第4話 初めてのゴブリン
+・+・+・+・+・+
第4話 初めてのゴブリン
+・+・+・+・+・+
【ヒルー草:薬草:ヒールポーションの材料になる植物 ヒルー草を千切りにし、お湯に投入することでヒールポーションが作れる】
こんな簡単なことでヒールポーションが作れるなんて思っていなかった。今までは生活のためにヒルー草を売っていたが、自分でヒールポーションが作れるかもしれないと思ってしまった。そう思うと、作らないと気が済まない。
「ふっふふんふんふん~♪」
鼻歌を奏でながら、ヒルー草を千切りにし、お湯に投入。
説明さんを常時オープンにし、ポーションになるところを見極める。
「できてしまった……」
本当に簡単にポーションが出来上がってしまったことに、驚愕だ。
【ヒールポーション:薬品:一瞬で傷を癒す薬 ただし、軽傷のみ完治させる】
錬金術師ギルドはこんな簡単に作れてしまうヒールポーションに、白銅貨五枚もとっている。
これを知ったら、今まで購入していた人は怒り出すんじゃないか?
最初にこの製法を発見した人には、暴利をむさぼる権利はあると思うけど。
「これは何本か持っておくだけにしよう」
この製法を広めたら錬金術師ギルドに目をつけられるだろうし、粗悪品などが出回ってもよくない。そして何よりも私たちの身の安全が第一だ。
シオジ草を適度な大きさに千切って水に浸す。
三日前に浸しておいたシオジ草を上げて、しっかり水気を切る。その水を火にかけて煮詰めると、塩が残る。
ほんの一握りの塩だけど、これでスープが極上に美味しくなるんだ。
今日狩った野ウサギの肉もこの塩をつけて焼くのだけど、野ウサギ肉の独特の臭みが緩和されて美味しくなる。
私はこういった食料の下ごしらえや管理をしている。
料理は主にラウラの仕事だし、エルスはお手伝いと食べる係だ。
夕食のシオジ草のサラダを用意した私は、ちゃぶ台のような小さなテーブルに皿を置いた。
このテーブルは、捨てられていたのを拾ってきたものだ。ただ、椅子がないので、床に座って使えるように足を切ったものになる。
「―――それでラウラがさー。アハハハ」
私たち三人の食事は和気あいあいだ。
「―――そんな感じ。ウフフフ」
ちょっとしたことを笑い合う。それがスラムのような殺伐した場所で生きていく私たちを支えているエネルギーなのかもしれない。
「よし、いくぞー」
「「おー」」
元気印のエリスの掛け声に、私とラウラが答える。いつもエリスが先頭で進む。
ただし、森の中では私が先導を務める。前世の記憶が戻り、説明さんが活動を開始した今もそうだが、それ以前から森の中では私が前に出ていた。
三人の中では、私が一番森の知識があるようで、比較的薬草を発見する確率も高かったのが私だったのだ。
私たちが一緒に過ごしてきた五年で、それぞれの役割が暗黙の了解で決まっているのであった。
「あそこ」
木と木の間に薬草があった。そこに向かう。
その時、説明さんが私の視界に別の表示を発生させた。
「待って」
「ん? どうしたの?」
「シュラウト?」
遠いところにある表示は文字が小さく読むのに苦労する。
それが薬草なのか、野ウサギなのか、それとも他のものなのかを見極める。
その表示は動いているように見えた。一瞬野ウサギかと思ったが、どうも違うようだ。
「っ!?」
そしてその表示が何を説明しているのか、見極めることができた。
「ゴブリンだ」
「「え!?」」
その瞬間、茂みからゴブリンが顔を出した。青色の肌で裂けた口に鉤鼻、額には小さな角が一個ある醜悪な顔だ。
白目が多い赤い殺気立った瞳が、私たちを睨めつけている。
あれがゴブリン。あれが魔物。
私はその場で立ち尽くしてしまった。
「シュラウト、ボーっとしないの!?」
エリスにバンッと背中を叩かれ、我に返った。
「う、うん」
「シュラウトはうちが守る」
「ラウラ……ありがとう」
「あたしもいるよ!」
「エリスもありがとう!」
私があたふたと短剣を抜いて構える間に、エリスはゴブリンに斬りかかっていた。
「は、はや……」
「グギャッ!」
「せいっ!」
ゴブリンは茂みから飛び出し、棍棒を振りかぶる。だが、エリスの剣がそれより速くゴブリンの右腕を斬り飛ばした。
「ウィンドカッター」
見えない風の刃が放たれ、数瞬後ゴブリンの首が半分ほど切断され、激しく血を拭き出した。
エリスが剣で胸を突いて、とどめとなった。
「強い」
エリスもラウラも初めての魔物戦なのに、躊躇なく戦った。私は短剣を握る手が震え、何もできなかった。もし私一人の時にゴブリンと遭遇したら、きっと死んでいただろう。
二人は強いな。それに比べ私は、なんて情けないんだ。
「シュラウト、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫……何もできなくてごめん」
「最初はそんなものよ」
「でも、ラウラとエリスはちゃんと戦っていた」
「エリスは何も考えてないだけ。うちは魔法を使っただけ。大したことはしてないわ」
「今でも手が震えているんだ」
「うちとエリスがいるわ。安心して」
ラウラは私の手から短剣を取り、鞘に戻してくれた。
「いつか慣れるわ」
「うん」
ラウラの優しさが身に染みる。
「何してんのよー。ゴブリンを解体するわよ!」
エリスに呼ばれ、私はゴブリンを間近で見た。
醜悪な顔は痛みと死への恐怖からか、見るに堪えない表情をしていた。
「ふー……解体は私がするから、二人は周囲を警戒しておいて」
「大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。それに、これくらいはしないとね」
笑みを浮かべてラウラに応える。引きつった笑みかもしれないが、今は空元気でも元気を出さないと腰が抜けそうだ。
「何? どうしたの?」
「なんでもないわ。周囲を警戒するよ」
「あ、うん?」
ラウラが気を利かせてくれる。頼れる仲間がいて、本当によかった。
ゴブリンの解体と言っても、魔石を取り出すだけだ。魔石以外は肉は臭いし筋張っていてとても食べられない。特に臭みは何をしても消えないらしい。
説明さんによれば、魔石は胸の中心にあるとのこと。私はゴブリンの胸に短剣を立てる。震えによって、狙いがズレる。何度か刺してやっと胸を開いた。
死んでいることから血はそれほど気にならないが、とにかく臭い。今度解体する時は鼻に何かを詰めてからにしよう。
「あった」
小さな透明な石があった。私は魔石を引き千切るようにして取り出した。そして盛大に吐いた。限界だった。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。




