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第6話:学院の門と、ジークの勘違い(強め)

「ふふ、おじちゃん面白かったわね。ねえ、影さん?」


お嬢が足元に話しかけてくる。最近、彼女は確信を持って俺に話しかけることが増えた。同調率12%。まだ声は届かないはずだが、彼女の直感か、あるいは俺が必死に彼女を守った際の「熱」が伝わったのか。


「……あ、れ……急に、眠く……」


お嬢がベッドに倒れ込む。俺がMPを無理やりかき混ぜ、彼女の魔力を肩代わりしたせいで、彼女自身も「魔力酔い」のような状態になっているのだ。


深夜。屋敷が静まり返り、月明かりだけが部屋に差し込む。 俺の意識は消えかかっていた。MP「12」では、影の形を維持するのさえ危うい。


(…悪いな、お嬢。今日は多めに……「集金」させてもらうぜ…)


【魔力還流(MPドレイン・シェア)】発動。


ドロリ、とお嬢の背中から影の触手が伸び、彼女の体に優しく触れる。 彼女の中に眠る、清浄で温かな魔力が、渇ききった俺の器に流れ込んでくる。


俺のMP:12→500→1,200……回復中


(……ああ、生き返る……)


冷たい水が喉を潤すような感覚。 その時、眠っているはずのお嬢の手が、ぴくりと動いた。 彼女の手が、抱き寄せていたぬいぐるみに力を込めた。


「……ありがと……かげさん……」


俺の心臓そんなものはないはずだがが、ドクンと跳ねた。


(……聞こえてたのか? それとも、俺が必死にジークを騙してたの、バレて……?)


焦って魔力を吸う手を止めようとしたが、セレナは幸せそうに微笑んで、猫のように丸まった。


【同調率が上昇しました:12%→15%】 【スキル:魔力還流の変換効率が向上しました】


(…おめでてーな、お嬢様。俺はただの、呪いの残滓…『ゴミ』なんだぜ?)


自嘲気味に呟きながら、俺は彼女を冷やさないように、影の厚みを増してベッドの隙間を埋めた。 明日からは、あの「勘の鋭いおっさん」との修行が始まる。


もっと強くならなきゃな。 お嬢が外の世界で、この笑顔のまま冒険に出られるように。

 

 

「お父様、私、お家の中だけじゃなくて、学校に行ってみたいわ」


突然のお嬢の宣言に、公爵グレンがティーカップを落としそうになり、お母様は「あら、それなら学園用の特注防弾ドレスを新調しなくちゃ」と、どこか方向性の違うやる気を見せていた。


俺は影の中で「マジかよ」と絶叫した。 きっかけは、お嬢が病床にいた頃から唯一、文通を続けてくれていた友人――フィオナ・エバート伯爵令嬢からの招待状だった。


『学院には素晴らしい図書室と、美味しいカフェテリアがあるのよ。早く貴女と一緒にお茶がしたいわ』


(……お嬢、騙されるな。貴族の学校なんて、ラノベの知識じゃ「悪意」をドレスで包んだ猛獣たちの檻だ。お前のそのピュアな心、一瞬で食い物にされるぞ……!)


だが、お嬢の目は、かつて窓の外を見つめていた時と同じ、冒険者そのものの輝きを宿していた。 ジークが「学校へ行くなら、私が執事兼護衛として潜入しましょう」と、鋭いモノクルを光らせて立候補した時は、全力で【影縫い】を発動して引き留めたかったが(バレるけど)無情にも公爵の許可が下りてしまった。


「それはいいな。ジーク、頼んだぞ」 「はい、ジークさんがいれば安心よ」


両親の言葉に、二人の影は不憫そうに俺を見た。ジークの影は、「またよろしくね、相棒」と調子外れのウインクを飛ばしてきやがった。


「ジーク…本当に飲むの?」


「セレナ様。女性を護る者として、毒を知ることは基本です。……いいですか、本物のプロというものは、毒を『飲む』のではなく『御す』のです」


ジークが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、一滴で象を殺すと言われる『冥府の睡蓮デス・ロータス』の抽出液。


「見ていなさい。私ほどのレベル(Lv.52)になれば、この程度の毒は体内の魔力で無害化できます。……フッ、これも修行の一環です」


(……おいおい、おっさん。それ、マジでヤバい色してんぞ? 死ぬんじゃねーか?)


