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第5話:【天命鑑定(ギャンブラーズ・チェック)】 と影のハッタリ

アリスが去って数日。 我が主(お嬢)は、毒をデトックスされたことでみるみる健康を取り戻していた。


「ステータスオープン!」


好奇心に目を輝かせ、セレナが空中に指を走らせる。


セレナ・フォルテス(10歳)


状態: 健康 / 【※大精霊の加護:幼体】 HP: 120 (※生命力微増中) MP: 1,500 (※影の捕食により爆増中)


【固有スキル】


※影の揺りシャドウ・クレイドル: 影の中にいる間、あらゆる状態異常を無効化する。


影の縫いシャドウ・バインド: 対象の影を床に縫い付け、動きを封じる。


「MPが1,500……? お父様は『一般人は2,000くらいあれば超一流だ』って言ってたわ。私、もしかして魔法の天才なのかしら!」


ヤッホー! と両手を上げて喜ぶお嬢。


(……お嬢、おめでてーな。お前の本来のMPはまだ200そこらだ。残りの1,300は、俺が昨日アリスの影から『お裾分け(捕食)』してもらった余剰分なんだよ……)


お嬢に見えていない「※影の真実」はこうだ。


(影の大精霊:幼体)


レベル: 5 / 同調率: 12% MP: 2,400 保有スキル: 毒素捕食、影渡り、捕食、鑑定、偽装、隠密、影操、魔力還流(MPドレイン・シェア)

 

(……魔力還流。夜、お嬢が寝ている間にこの『余剰分』を吸い取って、俺のMPに変換させてもらうぜ。それがお嬢の体を守る『武装』になるんだからな)


平和な朝。だが、そんな俺のドヤ顔(影だけど)を打ち砕く来客が現れた。


「セレナ。今日からお前に、最高の家庭教師をつけることにしたよ」


親バカ全開の笑顔でグレン公爵が連れてきたのは、いかにも「切れ者」といった風貌の男だった。 元王宮魔導師団、ジーク・バルド。贅肉を削ぎ落としたような、鋭い顎のライン。鉄紺色アイアンブルーの髪を一糸乱れぬ七三分けに固め、左目には銀縁のモノクルを装着している。白手袋に包まれた手には、カミソリのような神経質さが漂っていた。


「……こんにちは、お嬢様」


ジークが片眼鏡モノクルを光らせ、セレナを見据える。

 

「こんにちは……」

 

その視線は、グレンの背中に逃げ込むお嬢を通り越し、足元の俺――影の深淵をじりじりと焼くように覗き込んできた。


(…待て、こいつ。鑑定の「質」がそこらの奴らとは違うぞ……!)


「では公爵。僭越ながら、教育方針を決めるため『鑑定』させていただきます。……『真理の片眼鏡モノクル』起動」


(……マズい。スキャンされてたまるか!)


俺は咄嗟に【鑑定アナライズ】をカウンター気味にぶち込んだ。


ジーク・バルド(45歳)


レベル:52 称号: 真理を穿つ青い瞳


スキル: 【天命鑑定ギャンブラーズ・チェック


その他のスキルはレベル格差があり、鑑定できません。

 

備考: 非常に疑り深く、理論に基づかない「違和感」を絶対に無視しない。


(――Lv.52!? ふざけんな、こっちはLv.5だぞ! 誤差なんてレベルじゃねぇ、秒で丸裸にされる!それにこの称号絶対ヤバいやつだ!)


「お嬢様、真理とは常に揺らぐもの…さあ、天命を問いましょう」 ジークのモノクルの中で、ダイスが激しく回転する。


(1だ…それか2よ、来い)


ジークの瞳の中でダイスが高速回転を始める。 俺は死に物狂いで、MPを湯水のように注ぎ込んだ。


隠密ステルス】+【偽装フェイク】――二重発動! (情報の表層を塗りつぶせ! 「精霊」を消して、「ゴミ」を被せろ!)


「……公爵。お嬢様の魔力回路は極めて清浄です。それに見たことのないスキルだ。影の縫いシャドウ・バインド: 対象の影を床に縫い付け、動きを封じる」


グレンが影と聞いて、片眉を上げる。

 

「一つしかないスキルですが、素晴らしい才能だ……ですが」


ジークの声が低くなる。モノクルの奥の瞳が、俺の「核心」にピントを合わせ始めた。


「足元の影に……妙な『厚み』を感じますな。おい、もっとランプを持ってこい。影の輪郭を鑑定する」


執事がランプを近づけ、セレナの影が色濃く、くっきりと床に映し出される。 ジークの視線と、影の中に潜む俺の「目」が、わずか数センチの距離で重なった。


(……心臓が止まる。お嬢、頼むから一歩も動かないでくれ……!)


その時だった。


「あ、おじちゃん。頭の上に鳥さんが……」


セレナがポツリと呟く。 直後、空から放たれた白い一撃――「鳥のフン」が、ジークの完璧な七三分けのど真ん中に直撃した。


「……っ!? ……チッ!!」


ジークが激しい舌打ちと共にハンカチを取り出し、頭を拭う。 その一瞬。 コンマ数秒、ジークの【深淵鑑定】のピントが、俺の心臓部からズレた。


(――今だっ!! 情報を上書き完了オーバーライト!)


【ジークに見せている偽りのステータス】 状態: 『アリスの呪いの残滓』。 時間経過により消滅する無害な魔力のカス


「……ふぅ。失礼した。……む、影の『厚み』の正体はこれか」


モノクルを拭き直したジークが、安堵したように眉を落とした。


「呪いの名残ですか。先日の暗殺未遂の影響がまだ残っているようですな。……まあ、お嬢様の体に害はないようです」


「そうか、良かった!」と胸をなでおろす公爵。


だが、ジークは最後にもう一度だけ、床にべったりと張り付く俺をジロリと睨んだ。


「……『ただのゴミ』にしては、妙に意思があるように感じたが…気のせいですかな」


(……このおっさん、勘が鋭すぎるだろ! 早くどっか行ってくれ!)



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