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ときめく青春の想い出

掲載日:2025/10/28



「あなたはこの会社で何を実現したいですか?」



硫太りゅうたは面接官のその問いに


渾身の言葉をぶつけた。



「私は、、、


御社で利益を生み出して


社会貢献を実感したいです!



そして、将来は貧困やひとり親で


寂しい思いをしている家庭や子供達の


支援を行う部署を立ち上げ


自らの力で社会貢献を生み出す人間になっていきたいです!」



爽快で華麗なそのセリフに


面接官達の表情に明るい何かが


乗り移るかのようなそんな


ワンシーンだった、、、



1年前に遡る。



「おい、、硫太りゅうた!!

早くしろよ!」


田舎の大学に通う桐ヶ崎硫太きりがさきりゅうた


同級生でイケメンの海垣旒星うみがきりゅうせいに急かされた、、、



旒星りゅうせい、、、お前いつも早いよ、、


今日は大学もバイトも休みだし 

 

ゆっくり寝たかったのに、、、


お前の生活には、まったりという

空間は存在しないのか?」


硫太は慌てて家を飛び出してきただけに


寝癖も残っており、顔も眠そうだ、、、


それとは対照的に旒星は

爽やかな表情でその髪の毛からも

良い匂いがしてきそうな清潔感ある

雰囲気だ。


「まったりなんて言葉、生まれてこのかた

使ったことないね!


おれはいつでも全力だ!


遊びも勉強もバイトも、、、


そして恋愛も!!」


楽しそうに旒星はスタスタと歩いていく。


颯爽と進んでいく旒星の後ろを


早足で硫太は追いかけた。




いつも通りの海ナンパ。


硫太にとってもこれが特別なものになるとは


思っていなかった。



海に着いて早速、旒星は片っ端に


キレイな女の子を狙って


ナンパを仕掛けていった。



何回か失敗に終わったあと


2人組の女の子に声を掛けた時に


硫太は衝撃を覚えた。



〈やばい、、、めっちゃタイプ、、


旒星、、まじ頑張ってくんない?〉



旒星がナンパを仕掛けたその2人組の


1人に硫太の視線は釘付けにされた、、、



〈どっちだ?左?そうか、左か、、  

了解!おれも左だ!


硫太、、勝負しよう!


どっちがこの子をゲット出来るかだ!〉



女の子達にバレないように小声で


そんな会話をした硫太と旒星。


旒星はいつになく前のめりで


女の子達に攻勢を仕掛けていった。



そもそも海ナンパが決まったのも唐突だった、、


歩いていた旒星が唐突に言い放った。



 

「今日は、海に行ってナンパする!!

そしてみんなで飲み会だ!」


旒星はいつもこの調子だ、、、


女の子が好きだが特定の彼女は作らない。


ナンパして、飲んで、みんなでワイワイ遊ぶ、、


それが旒星にとって1番楽しいらしい、、



硫太はいつもそれに連れられて

巻き添えを喰らうのだが


旒星と違い、人見知りの硫太にとっては

旒星の行動力と社交性に引っ張られることで


1人では味わえない経験もたくさんしてきた。


「おー、、、今日は海ナンパね、、、


はーぁ、、またおれは隣の男役なんだろうなー、、、」


ため息混じりに硫太は呟くのだった。




ナンパの行方に話を戻そう、、



旒星は、狙った女の子とは別の女の子に


先制攻撃を仕掛けて行った。


これは旒星のいつもの作戦だ。



結果、、、


女の子2人をゲットした。



〈旒星やっぱすごいな、お前は!!


まじ神!!ありがとう!!〉


小声で硫太は感謝の意を述べた。


〈バーカ!硫太、、こっからだよ、ナンパってものは。こんなことくらいならバカでも出来るの!こっからあのおれらが狙った女を口説けるかどうかまでが、ナンパなの!硫太、こっから気合い入れてかないと、みすみす大物を逃がしちまうからな!あと、オレはかなり手強いぞ!笑〉


いつになく、硫太も前のめりになりながら


旒星の後を追いかけた。



旒星と硫太。



そして女の子は


珠音たまねかえでと言った。


2人の男が狙うは楓のほうである。



4人は海で一通り遊んだ後


居酒屋へと流れることになった。



海近くの居酒屋「いいなみ」に落ち着いた。



「珠音ちゃんの趣味はなに?」


「私は、相撲を観ることかな。


力士達の戦いを観るのはなんか刺激的で  


面白い。」


相撲と来たか、、



硫太は少し驚いた後に


楓にも聞いた。


「楓ちゃんは、趣味はあるの?」


「私は、旅行かな。全国のいろんな場所を旅するのが好き。行く前のワクワク感も好きだし

行ってからのちょっとした緊張感もなかなか日常では味わえないから。初めての場所に行くのが好きなのかな。」


「おれも旅行好きなんだ。


現地で温泉に入ったり


お土産買ったり、、


なんかそういうささやかな幸せというか


そういう雰囲気がすごく好きで。」


「おー、早速気が合うねー!


付き合っちゃえば!?


2人でいろんな場所に行っちゃいなよ!」


お酒の入った旒星は


嬉しそうにそんな言葉を掛けてきた。



硫太は楓の表情が気になった。


視線を楓のほうに移すと


程よく照れた顔で微かに笑っていた。


隣の珠音からもからかわれている。


硫太は少し嬉しかった。





楽しい宴の時間はあっという間に過ぎて行った。


連絡先を交換し、女の子達とは別れた。



「硫太、お前今日頑張ってたなー!

カッコよかったぞ!!」


帰り道に缶ビールを飲みながら


硫太に言った。


「楓ちゃん、イケるんじゃないか?


でも、おれとしては珠音ちゃんも


悪くなかったなー!」


旒星は楽しそうに言った。



「えっ?


旒星も楓ちゃんじゃないの?」


硫太はとぼけた顔で旒星に聞いた。


「いや、おれはいいんだよ、ぶっちゃけどっちでも!楓ちゃんが良いと思ったけど


話してみると意外と珠音ちゃんも


良いんだよ、これがまた!


人それぞれ魅力あって素敵だよ、ほんと!」


嬉しそうに話す旒星。


「おまえ、、人生2回目か?」


暗闇の道で硫太は言ったのだった、、、




その後も硫太は楓と積極的に連絡をとり続けていた。



「硫太、どうだ?最近、楓ちゃんとは!」



旒星はなんだかんだで硫太の恋の行方を


静かに見守ってくれていた。



「うん、、まあ普通に連絡は取り合ってるよ。


でもどうだろうな、、いまいちこれっていう

確信は持てないかなー、、」



硫太は少し元気なく旒星に応答した。



「硫太、、、大丈夫だって!


お前ならやれるよ!!


自信持って頑張れ!!


おれが言うんだから間違いないよ!」



旒星は勇気づけてくれた。



「でも、、、旒星、、


お前も楓ちゃんが本当はいいんだろ?


いいのか?おればっかりにそんなに


気を使って、、」



心配そうな顔で硫太は問うた。



「ばーか、、、お前に心配されるほどおれは


モテない男じゃねえんだよ!笑


心配すんな!


おれのところにはすぐに良い女が寄ってくる!」



旒星はいつも楽しそうにそんな言葉を掛けてくれる。



楓からのメールが届いた。


引っ越しをするようでその手伝いを


してほしいということだった。


珠音と旒星にもお願いしているようで


4人で引っ越し作業をする形のようだ。


楓は実家住まいだったが


1人暮らしに憧れていて


ようやく家族の承認を得られ


晴れて1人暮らしデビューが決まったようだった。


メールからも楓の嬉しそうな雰囲気が


伝わってきた。


引っ越し当日はよく晴れてくれて


まさに引っ越し日和といった天候に恵まれた。


硫太は楓の引っ越し先のアパートに到着した。





「あれっ、みんなは?」


楓の家に着いた硫太は


1人で作業をしている楓を見て言った。


「それが、、


珠音も旒星くんも急用が出来たって


来れなくなったみたいなの、、


ごめんね、硫太くん、、


1人だけ私の手伝いをやらせてしまって、、」


「あっ、、そうなんだ、、、急用か、、、


それは仕方ないな、、


いや、全然おれは大丈夫だよ、、、


むしろおれ1人じゃあんま戦力にならないかもだけど、全然やるから気にしないで!」



「ほんと、ごめんね、、ありがとう、、


このお返しは必ずするから!」



こうして2人だけで引っ越し作業を始めた。



しかしながら、これについては


旒星と珠音が仕掛けた作戦であったということは、今の硫太と楓には内緒にしておくとしよう、、、




硫太と旒星は大学内で


サッカーサークルに入っていた。


硫太が旒星に誘われた形だ。


旒星いわく


「サッカーやってるって言うと

合コン受けも良いでしょ!」


という理由で入会しようと思ったらしい、、


硫太は駒に使われた形だ、、


それでも週に何度か行うサッカーは


硫太にとっても気分転換になる


心地の良いものだった。



「硫太、、今度サークルで女の子も集まる


サッカー交流会をやるらしいんだけど、楓ちゃんと珠音ちゃんも呼んでいいか?