ジークはお嬢に「お手本」を見せるため、自信満々にその猛毒をグイッと煽った。


その瞬間。 俺はジークの足元の影から、スルスルと「影の触手」を彼の胃袋まで伸ばし、毒素の9割をダイレクトに回収イタダキした。


【毒素捕食】発動! (……うおっ! 喉越しがキリッとしてて、後から魔力の深みがくる! ジーク、お前いい酒持ってんじゃねーか!)


「……ふむ。……どうです、セレナ様。顔色一つ変わらんでしょう? これが、真理を穿つ魔導師の……」


ジークがドヤ顔で語り始めたが、途中で彼は自分の手を見つめて固まった。 本来なら、どんなに耐性があっても指先くらいは痺れるはずの毒。それが、まるでお白湯を飲んだかのように、体調が良くなる一方なのだ。


(…ば、馬鹿な。私の魔力は…いつの間にここまで高まっていたのだ!?)


ジークのモノクルが高速回転する。 もちろん、親が【偽装】しているため、原因が「足元のゴミ(俺)」だとは気づかない。


「……公爵! 私、気づきましたぞ! お嬢様の傍にいることで、私の魔導師としての位階が、さらなる高みへと昇華されたようです!」


「おお、ジーク! さすがは我が娘を教える男だ!」


(……ケッ、おめでてーおっさん達だ。俺が食ってるだけなのに。……まあいい、おかわり持ってこいよ、無敵の魔導師サマ!)


修行の日々は続き、今やジークは「自分はあらゆる毒を無効化し、呪いすら跳ね返す神の領域に達した」と信じ込んでいる。


【王立ラピス学院、入学式当日】


馬車から降りたジークは、以前よりもさらに自信に満ち溢れ、胸を張っている。あれが鳩胸か。


「セレナ様。何が起きてもご安心を。今の私は、毒物の王が相手でも鼻歌混じりに制圧できますからな」


(…そりゃそうだろうな。お前が毒入りのワインを『味見』するたびに、俺が全部デトックスしてやってんだからよ)


おかげで俺のレベルは18。種族は【影の大精霊(亜成体)】ジークが「俺、最強!」とドヤ顔で持ってくる「プロ仕様の劇薬」のおかげで、俺のMPは今や8,500。もはや並の魔獣が束になっても敵わない。


「あら、ジーク。今日もとっても頼もしいわ」


「ハッハッハ! 任せておきなさい、お嬢様!」


お嬢は、自分の足元で「おっさんの飲み残し(猛毒)」をムシャムシャ食って巨大化した怪物がいるとは知らず、無邪気に笑っている。


(……さて。学園の連中がどんな罠を仕掛けてくるか知らねぇが。お嬢を狙うメシは、全部俺とジークで美味しくいただいてやるぜ)


種族:影の大精霊(亜成体) レベル:18

新スキル:【影の隠れシャドウ・シェルター】獲得


なんと同調率は30%まで上昇!


「フィオナ様、どこかしら……!」


期待に胸を膨らませるセレナ。だが、俺は【鑑定】を広範囲に展開し、学院のあちこちから立ち上る「嫉妬」と「権力欲」のどろりとした影を捉えていた。


(…さて。どこのどいつから喰ってやろうか)


舌舐めずりをする。ここは、俺の餌場だ。


【セレナ・フォルテス(12)】


MP: 4,800(影の恩恵と成長により爆増)


状態: 極めて健康


スキル: 「影の縫い糸」が「影の束縛領域」へ進化の兆し。


【俺(影の大精霊:亜成体)】Lv.18


MP: 8,500


新スキル:影の隠れシャドウ・シェルター


影の中に自分以外の「実体セレナなど」を引き込み、一時的に完全に物理世界から隔離・保護する。緊急回避用。

 

(ジーク様々だよな最高に「美味しい」カモだぜ)

 

新スキル:影の分身シャドウ・パペット

MP:50

自分の影の一部を切り離し、ネズミなどの小動物の形にして偵察に放つ。


【毒のソムリエ(常時発動)】

効果: 近くにある毒素の「種類」「致死性」「味」を判別できる。


備考: ジークが摂取する「プロ仕様の毒」を長年食べてきたため、並の毒では満足できない体質になっている。

 

ジークが毒を飲む → 「俺」が影からその毒を濾し取る→ジークは「最近、毒への耐性がつきすぎているな。もっと強い毒にするか」と勘違いして毒を強める → 「俺」がさらにレベルアップの好循環!棚からぼたもちだぜぃ!いや、毒薬のスープか?


【状態:ジークの勘違い(最大)】 ジークが「自分は毒の神になった」と思い込むほど、カゲレナの食事(濾過)が完璧であることを示すバフ。ジークからの供給(猛毒)が途絶えない。


 


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