第10話 魔法はイメージだ!
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第10話 魔法はイメージだ!
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イシュカがうちに転がり込んできてから、早一カ月。
彼女用に魔法書をキャスカさんに頼んだけどダメだった。
「回復魔法や聖属性の魔法書? ダメダメ。そんなものを扱ったら教会から睨まれちゃうわよ」
「そこをなんとか!」
「無理!」
値段の問題ではない。教会という世界的な大組織に睨まれてしまうことがアウトなのだ。
私たちは教会と接点がないけど、睨まれたら厄介極まりないらしい。くそー。
説明さんの情報では、イシュカは回復や聖属性の他に光と時空が得意属性だというのが分かっている。
問題なのは、光も時空も専用の魔法書だということだ。基本四属性である火、水、風、土の魔法書はセットだが、それ以外は専用の魔法書になっているのだ。そういった魔法書は滅多にお目にかかれないんだよな。
「それなら、光と時空の魔法書はありますか?」
「はぁ? 本気で言っているの? そんな希少属性の魔法書なんてあるわけないでしょ。まあ、光ならたまに見かけるけど」
「なら光をお願いします!」
「どの位階が出てくるか分からないわよ?」
いくら聖女でもいきなり高位の魔法は使えないよな? 使えたりするのかな?
さすがに説明さんもそこまでは教えてくれないか。
「できれば……第三位階以下でお願いします」
「出たらだよ。いつ出るか分からないからね。それに値段も四属性のものより高くつくからね」
「高い……よ、よろしくお願いします」
いつ手に入るか分からない以上、できるだけ早くお金を貯めないとな。
それにしても、希少属性の魔法書はそんなに数が少ないのか。知らなかったよ。
こればかりは運を天に任せて待つしか……いや、あそこがあったか。
私たちが暮らすスラムは、ジュングールという町にある。ジュングールは辺境の町だけど、この辺りでは一番大きいと聞いている。
そのジュングールでは、毎月一回市が立つ。その市なら、掘り出し物があるかもしれない。
ここには色々なものがあるけど、多くは怪しいものばかりだ。面白いと買っていく人もいるし、騙されて買わされる人もいる。
私はその市で、魔法書を探した。説明さんに鞭を入れてフルに働いてもらう。
思った通り、あまりいいものはない。ほとんどまがい物だ。
「うわー、これ綺麗!」
「姉ちゃん、お目が高いね! これはダンジョンの宝箱から出たものなんだ。本当は金貨二枚するけど、今日だけ銀貨六枚だよ!」
「本当に!?」
おいエリス君や。何を騙されているんだよ……。
「エリス、それは買わないからね」
「えー、買ってぇよー」
「だーめ」
「兄ちゃん。そんなにケチだと、女の子に嫌われるぞ」
「オジサンも偽物をダンジョン産と言ってうるのは犯罪だからね」
「な、何を言うんだ!?」
「え、偽物なの!?」
「私の言葉と、このオジサンの言葉とどっちを信じるんだい?」
「もちろん、シュラウト!」
「うん。じゃあ、いこうか」
「はーい」
まったくエリスは……。
「ねえ、シュラウト。珍しいものなんだって」
「ラウラまで……。それも偽物だよ」
「え!?」
「ほら、いくよ!」
うちの娘たちは根が正直だから、騙されやすいんだよ。
その点、悪意に晒されてきた(と思っている)イシュカは……って、おーいっ!?
「お嬢ちゃん、これはいいものだよ」
「可愛い……」
目をウルウルさせて偽物のエメラルドのペンダントを見てるんじゃない!
「イシュカもアウト」
「え?」
私が財布を預かっていてよかった。そうじゃなければ、今頃は偽物を買ってお金がすっからかんだ。
「くっ……」
いいものがあった。あったけど、ほしいものではない!
【水の第五位階の魔法書:大魔法使いバルシャーンが記した魔法書 通常の第五位階魔法とは一線を画す魔法が記載されている】
これはこれでほしい。ん、ちょっと待てよ。この魔法書は大魔法使いバルシャーンが書いたものだ。つまり、魔法というのは、人が作っているということか?
あれれ? そうなるとだよ。最初の魔法書は誰が書いたんだ? 必ず最初はあるよな? それは最初の魔法使いってことだよな?
「ねえ、ラウラ」
「何?」
「最初の魔法使いって知っている?」
「最初の魔法使い? たしかエルバック様だと思うわ」
「エルバック?」
「うん。魔法を発明した賢者様」
つまり、その賢者は魔法を自分で開発したはず。だったら、ラウラやイシュカも魔法を開発できるかもしれないじゃないか!
なんで今までこのことに気づかなかったのか、ちょっと後悔だ。
私は三人を連れて、足早に家に向かった。
「雲が分厚いので、雨が降るかもしれないね」
「雨は嫌いじゃない」
「もう少し暖かいと、雨で体を洗うのにね」
エリスとラウラが空模様の話をしている。そこで私はハッと気づいてしまった。
残念ながら風呂なんてものは、スラムにはない。貴族の屋敷にならあるかもしれないが、スラムでは論外だ。
私たちが体を洗おうと思うと、川にいっていた。行水してそのまま服も洗う。また、裸で体を洗うのは厳しい。なにせ川はフルオープン状態だ、私はよくても女の子のエリスとラウラにはね。
最近はラウラが生活魔法のクリーンを覚えたから、清潔に暮らせている。クリーンは体や服を綺麗で清潔にしてくれる。それだけでなく、食器なども洗った状態にしてくれるのだ。
まあ、クリーンのことは置いておいて、私は気になったことをラウラに聞いてみた。丁度家の前だ。
「ちょっと確認だけど、ラウラはお湯を魔法で出せないかな?」
私が知る限り、第三位階までの魔法に、そういったものはない。
「お湯? そんな魔法はない」
「ないのなら、作ってしまえばいいんじゃない?」
「作る? 魔法を?」
「そうそう、そのなんとかという賢者が魔法を作ったんなら、ラウラだって作れるだろ?」
「そんなこと考えたことないから……」
「やってみてラウラ。君ならできるから」
「え?」
「水と火でお湯を作る感じ。やってみて」
「うん。やってみる」
液体が空中に現れた。ほぼ球状だが、不定形に揺れているものだ。それだけでは水なのかお湯なのか分からない。
次の瞬間、ビシャッと液体は飛散した。
「むぅ。難しい」
「もう一回やってみてくれるかな」
「うん」
液体が現れる。そこで私は説明さんを呼び出す。
【×××××:魔法として成立してない魔法のできそこない 魔法は最終系のイメージが最も大事であり、イメージが不明瞭であると、魔法として成立しない】
これだ!?
イメージ! イメージを明確にすることが魔法を成功させる最も大事なことなんだ!
また飛散した液体に、ラウラは口を尖らせた。
私はそんな可愛らしいラウラの仕草に、思わずクスリと笑って頭を撫でていた。
「ぅぅぅ」
「ラウラだけズルい! あたしも!」
「え、エリスも?」
差し出された頭を撫でる。肩下まで長さがあるラウラ金髪に比べると、エリスのショートの赤毛は少し硬い。でも、私の黒髪よりは柔らかいし、指の通りもいい。
「あ、あの……わたくしも……」
なぜかイシュカの頭まで撫でることになった。イシュカの紫色の長い髪は絹のように艶やかで柔らかい。
そういえば、私のような黒髪黒目の人は珍しい。この町では、私以外に見たことがない。もっとも、キャスカさんのように髪を染めている人もいるから、正確には分からないが。
ご愛読ありがとうございます。
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