なんか人数たくさんいたほうが良いみたいでさ!」


「えっ?いいじゃん!楽しそうだね。

呼ぼうよ、最近あんま会えてなかったし!」


また楓や珠音と会えることになり


硫太は少しテンションが上がった。





サッカーサークルの交流会が駅前の大きな外資系ホテルで執り行われた。


総勢80人程の規模だった。


ビュッフェ方式での食事会で


他大学のサッカーサークルの学生らも


参加していた。


「旒星、、これ何の会??」


「なんか5年に1回くらい


うちらのサークルが伝統としてやってる


飲み会らしい。。


正式なお食事会と合コンをごちゃ混ぜにした


感じの会って、キャプテンが言ってた。」



何やらよく分からない会に


硫太と旒星


そして楓と珠音は


参戦したようだった、、、




成人としてアルコールも多少飲む


4人は


宴ではビールや酎ハイなどを飲みながら


他大学のサッカー関係者と


交流を深めた。


ちょっと休憩をと、硫太はテラスの椅子に


腰掛けた。


ワイングラスを片手に涼しい風が


硫太の周りを吹き抜けた。


部屋の中では、旒星が相変わらずまた


良い感じの2人組女性を相手に


口説いている最中のようだ。


それを見ながら硫太は少し笑っていた。


「どうしたの?硫太くん、楽しそうに。」


隣の椅子に楓が腰をかけた。


楓も甘そうな酎ハイらしき飲み物を片手に


少し酔いが回っているのか火照った様子で笑顔で硫太に話しかける。


「いやー、旒星のやつ、相変わらずまた口説いてるなって、、あいつもほんと意識が高いというか、、」


「えっ??それって意識高いんじゃなくて

意識低いってことじゃないの?」


楓は覗き込むように硫太の顔に近付いてきた。


硫太は一瞬ドキッとしながらも


あくまで冷静を装い、毅然と反応した。



「いや、、あいつにとってはこういう軟派な遊びも本気なんだよね、、長くあいつとは付き合ってるから分かるんだけど

あいつは何に対しても全力なんだ。


一切の妥協がない、、


まあ女遊びについては賛否両論あるだろうから

なんとも言えないところなんだけど


それでもあいつはとにかく中途半端なことは

嫌いで真っ直ぐだから


良いやつなんだよ、、、」



「ふーん、、、


なんか男同士ってよく分かんないもん

なんだね、、?」



少し呆れた様子で楓は答えた。



「うん、、、まあね、、」



楓は硫太との接近状態を解除することなく


かなり近い距離にいる。



そのまま楓の髪が硫太の肩にササっと

寄りかかってきた。


楓との距離は目と鼻の先だ。


硫太はやばいと思って


楓のほうを見てみたが、、



楓はそのままスヤスヤと眠りに落ちていた。



「・・・だよな、、、」


大きな期待と淡い硫太の気持ちは


テラスを吹き抜ける風と共に


流れていった。



「そういや、旒星。


この間の交流会で声掛けてた女の子達とは


どうなった?」


大学の学食エリアで頼んだ


カツカレーを食べながら


硫太は問うた。



「もちろん!ゲットしたよ!


おしとやかで綺麗なお嬢様タイプだったなー。」



トマトベーコンのサンドイッチを

食べながら旒星は言った。


「旒星、、お前は天才だよ。。」



「ところで、硫太はどうだ?


楓ちゃんとは


進展したの?」



「いや、、それがまだまだ


こう着状態でさ、、、


なかなかもう一歩距離が近づいていかない。」



「おー、、、なんか高校生みたいな

恋愛だな、、いいじゃん、いいじゃん。」


旒星はトマトベーコンサンドイッチを


めちゃくちゃ美味しそうに食べている。


「それ、、めっちゃ美味そうだな、、」



「ここのトマトベーコンサンドイッチは

格別だよ!硫太、、これはヘビロテで

食べたほうがいい!」



「今度食べてみるよ、、、」



ガヤガヤとざわめく構内の学食エリアは


本日も晴天だ。





珠音からメールが届いた。


「今度、みわくのさとにみんなで

遊びに行かない?ぱーっと遊ぼうよー」



硫太は二つ返事で承諾した。


旒星もこれには乗り気なようで硫太も安心した。


『みわくの郷』


県内最大級の遊園地でもありデートスポットともして知られる。


園内には絶叫系アトラクションや水しぶき系のアトラクション。お化け屋敷などもあったりと

いわゆる遊園地らしい遊園地だ。


平成初期には県外からも多くの人が押し寄せ

絶大な人気を誇ったが、今は時代背景も影響して細々と営業を行っている穴場の遊園地だ。


4人はサークルやアルバイトの予定を合わせ


しっかりと全員参加で当日を迎えた。




「硫太ー!!!おれらお化け屋敷行ってくるわー!お前らも後からついて来いよー!!」



旒星は遠くから珠音と歩きながら

後ろにいる硫太と楓に大きな声を掛けた。



「おー!!!分かったよ!!お化け屋敷おれらも行くわー!!」


硫太も楓とチョコ味のソフトクリームを食べ歩きながら答えた。


「えっ、、硫太くん、、お化け屋敷、、、行くの?」



楓の表情が一気に青ざめたものに変わった。



「えっ、、、、

もしかして、、、


楓ちゃん、、、苦手?」



「お化け屋敷だけはほんとに怖くて、、、


そういう系、わたしほんとに無理で、、、」



「でも、たぶんここのお化け屋敷は古いし

そんな最先端じゃないから


子供騙しのようなもんだと思うよ、、」



「いや、、、たぶんわたし、、


それでも無理だと思う、、、


ほんとにお化け屋敷だけは


怖すぎて、、、」



「そうか、、、分かった!


じゃあおれがまず様子見で1人で


入ってくるね。


そして、中の内容を全部教える!


それで屋敷内の全ての構造を把握した上で


一緒に行くか行かないか決めようよ!」



おれって天才か?と思いながら


自信に満ち溢れた表情で硫太は楓に伝えた。



「あっ、、、うん、、、分かった、、、」



楓もひっそりと答えた。




硫太は一通りのお化け屋敷の図面を


スマホにメモしながら


ゆっくりと中を進んだ。



《よしっ!


ここまでメモして完璧に構造を


教えてあげれば楓ちゃんも


おそらく安心するはずだ!》


硫太はお化け屋敷を出た後


楓に中の様子を伝えた。


「・・・というわけで


中の構造と仕掛け全て


把握出来ていて


驚かせるポイントも事前に分かっている


状況だよ!


だから、大丈夫!


安心して!」


硫太は楽しそうに楓に伝える。


「よし!それじゃあ、入ろうか!」


元気良く硫太は楓に伝えた。


「硫太くん、、、ごめん!!!!


やっぱり私、、無理!!」



真夏の少し湿った風が硫太の目の前を


吹き抜けた、、、




「おい、、、お前たち、何してんだー??

全然迫力無いお化け屋敷だったぞ!


早く入れよー!!」


お化け屋敷を出た旒星と珠音の2人は


硫太と楓に促した。


「ごめん、、旒星!!


ちょっとやっぱやめとくわ!!


おれお化け屋敷、大の苦手で!!」



硫太は大きな声で笑顔で叫んだ。


「はっ??硫太、、バカ??笑


小学生でも怖くねえぞ、このお化け屋敷は!


そんなんじゃ、楓ちゃんを守れねえぞ、、


ダセエなー、硫太は!!笑」



ガハハというような笑い声で


嬉しそうに旒星は硫太をおちょくってきた。


ごめんごめんと硫太は手を合わせて謝った。



「硫太くん、、ありがとう、、


なんか気を遣わせちゃって、、


ごめんね、、、


でも私、本当に無理すぎて、、」



申し訳無さそうに楓は硫太に謝った。



「いや、良いんだよ!無理して入るもんじゃない!!楽しいアトラクションだけ行こうよ!!」


硫太は笑顔で答えた。


「ありがとう、、


じゃあ私はあの船みたいな


絶叫系アトラクション!!


あれは大丈夫!!


絶叫系は大好きだから!


硫太くん、あれ乗ろう!」


楓はそう言うと嬉しそうにそのアトラクションに向かって走って行った。



《楓ちゃん、、、


あの、、、


おれ絶叫系とかまじで無理なんだけど、、、》



走り抜ける楓の背中を見ながら


硫太は心の叫びをぐっと押し込めた、、、




絶対乗りたくない絶叫系の船のアトラクションに乗ってしまった硫太はぐったりとベンチに腰掛けた。


「硫太、、大丈夫か、、


えらい疲れてるな!」


チュロスのようなお菓子を食べながら


サングラス姿の旒星は楽しそうに笑った。



「あっ、、いや、、大丈夫、、全然、、、」


苦笑いの硫太。



「硫太くん、あの船のアトラクション楽しかったね!!もうちょっとしたらまた乗ろうね!!」


《えっ、、、、まじで、、


それは、、だめ、、、》



心の叫びは楓には伝わっていないようだった。


旒星と珠音は楽しそうに仲良くやっていて

本当のカップルのようだった。


硫太も、楓とはそういう感じになりたいので

苦手な絶叫系アトラクションも無理して乗り


なんとか乗り切ろうと頑張った。


珠音と楓が2人で絶叫系アトラクションに向かって行った後、硫太はジュースを飲みながら

旒星としばしの休憩をした。


「硫太、、、楽しくやってんじゃん!!


もうそろそろいいんじゃねえか?


一歩踏み出してみろよ!」


旒星の軽い口調のこのセリフは


硫太にとってとても大きく重い


言葉だった。



「そうか、、、そうだよな、、、


確かに、、、


そろそろ、、


言わないとな、、、」



急に硫太は緊張してきた。


「まっ、、男はいつか


勝負に出ないといけないから!


よろしく頼むぞ!!」


旒星のノリは軽いが


どうやら目は真剣のようだ。


《よし、、、


頑張るか、、、》


向こう側に見える船の絶叫系アトラクションを

見つめながら、硫太は覚悟を決めた。




「どうしたの、、急にこんなとこに呼び出して。」


楓はそう言った。


楓と珠音が絶叫系のアトラクションに乗って


アドレナリンがギンギンに出ているであろう状態の時に


硫太は楓をサファリエリア前のベンチに呼び出したのだから、楓が驚くのも無理はない。


「いや、実はね楓ちゃん、どうしても楓ちゃんに秘密のことを伝えないといけなくて、、、」


硫太はセリフをこの数分の短時間で考え込んでいた。


「秘密のこと?えー、、硫太くん


何か私に隠し事してたってこと?


なにー?私が怒ること?」



楓は全然気付いていないようだ。


それどころかめちゃくちゃリラックスモードで

笑顔全開で話してくる。


「まあ、、怒るかもしれない、、


いや、怒るだろうな、、


もしかしたら怒りすぎて


おれと絶交するって言い出すかもしれない。」


さすがにここからは硫太もアドリブで対応する。


「えっ、そんなにヤバいことを隠したってこと?なに、それー?怖いんですけどー、、、」


少し眉を細めながら視線を合わせてくる楓。


「でも大丈夫!!怒って絶交されても


言わないといけないんだ、、楓ちゃんには!


