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 美咲が壮馬のことを気にし始めたのは中学二年生の時だった。二年生になって初めて壮馬と同じクラスになった彼女は、彼に対して「明るい男子」以外の感想を持っていなかった。

 ある時、クラスのグループでカラオケに行くことになった。美咲はそういう集まりには全く出ることがなかったのだが、一度くらい良いかと誘われるままに参加した。

 その時に予想外のことが起こった。美咲を誘った友達の一人が、「ここは美咲に奢ってもらおう」と言い出したのだ。その場にいた全員、美咲がバイトをしていることを知っていた。財布が他の生徒たちより潤っているのだから奢って当然だというのだ。

 美咲は自分が財布代わりに呼ばれたのだと知って激しい怒りに襲われた。お望み通り全員分払って、今後一切こいつらと関わるのは辞めようと思った。

 ほぼ全員が美咲に奢ってもらう案に賛同する中、

「それって面白くなくね? せっかく今日高橋が初めて来てくれたのに、そんなことしたら次から来てくれなくなるよ」

 と、壮馬だけが反論した。そして

「よし分かった。俺が今から100点取る。取れなかったら俺が全部奢る! それで良いだろ!」

 と熱唱したアニソンで38点を叩き出した。

 そして結局、壮馬は奢らなかった。全員で割り勘になった。壮馬の他のクラスメイト達も、下手すぎる壮馬の熱唱の最中に自分たちのやっていることの醜さに気付いたらしい。

 帰る時になって、美咲は壮馬に礼を言った。

「そんなに俺の歌良かった?」

 と壮馬は笑った。



 ***





 朝の水やりは地味に壮馬の体力を奪っていた。まず毎日30分早く起きないといけないのもそうだが、水やりだからと適当にやろうとすると、用務員さんから

「もっと植物の根元に、ちゃんと水が染み込むようにやらないと駄目だよ」

 と注文が入る。

 じっと日差しを浴びていると汗をかいてしまう。喉が渇いてホースから直接水を飲んでいたらそれはそれで怒られる。


 放課後の掃除はもっと骨の折れる仕事だった。いつもはクラス単位でやっていることを一人でやっているのだから当たり前といえば当たり前だ。


 まずは机の上に椅子を重ね、全部後ろに持って行く。それからホウキで床を履いてゴミを取る。黒板も、黒板消しも綺麗にしなければならないし、窓も拭く必要がある。

 終わったら終わったで机を全部元の位置に戻さなければならない。

 しかもそれを隣の多目的教室でも同じように行わなければならず、最後にはトイレ掃除が待ち構えている。

 壮馬はやる気になれば動きは早い方だったが、それでも最初は、一教室を掃除するのに30分は要した。入念に掃除を行わなければ担任から『やり直し』を命じられるからだ。


 季節は5月になったばかりで、夏本番からは遠かったが、それでも全て掃除を終える頃には壮馬は汗だくになっていた。

 壮馬が急いで掃除をしていたというのもある。勢いをつけて掃除しないと確実に途中でダレるし、バスの時間に合わせて急ぎたかったのが最大の理由だった。

 勿論普段の時間のバスには間に合わないので、この1か月コンビニで高橋と会うこともなかった。


 最初、クラスメイト達は小走りに机をもって往復する壮馬の姿を面白そうに眺めていた。どうせ数日後には投げ出すと思っていた。というより、初日から出来ないと予想する者までいた。

 しかし5日経ち、10日経っても壮馬が諦める気配は無かった。

 担任の角田からやり直しを命じられると地面を転げまわりながら駄々をこねていたが、それでも最後には立ち上がって掃除をやり直した。

 あれだけ適当な性格だった壮馬があんな口約束を守ろうとしていることに、角田を含めてみんな驚いていた。


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