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 壮馬の学校は中高一貫校であるため、中学三年生だからといって部活に引退は無い。しかし壮馬は雫との約束を機に、所属していたサッカー部を辞めることにした。未練は無かった。

 怪我もまだ治り切っていないし、そもそも練習の半分はサボっていた。それ故ベンチにすら入れない実力だったのでちょうど良いと思っていた。

 壮馬からの退部届を受け取った顧問は驚愕に目を見開いた。退部することにではなく、「壮馬が初めてちゃんと書類を提出した」ことに対してだった。退部することについては特に残念そうでもなかった。


 壮馬はクラスメイト達と放課後に遊び歩くことも無くなった。学校が終わると病院行きのバス亭に直行し、病院へ向かう。そんな生活が始まった。事情を聞いたクラスメイト達は壮馬が直ぐに音を上げると考えていた。しかし、一か月経っても、二か月経っても、壮馬は病院通いの生活を崩さなかった。

 友達からの遊びの誘いを断り、黙々と病院に通って行く壮馬を見て、両親も友達も目を丸くしていた。

 あまりの変わりように、クラス内では、「あいつは病院で中毒性のある薬を摂取しに行ってるのではないか」、もしくは「入院中に脳みそをいじられたのではないか」等根も葉もない噂が飛び交っていた。


「お見舞い、よく毎日続くね」

「ま、約束したからな」

 コーラを片手にドヤ顔している壮馬を尻目に、高橋美咲はため息を付いた。

 二人はいつも壮馬が病院へ行くためのバス停近で並んでベンチに腰掛けていた。二人とも、すぐ近くのコンビニで飲み物を買ってきて、それを飲んでいた。

 このバス停は雫のいる病院へ直接向かえるのだが、高校からだと徒歩20分ほどかかる場所にある。そのためこの路線バスを利用する生徒はあまり居ない。

 壮馬の隣でアイスティーを飲んでいる美咲もバスの利用者ではない。彼女はこの付近にある海鮮料理の店の娘だった。店の規模はそう大きくは無いが、観光地の近くということで、バス専用の駐車場を持っており、毎日ツアー客がやってきてかなり繁盛している。

 本来中学生はアルバイト禁止のはずだが、どうやら日本では、家業の場合だと許可されるケースがあるのだと美咲本人から聞いた。娘ということもあって、時給2000円だという。


 美咲が壮馬とバス停で話をしているのは、アルバイトが始まるまでの暇つぶしだった。壮馬としても、黙々と待つより、人と話していた方が好きなので、二人の利害は一致していた。

 ただ、美咲が壮馬と話をしているのは、ある理由から、少なからず彼に興味を抱いているからでもあった。


「加藤がそんな熱心になるなんて、よっぽど可愛い子なの?」

「可愛いけどそれは関係無い。約束したから行くんだ」

 壮馬の口から再び「約束」という言葉が出たことで、美咲は失笑しそうになった。彼女は壮馬の元カノ……の、友達だった。そのため壮馬がいかに適当で約束にルーズな男かというのは訓示のように聞かされていた。


 誕生日にプレゼントをくれるという約束だったのに、間に合わず一か月後に渡してくるうとか、午後二時に午後二時の集合を寝過ごして午前二時にやってくるとか、ホワイトデーに渡すチョコを用意してなくて、友達のを分けて貰って渡したのが後にバレてキレられるとか。

 聞いているだけで腹が立つようなエピソードで溢れかえっていた。あまりに彼女との約束というものを軽視していると思った。


 確かにこうして直接話してみると明るいし、話題も尽きないが、そんな適当さを裏に抱えていると思うと、恋愛対象としては見られなかった。ただ、その壮馬が毎日毎日律儀に病院通いしているという事実には興味を惹かれた。一体どんな少女なのだろう。今までの元カノ達とは、何かが違っているのだろうか。



「ところで私がおすすめしたあの映画見た? 昨日DVD貸した時『今日中に絶対見る!』って約束してたでしょ」

「え? うん見た見た! あの料理めちゃめちゃ美味しそうだったよね」

「私が渡したの、人食いエイリアンから逃げ惑う人達の映画なんだけど」

「え、そう、だからその、エイリアン目線の感想なんだよ! あの人間めっちゃ美味しそうだってエイリアンが言ってたよ。イギリス人よりフランス人の方が美味しいって」

「目線が新機軸過ぎない?」

「あっ、バス来たから俺行くわ! また明日さようならー!」

 壮馬は逃げるようにバスのステップを踏んで入って行った。

 やはりあの男は適当野郎だ。美咲は壮馬の後姿を見送りながら、アイスティーを口に含んだ。


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