おれにとって楓ちゃんはそんな人だから!」



「なになになに?怖い怖い、、硫太くん、、何かやらかした?」



「うん、、おれはここ最近で大きなことをやらかした。」


硫太は少し笑いながら楓に話しかける。


「えっ、、、図星、、、?


それは確かに私、、怒るかも、、、」



「いや、、いま楓ちゃんが想像する75倍は

ヤバいことだと思う、、、」



「75倍?えっ、、めちゃくちゃ大きすぎだし

刻んでるし、、、」





「おれは楓ちゃんを愛してしまった、、


好きになってしまった、、


ずっと一緒にいたいと思ってしまった、、、」



硫太は笑顔で

大きな声ではなく


でもはっきりと楓に言い放った。



一輪の花が二人の前を風と共にすり抜ける。




楓の表情は少しばかりの驚きと


その小さな口も少しばかり開き


二人の間に少しばかりのが出来て


この瞬間を、少しばかり離れた傍から


誰かがスマホのシャッターをパシャリとやった。




「硫太くん、、、


ほんと?、、、



冗談とかじゃなくて、、、?」


楓はポツリと呟いた。



「う、、、うん、、、ほんとのことだよ、、、



怒った?」



「いや、、、怒るとか無い、、、


ただ、、なんか


びっくりしちゃって、、、」



少し照れたような表情を見せる楓。



「ごめん、、突然こんなこと言われても

困るよね、、


でもおれ、、、


ずっと楓ちゃんにこの想いを伝えたいと


思ってて、、、


楓ちゃんと会うと楽しいし


すごく素敵な人だなって、、



びっくりするかなと思ったけど


でも気持ちを伝えたかったんだ、、、


ごめんね、、」



「いや、、、全然謝んなくていいよ、、


むしろ、、、ありがとう、、、


私のことなんかをそんなふうに


思ってくれて、、、」



一瞬の空っ風が2人の間を駆け抜ける。





「本当に硫太くんの気持ち、、


すごく嬉しい、、、」


楓は小さな笑顔で呟く。



「でもね、、、


私、、、


硫太くんとは


恋人になれない気がする、、、」




硫太の脳に一本細い槍が


額から

後頭部にかけて


ズシンと突き刺さるような


感覚を覚えた。



硫太は一瞬全ての景色が真っ白になったような


気がした。



「えっ、、、てことは、、、


付き合ったりは、、、


出来ない、、、


ってこと、、、?」



何とか振り絞った硫太の声、、、


2人の間は間違いなく静まり返っていた。



「う、、、うん、、、


硫太くんと私は


そういう関係にはなれない気がする、、、」



楓は小さな声ながらも


芯ははっきりとした口調で


硫太に伝えた。





楓は硫太の想いにYESの答えは持ち出さなかった。


「そうか、、、

だめか、、、



残念だけど、、、


これは楓ちゃんが決めることだから、、


仕方ないね、、、


分かった、、、ありがとう、、、」


俯いた硫太の表情で


隙間からスマホのシャッターを切った


旒星もことのなり行きを察した。



《硫太、、、ダメだったか、、、》



「なんかね、、、私、、こんなこと言うとあれだけど、、、


硫太くんのことも旒星くんのことも


本当に大好きなの、、、


本当に大切だし、、


私にとっては2人ともかけがえのない


大切な人なの、、


でも、、、


この関係をずっと続けていくには


私は、、


恋人になってしまうと


崩れてしまうと思って、、、


なんかほんとに


私のわがままになっちゃうんだけど、、


私は硫太くんとも旒星くんとも


別れたりするのが嫌なの、、、


ごめん、、、納得してもらえないかもしれないけど、、私の中でそのことはとても重要なことで、、、」


楓も振り絞るように言葉を並べた。


「そうか、、、



なんか、、、


すごく分かるような


でも何となくやりきれないような、、


そんな気持ちだけど、、、


でも、、


楓ちゃんもそういうふうに


オレたちのことを思ってくれてるなら、、


おれもその期待に応えないといけないのかな、、、」



硫太は楓の気持ちをしっかりと受け止めることにした。


真夏の太陽が照らし出す2人のスポットは


暑さと熱気で入り混じっていた。




陰でひっそりとその光景を見守っていた旒星は


足早にその場を後にした。


硫太と楓も


何も無かったことにしようねと2人で話して


一緒に旒星と珠音のもとへと戻って行った。



合流した4人はその後も、何事もなかったかのように思いきり遊んだ。


日が暮れる頃まで遊び尽くして

この日の遊園地を満喫したのだった。



数日後、、


硫太と旒星はお気に入りのお店


居酒屋「いいなみ」で


合流した。



「旒星、、、


お前には言っておかないといけないことがある。」


カシスオレンジを飲みながら


硫太は言った。


「なんだよ、、突然、、、

楓ちゃんとなんかあったのか?」


旒星は白ワインを片手に聞いた。


「楓ちゃんに振られた!!


思いっきり!!!


おれと旒星のことは


恋人として見れないって言われた!」



硫太は真顔で旒星に言った。



少しの沈黙が流れた。



「そうか、、、


硫太、、、



振られたか、、、」



旒星は下を向いたままそう言うと


一向に顔を上げずに俯いていた。


「旒星、、、


でもおれは、、


仕方ないかなと思う、、、



人にはそれぞれの考えがあって、、


そうと思ってもそうじゃないとか、、



そうじゃないけど、そうだとか、、


人の考えって結構複雑なんじゃないかなって


思ってる、、」


旒星は顔を上げた。



「おー、、、硫太、、、


お前すげえこと言うな、、


そうだよ、、、



おれもそう思う、、、



人には色々と事情があるんだよ、、、


だから白黒つけれないこととか


やっぱりあるもんだとおれと思う!」



旒星も少し笑顔でそう言った。


「旒星、、、


おれは決めた!!


おれはいつか、、


絶対、楓ちゃんよりも素敵な女性と出会って


結婚する!!


そして楓ちゃんを結婚式に呼んで


楓ちゃんのおかげで


おれはこんな素敵な女性と結婚が出来たって


言ってみせる!


楓ちゃんに良かったねって言わせてみせる!


旒星、、、


おれはこれで負けじゃない!


ここからおれは勝つ、、、


いつか必ず勝つ!!」


硫太はカシスオレンジを更にぐいっと飲んで


旒星に誓った。



「おー、、硫太!!


さすが硫太だ!!


そうだよ、その気持ちだよ!


絶対今の言葉忘れるなよ!!


お前は絶対楓ちゃんよりも


素敵な女性と結婚するんだ!


おれは見てるからな!!


おれもお前の結婚式で


楓ちゃんに感謝する!!


これはおれら2人の約束だ!!」


旒星は嬉しかった。


恋愛に関しては旒星は百戦錬磨、、



酸いも甘いも経験してきている。



恋愛ってこんなもんだと旒星は


分かっていた、、


ただ、、硫太のことは心配していた。


楓に対してどういう態度でこれから付き合っていくのか、、


旒星の心配はこの日で


全くその必要が無くなった、、



旒星は嬉しかった。




その後も硫太と旒星。


そして楓と珠音は


4人で集まっては


遊ぶを繰り返した。


旒星のほうも珠音については


恋人という感じではなく


あくまで友達という関係で


仲良く続いていった。



「硫太、、、実はおれ、、


珠音ちゃんに告白された、、」



ある日、お気に入りの


居酒屋「いいなみ」で2人で飲んでいるときに


硫太はそのことを告げられた。



「そうか、、、珠音ちゃんは旒星のこと


好きだったんだな、、、」



カシスオレンジを飲みながら


硫太は答えた。



「それで、、


旒星、、、


なんて答えたんだ?」



旒星は赤ワインを片手に話す。


「そうだな、、、


まあ、、、


付き合うことにした、、、」



一瞬、硫太は衝撃が走った。



「えっ、、、、?


まじ、、、?」



硫太は驚きを隠せなかった。



「うん、、、


まじだ、、、



おれは珠音ちゃんと付き合うことにした、、、」



赤ワインを更にぐっと飲んだ旒星は言った。



「そうか、、、


そうなのか、、、


旒星が珠音ちゃんと、、、」



なんだろう、、


硫太は嬉しいのか悲しいのか


よく分からない感情が自分の身体の周りを覆っていることに気付いた。



おめでとう!と言いたいわけでもなく


なんで?なんで?と根掘り葉掘り旒星に

質問をぶつけたくなるわけでもない。


ただただ、硫太は旒星の決断に驚いていた。



「楓ちゃんはオレたちの間で


そういう関係になることは


無いって言ってたよね。


でもおれは違った、、


珠音ちゃんは良い子だし


勇気を出しておれに気持ちを伝えてくれた。


おれとしては恋人というのをこれまで


彼女に対して意識したことは無かったけど


珠音ちゃんが決めた決断やそういう想いに


おれは応えないといけないと思ったんだ、、、」


旒星はしんみりとした表情で硫太に伝えた。



「旒星、、、、


お前は、、、



なんか凄いな、、、


おれとはやっぱり恋愛偏差値が


格段に違う、、、」



硫太は旒星の決断に


尊敬と敬意を隠せなかった。



「灯台下暗し(とうだいもとくらし)、、、


って言葉あるだろ?」



旒星は言った。



「自分にとって遠い存在の人や物って


輝いてみえるものなんだ、、


こういう女性と仲良くなりたいなーとか


こういう仕事って楽しそうだなーとか、、、



でもね、硫太、、


おれは思うんだよ、、



遠い存在に憧れるのはただの夢、、


眠っている時に見る夢のようなものだ、、、



でも目の前にいる友達やいつも履いてる靴とか、、、



自分にとっての必需品ってさ、、


慣れすぎてしまって、輝いて見えないんだよ、、、


でもね、、輝いてもないのに


いつも自分のことをまとってくれてるんだよね、、、


おれはそういう人やものを大切にしていきたい、、、


おれはそういうものを輝かせたい、、、


なんかね、、、


珠音ちゃんについては


そういう想いにさせてくれたんだ、、、」



旒星の熱い気持ちが


居酒屋「いいなみ」の


雰囲気をまた一段と輝かせてくれていた。




珠音と旒星は交際を始めた。


楓と硫太は2人を祝福し


4人の絆はより一層強いものにしていこうと


みんなで誓った。



旒星は女好きだし


1人の女性に執着するタイプではない。


それでも旒星は恋人として


珠音という女性を選んだ。



必ず旒星は珠音を幸せにする。



硫太は確信した。



2人の交際が始まっても


いつも通りに4人で遊んだし


共に行動した。


そして


硫太はたまに旒星と2人で飲んだ。


いつもの居酒屋


「いいなみ」で。





「旒星、、、おれらそろそろ就職とか


考えないといけないじゃん、、


旒星は将来どうなりたいとかあるの?」



カシスオレンジを飲みながら硫太は言った。



「就職、、、そうだよな、、


いつまでも学生ではいられないもんな、、


おれらも就職しないといけない


年齢になったんだな、、、」



白ワインを片手に旒星は呟く。



「おれ、、、将来は消防士になりたいかも、、、」


旒星は言った。


「消防士??


