第7話 アップルジュース販売
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第7話 アップルジュース販売
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あれから普通サイズの鍋を買い足して、毎日カップールジュースを作っている。お金が……。
私はまだ生活魔法さえ覚えられてないが、ラウラはすでに第二位階の魔法を覚えている。
ラウラに第三位階の魔法書を買ってあげたいが、お金がない。
魔法書を買うための金を儲けたい。そこでカップールのジュースが売れないかと考えた。
「キャスカさーん」
「「こんにちはー」」
私たちは元気よくゴラゴラの店に入っていく。
「おや、今日は三人かい」
キャスカさんがいつものようにカウンターの下から顔を出した。本当に何をしているのだろうか?
「はい。三人でやってきました!」
「なんか今日はいつもに増して元気だねぇ」
ヘヘヘと笑みを浮かべ、リュックから木筒を取り出す。
「これを買ってください!」
「「買ってください!」」
「なんだい、これは?」
キャスカさんが胡乱な目で木筒を見つめる。
「まずは味見をしてください」
「味見かい……へんなものじゃないだろうね?」
「飲んでみれば分かりますよ」
「どれどれ……」
すごく恐る恐るといった感じでカップールジュースを口に含むと、キャスカさんは目をかッと見開いた。美味しいでしょ? ふふふ、病みつきになるよね?
「なんだいこれは!?」
「これを売ってほしいのですが、できますか?」
キャスカさんが身を乗り出して私の肩をガシッと掴んだ。い、痛い。爪が食い込んでますけど!
「どれだけあるんだい?」
「今一本を飲んだので、あと四本です」
「たった四本しかないのかい?」
「ええ。でも、木筒があれば、もっと持ってきますよ」
「どれだけ必要なんだい?」
「一日に十本くらいでしょうか」
「よし、決まった。うちにある木筒を全部持っておいき」
「え? 全部ですか?」
「全部ったってあと十本もないよ。木筒は冬にそんなに売れるものじゃないからね」
水筒だから、需要は夏に偏るよね。
「木筒は大量に仕入れておくよ」
「あー、それなんですが、こうしたらいいと思うのです」
私は木筒込みの値段で売るのと、ジュースを単体で売る二つの売り方を提案した。
「木筒を自分で持ってきたら、中身だけ入れてあげるんです。そうすれば、皆さん買いやすいと思います」
「なるほど、それはいいね。だけど、最初はある程度の木筒が要るね」
「はい、二、三十本で様子を見てってところでどうですか? どのみち、一日十本分くらいしか作れませんし」
本当はもう少し作れるけど、私たちが飲む分だからね。
それに木筒を持っている人はそれなりにいる。冬には使わなくても夏に使うからね。
「分かったよ。木筒は二十本くらい入荷するようにしておくよ。でも、本当に毎日十本分は作れるんだろうね?」
「冬の間なら、大丈夫です」
「冬限定かい?」
「はい。冬限定です」
話がトントン拍子に進んで、怖いくらいだ。
「で、これの名前はなんだい?」
「名前……」
カップールジュースというネーミングだと、誰かがマネして作るかもしれない。ここは名前を変えておくべきかな。
「なんだ決めてなかったのかい?」
「すっかり忘れてました」
「美味しそうな名前をつけておくれ」
「いきなり言われましても……そうだ、アップルジュースにします」
「アップルジュース? なんか分からないけど、美味しそうな名前だね」
この世界にアップルがあるかは分からないけど、先に使った者勝ちだよね!
今回五本持ってきたけど、売るのは三本。二本は試飲用に置いていった。
木筒を八本追加で購入し、翌日八本を持ってゴラゴラの店へと向かった。
「一本売れたよ」
「おおお! やりましたね!」
「ああ、最初はこんなものだよ。その内、飛ぶように売れるようになるさ」
そう言うと、キャスカさんは白銅貨二枚を渡してきた。
木筒込みで白銅貨三枚で売っているらしい。白銅貨一枚はキャスカさんの取り分、私たちは白銅貨二枚だ。あと木筒が銅貨五枚で購入しているから、儲けは白銅貨一枚と銅貨五枚になる。
白銅貨一枚は銭貨千枚分の価値になる。結構な金額だから、私はそこまで売れないと思っていた。もちろん、一部のそれなりにお金を持っている人はそれなりに買ってくれると思うけど。
そして三日が過ぎた。今日は私だけでゴラゴラの店に向かった。
「シュラウト! 全部売れたよ!」
「え? 全部ですか? 私たちがキャスカさんの店に預けた十三本全部ですか?」
「ああ、十三本全てだよ!」
木筒込みで白銅貨三枚は、結構な金額だ。ゴラゴラの店はスラムと平民街の境にあり、平民も利用していると聞いていたが、さすがに十三本全てが売れるとは思ってもいなかった。
「これが売り上げだよ」
銀貨二枚と白銅貨六枚。きらめく銀貨がカランッと硬質な音を立てる。
「そんなに売れると思ってなかったので、今日は詰め替え用の五本分しか持ってきてませんよ」
「仕方がないよ、木筒も注文した分がまだ入荷してないからね」
キャスカさんは木筒を二十本注文しているけど、さすがに三日で出来上がってくるようなことはない。手作りだから、時間がかかるのだ。
「その詰め替え用を預かるよ」
「はい」
鍋に入れたアップルジュースをキャスカさんに渡す。
本当は大きな木筒があると持ち運びが便利なんだけど、そこまで大きなものはないんだよね。
さらに三日が過ぎて、やっと木筒が入荷した。
詰め替え用のアップルジュースも毎日完売しているらしく、キャスカさんはすぐにアップルジュースを作ってくれと、二十本の木筒を持たされてしまった。
さすがに二十本は持って歩くのが大変だ。
毎日八本の木筒を持っていく。さらに詰め替え用も三本分も用意している。
私は毎日アップルジュース作りに追われており、最近は薬草採取に出ていない。
エリスはカップールとケバリの葉の採取、ラウラは枯れ木集めをしてもらい、さらに私の手伝いもする。
「二人とも、悪いね」
「何言ってるのよ、アップルジュース作りが軌道に乗ったおかげで、あたしたちは美味しいご飯が食べられるんだから、全然いいよ!」
エリスは本当はもっと森歩きをしたいはずだけど、そんなこと一言も言わずに手伝ってくれる。
「うち、アップルジュース作り好き」
ラウラも文句を言わず、積極的に手伝ってくれる。本当に二人には感謝だ。
冬の間、私たちはアップルジュース作りに追われた。解放されたのは、温かくなってからだった。
ご愛読ありがとうございます。
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