#6 半幽
彼から語られたのは、信じがたいながらも、あの『狐』を見た薺には納得せざるを得ない事実だった。
あらゆる災厄に関わる幽魔という存在。幽魔を狩る退魔師の存在。
そして薺は、少年や狐の霊力とやらに感化され、微弱ながらも後天的に霊力が覚醒してしまった事で、少年の力や、本来一般人には見えない筈の幽魔の姿を感知出来るようになってしまったのだという事。
どれもこれも突飛すぎる話だが、
「では、つまりあの狐は幽魔で、あなたは狐を退治する為にあの場にいた退魔師、という事ですか……」
薺は、戸惑いながらも話の筋は理解出来た。
少年の方もその点については感心した様子だが、諭すように話す。
「理解が早くて助かる。が、お前は今の自分について質問すべきじゃないか?」
薺は少年の適格な指摘に自分の現状を思い出し、ハッとして彼に詰め寄った。
「そ、そうです! 私はどうなったんですか!? 確かにあの狐に襲われたのに! この耳と尻尾はどういう事ですか!?」
凄まじい剣幕の薺に、少年は一瞬萎縮するが、そっと彼女の肩に手を置いて押し返し、
「落ち着け、順を追って話す。先ず、あの狐は幽魔『妖狐』の一種『野狐』だ。下級の幽魔だが、当然一般人のお前に太刀打ちできる術は無い。ヤツに襲われたお前はオレが駆け付けた時には既に瀕死で、まさに野狐にとどめを刺されるところだった」
少年は一度言葉を区切る。
薺はこの時点で顔を青ざめさせていたが、彼は構わず続けた。
「野狐は直ぐに片付けたが、お前の肉体は重傷で、通常の救急処置では恐らく助からなかっただろう。だからオレは野狐の霊力の核を消失前に取り出し、お前の身体に取り込ませた。危険な賭けだが、強い霊力が有れば肉体の自然治癒力は大きく増す。その上で治癒の術式で肉体を治癒し、此処に運んだ。これが全容だ」
因みにお前が襲われてから未だ三時間程しか経っていない、と少年は付け足した。
薺は終始茫然と聞いていたが、軈て震えた声を絞り出し、
「……えと、じゃあ、コレは……」
「野狐の霊力を取り込んだ事で、所謂『半幽』となった影響だな。霊力をハッキリ感知出来るようになっているなら、自分の他に異物の様な霊力の感覚が混ざっていることが分かるだろ」
「なんでそんな事冷静にさらっと言えるんですか!!」
頭を抱え、パニック状態になる薺。
普通の人間の当然な反応だ。そしてそれは、普通ではない人間である彼にとっても感心すべき反応であった様で、
「そうだな、それでいい。何せ半幽というのは半分は人間だが、もう半分は『幽魔』だ。例外なく退魔師の標的になる。寧ろ、幽魔に魅せられた忌むべき存在として、真っ先に狙われる対象だ。特別な力を得られたと喜ばれたらどうしたものかと不安だったが、まぁ一先ず安心した」
ホッと安堵の溜め息を漏らした。
しかし、薺にとっては何一つ解決していない様で、彼女は抱きつかんばかりの勢いで迫り、嘆いた。
「何も安心出来ませんよ何ですか今の死刑宣告!? じゃあなんですか私はこれから殺し屋に狙われる的なアレですかウォンテッドですか!?」
「良く理解出来てるな」
「感心してないでなんとかして下さい! 一般人を守るのがあなたの仕事でしょう!? だったら守ってくださいよ!」
混乱を極める薺に少年は、もう一般人とは言えなくなってるが、と呟きつつも、
「安心しろ。準備にある程度の期間が要るが、お前の体から野狐の霊力を完全に浄化する術は有る」
少年の言葉に薺は安堵しかけるが、それでは駄目だと首を横に激しく振った。
「それじゃあ、それまではどうすれば良いんですか? こんな姿じゃ学校にも行けないし、家にも帰れません! ずっと我慢して息を潜めてろっていうの!?」
ほんの数時間前まで普通の女子高生だった少女の嘆き。
さすがの少年の心にも響いた様で、彼は暫く顔を俯せていたが、軈て真剣な面持ちで薺を見つめて、一つの提案を持ちかけた。
「……だったら、オレの『式神』になれ。現状ではそれが最善だ」




