第57話 エルフの嘆き
やっと……やっと、うちにとっての大切な相手が出来たと言うのに。
こんなこと、あって欲しくなかった!! 何度も、魔力を探っても茶釜に『ポット』の魂を感知出来んかった……。うちの相棒でも、いっしょに居てほしかったのに……なんで、こんなことになったん!?
「か……神様ぁ!!」
今はお休みのところやから、声を上げても応えてくださらないだろう。
うちが嘆いたところで、ポットが戻ってくるわけがない。けど、込み上がってくる涙は抑えきれんかった。
「ポット……ポットぉ」
うちが名付けた、うちの友だち。うちの同居人で、おかしな女男の口調でも……大事な相手やって、やっと気づいたのに。こんな別れ方って、嫌や!! うちは、もっとポットとたくさん色んな話したかった。教えて欲しいこともあった。
楽しい生活を過ごせていただけでも、良かったのに。こんな終わり方嫌や!!
大事な茶釜を落としても、頑丈な金属製やから鈍い音を立てて、床に落ちただけ。
痛いとか何も言わない、茶釜に戻っただけや。
また茶人としての生活道具に戻っただけでも……そこに、ポットがおらんと、もう使いたくない。厚かましい思いでも、うちはもうポット無しの生活なんてしとうない!
「……やはり、動いてしまったようじゃの」
神様の声が、聞こえてきた。振り返れば、いつものご老人体の神様がいらしたんや!!
「か……神様ぁ」
「それだけ、好いておったのじゃな。ミディアよ」
「うち……うち、ポットを慕って」
「うむ。それはお主の気持ちを読み取らずとも、よくわかる。しかし、動いたのは儂ではない。ポットが以前いた世界の神の仕業じゃ」
なんとなく、予想はしとったけど。その言葉に、うちは向こうの神様を呪いたかった。けんど、罰当たりですまん状況になるから……ポットのこともあるし、我慢しようと堪えた。
「……ポットは、戻ってこれるんですか?」
「すぐ、にはわからん。しかし、ポットへの試練じゃと……あの神は言っておった。時間はかかるかもしれんが、待ってやれんか? 儂も可能な限りフォローする。お主がそれだけ感情的になれる相手を、無視するつもりはないわい」
「……ええことですの?」
「もちろんじゃ。引く手あまたのエルフたちを跳ねのけたお主が、エルフすらない存在をそこまで気に懸けている。儂とて驚いておる」
だから、泣くなと頭を撫でてはいただいだが。
うちは、止めることが出来ずに、ほんま子どものように泣き続けてしまった。床がびしょ濡れになるくらいに、泣き過ぎたあとは……ポットは宿っとらんけど、茶釜で湯を沸かして茶を淹れることになった。うちやなくて、わざわざ神様が。
「……仕事増やしたら、ポットに叱られるでしょうな」
「そうじゃな。適度に、かつ健康を意識した生活を心がけるのじゃ。美しくなったお主を見て……道具に転生してないポットが来たら、射止めてやれい」
「おおきに」
せや。うちはエルフ。美の結晶とも言われる種族の一員。
ポットは男色の気が強いけど、うちと生活してくれたんやし……惚れさせる勢いで、もっと綺麗で健康的になるんや! 神様がポットと引き合わせてくれるまでに!!
そう決めれば、嘆いていた感情が少し落ち着いて……やる気のようなもんが浮かんできたわ!!




