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衝撃の告白を受け、壮馬は椅子から転げ落ちそうになった。
本当にそれくらい驚いていたのだが、両手両足を踏ん張って耐えていた。彼女が勇気を出して告白してくれたことを、茶化すことになってしまうと思ったからだ。
「け、結婚?」
壮馬は辛うじて聞き返した。流石に「はい、喜んで」とは返せなかった。壮馬も動揺していたが、雫はもっと動揺していたようだ。
「違うの。結婚して欲しいっていうのは、本当だけど……、本当だけどそうじゃないの」
「どうなの」
両手を振って挙動不審な動きをしている雫はとても可愛らしかった。お陰で壮馬の動揺はすっかり収まってしまった。
「私、20過ぎまで生きられないって話をしたことがあるでしょ」
「ああ」
「壮馬くんはもっと生きられるって言ってくれるけど、私はこういう病気だから、保証は無いと思うの」
その言葉に壮馬は否定も肯定もしなかった。雫は構わず続ける。
「だから、私、人生で一番やってみたいことを、一番好きな人とやっておきたいんだ。別に形だけでも良いから」
そこまで聞いて壮馬は雫の言わんとしていることを理解した。
彼女は人生の中で、ずっと結婚式を挙げることに憧れていたのだろう。だからこそ、控えめな雫が、こんな大胆な提案をしてきたのだと壮馬は思った。
そして、彼女は強い不安と焦りを感じている。彼女は20歳まで生きられないかもしれない。ひょっとしたら、昨日死んでもおかしくなかったのかもしれない。それはこの瞬間も変わらない。
彼女の「生」は常に切実で、「死」と鮮明に密接している。
だからこそ形だけでも、今のうちのに壮馬と結婚式を挙げておきたいと思ったのだろう。
断る理由は何も無かった。それどころか、雫が楽しんでくれるような式にしたいと決意していた。
「勿論。ちょうど俺も結婚したいと思ってたところなんだよ」
いつもの調子で言った壮馬だが、その目は真剣だった。
「結婚式、絶対に成功させよう」
壮馬は雫の手を握った。
***
結婚式(仮)をするにあたって、準備することが幾つかあった。先ずは音響。そして新郎新婦が入場する時のBGMや『誓詞』の音声だった。
日本の一般的な結婚式はキリスト教式になっていて、神父の前で誓いを立てる。
その時神父が読み上げるのが『誓詞』と呼ばれるものだ。「あなたは真実を尽くすことを誓いますか?」とか聞かれるあれだ。
BGMは定番のクラシック曲にした。
その二つとも動画サイトからダウンロードして、スマホから流すことにした。
衣装や花束や指輪など、学生の身としては、とても高価な物は買えなかった。だが即席のものを工夫して、二人で協力しながら揃えて行った。
壮馬は、「その結婚式に看護師の仲村さんを呼んではどうか」と聞いてみた。しかし雫は首を横に振った。「仲村さんにも仕事があるし、止めた方が良いよ。それに……」と一度切ってから雫は珍しく、悪戯っぽい笑顔で囁いた。
「この結婚式、私と壮馬君二人だけの秘密にしたいから。その方が何だかワクワクしない?」