愛の形
そのうら若き町娘は
貴族の令嬢にも引けを取らぬ美しさで
細い手指に、白い首に、小さな耳に
男に贈られた宝石を幾つも飾り
その輝きを見せつける
男に貢がれた宝飾品の間で
左の薬指だけが空いている
そして、今、
いつもの男から
結婚指輪を贈られた
頭髪は薄く腹もたるんだその男は
震える少女の手を掴んだ
その指に、人生の枷がぐいと嵌められた
少女は涙を零した
黒いヴェールの令嬢が街角をやってくる
その首元から連なり服の中で揺れる鎖には
古い婚約指輪と帰らぬ人の名を刻んだ識別票が隠れている
毎月の今日
いつもの花屋の少年は、
いつものように2本のバラの花束を包んで渡す
とびきりに美しいのを選ぶのだ
そして
今月の今日だけは
令嬢は必ず黒いヴェール
だから少年も必ず白い薔薇を包む
そうして彼はいつも
もう一本が渡せない
彼女の左の薬指に光る輪を見つける日
きっと少年は花屋を辞めるだろう