旒星、、そんな夢があったの?」



硫太は驚いた様子で旒星に言った。


「なんかさ、、おれも


もしかしたら珠音ちゃんと結婚するかも


しれないじゃん、、


そうなるとやっぱりちゃんと稼がないといけないよね、、


そうなるとやっぱり公務員とかそういう仕事に就いたほうが良いのかなって、、、」



随分としっかりした考えに硫太は頷いた。


「それに、、、仕事ってやっぱり


なんか世のため人のために


なったほうが良いじゃん!


自分のためにやるのも良いんだろうけど


やっぱり人のためだったり


誰かが喜ぶような


そういう仕事のほうがやりがいあるのかなって、、、


そういう意味ではおれは


消防士ってすごいカッコいい仕事なのかなって


思うんだ、、、」



「旒星、、、まじいいよ、それ!


消防士になってよ!


絶対良い消防士になるよ、旒星なら!


おれまじで応援する!」



硫太は自分ごとのように嬉しそうに言った。



「硫太のほうはどうなの??


何かやりたいことあるの?」



間髪入れずに旒星は聞いた。


「おれは、、、


結婚はたぶんまだ先だろうし、、


いろんな仕事を経験したいと思ってる、、


海外で働きたい気持ちもあるし、、


何か世界で困っている地域とかで


現地の人を助けるような仕事とか、、、


漠然とではあるけど、、


なんかそういう人助けみたいな仕事は


やってみたいかなって思ってる、、、」



「なんか、良いな、、硫太らしくて、、、」



旒星は赤ワインをぐっと飲み干した。


「今ってさ、YouTubeとかeスポーツとか


仕事の種類もなんか遊びっぽいものも含めて


いっぱいあるじゃん!


一攫千金みたいな仕事とかもさ、、、


でも、そういうのって自分は嬉しいかもしれないけど、周りの人は別に嬉しいものではないよね!おれがYouTubeで稼ごうが周りの人にとっては何の価値も無くて、、、


だから硫太にもおれはそういう仕事はあまりしてほしくなかった、、、


だから、、


なんかおれとしては


硫太がそういう考えを持っていることが


なんか嬉しいな。」



旒星はポツリと呟いた。



2人は将来の自分達の方向性について


じっくりとその後も語り合った。




珠音と旒星の関係は全くと言っていいほど


順調に進んでいった。


特にこれまでの雰囲気が変わることなく


友達の延長のような付き合いだった。


その甲斐もあって、楓と硫太についても


2人のことを全く気遣う必要もなく


4人の友人関係も順調に続いた。


楓に至っても


硫太との気持ちの違いがあったものの


硫太のことはこれまで通り友達として好きであったし


硫太についても楓について変に意識することなく関係は穏やかに続いていった。


硫太は楓との恋愛は空振りに終わったものの


実はまた新たな挑戦へと気持ちを高ぶらせていた。




「おれ、スイスに行ってみようと思う、、、」


居酒屋「いいなみ」で


硫太は旒星に告げた。



「スイス?なんでいきなり、、、?」


旒星は硫太の一言に呆気にとられた。



「スイスの


あのアルプス山脈を見上げる大自然の風景と


ピザやパスタといった


チーズなどをふんだんに使った


まさにスイスならではの料理、、、


自分の価値観を広げる為にも


おれはスイスに旅に出ようと思う、、、」



「これはまた、、、硫太、、、


すごい決断だな、、、


いきなり行く旅行がスイスって、、、


そのワールドワイドな考え、、、


尊敬するわ、、、」



旒星は硫太の決断に苦笑いで答えた。



「おれは、将来は必ず世界に飛び立ちたい夢がある、、、


だから、世界の良いところも悪いところも


自分の目や、自分の足で


確かめたいんだ。」


硫太は決意に満ちた表情で言った。



「恋愛ってさ、、なかなか自分でコントロール出来ないじゃん、、


でもさ、自分のやりたいことや

将来の夢ってさ、、


自分の気持ち次第でコントロール出来るじゃん、、


だからおれは、恋愛はダメだったけど


自分のやりたい夢については


全力でぶつかって


結果を出したい!


その道のりの一つとしておれは、、


スイスの旅を成し遂げる!!」


力強く誓った硫太だった。




パスポートを取り


50万以上必要となる旅費も


バイトでなんとかやりくりして


硫太はスイス行きの切符を手に入れた。


価値観を広げ


自分のやるべき道を明確にしていきたい


硫太は遠いスイスの地でまずは


その第一歩を踏み出すことにした。


そして、旒星はもちろんのこと


楓と珠音についても


この硫太の決断に賛同し


みんなの応援のもとで硫太はスイスへと


旅立っていった。




スイスに降り立った硫太。


約15時間のフライトを終えて


クタクタの身体にのしかかる負担は


相当なものだったが


スイスの空港で見る景色は


それらの全てを忘れさせてくれた。


日本とは違うまさに異空間の雰囲気に


硫太は飲み込まれた。


《これがおれが憧れたスイスか、、、


なんか日本とは雰囲気が全然違う、、


空気まで美味しい気がする、、、》



硫太は首都ベルンのホテルにチェックインした。


旅行前に、多少の英語はと思い、覚えたカタコトの英会話でなんとかホテルでの会話などは

事なきを得た。


ここからがスイスでの本当の旅だ。


硫太は思い切って外に飛び出して行った。




スイスの街は活気に溢れていた。


街中の飲食店やふと視界に入る公園なども


とても綺麗に整備されていて


とても良い街並みに思えた。


《毎日、こんな中で生活出来たら

楽しいだろうなぁ、、》


硫太はそんな思いにもなった。


ふと、入ったカフェで


硫太はコーヒーとチーズケーキを頼んだ。


伝統的な雰囲気を思わせるレンガ作りの建築で

いかにも老舗といった感じのカフェだ。


注文を待っていると


どこかキョロキョロする1人の日本人のような女性が目に入った。


さすがに街中を見ても日本人らしき人はそうは見かけなかったので硫太は少し安心した。


思い切ってその女性に話しかけてみることにした。


「こんにちは!日本の方ですか?」




「あっ、、、はい、、、日本人です、、、


旅行で来ました、、、


あっ、、日本人ですか?」


その女性は硫太にそう言うと自分でもおかしいと思ったのか、クスッと笑ってみせた。


「あっ、、、はい、、僕も日本人です、、


僕も旅行で、、、


なんか良かった、、日本の人がいて


安心しました、、」


硫太は言った。


「ぼく、、桐ヶ崎硫太って言います、、

大学3年生です、、」


「わたしは、、

森本麗香もりもとれいかです、、


大学2年生です、、」



「同じ大学生なんですね、、なんか奇遇ですね、、女の子1人だけで来たんですか?」


「そうなんです、、私、、あんまり友達がいなくて、、、大体1人で行動してることが多くて、、、ここにも、、」


「なぜスイスに?」



「スイスに憧れてたんです、、


アルプス山脈を望む壮大な大地と、、


あと、、ピザとかパスタとか美味しそうだなと思って、、、」



「えっ、、、僕と同じですね、、、


スイスに来た理由、、、」


硫太は笑いながら麗香に言った。




「あの、、、もし良かったら一緒に


観光地とか巡ったりしませんか?


もし良かったらでいいので、、


全然無理なら無理でも大丈夫ですけど


ちょっと日本の方と一緒なら心強いかなと、、、」



硫太は麗香に言った。



「あっ、、、あー、、、うーん、、


分かりました、、、


もし良かったらぜひ、、、お願いします、、、」



若干の戸惑いを見せながらも麗香は硫太の提案を承諾した。


硫太にとってはまさに青天の霹靂、、、


奇遇が重なって


麗香も交えた旅に変わっていく、、、




早速2人はスイス最大の美術館である


チューリッヒ美術館へと向かうことになった。


首都ベルンからチューリッヒまでは電車で1時間ちょっとの距離だ。


2人はコンビニで適当なコーヒーと間食を買って電車に乗り込んだ。


「麗香さんはどこに住んでいるんですか?」


「私は都内です。実家暮らしですよ。

桐ヶ崎さんは1人暮らしですか?」


「あっ、、硫太でいいですよ!呼びにくいでしょ?おれも実家です。だからあまり外の世界を見たことなくて、、だからこういうところに行きたかったのかもしれません。」


「あっ、、分かります!実家にずっといると

なんだか視野が狭くなりますよね、、いつも同じ人と一緒だし会話もそんなに目新しいものはないし、、で、私、友達も少ないのでこのままじゃやばいと思って、、なんか大学生活の中でこれはやった!っていうものを作りたくて、、思い切って1人で旅に出ようと思ったんです、、」



