表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と描いた青の軌跡、映す最後の約束  作者: 忍者の佐藤


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/47

40

 タクシーは中々前へ進まなかった。本来なら混まない時間帯のはずだった。しかし午後から振り始めた雨で、交通量が増えていた。

 壮馬はタクシーの中で小刻みに震えていた。

 不安げに何度もスマホを確認し、外の景色を見つめた。何も頭に入ってこなかった。

「雫さんが今、危険な状態です。すぐ病院に来られますか」

 それが病院からの連絡だった。壮馬は雨の中、傘もささずに道を走った。途中、タクシーを見つけて身を投げ出すようにして止めた。


 大丈夫だ。この前の時だって雫は無事だったじゃないか。死ぬほど焦って、急いで病室まで駆けつけたら、雫は笑っていたじゃないか。今回も同じはずだ。今回だって雫は、病室にたどり着いた壮馬に、朝と同じく優しい笑顔を向けてくれるはずだ。

 壮馬は何度も自分に言い聞かせた。しかし、不安は増幅して打ち寄せてきて、その度に壮馬は叫びだしそうだった。

「くそっ、全然進まねえ」

 タクシーの運転手は舌打ちをした。彼は行き先と壮馬の様子から事情を察したらしく、様々な裏道を通ったり、すり抜けをしたりしながら時間短縮を図ってくれていた。しかし、片道一車線のこの道ではもう身動きが取れなかった。

 壮馬はいても経ってもいられなくなった。

「運転手さん、ここで降ります! ここから走ります」

 壮馬は財布からお金を出そうとした。

「良いから」

 運転手の顔がこちらを向いた。

「一秒でも急ぐんだろ、行きなさい。料金はまた落ち着いてから会社まで払いに来な」

 ドアが開いた。「ありがとうございます」壮馬は出た瞬間駆け出していた。




 冬の冷たい雨が、壮馬の顔に打ち付けていた。鼻にも口にも、雨が流れ込んできて呼吸が苦しくなるほどだった。

 それでも壮馬はイチョウ並木を疾走した。

 水の中にいるかのような感覚だった。

 一歩踏み出す度に靴の中に水が染み込んできて、一歩踏みしめる度に水が染み出す音がした。


 全ての不安も、恐怖も、走る原動力に変えて走った。様々な思いが壮馬の足を動かしていた。

 もうこれで自分の体が壊れても良いとさえ思った。


 病院までの距離は1キロを切っているはずだった。それなのに、病院までの道のりは永遠にも感じられた。

 果てしない道を、終わりの見えない雨の道の中を壮馬は駆けた。

 もう自分がどれだけ体力を使ったのかも分からなかった。

 足がもつれた。

 急に地面が迫ってきて、前のめりに打ち付けられた。鈍い痛みが手のひらと膝に広がる。

 しかし、体を押し上げるように、すぐに立ち上がった。

 こんなところで止まっているわけにはいかなかった。壮馬の目に写っているのは雫の顔だけだった。

 壮馬は再び疾駆した。


 病院に到着した。壮馬はスピードを落とさなかった。人々が異様な風体の壮馬を避けていく。


 エレベーターの中で、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返した。擦りむいた膝の部分が破れ、血が滲んでいることに今更気付いた。

 7階に到着する。壮馬は最後の力を振り絞って走った。心臓の鼓動が早くなっているのは走っていたからだけではない。

 雫の病室の前。

 壮馬は両手で扉を押し開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