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第20話 村ぐるみ

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 第20話 村ぐるみ

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 村長宅で歓待を受けた。お世辞にも美味しい食事ではなかった。ご馳走になっている身分で、それを言うことはないけど。

 僕たちは村長に礼を言い、部屋で休ませてもらった。

 その夜のことだった。僕たちが寝ていると、部屋のドアがゆっくり開かれていくのが分かった。

 複数の人が部屋に入ってくる。


「ぐっすり寝てますよ」

「食事に睡眠薬が入っているとも知らず、食っていたからな」

「さっさと縛り上げるんだ」


 手下がエリスに手を伸ばす。エリスの鍛えられた体に手が触れるその時、男は空中を舞って床に顔面から落下した。


「ぐべしっ」

「どうしたっ!?」

「なんだっ!?」


 それが合図となって男たちの悲鳴が部屋の内外に木霊した。

 僕はゆっくりと起き上がり、ラウラとイシュカの状況を確認した。二人も起き出し、男たちの惨状を目にした。


「あーあ、ほどほどにって言ったのに」


 僕は頭をかき、床に倒れ痛みに喘ぐ男たちを見た。


「これでも手加減したんだぞ」

「エリスは手加減を知らない」

「そうですね。手加減という意味を知らないようです」

「酷いな、二人とも! あたしだって手加減の意味くらい知っているぞ!」

「まあ、殺してないのだから、手加減したということでいいんじゃないかな。それよりも、くるよ」


 ドタドタッと廊下を踏み鳴らす音が聞こえる。男たちの仲間がやってきたようだ。

 僕が言うことじゃないけど、すでに剣聖に至ったエリス、賢者に至ったラウラ、聖女に至ったイシュカを相手に誰が勝てるというのだろうか。

 え、僕は含まれないのかって? 残念ながら含まれない。そもそも僕のそういった情報は、今も見ることはできないのだ。


 僕がたそがれていると、廊下から悲鳴が聞こえてきた。エリス大ハッスル。


「しかし、本当に襲われてっしまったわね」


 僕、嘘つかないよ。

 村長をはじめ、この村の人たちの情報はアウトだった。説明さんが教えてくれたから、食事に睡眠薬が入っていることも分かった。おかげで、このように彼らを無力化することもできている。

 あ、睡眠薬は即効性のものではないから、そのまま食べた。部屋に戻ってイシュカに解毒してもらえば問題ないからね。

 まあ、三人には白い目で見られたけど、ちゃんと教えたからいいよね!


 エリスにかかれば、ロクに訓練もうけていない人たちを無力化するのは難しくない。

 村人の半分は悪さに加担していた。この村はアウトの人たちがとても多かった。

 女もアウトの人がいた。さすがに小さな子供までアウトじゃなかったのが救いだな。

 普段は普通に畑を耕している農民だけど、この村に泊まった旅人を眠らせているうちに縛り上げ、奴隷商人に売ったり金目のものを奪うのが手口だ。


「ゆ、許してくれ。生活していくには仕方がなかったんだ!」

「ひもじくてやってしまったんです。お願いです、許してください」

「私たちが捕まったら、子供たちが路頭に迷ってしまうわ」


 彼らには彼らの主張がある。貧しくてつい犯罪に手を染める。悪いことだと分かっていても、やらないと生きていけない。厳しい生活がいけないのだ、と。

 それにまだ犯罪にどっぷり染まっていない。

 僕たちがくる前日にも一人を奴隷にしたと言っているが、まだ殺しはしていない。だから許してほしい。

 まったく自己中心的な考えだ。奴隷にされた人が一人でもいるなら、もうアウトだろ。まったく、こいつらは……。


「ラウラ。この人たちを奴隷にしてくれるかな」

「いいの?」

「ああ。奴隷にすれば、自分たちがどれだけ酷いことをしてきたか、理解するんじゃないかな」

「分かった」

「ひぃっ、止めて!」


 この人たちを全員を奴隷にし、最初に命じることは……。


「もう二度と悪いことはするな」


 奴隷が主人の命令を無視すると、体中に激痛が走る。賢者ラウラの奴隷の術式を破れるのは、聖女であるイシュカくらいなものだ。だから、この人たちは一生この命令を背負って生きていかなければいけない。


「ウフフフ。シュラウトは甘いんだから」

「何? なんか言った?」

「ううん。何も言ってないよ」


 まあいいや。


「おい村長」

「は、はい!」

「あんたは薬の知識があるんだろ」

「え、なぜそれを?」

「いいから、よく聞けよ。あんたライル草という薬草を知っているか?」

「はい。解熱剤に使われる薬草です」

「それが南の森に自生している。それを採取し、解熱剤を作れ。それを僕が買い取ってやる」

「え、ライル草があの森に……知りませんでした」


 あんたが森に入らなければ、それが薬草だと知る人は他にいないだろ。探しもしないで、安易な追い剝ぎに身をやつすなんて最悪だ。


「次は一カ月後にくるから、解熱剤をしっかり作っておけよ」

「は、はい! それはもう!」

「あと、そこの子供に薬の知識を教えてやるんだ」

「は、はあ、ビル……にですか?」

「そうだ。そのビルは薬師の才能があるからな」

「分かりました」

「他の村人は真面目に畑を耕すんだ。大豆と小麦を輪作すれば、連作障害はある程度解消できるからな」


 前世の知識の受け売りだから、細かいことは知らない。彼らのほうが畑に関してはプロなんだから、あとは任せておけばいいだろう。

 って、僕は何をしているのだろうか……。


「プププ。シュラウトはお節介だな」

「いや、そんなことはないと……」


 否定はできない。なんでこんなことになっているんだ? 僕のキャラじゃないだろ。


「あと、あんたは槍、そこの子供は弓が得意だから、訓練するといい」


 僕のキャラじゃないついでだ。


「でも、そこがシュラウト君のいいところだよね。ウフフフ」


 イシュカまで……。もう好きに言ってくれ!



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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