「ほんとに、おれと同じ考えだ!でもおれの場合、もう一つ理由があって、、


実は好きな人に振られちゃったんです、、


結構好きだったからちょっとショックで、、


でもその子は友達だったし、これからもその関係は続くから、、


何かおれが一皮剥けないと彼女とも自信を持って友人関係を続けていけないと思って、、


それで生まれ変わる為の一つとして


まずはこのスイス大旅行に踏み切ったわけです、、」


「スイス大旅行って、、、笑


まあでもそうですよね、、、


好きな人とそんなことがあったならば


かなり大きなことをやらないと


なかなか次に踏み出せないですよね、、


分かります、、、


なんかでも、、ちょっと私たちの行動って

似てますよね、、笑」


「ほんとそれ思う、、、なんか同じような感覚でこの旅を試みた感じですよね、、なんか面白い、、、」


「うん、、なんか面白い、、、」


スイスの列車は綺麗な街並みの中を

2人を連れて進んでいく。




チューリッヒ美術館に降り着いた2人は


美術館に並ぶ世界有数の名画に


酔いしれた。



「本当に凄い絵ばかりですね、、


圧倒されます、、」


美術館を出た後、麗香はその感動を


硫太に伝えた。


「うん、、本当に感動を超える感動を感じた、、、絵の力って、言葉にならない程の力がある、、おれはそう感じたな、、、」



硫太もこの感動を麗香に伝えた。


「スイスって本当に良いところですね、、


来て良かった、、、」


感慨深げに麗香は言った。



「うん、、スイスって凄い国だ、、


こんなに心を動かしてくれるんだから、、、」


硫太も麗香に続いた。



「夜は、、、もし良かったらベルンの街で


ピザでも食べない?」


硫太は言った。



「ぜひ、、、ピザ、、めっちゃ食べたいです、、、」


麗香も応えた。




その夜は


2人でベルンの街にある


ピザやパスタが食べれる店を探して


そこで夕食を摂ることにした。


「なんか、硫太さんと会ってほんとに良かった、、1人だとソワソワしちゃって

入りたいお店も入れなかったと思う、、


でも硫太さんがいてくれると一緒に入れるから心強い、、


ほんとにスイスに来て良かった、、硫太さん、ほんとにありがとうございます、、」


ワインを飲んで軽く酔ったのか


麗香は昼間とは違う少し砕けた感じで

硫太に言った。


「それは、おれも同じだよ!おれも麗香ちゃんがいなかったらこんなふうに満喫出来てないよ、、しっとりとした旅になってただろうね、、おれもほんと良かった!ありがとう!」


硫太は慣れない黒ビールを飲みながら言った。


「最高のスイスの旅に

かんぱーい!!」


その夜は2人とも楽しく宴を過ごした。




翌る日、、


ホテルでしっかりと睡眠を取った硫太は


麗香との待ち合わせ場所である時計台へと


向かった。


既に待ち合わせ場所に麗香はいた。



「硫太さん、おはよう!


昨夜はよく寝れた?」



「麗香ちゃん、おはよう!


うん、おかげさまで、、、


ちょっと飲み過ぎちゃったかも、、」


「うん、硫太さん、結構飲んでたよ、、」



麗香は笑った。



今日は2人がスイスに来た1番の目的とも言っていい目的の一つ。


アルプス山脈の麓を走り抜ける列車の旅だ。



「天気も晴れて良かったー!!


最高の景色が見れそうだ!」



背伸びしながら硫太は大きな声を出した。


「楽しみだね!」


麗香もそれに応える。


スイスで最も人気があり


100年以上の歴史を誇る


伝統的な鉄道


ユングフラウ鉄道の旅はいまここから始まる。




ユングフラウ鉄道から見えるスイスの景色は


圧巻だった。


硫太は地元の海や大学キャンパスでの


見慣れた景色も大好きだったが


スイスのこの景色は


あまりにも世界観が違いすぎた。



「すげぇ!!!


世界にはこんな場所があったなんて、、、


おれって凄い視野の狭い中で


生きてたんだな、、、


なんか人生観そのものが


大きく変わっていく気がするよ、、、」



硫太はスイスのこの絶景を見た時に


一瞬にして心が奪われてしまったような


感覚に陥った。



隣に座る麗香は


言葉すら出てこない。


キラキラ光る眼差しが


麗香の感動を物語っていた。



アルプス山脈の麓の大草原や動物たち。


そして登れば登るほど美しく光り輝く


アルプス山脈の雪景色、、、



夏と冬を同時に感じるかのような


この世界観に硫太と麗香は圧倒された。



「旒星にも見せてやりたいなー!」



「あっ、昨日お店で話してくれた親友の子?」



「うん!旒星も絶対大好きになると思う、、この地が、、」



「好きな子、、、楓ちゃんだっけ?

楓ちゃんにも見せたい?」



「楓ちゃんには、、、どうかな、、?


偉そうなことは言えないけど

でもきっと喜ぶと思う、、、」


「ごめんね、、変なこと聞いたね、、」



「全然、全然!平気だよ!

でもみんな見たいだろうなー、、


こんな凄い世界観、、、」


2人は夢の中にいるような


時間を共に過ごしていた。




列車も途中下車して


お腹の空いたところで


2人はハンバーガーショップに入り


ハンバーガーとポテトを食べた。



「こんな高い山の麓で食べるハンバーガーは

絶品だ!美味い!!」


硫太は叫んだ。



「うん!間違いない!ほんとに美味しい!」


麗香もそれに応える。


お腹を満たし、残りの列車の旅も満喫した


2人は約3時間程の旅を終え


出発した駅に辿り着いた。



「最高だー!!


なんか軽く夢が叶った!!」


硫太は両手を上げてガッツポーズのような

格好をした。


それにつられた麗香も同じようなポーズを取った。


「私も一つ夢が叶ったー!」


そのシーンが珍しかったのか


1人の西洋風の観光客の男性が


ポラロイド写真を撮っていて


すぐに出来上がった現像を硫太に差し出した。


どうぞ!という感じで差し出された写真を


硫太は受け取り、その男性に握手をしてお礼を言う。



「thank you!!very very thank you!!our best memories!!」




「スイスってなんか人も温かいし

最高だね!」


列車の旅を終えた2人は公園でゆっくりと

休憩を取っていた。


「うん、私、海外初めてだから

海外の人は冷たいのかなって勝手に思ってたけど、温かい人ばかりでびっくり!

人って優しいんだね!」


「うん、、人は優しい、、、」



「なんか明日は美味しいパスタとか

食べに行きたい、、、」



「おっ!いいねー!パスタ食べよう!

良いお店探そうか!」



スイスの旅は続いていく。




翌る日


美味しいパスタの店を2人で見つけ出し


昼間からそのお店でお酒とパスタに酔いしれた。



「あー、もうスイスに住みたい!


スイスのこと大好きになった!」


ほろ酔い加減の麗香は嬉しそうに言った。



「ほんと、それ!

まじスイス良いよね!


おれも住みたい!」



硫太も負けじと答えた。、


「硫太くんはさー、将来の夢ってあるの?」


「おれの夢、、?


そうだな、、おれは仕事で大きなことを成し遂げたい!

世界で通用する大人になりたくて、、


世界で困っている人たちを助けられるような、、


そんな仕事をするのがおれの夢かな、、」



「めちゃくちゃカッコいいね!


硫太くん、、そういう仕事向いてそう、、、」



「麗香ちゃんは?

なんか夢とかあるの?」


「私は、、、ピアノの先生かな、、、」



「ピアノ、得意なの?」


「うん、、まあ、、ピアノくらいしか

人並以上に出来るものなくて、、、」



「めっちゃいいじゃん!ピアノ出来るって

まじ尊敬だよ!今度演奏聞かせてよ!」


「えー??どこで、、、?」



「えっ??


そうだな、、、


日本で、、、」



「う、、、うん、、、いいよ、、」




ついにこの旅の最終日となる朝を迎えた。


昨日2人で話し合い、最終日については


各々1人で好きな場所を観光し


思い出を作ろうという話になった。


硫太は登山をして、スイスの光景を目に焼き付けることにした。


麗香はアンティークや雑貨屋さんなどで


ショッピングを楽しみたいとなり


そうすることにした。


硫太はスイス最後の観光をゆっくりと噛み締めるかのように一歩ずつ山を上がっていった。


麗香もスイスの綺麗な街並みを散歩するように


オシャレな雑貨屋さんなどを巡りながら


スイスの観光を大いに満喫した。


硫太は麗香より一足先にスイスを後にする。


日本でもまた会う約束を交わし、硫太は麗香と別れた。


硫太はスイスの空港で最高の思い出と別れを告げた。


《ありがとう、、スイス、、


おれにとって最高の時間だった、、


また必ずこの地に戻ってくる、、


その時はおれも必ずビッグになってるから、、


待っててくれ、、スイス、、、》



こうして、硫太のスイスの旅は幕を閉じた。




「それで、どうだったんだ?スイスの一人旅は!!」


白ワイングラスを片手に


行きつけ『いいなみ』に


旒星と硫太は居た。



「スイスは最高だったよ!


本当に行って良かった!


想像の6倍は楽しかった。。。」


「まじかー、、、いいなー!

おれも行ってみたいなー、スイス、、」


旒星も喜んでくれた。


「本当に旒星も行くべきだよ!

あの感動は日本ではなかなか味わえないものだと思う、、


スイスに行ってみないと分からない感動というか、、


本当にスイスのことが好きになったし


旒星も絶対好きになると思う!」


「硫太がそこまで言うんなら


本当に最高の国なんだろうな、、、


良いなー、硫太は凄いよ!


