第3話 美味しいパンとは
お待たせ致しましたー
「ふんふんふーん!」
いや、うさ耳……って言うより、獣人って言うのかしらん?
可愛いわねぇ? ふりふりが似合いそうだけど、作業着か何かで台無し。
けど……パンを焼くって言ってたんならわかるわ。
アタシ……『パン釜』で焼くんなら最適な服装だもの。
でも、パンってどう焼くのん? 相変わらずあっちぃけど……だんだん慣れてきたわん。サウナや岩盤浴でだんだん気持ち良くなるのと一緒よねぇ?
じゃなくて!
なーんで、ナンバーワンのゲイホステスだったアタシがこんな状況になってんのよ!?
美しいどころか、ただの『釜』!
人間どころか調理器具よぉ!?
なんで、オタクにとっては憧れの異世界転生が……目の前のかわい子ちゃんじゃなくて!! 無機物の釜よ!?
美の結晶とも謳われたアタシが!!
なんかしたの神様!?
たしかに……『男』としては、道を外したかもしれないわ。女は嫌いじゃないけど……恋愛対象に見れなかった。
今目の前で、アタシの中に型を入れようとしている獣人の女もそんな感じなのよねぇ?
「おいしーおいしーパンぅ!」
機嫌いいわねぇ?
アタシは悶々としてるのに!!
けど……パンねぇ。
デリバリーや、コンビニのだなんて焼きたてじゃないし……うちの店でも、軽食を出す用のサンドイッチも冷たいのばっか。わざわざパン屋行くのも億劫だったから。
それぐらいしか、覚えてないから……熱々のパンって、いつ以来かしら? 家でも面倒でトーストとか作っていないし。
「ぷくぷく、ふわ〜。あんまいパンになるといいなあ?」
楽しそうねぇ?
そんなひとり言を言えるくらい……美味しいパンってどんなのかしら?
ふんわり?
ぷくぷく?
……甘い?
どんなの!?
釜じゃなきゃ、一緒に食べたいモノじゃないのぉ!?
「ふふ……ふふ。この釜さん、今日は不思議。いい火を焚いてくれるわ」
火があるらしいとこに、型を置いて。
あっちぃけど……だんだんといい匂いがしてきたわ。嗅覚もあるようね? ちょっと焦げ臭いのは薪をくべているからかしら?
でも……いい匂いね?
甘くて、優しくて。
小麦とか、バターのいい香り。
トーストとも違う……いい香りだわ。
いつ以来かしら?
食べ物でいい匂いを感じたのって。
「あ、膨らんできた!」
そうこうしていると、生地が膨らんできたみたい?
たしかに……どんどんいい匂いしてくるわ!!
こんなにも……めちゃくちゃいい匂い、久しぶり!!
釜だから食べられないじゃないのぉお!!?
次回はまた明日〜