第11話 生活魔法
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第11話 生活魔法
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魔法がイメージだと分かった以上、私がやることは一つだ。
ラウラとイシュカに明確なイメージを持たせ、魔法を行使させることである!
「いいかい。火が熱いのは―――」
私は前世で得た理科の知識をラウラとイシュカに与えていく。この世界では異端の考え方があるかもしれないから、他の誰にも言わないように徹底していいる。
「氷が冷たいのは―――」
「重力というものがあるから―――」
私は大した学歴ではないが、誰でも知っているような情報くらいは教えることができる。
「太陽が眩しいのは―――」
「夜空にある星の光は―――」
「人の身体には心臓、肺、胃―――」
そういえば、上司は高血圧の薬を飲んでいたっけ。部下を怒鳴り散らすから血圧が上るんだよ、と思っていたものだ。
ラウラとイシュカは真面目に私の講義を聞いている。
エリスはその横で意識を手放していた。どうもエリスには理解ができない話のようで、頭から湯気が上ったし、今は寝ている。
ラウラとイシュカの二人は、私の教えを理解している。私はそう思っている。そうだよね、二人とも!?
二人が私の説明を理解したのか、それは魔法を使ってみれば分かる。
私たちが持っている魔法書に記載のない魔法が発動すれば、今回の試みは成功というわけだ。
「まずはラウラ。やってみて」
「うん」
ラウラが目を閉じ、イメージを固める。彼女の魔力の迸りが、私にも感じられるほどだ。
「トルネード!」
ゴォォォォォォォッ。
竜巻が現れ、森の木々を薙ぎ倒す。
「ほえー、すごいなー」
エリスの感想に同意する。
「ラウラさん、すごい……」
イシュカが言うように、本当にすごい。
圧倒的な破壊力で、数十本の木々が薙ぎ倒されている。
魔法のことはあまりよく分かってないが、これほどの威力は第三位階の魔法ではないはずだ。
こんな光景を見ると、魔法書を手に入れるための苦労はなんだったのかと思ってしまう。
「これは第五位階くらいの威力?」
「多分、第六位階くらいだと思う」
「ほえー。さすがはラウラだ。よっ、魔法の天才!」
「えへへへ」
ここでなぜ頭を出す? まあいいか、美少女の頭を撫でられるのは、私得だからね。
「よし、次はイシュカだ」
「え、でも、わたくしは……」
「回復魔法は回復させる相手がいないとだよな」
「う、うん」
「それなら大丈夫!」
「???」
私は短剣を抜き、左腕を斬りつけた。痛い。血が出た!
「えええええっ!?」
「イシュカ、早く治療してくれ」
「は、はい。えーっと、えーと、あの、その」
そういうのいいから、イメージ固めようか!
「うーんと、それと、ううう」
「イシュカ、焦らなくていいよ。ゆっくりイメージを固めて。細菌を滅し、有毒物質を浄化し、そして傷が塞がるイメージをしっかり固めるんだ」
「は、はい!」
ゆっくりというのは嘘だよ! 早くしてくれ! ナルハヤでお願いします! めっちゃ痛いんです!