ワールドワイドだよ、ほんとに、、、」


「いや、そんなことないよ、、暇だから行けたようなもんだし、、」


「で、将来の夢とかも


結構、固まった?それとも変化はあった?」



「そうだな、、行く前よりも


もっと社会貢献がしたくなったかもしれない、、


なんだろうな、、世の中にはいろんな場所に旅行に行きたくても行けない人はたくさんいる、、


そして今なお、貧困や生活環境が理由で


自分の好きなような選択を出来ない人もたくさんいる、、


この旅でおれはそんなことも真剣に考えるようになった、、、


1人の力ではどうしようも出来ない、、


たくさんの人の力を借りておれは


そういう環境が恵まれない人達に


救いの手を差し伸べられるような


男になりたいと今は強く思ってる、、、」



硫太はカシスオレンジを飲みながら


旒星に力強く言った。


「おー、、、なんか硫太、、スイスでまた一皮剥けたな、、、なんかお前は

これから凄い男になりそうな気がする、、、」


旒星は嬉しそうに言った。


2人の熱い男の会食はその後も長く続いた。




それからしばらくして


都内に戻ってきていた麗香と


落ち合うことが決まった。


硫太はすぐに会いたかったので


おれが行くねと即レスして


都内で会食することにした。


蒲田駅近くの『わっさい酒場』というお店で


2人は再会した。


「お帰り!この間は本当にありがとう!」


硫太は言った。


「こちらこそ!本当に最高の旅だった。

ありがとう!」


麗香も笑顔で答えた。


硫太はカシスオレンジ。


麗香は梅酒ソーダを注文した。




焼き鳥なども堪能しながら


2人はスイスの思い出話にふけった。


「ピザ美味しかったよねー!」


「ユングフラウ鉄道からの絶景は

めちゃくちゃ感動だったねー!」


あの時の感動が再び蘇ってきた。


「私、、、いつかスイスでピアノのコンサートを開きたい!」


麗香が突然、そんな表明をしてきた。


「すごっ!!麗香ちゃん、ピアノで世界を制するつもり?」


硫太も嬉しそうに麗香の案に乗っかった。


「そんな大それたことは出来ないけど、、


でも、、


私、、今度はスイスで何か私の夢を叶えたいと思って、、


それで、、、私にはピアノしかないから、、、」



「それ、めちゃくちゃ良いよ、麗香ちゃん!やろう!絶対実現しよう!」


「硫太くんがそう言ってくれるなら

私、本気でそれを目指す!


約束する、、、もしその時が来たら


硫太くんも必ず、見に来て!」


ほろ酔いの麗香は少し興奮気味に言った。


「必ず行くよ!!」


硫太も答えた。


「絶対だよ、、約束だからね!!」


その時、麗香の右手の小指と


硫太の右手の小指が重なって


約束の合図が


蒲田の『わっさい酒場』に鳴り響いたようだった。




大学の講義も始まり、日々のアルバイト、そしてサッカーサークルとの両立も図りながら、硫太と旒星は忙しい毎日を過ごした。


一方の楓と珠音についても同じく忙しい毎日を過ごしていた。


束の間の休息に


4人は居酒屋『いいなみ』で


久しぶりに合流することになった。




「硫太!!おかえりー!!!!!!」


硫太以外の3人の音頭で硫太のおかえり会も

含めた宴が敢行された。


4人は好きなお酒を片手に


盛大に硫太の帰国をお祝いした。


「みんな、ちょっと大げさだけど


でも嬉しいよ!ありがとう!


スイスの旅は本当に最高だった。


みんなにもぜひあの光景は見てもらいたいと

思った。


本当に世界観すら変えてくれる経験が出来たよ!」


「硫太、良いなー!私も行きたい!!」


楽しそうにそう言うのは珠音だ。


「珠音ちゃん、旒星に連れてってもらいな!

新婚旅行でも良いと思う!!絶対行くべきだよ!」


硫太も嬉しそうに言った。


「硫太くん、何が1番良かった?」


興味津々に聞いてきたのは楓だった。


「そうだな、、1番はやはり、スイスで1番の人気列車、、ユングフラウ鉄道かな、、


もはや神秘だな、、


楓ちゃんも興味ある?」


「めちゃくちゃ興味ある!


私、ちょっと調べたんだけど


本当に素敵すぎて、今すぐにでも


行きたいくらい、、


硫太くんがすごく羨ましい!」


キラキラと輝く目で楓は見つめてきた。


「そんなに楽しそうに話してくれると

なんか照れるな、、、いや、ぜひ

楓ちゃんも行ったほうがいい、行くべきだよ!」


「硫太くん、、連れて行ってー!」


楓のテンションがやたらに高い。


既にお酒が回って出来上がってしまったのだろうか。


「えー、、、楓ちゃん!!それは硫太と2人でスイスに行きたいってことー!!!?」


あいだからすかさず旒星が割って入ってきた。


「2人でとは、言ってないー!

私は、硫太くんに連れてって!って

言っただけだよ!」


楓は笑顔で旒星に応じた。


硫太としてはどういうリアクションをすれば良いか分からず少しばかり思考停止した。


《硫太!ここは男らしく、おれと行こうぜ!って楓の腕を掴むところよ!》


こちらも軽く出来上がっていそうな珠音が硫太の横のポジションから小声で耳打ちしてきた。


もはや、硫太は更に思考能力を失ってしまった。


「硫太は1人でスイスに行って

いろんな経験をしてきて


将来の夢についてもまた確固とした目標を持って帰ってきた!


おれたち仲間の鏡だよ!


楓ちゃん、硫太カッコいいでしょ!?」


旒星は大きな声で楓に呼びかけた。



「・・・うん、、、カッコいいと思う、、、」


それは楓の小さな声の返事だった。




宴もたけなわといった形となり


硫太はトイレに立った。


その時、楓と通路ですれ違った。


「硫太くん、、、今度また、、

スイスの話、、聞かせてもらえる?」


まるで内緒話でもするかのようなトーンで


楓は硫太に呟いた。


硫太は一瞬ドキッとした。


「う、、、うん!もちろん!

