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第5話 カップール採取

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 第5話 カップール採取

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 私たちの住むスラムに、本格的な冬がやってきた。ここら辺は雪は滅多に降らないが、それでもスラムの冬は厳しい。掘立小屋は隙間風上等で、それ以前に扉なんて高価なものはない。以前は何度凍え死ぬかと思いながら、三人で身を寄せ合って寝ていたことか。

 だが、今年は対策している。マントを三人分購入し、さらに毛布を買った。

 中古品でもマントと毛布は高かった。衣類は基本的に高額だ。布から裁断・裁縫まで全てを手作業で作っているのだから、仕方がない。

 早く大人になりたい。そうすれば、成長して服を買い替える必要がなくなるし、だぼついた服を着なくてもいい。


 そんな私は生活魔法を覚えようと、ラウラに師事している。彼女のように一日で覚えるというようなことはなく、一カ月以上かかってもまだ覚えていない。

 才能の差がここまであると、萎える。





 今日も森で楽しく採取をする。あれ以来、ゴブリンは現れていない。もう現れなくていい。争いはともかく、戦いは私に合わない。


「カップール、カップール、カップール♪」


 エリスがうきうきで鼻歌を奏でている。カップールというのは、リンゴくらいの大きさの木の実だ。この森にはカップールの木が自生しており、稀に美味しいカップールが採取できる。年に一個採取できるかどうかだけどね。


 この時期になると、カップール目的で森に入る人が増える。美味しいカップールを手に入れるのは運と運が重なった時だけなのだ。


「うわー。今年もたくさんいるねー」


 エリスは楽しそうだね。美味しいカップールの採取はまさに競争だ。そういう雰囲気がエリスには合うようだ。


 カップールの自生地には、すでに多くの人が集まっていた。そのほとんどはスラムの子供だ。私たちもその子供だったりする。


「ないわねー」

「あるのは赤いやつばかりだね」


 カップールの実は、ほとんどが赤い。だけど、赤い実は美味しくない。とても食えない。酸っぱ過ぎるんだ。

 だから皆が狙っているのは、極稀にある黒に近い紫色の実。巨峰やブルーベリーのような濃い紫色の実だ。

 この実が美味いのなんのって、ゴールデンマッシュルームも美味しいらしいけど、カップールの実も負けてはいないと思う。

 私たちがその実を食べたのは、後にも先にも一回こっきりだ。

 あれは三年前の冬だった。いつ入手できるか分からないカップールの実探しに割く時間は、私たちにはなかった。

 その日も薬草採取をし、たまたま近くを通りがかっただけなのだ。そして、たまたまその実が目に入ったのである。

 誰かの性質の悪い悪戯かと思ったけど、採取して家に帰って三人でその実を食べた。空腹だったのもあるけど、あれは美味しかった。美味しすぎて、三人で涙を流しながら食べたっけ。

 あれ以来、冬になると時間をみつけてはカップールの実を探すようになった。

 去年は見つからなかったけど、今年こそはと意気込んでいる。

 そんな私の視界内では、説明さんが仕事をしていた。


【カップール(赤):赤色の実は酸っぱくとてもたべられないが、その汁は酢の代替として使える ケバリの葉と共に煮込み、七日間熟成させることで酸味が分解され甘味の強い汁が搾れるようになる またその汁を煮詰めると、砂糖がとれる】


 まさか赤色の実にこんな活用法があるとは思ってもいなかった。

 ケバリは森の中に多くある木で、一年中葉をつけている。その葉と共に煮込むだけなら、簡単だ。これは作らねば!

 私は赤色の実をもいでリュックに入れていく。


「ちょっと、何してるのよ?」

「赤色の実の活用法を思いついたんだ。エリスたちも手伝って」

「えー、酸っぱいしー」

「忘れられない酸っぱさ……」

「いいから、赤色の実でこのリュックをいっぱいにして」


 二人のお尻を叩く。実際には叩いてない。女の子のお尻を叩いたらセクハラだ。

 すぐにリュックはいっぱいになった。その後はまた紫色の実を探した。


「やっぱりないわねー」


 多くの人に紛れてカップールを探すラウラは、忙しなくキョロキョロしながら残念そうに呟いた。

 そう簡単に発見できたら、誰も苦労はしないからね。


「う~、ない~」


 走り回っていたエリスもションボリしながら私たちに合流した。


「今日は諦めて、薬草採取にいこうか」


 実は密かに説明さんのターゲットを、美味しいカップールに絞っている。それでもまったく表示されないから、ないのは分かっていた。

 二人が納得するまで探して、ある程度気がすんだところを見極めて薬草採取に意識を持っていく。


「薬草を採りまくるぞー!」

「分かったわ」


 カップールの自生地から離れ薬草を採取していく。ポツポツと薬草を採取したが、今日はカップール探しで時間を食ったので、あまり数は採れないと覚悟はしている。

 また遠くに表示があった。その表示に向かっていくと、私は目が点になった。


「………」

「どうしたの?」

「シュラウト?」


 二人が心配して私の顔を覗き込んでくる。

 私は徐に指を差した。


「ん? ……あっ!?」

「どうしたの? あっ!?」


 二人もそれを発見した。カップールの実だ。しかも美味しい紫色の実だ!

 自生地から結構離れているけど、こんなところにカップールの木があったのか!?


「やっほーい!」


 エリスが駆け出し、サルのように木に登って実をもいだ。なんという早業か。


「とったどー!」


 エリスがカップールの実を掲げた。相当嬉しいのだろう、枝の上から飛び降りる際に二回転半の宙返りをした。


「やっほーいっ!」


 危ないと思ったが、エリスは難なく着地し、私は十点の札を心の中で上げた。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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