「ひ、ヒール!」
ジワジワと傷口が塞がっていく。皮膚が蠢いて気持ち悪いな、これ。
とはいえ、傷はしっかり塞がったようだ。血を布で拭いて傷口を見たが、薄っすらと線が残っているくらいだ。
痛みがないのだから成功だと言える。あとはもっと早く発動できるようにしてくれたらいいかな。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「うん。痛みはなくなったし、傷痕もよく見ないと分からない。すごいよ、イシュカ!」
「よかったです」
この日からラウラはさらに魔法に磨きをかけていく。
回復と聖属性は対象がいないとわかりにくいものだから、イシュカは光と時空属性を練習することになった。
特に時空属性はあったらとても便利だ。
「この二つの点を最短距離で移動したい時、イシュカならどうする?」
私は大きな葉の上に、炭で二つの点を描いた。
「直線で移動します」
さすがはイシュカだ、優等生の回答ですね。でも、それは不正解です。
私は葉を折り曲げて二つの点をくっつけた。
「こうすることで、この二つの点の距離は限りなく近づくよね」
「でも、それは……」
「イシュカ。これはイメージの問題なんだよ。この葉は無限に広がるこの世界自体、つまり空間なんだ。そして、この点の一つがイシュカ、君だ。もう一つの点は君がいきたい場所だ。普通に直線で進んだら千年かかる場所だとしよう。それなのに君はそこに絶対にいかなければいけない。だったら、常識通りに進んでいては無理だよね?」
「はい……」
「だから、常識を打ち破るんだ。空間を歪め、点と点が極めて近い場所になるようにすれば、千年もかからずそこへいけるよね」
「はい。私はまだ頭が固かったのですね!」
「柔軟に考えよう。そうすれば、必ず答えは出るから」
「はい! シュラウト君、わたくし、分かりました!」
よきかな、よきかな。時間はかかるだろうが、これでワープが可能になれば私の足になってもらえる!
イシュカがワープの訓練をしている間に、私は私で確認することがあるんだよね。
そうだ、私も最近生活魔法が全て使えるようになったんだよ。
生活魔法は火属性の薪や炭に火を点ける着火、水属性の飲み水を出す水、風属性のわずかな風を起こす微風、土属性の小さな穴を掘る小穴、光属性の小さな光で周囲を照らす照明、時空属性の小さなものを異空間に収納する保管、聖属性の汚れを清める清浄の全部で七種類。
私が確認したのは、七種類の使用回数だ。イグニッションは三回、アクアは七回、ブリーズは四回、ホールは十二回、イルミネーションは十三回、ストレージは十回、クリーンは四回だった。ストレージは小石を入れる回数になるが、取り出すほうも十回だった。
ホールに関しては最初の使用回数は十一回だったが、今は十二回になっている。
これは私の魔力が上昇している可能性を示唆している。
さらに、同じ生活魔法でも属性によって使用できる回数が変わる。つまり、私は土と光属性は比較的得意だが、火、風、聖属性は不得手と理解できる。
さて、ここでイメージの明確化をしたらどうなるか。
私はイメージを固めて得意のホールを発動させる。
「ホール!」
ボコッ。
地面に穴が開いた。しかも今までのホールの穴よりもはるかに大きいものだ。
これまでだと、直径三十センチメートル、深さ四十センチメートルほどの穴だった。それが直径一メートル、深さも一メートルの穴が開いたのだ。
「魔法はイメージとはよく言ったものだな」
何はともあれ、私の検証はたった一回で実証された。生活魔法でもイメージ力は重要だということだ。
さらに回数も確認すると、大きな穴が十二個できた。つまり、同じホールなら、大きさが違っても消費回数と消費魔力に影響しないということだ。
これは大きな気づきだ。これを理解した私は生活魔法で戦うことができる。
だが、問題はある。私の魔力が少ないということだ。ラウラはホールでもクリーンでもなんでも百回以上行使しても魔力切れにならない。彼女の魔力は底が知れないのだ。
それに対して私はホールが十二回だ。とても少ないと言えるだろう。魔力の少なさを補う何かがないものだろうか……?
私は天才かもしれない! ホールの回数を増やす試みをしたら、できてしまったのだ!
単純に魔力を自分のものではなく、空気中にあるものを使うイメージにしただけなんだ。
昔、何かの物語で見たのか読んだのか覚えてないが、空気中に魔力があるという設定を思い出したんだ。
本当に空気中に魔力があるか分からなかったが、やってみたらあったようだ。
おかげで、ほぼ無限に生活魔法が使えるようになった。無限は言い過ぎかな。空気中の魔力も消費すればなくなるからね。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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