いくらでも話すよ、、またぜひ、、、」


「ありがと、、、」


楓はそう言うと、硫太の腕にそっと触れて


またねと言った感じで席に戻って行った。


硫太は何とも言いがたいような


緊張と嬉しさが入り混じった感情に支配された。



硫太も学校生活とアルバイトを繰り返しながらも、一つ達成しなければならないことがあった。


就職試験だ。


硫太としても新卒としての採用は

どうしても手にしたいことであり


就職浪人することなどはどうしても避けたい部分はあった。


スイスの旅を経験したことで硫太はある程度


自分の中で確固とした目標も出来た。


大手商社や自動車メーカーや自動車部品メーカー、更には食品小売業などたくさんの求人票があることは、大学の就職サポートセンターで確認はしていた。


そういった安定しそうな企業に入って生涯働くというのも硫太にとって決して魅力的に映らなかったわけでもない。


そういう方向性も悪くないと感じていたが

硫太の中でやり遂げたい、成し遂げたいことは、また違った。


旒星にも宣言したように、何か恵まれない人々を助けたり、不遇の日々を過ごす人々に夢を与えたい。そういう気持ちが硫太には強くあった。


将来的にはそういう人達の支えとなるような仕事をしていきたい気持ちがある。


硫太はそれが叶えられそうな企業というのを第一条件として就職活動を始めた。


大学の就職サポートセンターの職員の力も借りながらそういった思いを実現出来そうな企業を徹底的に探した。


いくつかそれに当てはまる企業も見つかり

数社に向けてエントリーシートも作成し提出をした。


エントリーシートの審査が通って初めてその会社の試験を受けることが出来る。

まずはこのエントリーシートが通らないことには何も始まらないわけだ。


硫太はワクワク感と若干の緊張感を交差させながら結果を待った。




そんな折に、楓から連絡が入った。


今夜、近くの「ガスト」で会えないかということだった。


硫太にとっては突然の誘いだったがこれを承諾し、2人はその夜、ガストで落ち合った。


「硫太くん、ごめんね、、急に呼び出しちゃったりして、、、」


硫太が着いた頃には既に楓は居た。


「全然大丈夫だよ!それより、楓ちゃん

何かあったのかなと思って、、」


「いや、、そんな何かあったとかじゃないんだけどね、、、ただ、ちょっと硫太くんと話したいなって、、」


「あっ、、、あぁ、、、ありがとう、、、」


硫太はドキッとしながらも冷静を装った返事をした。


「今、、就活頑張ってるんでしょ?」


楓は聞いた。


「うん、、まだエントリーシートの結果待ちだけどね、、一応、希望する企業はある程度絞ってやってるよ、、」


「そっか、、、受かるといいね、、、」


「楓ちゃんは、就職は?」


「私は、、、日本の文化を受け継ぐような、、

そんな仕事がしたいかな、、」


「へー、、そっか、、工芸品とかそういう感じの?」


「うん、、まあそうだね、、そういうのとか、、あとは日本の歴史的な建物とか、、あとは伝統的なお祭りとか、、歴史とか、、


日本の良さを世界に伝えていけるような


そんな、仕事をしたい、、」


「そうなんだ、、、楓ちゃん、、そんな夢があったんだね、、すごい良い夢だね、、日本を守る、受け継ぐ仕事、、、めちゃくちゃ尊敬するよ、、、」


「いや、私なんてまだ全然、、何も出来てないし、、空想の世界だから、、、でもいつかは、そんなことが私にも出来るといいなって思ってる、、」


夜のガストで2人の将来に向けた話し合いは


その後も繰り広げられた。




硫太はいくつかの希望する企業にエントリーシートを提出していたが、その1社から審査通過の連絡が入った。


《やった!通過した。。》


5社のうちの1社だけ審査を通り抜けたのだ。


その会社は長野に本社を置く


非上場の中堅企業だった。


《スペシャルタイムズ》という会社だ。


この会社は企業コンサルをメイン事業とする会社で、業界問わずクライアントの問題解決をサポートする、どこにでもあるような事業を行っている会社だ。

しかしながら、硫太がこの会社に目をつけたのには理由があった。


社内ベンチャー支援制度というのを設けており

社内である程度の実績を残せば、自分の事業部を立ち上げることができ、会社の名や資金を借りて、新規事業を支援してくれる制度があった。


硫太にとっては、これは大きなチャンスとなると感じ、この会社にエントリーした。


力をつけた上で、自分のやりたい夢に向かって仲間と一緒に事業を作っていける。


硫太はここだと感じ、エントリーしたこともありエントリーした5社の中でも特に強い思いがこの会社にはあった。


まずは次回の一次試験へと進むことが決まった。




麗香が旅行がてらこっちに来てくれるということで硫太は麗香と会うことになった。


「この前の蒲田の居酒屋さん、わっさい酒場、、、焼き鳥も美味しくてすごい良かったから、1人でも行ってみたよ。1人でも全然楽しかった!」


今日は地元の老舗居酒屋に麗香を招待した。


麗香の明るい声に硫太は癒された。


「麗香ちゃん、おれ就活でなんとか希望する会社1社から1次試験の案内が来たよ。受かるか分かんないけど、行きたい会社なんだ。」


「凄いじゃん、硫太くん!どこにある会社なの?」


「長野県に本社がある中堅規模の会社だよ。

そこの取り組みとかがすごい魅力的で行きたいなって思ってるんだ。」


「長野か、、ちょっと近くなるな。嬉しい、、、」


「なかなか受かるか分からないけどね、、でも

受かるといいなって思ってる、、」


「硫太くんなら、受かる気がするな。真っ直ぐに思いを伝えられそうだし、、、頑張ってね!」


「ありがとう、、、絶対に麗香ちゃんに良い報告が出来るようにするよ!」


そう言うと硫太はジョッキに注がれたカシスオレンジを飲み干した。


それに合わせるように麗香も梅酒ソーダを軽く飲む。


硫太はそっと麗香を見つめながら、自分自身に

希望する企業への入社を誓った。



麗香は1人で硫太の地元の観光を楽しんだ後


帰京した。


麗香にとってはとても大切な時間だった。


そして、もちろん硫太にとっても。


2人の間には友情を超えた感情が湧き上がっているようにも見えた。



そんな時、、旒星からある誘いがあった。


「硫太、、、あの、、、またさ、、、あの、、みわくのさとに4人で行かない?」


少しばかりの歯切れの悪そうな誘いではあったが、珠音ちゃんや楓ちゃんともう話はついているのだろう、、旒星の来てくれという雰囲気は硫太にもすぐに分かった。


「うん、、分かった!行こうよ。」


硫太は2つ返事で快諾した。




4人はレンタカーを借りて『みわくの郷』に

到着した。


「また来たねー!!」


旒星が先陣を切って走り出した。


「待ってよー、旒星!!」


珠音も楽しそうだ。


「硫太くん、今日は就活のことは忘れて思いっきり遊ぼうね!!」


楓もいつになくとても楽しそうな表情だった。


硫太はやっぱりこの4人のグループが本当に大好きだなと感じた。


例によって、旒星と珠音はあのお化け屋敷へと向かって行った。


「先入ってるぞー!!お前らも来いよー!!」


旒星の大きな声が鳴り響く。


「だから、、旒星は、、おれらはお化け屋敷行かねえよ!ねえ、楓ちゃん!」


硫太はそう念を押すように楓のほうを向いた。


「硫太くん、、、、いこ、、、」


震えるような表情で楓は硫太に呟いた。



「いや、、待って待って、、楓ちゃん、、あの、、、無理しなくていいよ、、おれは別に行きたいとかないからね!旒星が勝手に言ってるだけだから気にしなくていいからね!」


慌てるように硫太は言った。


「いや、、、大丈夫、、大丈夫なの、、


私、、、行ける、、、」


全然大丈夫そうな表情ではない。


硫太には分かった。


「楓ちゃん、大丈夫!お化け屋敷はやめて

船のやつ、乗りに行こう!あの絶叫系!」


そう言って硫太はお化け屋敷を無視して前に進もうとした。


その時、、楓の手が硫太の腕を強く引いた。


「硫太くん、、、、私、、行きたいの、、、

硫太くんと、、、お化け屋敷、、、」


一瞬世界が止まったような感覚に硫太は陥った。


楓は硫太のことを強く引き寄せた。


そして硫太の肘に腕を絡ませて

楓は硫太をお化け屋敷へ誘導した。


2人だけの世界のようだった。




お化け屋敷は全然平気な硫太もこの時ばかりは


気が気でないというか


お化け屋敷のアトラクトには全くもってフォーカス出来なかった。


ただただ、隣で自分の腕を抱きしめるようにすがる楓のことが気になってしょうがなかった。


楓からは一刻も早くお化け屋敷から抜け出したい感情が伝わってきて一切目を開けることなく

必死の状況で下を向いて硫太の誘導に身を任せている。


なんだかシュールな光景だなと思いつつも

硫太は高鳴る鼓動を抑えながら

ゆっくりと歩を進めた。


《楓ちゃんはおれのことをどう思っているんだろう?》


考えたくなくても硫太の脳裏はその一択のみがよぎり続けた。




お化け屋敷を出た時には

 

楓はもう限界と言わんばかりの表情だった。


青ざめた表情で言葉も全く発することが

出来ないといった感じだった。


「だ、、、大丈夫だった?」


硫太は優しく声を掛けた。


「・・・うん、、、大丈夫、、、」



全然大丈夫そうではない。


硫太は楓の肩を優しく包み込んだ。


楓もその流れに身を任せて


硫太の胸に身体を委ねた。


硫太の頭には麗香の顔がよぎった。


《麗香ちゃん、、ごめん、、》


硫太も罪悪感に包まれながら


目の前の楓を無下に出来るはずもなく


ただただ、心の中で麗香に謝ることしか出来なかった。


旒星と珠音は2人のこの光景を遠くから


しっかりと見守っていた。




半べそをかきながらといった表現が

1番しっくりくるだろうか。


楓は相当な覚悟でお化け屋敷に入ってくれたようだった。


ただ、その後一緒にソフトクリームを買って食べる時にはもう元気な楓に戻っていた。


「硫太くん、ごめんね、、心配させちゃって、、」


「大丈夫、、むしろ一緒に入ってくれてありがとう!今度はおれが船のやつ、、乗るからね、、」


「硫太くん、、無理しなくて平気だよ?」


「いや、、大丈夫!おれは行ける!!」


楓はそっと笑いながら、楽しそうな表情を見せた。


《おれはここで楓ちゃんにフラれたんだよな、、今の楓ちゃんの表情を見ると、それが嘘だったかのように見えてしまう、、、》


なんとも言えない感情に揺さぶられながら


硫太は身体を揺さぶられる船のほうへと歩を進めていく。


隣で楓も嬉しそうに付いてきてくれた。 




硫太は苦手な絶叫系アトラクションを


楓の隣で静かに寄り添い、ものすごい恐怖に襲われながらも事なきを得た。


「すっごい楽しかった!!硫太くん、怖かった??」



「い、、いや、、まあまあだったよ、、、でも全然いける、、」



いや、たぶん硫太は限界のはずだ、、、



そんなこんなで硫太は楓との楽しい時間を


壊さぬようにゆっくりと時間を過ごした。


そして4人はめいいっぱい、みわくの郷での交遊を楽しんだ後、夕暮れを迎えた。


男女2組それぞれ別行動をした。


旒星は珠音と。


硫太は楓と。



「硫太くん、今日はめっちゃ楽しかった、、ありがとね、、」


楓は満面の笑みで硫太に言った。


「おれもめちゃくちゃ楽しかったよ、、楓ちゃん、、ありがとね、、、」


硫太は心から楓に感謝した。



「硫太くんは、、、いま、、、


好きな人いる、、、??」



夕陽が2人を眩しく照らしながら


楓は硫太に問うた。



「えっ、、、?


好きな人、、、?


おれに、、、?」



硫太は動揺した。



「うん、、、硫太くんに、、、


好きな人は、、、いま、、いる、、、??」



「そうだな、、、好きな人は、、、いる、、、


のかも、、、しれない、、、」



硫太は曖昧な答えを楓に返した。



「その人は、、、


どんな人、、、??」



俯きながらも楓はすぐにその質問を硫太に投げかけた。


「うん、、、そうだな、、、


それは、、、


今、、、おれの、、、


目の前にいる、、、


人かも、、、しれない、、、」



硫太はゆっくりと答えた。




一瞬の沈黙が流れた。


硫太は楓に二度目の告白をしてしまった。


同じ場所、、、


このみわくの郷で、、、


それは硫太の計画とは裏腹に


自然と言葉が発せられたような感覚だった。


《やばい、、、》


硫太は一瞬そう思った。



硫太の脳裏には麗香の姿が浮かび上がった。



《麗香ちゃんという存在がいながら、、


おれは何をやってるんだ、、、》



理性と本能は別々の動きを取ってしまっていた。


楓のことは一度吹っ切れたはずだった、、


きっぱりと諦めて、次の恋に向かう、、


硫太はそのことに対して一点の曇りもなかった、、


そして麗香という女性に出会い


硫太は彼女の魅力に惹かれた、、



硫太はおそらく彼女を愛するはずだった、、、



しかしながら、硫太の前に再び、楓という素敵な女性が心を揺れ動かしてきた。


硫太はその感情や嬉しさを心に閉じ込めておくことは出来なかった。


ぐちゃぐちゃな感情が押し寄せながらも


目の前には楓という硫太にとって


大切な女性がいる。



「硫太くん、、、この前は


硫太くんの気持ちに応えることが


出来なくて、、、ごめんなさい、、、


でも、、、


あの後も私と普通に接してくれるところとか


夢に向かって頑張ってる硫太くんを近くで見てると、、、


なんか、、私自身も勇気をもらえて、、、


4人の関係はずっと壊したくないと思ってたから、、


硫太くんとはそういう関係にはならないって決めてたけど、、、


でも、、、やっぱり、、、私自身の感情も


コントロール出来なくて、、、


好きになってから、、


もう、、どうしようも出来なくなってしまって、、、


本当に自分勝手に見えるかもしれないけど、、、


私も、、硫太くんのことが大好きです、、、」


少し肌寒い夕暮れの風を受けながら


みわくの郷に佇む2人は


まるでおとぎ話に出てくるワンシーンのような


素敵な光景を作っていた。




「楓ちゃん、、、、、ありがとう、、、、」


渾身の力を振り絞って出した硫太の小さく太い声は硫太の本心から出た言葉だった。



硫太は楓の肩をそっと抱き寄せ


優しく楓を包み込むように抱きしめた。



「硫太くん、、、ありがとう、、、」



楓の目からは涙が溢れていた。



硫太の嬉しさはとても大きなものだったが


頭の片隅には、麗香の存在は強く残っている。



《麗香ちゃん、、、本当に、、、ごめん、、、》



硫太は楓への感謝と麗香への謝罪を

同時に頭の中で進行させながら


カップル成立のこの瞬間を目の前の楓と共に


噛み締めていた。




旒星と珠音も2人の雰囲気を察して


言葉では発さないものの


2人への祝福を心の中で捧げていた。


「硫太、、ほら、、男らしく

手繋ぎなよ!」


珠音がいつもの調子でぐいぐいと攻め立ててくる。


「あっ、、うん、、」


それに押されるように硫太は隣にいる楓の手を優しく握りしめた。


楓も嬉しそうに照れながら俯いていた。


「よーーし!!!じゃあ引き続きこの後も4人でみわくの郷を思いっきり楽しもーぜ!!」



大きな声で号令を掛けるかのように旒星が楽しそうに叫んだ。


旒星と珠音。


そして硫太と楓。


2組のカップルはみわくの郷で


その後も楽しい時間を過ごした。




みわくの郷での楽しい1日も夕暮れ時を迎えた。


4人はそろそろ帰ろうということになり車へと向かった。



「みんな!!待って!!」


車へと向かう3人を呼び止めて


硫太は深呼吸をした。



「みんな、、今日はありがとう!


