』を詰めた小袋だ。
少年時代の遊びで鍛えた「正確な投擲」が、騎士たちの結界の僅かな隙間に、次々と粉を叩き込んでいく。
レイはなんだか心地よかった。
自分の計算では、ここで数人が突破され、自分が迎撃に出るはずだった。
だが、村人たちは、レイが教えた以上の動きで、敵の精鋭を圧倒していた。
(誰かに求められるってのは……こういう気持ちなんだな)
(俺がみんなを守っているんじゃない。みんなが俺を、そしてこの村を守ろうとしている。……ああ、そうか)
(もう、俺は一人じゃないんだな……”捨てられた”俺ではないんだな....)
レイの胸の奥に、かつて感じたことのない温かい感情が広がっていく。
それは鑑定してもわからない感情だった。
「ニーナ、シア! 仕上げだ!」
レイが巨大な魔導狙撃弓を番える。
シアがその隣に寄り添い、祈りを捧げる。
「――《清らかなる聖なる光よ、迷える魂の道標となれ》—―正典修復」
シアの聖魔法が弓を包み込み、吹雪による僅かな「揺れ」を完全に静止させた。
さらにニーナが、矢の軌道上の空気を排し、完全な「風の道」を作り出す。
レイが弦を離す。 それは、一千人の想いと、一人の知略が結晶となった一撃だった。
敵陣の後方、禁忌の熱魔法で氷を溶かそうとしていた魔導師の眉間に、矢が吸い込まれる。 断末魔すらあげる暇のない、文字通りの確殺。
指揮官を失い、さらに前線を土壁と凍気に阻まれたバンデリオン先遣隊は、列を乱して敗走を始めた。
「……終わった、のか?」 誰かが呟く。
次の瞬間、要塞に地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「勝ったぞ! レイ様のおかげだ!」 「いや、俺たちの力だ! 俺たちの勝利だぞ!」
沸き立つ村人たちをよそに、レイは静かに石壁にもたれかかった。
「……ふぅ。……なんだ、これ」
ドッと、形容しがたい疲労感が押し寄せてきた。
指一本動かすのも億劫だ。足が鉛のように重い。
これまで、数千の盗賊やバドスを相手にしても、こんな風にはならなかった。
(自分でも知らぬ間に、緊張してたんだな……。はは、情けないな...俺は...)
だが、その顔は、これまでで一番穏やかだった。
「レイ、お疲れ様」 聞き慣れた優しい声。 シアが、湯気の立つ器を手に歩み寄ってきた。
「……ああ、シア。悪いが、今は箸を持つのもきつい。……少しだけ、肩を貸してくれ」 「ふふ、いいわよ。……冷えちゃうかもしれないけど、こってり、用意してあるから。少し休んでから、食べたらいいわ」
レイはシアの細い肩に頭を預け、目を閉じた。
一千人の鼓動と、仲間の温もり。
二万の本軍との決戦は、すぐそこに迫っている。
だが、今のレイには、それを乗り越えられるという確信があった。
吹雪の夜。
シレハ村の「捨て石」たちは、一人の少年の手によって、世界を震撼させる「牙」へと変貌を遂げたのであった。
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今話の極小情報:ニーナとシアの情報。
ニーナ:【名:ニーナ 年齢:13】【MP:450】【ステータス】武力:B(A) 知力:B(A) 統率:B(A) 政治:D(C)【サブステータス】兵法:C(C) 馬術:D(D) 陸戦:C(A) 海戦:F(A) 工作:C(A) 諜報:B(S) 農耕:B(B) 商業:D(D) 建築:C(C) 成長:S 忠誠:10 【固有スキル】--【スキル] 剣術C(C) 槍術C(B) 弓術A(A) 体術C(B) 投擲術C(B) 炎魔法B(A) 風魔法A(S) 調理B(A) 探索B(A)
シア:【名:シア 年齢:13】【MP:600】【ステータス】武力:C(B) 知力:A(S) 統率:A(A) 政治:A(A)【サブステータス】兵法:A(A) 馬術:C(C) 陸戦:C(B) 海戦:D(B) 工作:B(A) 諜報:B(A) 農耕:A(A) 商業:A(S) 建築:B(B) 成長:S 忠誠:---【固有スキル】--【スキル] 弓術D(B) 投擲術E(D) 聖魔法A(S) 付与魔法C(A) 亜空間魔法B(A) 錬金C(A) 調理S(S)
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、完全決着!!
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「ふっと二言:金色の甲冑を纏っていた五百の騎士たち。あれ、実は「見た目の威圧感」のためだけに純金を薄くメッキしてある特注品です。
そのため、冷気伝導率が鉄よりも異様に高く、レイたちの『氷鈴の粉』が撒かれた瞬間、中身の騎士たちは「一瞬でキンキンに冷えた缶ビール」のような状態になっていました。彼らが突進を止められなかったのは、勇気ではなく「止まったらそのまま凍りついて動けなくなる」という恐怖からだった……という悲しい裏設定があります。」
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