プロローグ
西暦二〇二〇年代。
人類はある脅威に脅かされつつあった。
『幽魔』。俗に、妖怪、魔物、幽霊、UMA、更には神仏の類といった、一般的には存在しないとされているモノを総じて称された、異形の存在だ。
幽魔の存在は遥か昔から一部の人間にのみ認知されており、異常気象や災害、不可解な事件や事故の一部には幽魔の存在が関わっている事が明らかにされていた。
幽魔は殆どの人間には見えず、感知出来ない。放っておいては人類の存続にも関わると、幽魔を感知できる一部の人間達は協力し、幽魔に対抗する機関を立ち上げ、『退魔士』と名乗り、人知れず戦ってきた。
そして現代──
一人の少年が静かに佇んでいた。
整った顔立ちに切れ長の目で、白い肌に白い髪、細身の体に黒い七分袖のシャツと白いベスト、灰色のジーンズ、そして頭部には白いヘッドフォンと、全体的に白い出で立ちだ。
彼は夜の長い街から外れた住宅街のマンションの屋上の端に腰を降ろし、薄紫の瞳である場所を眺めていた。
その場所は、公園。遊具等の他、野球やサッカーが出来るグラウンドや、様々な花や植物が植えられ、其れらを鑑賞する休憩場所、芝生のスペースも有る、自然公園も兼ねた大きな公園だ。
昼間は子供達で騒がしいであろうその場所も、今は静寂に包まれている。
そう、『普通』の人間が見れば。
「青坊主、確認」
その、何の変哲も無い公共施設を見て呟く少年は、つまるところ『普通』ではない。
彼は小さく溜め息を漏らすと、ベストのポケットに突っこんでいた両手を出した。両の手首には、シンプルなデザインのブレスレットが二つずつ、色は金と銀。それぞれ一種ずつ装着した形だ。
腕を軽く振るうと、ブレスレット同士がぶつかり合い、小さく金属音が鳴る。
その瞬間には、彼は既に其処には居なかった。
マンションの屋上から跳び下りたのだ。否、寧ろ『飛び立った』という表現の方が正しいだろう。何せ彼は一度の跳躍で、既におよそ一〇〇メートル以上離れた公園に達しようとしていたからだ。
彼が先程まで見ていた公園に向かったのには当然理由が有る。
其処に『居る』からだ。
青い皮膚の一つ目の巨人。其の体躯は五メートルは有り、筋骨隆々。灰色の着物に其の身を包み、手にはあちこち折れ曲がって最早只の棒切れと化した錫杖を握っている。
『青坊主』という名の『幽魔』だ。
青坊主は少年の接近に気付くと、威嚇するように小さく唸り、手にした錫杖を振りかぶった。対して少年は表情一つ変えず、静かに右手を青坊主へ指し、軽く振るった。二つのブレスレットが小さく鳴る。
「暴れないでもらえると助かるな」
夜の公園に、激しい光が瞬いた──