めちゃくちゃ楽しい1日だったよ。


旒星、、誘ってくれてありがとう!



おれは、今日、、


楓ちゃんとお付き合いさせてもらうことに

なった。


これもみんなのおかげ、、


珠音ちゃん、、旒星、、


本当にありがとう。



そして、楓ちゃん、、


こんなおれなんかを選んでくれて


本当にありがとう、、、


おれはまだまだみんなと比べても未熟だし


人としても全然だなと思ってる、、


でもこれから、


おれは楓ちゃんと一緒に歩いていこうと思う、、


そして旒星と珠音ちゃんとも


これからも一緒にいたい、、、



おれは頑張るよ、、、


楓ちゃんを必ず幸せにする、、、


誰にも渡さない、、、


おれが楓ちゃんをこれからも守っていく、、


珠音ちゃん、、旒星、、


これからもおれたち2人をよろしく、、、


そして楓ちゃん、、


これから、、、よろしく、、、」



眩しい西陽を背に


硫太は心を込めてみんなに誓った。


夕陽に照らし出される4人の表情は


みな、、笑顔だった、、、




楓との交際が始まった硫太ではあったが


ずっと硫太には胸につかえるものがあった。


そう、、、麗香のことに他ならなかった。


硫太はスイスで麗香と出会い、楓に失恋した後の硫太の気持ちの支えとなってくれた。


硫太はこのまま麗香を愛し、麗香も同じ想いを持ってくれれば、恋人になりたいとも思っていた。


あとはタイミングだけというところまで来ていたのに、、突如現れたと言っても過言ではない楓のことを選んだ。


麗香はこのことを知るとどういう気持ちになるだろう?


硫太は楓と付き合った後も、何度も何度も真剣に考えた。


《麗香ちゃんにはちゃんと伝えよう》


硫太は東京行きの新幹線のチケットを買い

麗香を誘った。


お店は麗香が気に入ってくれた蒲田の『わっさい酒場』を選んだ。




麗香が姿を見せた。


「硫太くん、、久しぶり、、

びっくりした、、突然硫太くんが

東京に来るって言うから、、


何かあったのかな?って、、、」



麗香は笑顔で硫太の前に座った。


「ごめんね、、急に呼び出しちゃったりして、、、ちょっと麗香ちゃんにどうしても伝えたい話があって、、、」



硫太はいつものカシスオレンジを頼み

麗香は梅酒ソーダを頼んだ。


「ここの焼き鳥はほんと美味しいからね!

私、もうほとんど常連みたいになっちゃった。」


嬉しそうに話す麗香。


「硫太くん、前にハムカツも好きって言ってたよね?私もこれまであんまり食べることなかったんだけど、硫太くんがすごく美味しそうに食べてたから私も頼んでみたらすっごく好きになったの、、」


そう言うと麗香は硫太の分までハムカツを注文してくれた。


「硫太くん、サッカー好きでしょ?

私、野球は少しは観てたけどサッカー観ることがこれまでなかったの、、でもちょっと興味持ち始めて、観てるんだけど、ルールが全然分かんなくて、、今度教えて、、、」


麗香はとても楽しそうに硫太に話しかけてくれる。


硫太はほとんど返事をするだけで自分から話題を触れない。


麗香の表情はとても明るく、硫太のことを本当に心から信頼してくれているんだろう、、、


硫太は心の中が締め付けられるようだった、、、



硫太のそんな苦しい想いとは別に


麗香は梅酒ソーダを飲みながらとても陽気に

いろんな話題を硫太にふってくれる。


硫太もそれに一生懸命答えた。


突然、「あの話題」をまさかこのタイミングで切り出せるはずもなく


わっさい酒場での楽しい時間は刻々と過ぎて行った。


「私、、、将来はたくさん子供産んで


子供達と友達みたいに買い物に出かけるのが夢なんだ。


硫太くんは結婚したいとか、、子供欲しいとかある??」




麗香がそういう将来の話をすればするほど


硫太は自分への情けなさと罪悪感に


包まれていった。


楽しい時間はあっという間に過ぎていく、、、


そして硫太が会計を済ませると


2人はわっさい酒場を後にした、、、




蒲田駅へと向かう2人。


中央改札をくぐる前に


ついに硫太は麗香を呼びとめた、、、



「麗香ちゃん、、実は、、、、」


楽しかった宴が嘘のように暗い表情で


硫太は麗香に呟いた。




麗香は静かに下を向きこちら側に全く表情を見せない。


「麗香ちゃん、、、」



硫太はもう一度麗香に向かって呟いた。



「硫太くん、、、、いいよ、、、


無理して言わなくて、、、、」


目の前の麗香はさっきまでの明るい声や表情が嘘かのように

か細い声で

硫太の言葉に答えた。



「分かってたよ、、、


今日、、、硫太くんが会おうって


言ってくれた時から、、、


なんとなく、、、感じてたよ、、、


そして、、お店での硫太くんの顔や


声で、、そうなんだなって、、


覚悟してたよ、、、」


麗香の目からは明らかに涙がこぼれ落ちていた、、、



硫太は何も言葉を発することが出来なかった。



「好きな人いるのかな、、、



彼女さんが、、いるのかな、、


分かんない、、、


分かんないけど、、


今日はそれを伝えに来てくれたんだよね、、、



硫太くん、、、優しいから、、


なんとなく、、分かるよ、、」



泣きながらも麗香の声ははっきりとしていて


ちゃんと言葉を伝えようという麗香の気持ちが伝わってきた、、、



「私、、、言えなかったけど、、


スイスで会ったときから、、


硫太くんのことが好きだったよ、、


優しくて、夢があって、、


どんなことも言い訳せずに、前向きな硫太くんが、、、


私は好きになった、、、」



《麗香ちゃん、、それはおれも同じだ、、


スイスで麗香ちゃんに出会ったときから、、


麗香ちゃんの真っ直ぐな性格や


素直に夢を話してくれる麗香ちゃんを


おれは好きになった、、》


心の中で硫太は何度も麗香に返事をした、、


言いたいけど絶対に言えない、、自分の想いを、、、



「硫太くん、、ありがとね、、、

これまで仲良くしてくれて、、


本当に、、


本当に、、


ありがとね、、


幸せに、、、


なってね、、、」



麗香の最後の言葉だった、、、



そう言い終えると、麗香は硫太の顔を見ることなく


バイバイと軽く手を振って電車の方向へと歩いて行った、、、


硫太は、、何秒も、、何分も、、


その場から動くことが


出来なかった、、、




硫太にとっても麗香は大切な人であることに間違いはなかった。


ただ、男女の関係である以上、、楓という恋人がいながら、麗香の気持ちをもてあそぶわけにはいかない、、


友達のままでいようなんて都合の良いことは

硫太の口からは絶対に言えなかった。


ただ、ただ、男女としての別れを告げることしか出来なかった、、


正解か不正解かは硫太には分からない、、


ただ、少しでも早く


硫太は麗香に本当のことを伝えないといけないと感じていた、、


麗香はまた素敵な男性と出会うに違いない、、


こんな素敵な女性だったのだから、、


硫太にとっても確かに楓を選んだが


それはタイミングだけのことだった、、


タイミングが少しだけ違ったら麗香を選んでいたに違いない、、


硫太にとっても切なく、、


麗香との別れはずっしりと重く硫太にのしかかった、、、


硫太は麗香との出会いに感謝し


楓との愛は必ず守っていこうと心に誓った。




それから硫太は楓との交際を順調に続けた。


そして、就職活動のほうも硫太は正念場を


迎えていた。


硫太の希望する会社『スペシャルタイムズ』の


一次試験も合格し


二次試験もくぐり抜け


ついに最終面接へと駒を進めていた。


硫太はここまで来るとどうしてもこの会社への就職を決めたかった。


スイスでの旅も経験し、硫太の中では


社会人として身を置く組織として


この会社で自己実現を達成したかった。


麗香との出会いで価値観も変わった。


硫太はばっちりとリクルートスーツで身を固め


新品の靴と鞄を手に


最終面接の行われる『スペシャルタイムズ』の本社がある長野県へと向かった。




本社ではスペシャルタイムズの役員や管理職のメンバーが顔を揃え


硫太のことを迎えた。




硫太は緊張しながらも、はっきりとした口調で自己紹介などをすることが出来た。




自分の考えや将来のビジョンを先方に伝え


自分という存在をしっかりとアピールする。



そんな心構えで硫太は最終面接に臨んでいた。


そして最終面接も終盤に差し掛かった。





「あなたはこの会社で何を実現したいですか?」




1人の面接官が硫太にそんな質問をふってきた。




硫太りゅうたは面接官のその問いに渾身の言葉をぶつけた。





「私は、、、


御社で利益を生み出して


社会貢献を実感したいです!





そして、将来は貧困やひとり親で


寂しい思いをしている家庭や子供達の支援を行う部署を立ち上げ



自らの力で社会貢献を生み出す人間になっていきたいです!」





爽快で華麗なそのセリフに


面接官達の表情に明るい何かが


乗り移るかのようなそんな


ワンシーンだった、、、




硫太と面接官達は


みな笑顔でその面接を終えた。





〜完〜








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