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君と描いた青の軌跡、映す最後の約束  作者: 忍者の佐藤


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 壮馬は自分のタブレットとにらみ合いながら、こめかみを何度かペンで叩いた。

「あー、駄目だ、良いアイディア浮かばねえ」

「そうだね、私も思いつかない」

 雫も隣で腕を組んでいた。

「だいたい『自然と人の調和』ってテーマが難しいんだよ」

 壮馬たちはコンテストに応募すると決めた日から、アイディアを出し合っていた。

 何度かラフスケッチや下描きをしてみたりしたのだが、しっくりこなくて何度も繰り返していた。

「でも、そろそろ決めないと間に合わないよなあ。何か良い方法があればなあ」

「そうだ」

 雫が両手を合わせた。

「ストーリーとして考えてみるのはどうかな」

「ストーリー? どういうこと?」

「ほら、壮馬くんの絵は旅させてくれる絵だって言ったことあるよね。旅をするには目的がある。その目的を考えていけば、色々とストーリーが浮かぶと思わない?」

 壮馬は顎に手を当てた。

「成程。それなら色々とアイディア出そうだな」


 それから壮馬と雫は、様々なストーリーの案を出し合った。

 自然を取り戻そうとする勢力と都市の衝突。突然都市部に現れた巨大な森。少女の元に訪れる精霊。


 そして、一つのストーリーを考え付いた。

 自然との調和を目指すなら、それ以前に破壊の歴史がある。

 昔、高い魔力を帯びた木々の茂る森があった。その場所は精霊によって管理されていた。

 人間と精霊は協定を結び、森林からの伐採を最小限に留める代わりに、精霊の力を得ていた。

 ところが時が経ち、人々は精霊との約束を忘れてしまう。人間は欲に目が眩み、森から大量の木々を伐採し始める。

 精霊と話が出来る少女が、それを止めようと試みる。しかし大人たちを止めることが出来なかった。

 怒り狂った精霊が天変地異を起こし、都市部が壊滅しそうになる。

 そこでようやく人々は少女の言う事に耳を傾けるようになり、彼女に仲裁を頼む。

 最初は聞く耳を持たなかった精霊たちだったが、少女の真摯な態度や反省した人間たちの様子を見て、ようやく怒りを収めてくれる。

 それから人間たちは伐採してしまった精霊の森に植林を始め、精霊の力を借りながら、自然に根付いた都市を築いていくーー。


 敢えてファンタジックな世界観にしたのは、このテーマでは現実的な世界線で「人と自然の調和」を目指す絵が多いと思ったからだった。


「良いんじゃないか? 描けそうな気がしてきたぞ」

 壮馬は指を鳴らした。

「描くのはどの場面にする?」

「やっぱり最後のシーンじゃないかな。人々が精霊の力を借りて、再生可能な街を作っていくところ」

「私もそこが良いと思う」

 雫は頷いた。

「よし、じゃあ早速構図を考えるか」

「待って」

 雫がまじまじと壮馬を見て、少し悪戯っぽく笑った。夕日が、病室の壁に焼き付いていた。

「壮馬くん、少し目を閉じて。屈んでくれる?」

 壮馬は結婚式で交わしたキスが過った。まさか、もう一度なのか? 壮馬はドキドキしながら屈んで、目を閉じた。 

 こつん、と、おでこに硬い物が当たる感覚があった。同時に、雫の息遣いが間近で聞こえてくる。そこでようやく、自分たちがおでこを突き合わせているのだと分かった。

「こうやっておでこを突き合わせてたら、何だか一緒の世界が見える気がしない?」

 囁くような声。

「雫、お前ってロマンチストだよな」

「そうかな」

 二人で息を漏らし、笑った。

「私には星空が見えるよ。星空の見える街に居る。壮馬くんには何が見える?」


 壮馬の目の前が、突然無数の星々に彩られた。少し冷たい風が壮馬を流れていく。

 壮馬は自然と、周りに目を移した。

「川が見えるよ。街の真ん中なんだけど、すごく澄んでて、綺麗な川だ」

「川。良いね。私には街路樹が沢山見える。それから、建物には緑が生い茂ってる」

「俺には都市を走る電車も見える。精霊の力を借りて動いているから、自然への干渉を最小限に保ててるんだ」

「空にはクジラが飛んでるのはどうかな?」

「クジラとは大きく出たな。もしかして、そのクジラが精霊?」

「そう。星々の間をゆっくり、ゆっくり泳ぎながら、人々を見ているの」

「監視してるわけだ」

「ふふっ、そうだね」

「そういえば、この物語の主人公は、精霊と会話が出来る少女だったよな。じゃあ、その女の子がクジラに向かって走っていく様子を描くのはどうかな」


 二人が目を開けたのは、ほぼ同時だった。

 息を飲むような美しい顔貌が間近にあった。どうしようもなく胸が高鳴った。

 じっと壮馬を見つめる、吸い込まれそうな大きな瞳が、細くなり、目じりが下がった。

 壮馬もつられて笑う。

「じゃあ、早速取り掛かろうか」

 壮馬は自分の動揺を隠すように、何度も頷いた。


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